15.作家とスイーツカフェ
さて、作家さんのSNSを追っていると、今度は女性作家さんがやたらスイーツ画像を上げていることに気づいた結子なのだこんにちは。
「(男性)作家・焼肉に行きがち問題」に続いて、今度は「(女性)作家・スイーツカフェに行きがち問題」が浮上した。
輝かしいストーンやラメで彩られたジェルネイル、そしてスイーツ、それから豪華なイラストの自著。
それをバランスよく配置して激写、SNSに〝映え〟投稿。これはもはやファンが思わずリツイートしたくなる立派な芸術作品である。職人技と言わざるを得ない。
もしかしてこれも、編集者が一枚嚙んでいるのか?
まさかこの写真、作家の自撮りではなく、誰かに撮ってもらっているのかも……?
そんな折、別の(焼肉の時とは違う)レーベルと「喫茶店」で打ち合わせしようということになった。
やはりだ。女性向けレーベルの作家は「焼肉」ではなく「喫茶店」へ連れて行ってもらえるのだ!
徐々に真実に近づいてきたようだ。
これで私にも立派なネイル、スイーツ、自著の盛り合わせ画像を載せられる日が来た……!
待ち合わせは、なんと銀座である。
銀座でスイーツ……正直、ウン年ぶりの出来事だ。久々に来てみると、看板に書かれているメニューはインバウンド景気で日本人すら入れない高額な値段設定。何もかもが昔と変わっていた。
女性向けレーベルではあったが、担当編集者は男性だ。駅で落ち合い、カフェへ向かう。
入店が制限されている。出入り口のボードには、食事が来てから二時間で場所を空けるようにと書いてある。
入店するなり、度肝を抜かれた。
えっ。コーヒーだけで、千円!?
「先生、見て下さい。1600円のコーヒーがありますよ!」
ひえええええ。確かに面白そうだけど、遠慮しときます!
ケーキは手堅くモンブランを注文。
さて、周囲を見回してみると、そこでは意外な光景が繰り広げられていた。
周囲は、めかしこんだデート中らしき男女でいっぱいだったのだ。
編集者との会話が途切れるごとに、私は周囲に耳をそばだててみる。
どうやら、両隣の男女は結婚相談所で紹介されたばかりの関係のようだ。両隣の男女が初々しい自己紹介を始めている。
恐らくこの店で、作家と編集者などというビジネスらいくな関係は私たちだけであろう。
私たちも自己紹介を始めたが編集者はかなり若い男性なので、私みたいなオバハンが彼らと同じことをしているのが何やらおかしい。「ご趣味は?」「ラノベです」ってやかましいわ。
私たちは、最近の売れているラノベやアニメの話に終始する。
しかし、男性が女性作家好みの喫茶店を探して来るのって難しそうだなぁ。
「普段から作家さんと喫茶店で打ち合わせたりするんですか?」
「そういうのは、コロナ禍を機に減っちゃいましたね」
「今日はなぜこの喫茶店を?」
「社の近くだし、僕のスケジュール的に昼しか時間が空いてないからです」
なるほど、昼だから喫茶店なのか。
私「スイーツが好きなわけではないんですね?」
編集者「普段、ほとんどそういったものは食べませんね~」
その話の間にも、隣から必死にPR合戦をしている男女の会話が耳に入って来る。
隣の男性「僕スイーツ好きなんです〜」
隣の女性「わ、私もです……」
隣の男女「「…………」」
おいおい、会話が終わっちまったなお隣さんよぉ!
私「ここって婚活の人?多いですね」
編集者「いい喫茶店ですからね。デートにうってつけなんでしょう」
都心のいい喫茶店にはどうやら婚活男女が集まってくるようなのだ。この店は同性客より断然、カップルが多い。
普段こんな場所でこんな会話を聞くことはないので、私はついつい耳をそばだててしまう。
私はもぐもぐとスイーツを食べ始めた。
編集者はコーヒーひとつしか注文していない。
作家が黙れば、編集者も黙る。
ふと、隣の男性が言った。
「ご趣味は……?」
隣の女性が答える。
「読書です」
キターーーーー!!
隣の会話が気になる。彼女はどんな本を読むのだろう?
もしかして、ラノベだったり……?
まさか、私の本を読んでいたり!?
すると隣の男性が言った。
「僕は本とか読まないです」
おいっっっっ!!
お前が話を振ったのに、いきなりシャットダウンすんな!そんなんだから婚活しなきゃならなくなるんだよっ!(暴論)
女性、ちょっと困ってる。そりゃそうなるよね~。
しばらくして、その男女はぎこちないまま去って行った──
編集者がぽつりと言う。
「婚活って大変そうですね」
ああ、そうですね。
よく見るんですか?婚活。
「最近の高い喫茶店は、みんなおしゃれした男女ばかりですよ。サラリーマンはとんと見なくなりましたね」
へー。東京もすっかり変わりましたね。
「あっ。そろそろ二時間経ちますので、帰りましょうか。またご連絡差し上げます」
ん?
しまった!ケーキと自著撮り忘れたああああ!!
そういうわけで、別に編集者がケーキと自著を撮れと促すことはなさそうだということが判明した。
あのような写真をアップしているのは、全て作家個人の努力によるものだったのだ。
私は婚活カップルの初々しい様子とケーキに気を取られ、気の利いた写真まで上げるには至らなかった。
しかし同時に、ああいったスイーツと自著の宣伝をする作家さんはなかなか凄いぞと思い始めた。
だって婚活男女ばかりの喫茶店で自著を撮るわけでしょう?
編集者の目にさらされながら?
アングルとかに気を遣って?
さりげなくネイルを見せつつ?
「今日は打ち合わせです☆」って?
私には無理だなぁ……




