Episode 399 マネージャーの仕事の意味
「ほんなら、基本的にプログラムを開けて、左手で持つ。その上にスマホを置いて、ストップウォッチは首から下げる。ペンは右ポケットに。これがこの大会でのスタイルな。せやないと、ポロポロと落とすかもしれんし、落としたら水没するかもしれんしな」
「はい。これで、右手はずっと自由に使えるようにってことですね?」
「せやね。スマホはしおりの代わりになるし、プログラムはめもしほうだいやしな。ラップタイムもわかるしね」
「すいうことなんですね。スマホにメモするのは辞めといたほうがいいですか?」
「せやね。進捗状況をすぐに送られへん買ったりするし、打ち間違えたとき面倒やろ?手書きの方が速いと思うし」
「そういうことですね。わかりました」
理解したように言うと、右のポケットからペンを取り出し、取りやすさを見ていた。
そこから数分くらい待って、開会式が始まる。
ここに関しては、いつものようにわかりきった話が続くから割愛するけど、まぁ、ルールや選手宣誓などなど。まぁ、ありきたりな開会式だったよね。
そして、開会式も10分足らずで終わり、最初の競技でもある女子の4×100メートルメドレーリレーを9時15分から始めるとアナウンスがあった。
戦勝は2組センターレーンで登場。たぶん、1組でもエントリーできたんだろうけど、最初だからね。様子を見ることにした。
それに、去年までとは布陣が少し変わっていて、バックには、専門外の咲樂ちゃんが入っている。
それもそのはずで、ブレもバックも、専門である杏里や香奈ちゃんに比べて速いし、愛那のブレも杏里ちゃんより速い。
愛那のバックとブレを咲樂ちゃんのバックとブレでタイムを比較すると、咲樂ちゃんのバック、愛那のブレが一番速い組み合わせになったから、こういう形になっている。
「どれだけのタイムが出せるんですかね。優乃、新しいチームでのリレーが楽しみです」
「せやね。どこまで速くなるんかわからん分、楽しみやな」
それだけ声を返すけど、正直、去年、私が出たレースに比べて10秒近く速いんじゃないかなって思っている。
なにがすごいって、愛那のブレも2秒くらい速くなっているし、咲樂ちゃんと私のバックも3秒くらい違うし、何より、沙良ちゃんの成長が一番大きい。
あのバラバラで力みまくっていたあの頃から考えると、3秒ほど速くなってるし、遊菜も去年は沙良ちゃんに対して「力んでるから、力を抜け」と沙良ちゃんに言っても、まったくいうこと聞かずで、「無理や、やる気そがれた」と言って8割くらいの力で泳いでいた遊菜が、今日は本気に慣れると思うから。
それを考えるだけでかなり楽しみなところはある。
だけど、その前に1組のレース。
強豪ばかりが揃っている1組のレースを見るのも面白いから見逃せない。
そして、9時15分になって、アナウンスが入る。
『大変長らくお待たせいたしました。ただいまより、〈大阪高校総合体育大会水泳競技大会兼、大阪高校選手権水泳競技大会兼、近畿高校予選会〉を開催いたします。プログラムナンバー1番、女子4×100メートルメドレーリレー、1組の競技を行います』
去年は反対側の招集席から見ていた景色、それが2年ぶりにマネージャーとして観戦する側に戻ってきている。
「扇商のレースだけタイム取ってな。不安やったら、このレースで練習してもかまへんで。結構慌ただしくなるから、一回練習しといてもええと思うけど」
「そうですね。それじゃあ、4レーンで練習します」
「タイムの取り方は大丈夫やんな?忘れてへんよね?」
「大丈夫です。音じゃなくて光ったらスタート。タッチで止める。ラップもタッチで。ですよね?」
「その通り。見えへんかったら、感覚でやってもしゃあないけど、できるだけ意識してな」
「はい」
優乃ちゃんがそういうと、審判長の笛が鳴り、いよいよレースが始まる。
4回の短い笛が鳴った痕、長い笛が一度、そのタイミングでバックの選手6人がプールの中に入り、スタートの用意を進める。
そして、もう一度長い笛が鳴った痕、選手たちはスタートバーを握り、スタートの態勢に入った。
ここからは仰向けにスタートすることになる。
たぶん、トップはセンターレーンを泳ぐ桃谷女学院か将星高校が取るだろうな。なんて思いながら、スターターの方に目を向ける。
一応、何かあった時用に私もスタンバイして、バックアップできるようにはしている。
さすがに、ミスってタイムが取れませんでした。というのは可哀そうだからね。
とは言いつつも、トータルタイムだけだったら、学生補助員が私たちと同じ手ばかりでトータルタイムを計測しているから、トータルタイムだけでいいなら、それで構わないんだけどね。
むしろ、そっちの方が公式記録になるから、私たちが取る意味はないんだけど、ラップタイムを採る目的以外にもある程度早く、地区大会突破組とそれ以外というのを狩りで分けておきたいって言うのもあるし、ラップタイムを採って、どこが弱いのか確認するのも重要なことだと私は思っているから、こうやってタイムを採っている。
そんなのを気にしないマネージャーなら、こんなことはしないだろうけどね。
でも、こうやってタイムを見せて歌詞化するのも大事なことだと思っているし、せっかく速くなろうと練習しているのに、そこがわからない状態で練習していても無駄じゃない?というのが私の考え。




