第七十五話 一条の試練
トロールをなんとか倒しつつ森を進み、その先で木々をなぎ倒しながら現れたサイクロプスを遠距離での集中砲火で倒すと、次の瞬間には学園裏手の雑木林へと戻されていた。
ゲームの主人公パーティーを基準にしているせいか、クラスメイトたちにはずいぶん厳しい相手だったように思える。
この難易度では、外部の協力者でもいない限り安全なクリアは難しいだろう。
そこで授業は終わりとなった。
しかし今日のうちにもう一つくらいゲートをクリアしておきたいような感じでクラスメイトたちはまだその場にとどまっている。
一条たちが残っているうちは俺もこの場を離れられない。
そんな俺のところに神宮寺がやってきて言った。
「一条たちが一つ上のゲートに挑戦するらしいけどどうする?」
ついて行くと言って、俺はクラスの連中から距離を取った。
さっきのゲートでも危険を感じたであろうクラスメイトたちは、さすがに一つ上のゲートという単語が出た時点で他を当たるしかない。
それで神宮寺ついて行くと、一条が誰かと揉めているような声が聞こえてきた。
どうやら今回はAクラスと揉めているらしい。
「ふざけんじゃねーよ。このゲートは俺らが昨日から目をつけてたんだ」
あれはAクラスにいた魔眼の男の取り巻きのひとりじゃないだろうか。
身を乗り出して確認すると、周りには魔眼の男もいるので間違いないようだった。
何をするにも揉め事がついて回る主人公の体質がちょっと気の毒になるが、これも立派なストーリーの一部である。
この魔眼の男を倒すまではゲートを自由に使えるようにはならないのだ。
ここではプライドの高い上位クラスや上級生、果ては有名クランの大物までもが難癖をつけてくるのだが、すべて倒さなければ上級ゲートを自由に使えるようにはならない。
「僕らが来るのを待ってて、わざと絡んできてるんだ」
いつの間にか近寄ってきていた風間が神宮寺に耳打ちしているのが聞こえた。
まあそうだろうなと思っていたら、いきなり神宮寺がとんでもないことを言いだす。
「だったら倒しちゃえばいいじゃん。私がやってあげようか?」
まわりをはばからない大きな声を神宮寺が響かせると、あたりは一気に静まり返った。
いったいなにを言い出すんだと、俺は思わず神宮寺の顔を二度見してしまった。
さっきまで威勢の良かったAクラスの野次馬たちも、神宮寺を見た途端、明らかに怯んだような反応を見せている。
しかし主人公を阻むための中ボスとして設定されているこの魔眼の男は、レベル以上の強さを発揮するためそこまで簡単な話ではない。
特に、この最後の戦いではステータスなどが強化され、隠しスキルも解禁されている。
魔眼の男は魔法での強化を無効にするスキルを使うのだが、問題なのは魔法になど縁のないこの神宮寺こそがハードカウンターになってしまう点である。
攻略本にも神宮司や音無などを連れて行けば楽になると書かれていた。
まあ音無に関してはすべてのボスに対して連れていくことが推奨されているけどな。
しかしそれよりも、このまま神宮寺を放っておくと、なんだかゲームの主人公ポジションを乗っ取ってしまいそうな怖さを感じる。
「やめとけって。どうしてお前はそう武闘派よりの思考なんだよ。べつに仲良く一緒に入ったっていいだろ」
その俺の言葉に、さっきまで一条たちに絡んでいた男が青筋を立ててこちらに突っかかってきた。
「ああ? 誰がお前らなんかと仲良くすんだよ。勘違いしてんじゃねえぞ」
そこら辺の高校生がすごんだくらいじゃ神宮寺はビビらない。
ずいっと前に出て、実に堂々とした態度で手に持った槍を地面に打ち付けた。
「勝てると思うならやってみなよ!」
それだけはまずいなあと思いながら、なんとか力づくで神宮寺の肩を引き寄せる。
「ま、まあまあ。俺たちは見学でもしとこうぜ」
こいつらだって重要な主人公の糧なのだ。
それを、このまま神宮寺に横取りさせてしまったら一条たちの攻略が遅れてしまう。
「その腰抜けの言うとおりだ。ちょっとくれー20層くらいから生きて戻ってきたくらいで、うちのボスに勝てるとか思ってんじゃねーぞ。ゴミどもがッ!」
一条だけに構っておけばいいのにどうして神宮寺まで煽るのだ。
しかも場を収めようとしている俺がなぜか一番ひどい言われようである。
煽られた神宮寺は俺の制止を振り払って前に出た。
だいたいコイツを止めるのは俺の役目ではないだろと花ヶ崎を探していたら、一番後ろの方で木の陰になど隠れている姿が目に入った。
どうやら魔眼の男の視線から隠れているようだ。
たしかにあの男の能力からしたら花ヶ崎の動向が一番気になるのだろう。
「はあ? 本気で言ってるわけ。アンタらが高杉に勝てるわけないじゃん。本当に気の毒な頭だよね。ねえ、ちょっと力を見せてやったら。コイツらなんてすぐ黙るよ」
「……いや、俺はいいよ」
「はあ? なにそれ。遠慮してるわけ? こんな奴らさっさとやっつけて、そこら辺の木にでも吊るしておけばいいじゃん。身の程をわからせてあげるのが親切ってもんでしょ」
「テッ、テメエ!」
神宮寺は放っておくと悪の帝国みたいなクランを作りかねない。
思考が単純すぎて、すべてを暴力で解決しようとする。
「そ、そうだ! 敵を倒した数で競い合えばいいんじゃないか」
苦し紛れに言ってみたが、誰も俺の話に乗ってきそうな感じはしない。
俺のことなんか無視して睨み合っている合う二人は今にも戦い始めそうな雰囲気だ。
いったいどうやって止めようかと思案していたら、そこに一条が割って入ってきた。
「まだこっちの話が終わってないだろ。関係のないクラスメイトにまで手を出すのはやめるんだ。戦いたいというなら戦おうじゃないか。どうせやるなら中でやろう。ここじゃ周りに迷惑がかかる」
一条はゲートを指さすと、相手の承諾も待たずに中へと入っていった。
「はぁ? 勝てるつもりかよ。テメエらは20層組でもねえだろうが!」
さっさとゲートに入ってしまった一条たちを追いかけるように、魔眼の男たちもゲートをくぐる。
後を追おうとする野次馬たちをかき分けながら俺や神宮司たちも中に入った。
ゲートを抜けた先はさっきと同じような一本道のある森の外れだ。
「俺たちが相手するのはコイツらだけだ。お前らは関係ない」
遅れて入ってきた俺たちに向けて魔眼の男が言った。
「わかってるよ。俺たちは見学だ」
というか他のクラスのやじ馬まで付いて来てしまっているから、もうこの人数で入ってしまったゲートなどいくらクリアしたって得られるものは何もない。
これじゃなんのために争っていたのかわからないではないか。
「なんだかやけに手馴れてるね。これなら一条に任せちゃってもいいのかな」
神宮寺が素朴な感想を口にする。
まあ実際にいつものことだろうから慣れているのはその通りだろう。
むしろ瑠璃川など最初から相手が金にでも見えているのか、神宮寺に対して露骨に獲物を奪われたような恨みがましい目を向けていたくらいだ。
それでも一条たちと戦ってくれるなら俺としても不満はない。
もしかしたら自分が敵役になるんじゃないかと恐れていた身としては、まだストーリーが生きていたことに心底ほっとした気持ちだった。
よろしければ☆の評価とブックマークお願いします。
BKブックス様より書籍1巻&コミック1~5巻 発売中!
コミック版は マンガよもんが・ニコニコ静画などで連載中です。




