第七十四話 ゲート
攻略本によると二学期はゲートと呼ばれるインスタンスダンジョン──その場で生成される簡易的なダンジョン――の攻略がメインになると書かれていた。
ダンジョンとはいっても大した広さはなく、中にいるボスを倒せばクリアとなってゲートごと消滅するのだが、クリアするまでは外に出ることができない。
なので挑む前にクリアできるだけの戦力を集めるのが非常に重要となる。
このゲートは学園の裏にある雑木林などダンジョンの近くに生成され、本来は自衛隊が対処することになっていた。
しかし普通のダンジョンよりも経験値が良く国からの謝礼金までもらえるとあって、学園の生徒にとっても非常に美味しい案件となってくる。
なのでゲートは奪い合いが基本だった。
難易度はゲートの色や濃淡でわかるようになっており、長期間放置するとモンスターがあふれだすようになったり難易度が上がったりすることもあるらしい。
そしてゲートにはダンジョンのようなパーティーによる人数制限もない。
となれば数の力でごり押しすることが可能だった。
さっそく朝の授業でそのような説明がなされると、やる気に満ちたクラスメイトたちはいつものように歓声を上げている。
そして今日の授業はゲート攻略の実地訓練である。
すでに花ヶ崎と事前の打ち合わせは済ませてあり、俺が一条たちを見張るということになっていた。
「つまりゲートを放置するとダンジョンが暴走して世界中にモンスターがあふれるようになるというのね」
「まあそれは一条たちの攻略が進まなかった場合の話なんだけどな」
「ゲートなんて貴方がすべて消してしまえばいいじゃないの」
「そんなわけにいくか。ゲートは世界中にあるんだぞ」
たぶんエンディング後に一条たちのギルドが世界中のゲートを消して回るなり、世界中のランカーたちを鍛えるなり、とにかく何らかのことをするのだろう。
ゲートによる人類への脅威を普遍的に排除できる仕組み作りが重要なのだ。
だから俺がゲートを消したらそれで終わりとか言う話でもないはずである。
「危険がないようにするのなら一緒に行動する必要があるわよね。いっそ彼のパーティーに入れてもらったらいいのではないかしら。危険もなくなるし、貴方が手助けすればレベルだって好きなだけ上げられるでしょう。私は綾乃たちが無理をしないように見張っておくから安心していいわ」
べつに神宮司たちが無理をして死ぬとかいったシナリオの分岐はないのだが、予想外に強くなってしまっているから見張りも必要だろう。
阻止すべきは一条たちがここで十分にレベルを上げられなければ、のちのち世界の破滅が起こるというエンディングに分岐することである。
あまり危機感のない花ヶ崎によって、俺はひとりで手助けすることになってしまった。
昼食を終えて集合場所である薄暗い学園の裏山に入ると、すでに複数のゲートが怪しげな光を放っていた。
その中の一つ、薄い緑色をした光の渦が授業で使用するため攻略禁止と書かれた立て札に囲まれている。
「ちょっと都合がつかなくて最低レベルのゲートじゃないが、まあうちのクラスには優秀なのがそろってるからな。いざというときは20層攻略組になんとかしてもらおう」
そう言いながら新村教諭が俺たちの方に視線を向けた。
自然と俺や神宮司、音無に周囲から羨望の眼差しが集まる。
攻略階層が20層ともなれば北海道組ほどではないにしても中規模クランのエース級と張れるレベルだ。
実際に戦うところを見られるというだけでも滅多にないチャンスである。
そんな期待が集まる中、なぜか神宮司はこれ見よがしに大きなため息をついていて見るからにやる気がない。
その隣で音無はいつものように中空の何かを見ているような感じだった。
どちらも早く自分たちだけでゲートを攻略したいと思っているのだろう。
あれからも天都香を入れたパーティで20層台を回っていると聞いている。
説明を終えた新村教諭は先頭からゲートに触れるようにとだけ言い残してインスタンスダンジョンの中へと消えてしまった。
ほかの生徒も真似してどんどんゲートの中に入る。
俺の番がやってきてゲートに触れると、一瞬で森に囲まれた一本道のマップに切り替わった。
「ここでは経験値が共有されるから焦って倒す必要はない。とにかく敵を集めないように気を付けて、着実に数を減らしていくんだ」
そんなことを新村教諭が歩きながら説明していると、いつの間にか俺の隣に立っていた瑠璃川が言った。
「いくらなんでも舐めすぎじゃないの。リングすらつけてないじゃない」
「ちょうどいいのがなくてな」
「ちょうどいいって何よ。普段使ってるのでいいでしょうが」
普段使っている奴は勝手にバリアを張ったりして目立つから外したのだ。
瑠璃川の言葉を聞き流しながら裏山の雑木林とあまり変わらない景色に驚いていると、トロールをかなり小さくしたようなモンスターが森から無数に出てきた。
大きさ的には14層に出てくるヒュージトロールの十分の一くらいだろうか。
レベルの低いゲートな割に厄介そうな相手だなと思っていたら、いきなりロン毛が一団に向けて範囲魔法を放つ暴挙に出た。
下位の範囲魔法になど怯むはずもなく、トロールの一団が殺到すると小さな悲鳴を上げつつ後退したロン毛に変わって狭間とモヒカンがトロールの前に立ちはだかって戦いが始まる。
やはり人数制限がない分だけ難易度が高く設定されているのだろう。
小さいとはいえトロールだけあってダメージが足りないらしく、倒しきれずに敵味方が入り乱れてしまって、かなり分が悪くなってきた。
幸いにトロールの攻撃力自体は大したことがないものの、このままではじり貧になりそうな感じがする。
俺が周囲の回復に専念していたら、処理しきれなくなったクラスメイトが敵を押し付けてきたので仕方なく刀を抜いて切り倒す。
それが良くなかった。
それを見ていた周りの奴らまで真似しだして、皆が敵を俺に押し付けようとし始める。
俺以外はまともに敵を倒せていないのだからそれも当然なのだが、これで敵に囲まれてしまったら周りの状況が見えなくなる。
そうなるといざというとき動けない。
「攻撃を一体に集中させるんだ!」
一条が叫び、それでやっとクラスメイトたちは攻撃を集中させはじめた。
遠距離組の集中砲火によってなんとか敵の数を減らし始めるが、殲滅が遅すぎて対処できなくなるのも時間の問題だろう。
それでも何とかなったのは音無がスキルで敵のターゲットを集めて引っ張りまわしてくれたおかげである。
後衛まで敵に追い回されているから花ケ崎は回復に手いっぱいで攻撃に回る暇がない。
最後には敵の一団に神宮寺が突っ込んでなんとか倒しきった。
さすがに神宮寺が本気を出せば敵の減り方も早い。
それなのにすべてが終わったあとで一番注目されていたのはなぜか俺だった。
「ちょっと、なんであいつだけ一撃で敵を倒せるのよ」
という瑠璃川の発言に、神宮寺がそういうものなのよとかなんとか言って答えている。
音無までそれに無言でうなずいていた。
ここであまり注目されてしまうと、人前で変な行動を取りにくくなる。
しばらくは大人しくしておいたほうがいいだろうか。
「回復魔法だって使ってたのに、そんなのおかしいじゃない」
だから瑠璃川にはそんな風におかしいとか叫んでほしくないところだ。
だいたい、このくらいの敵なら花ヶ崎あたりが範囲魔法で全部倒してくれたらよかったのだ。
それなら周りも納得するだろうに、あいつはこういうところで全く気が利かない。




