Episode 398 ダークレッドナイト
まるで練習に来たかのようにラフな遊菜。この緩さが部の雰囲気を落ち着かせてくれている。そんな気もする。
それがありがたいところもあるし、遊菜に関しては、今はこの緩さだけど、レースになると、一気に真剣な表情になる。そこでどこまで引き締められるかってところにはなってくると思うけど、今年の女子は今まで以上に強い。
リレーに関しては、普段、遊菜と一緒にふざけたりしている愛那も、フリーリレー、メドレーリレーの両方に名を連ねているけど、愛那でさえも、まじめにレースを泳ぐ。
正直、直哉がある程度雰囲気を締めているけど、遊菜がいるだけで、レースのときの部の雰囲気はより一気に締まる。
それがなければ、女子のレースは壊滅的になっているんだろうな。とか思ってしまう。
「よっしゃ、全員集まってるし、ミーティングしよか。ここやと狭いし、面倒やけど、みんな外出てや」
直哉がそういうと私を除いた扇商水泳部全員が外に出る。
私が外に出ない理由は、去年と一緒で荷物番だ。そのかわり、直哉が親指と小指を立てて、電話のジェスチャーをした。
これも去年と一緒で、電話越しにミーティングの内容を聞く。
直哉がそのジェスチャーをして外に出てから数秒後、携帯に直哉からの着信が届き、電話に出て、スピーカーモードにすることで、いろいろやりながらも、ミーティングの中身を聞くことができるのがいい点ってところだろうか。
まぁ、それがいいのかわからないけど、私から言うことはないから別に行かな。なんて思いつつ、電話越しに直哉の声を聴く。
『ほんなら、今年も速いもので、地区大会の始まりやな。この地区大会、わかってると思うけど、制限タイムを突破できたら府大会、つまりは中央大会に進むことができて、その先、近畿大会、インターハイに繋がる重要な大会化の一つでもあること、近畿組、頭入れといてや。ほんでから、俺からは2つだけ。近畿組もそれ以外にも全員に言うけど、控え室は苦笑いでもええから、笑って戻って来い。泣きたかったら鳴いてから戻ってこい。泣きはらしてもええから笑って控え室に戻ってこい。2つ目。ここのスタート台、めっちゃ飛びにくい。2年も3年もわかってるよな?去年経験してるから。スタート台の縁なんか持たれへんし、めっちゃ滑るし。やけど、スタートミスったとしても、慌てんなよ。水中で立て直したらええんやから。順位なんか気にすんな。こんな大会や。順位なんか気にしたところで、なんも賞状とかもないんやから。記録残すことだけ考えろよ。自分との戦いやねんから。スタートのミスも含めて、今の実力。存分に発揮しようや』
『えい!』
『マネージャー、なんかある?』
『はい、あります!えっと、レース前ミーティングで言われたこと、そのままお伝えします。例年、この大会、プログラムに書いてある時間よりも相当速く進むんで、グループチャットで「どこまで進んでます」というを私から送るようにします。各自、チャットとプログラムを確認して、進捗状況を把握したうえで、招集に遅れないようにしてください。それと、控え室として使ってるあの部屋は、明日、通常授業もあの教室も今日中に片づけて、明日授業するので、ゴミは各自で持ち帰って、教室にある机や棚などは一切触らないようにお願いします。持たれるくらいならオッケーやと思いますけど』
『まぁ、そういうことや。あくまでも控え室。身体を休めるところって認識して、自分で持ってきたもので、休息をとって、自分で全部持ち帰る。当たり前のことやな?よっしゃ、ほかになんかあるか?無いようやったら、吠えて、レースに向かおうや』
なんだかんだ3年連続で効いたもの何も変わらない。それはそれで面白いけど、何か変わり映えが欲しいな。なんて思ってしまった。
『ほんなら、豪快に行きましょうか。ゴーハイゴー!』
『ダークレッドナイト!』
豪快に吠えた声が聞こえる。少ししてから電話が切られると同時に選手たちがぞろぞろと戻ってきた。
「咲先輩、もう行きますか?」
「せやな。場所取りもしたいし、先行こうか」
「わかりました。えっと、いるものは……」
せっせと必要なものを集める優乃ちゃん。見ていると、せわしなく感じるけど、初めてのことだから仕方ないところはあるかもしれない。
そこから陽長菜ものをそろえた優乃ちゃんは「オッケーです。行きましょう」と言って、先を歩きだす。
「ほんなら、奈々美ちゃん、荷物番兼連絡係頼むな。レースの状況は、逐一優乃ちゃんから共有してもらうから、伝えたってな」
「去年と同じですもんね。わかってます」
勝手はわかってくれているから、ものすごくやりやすい。
あとは、優乃ちゃんにどれだけタイム取りの才能があるのかってところ。それが気になるところだけど、まぁ、それはレースが始まってからでいいや。
そんなことを思いつつ、プールの中に移動した私と優乃ちゃん。さすがにまだ開会式直前ということもあり、人は多いけど、プールサイドはなんとか確保できそう。
人の間を通り、優乃ちゃんの小ささを活かして、他校の生徒の間をに入れてもらい、なんとかプールが見渡せるところまで来た。




