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不滅のダンジョンマスター  作者: やみあるい
聖女邂逅の章

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153.本質

あらすじ


ミーシェがダンジョンを観たいというので、私はミーシェをダンジョンの入り口に案内した。そこで、ダンジョンの形に違和感を覚えたミーシェから、私は神の試練なるダンジョンに似た場所の話を聞く。

話し終えたミーシェがダンジョンに入ると、私は表示されたステータスからミーシェが聖女であるという事実を知る。一方でミーシェは、堂々とした足取りでダンジョンの奥へと進み始めた。

そうして暫く進んだ先でミーシェは複製体のゴブリンに襲われる。いつものように透明な壁で全ての攻撃を防いだミーシェだったが、複製体ゴブリンに攻撃を諦めるという文字は無い。

果たして、ミーシェはどう対処するのか?




 ミーシェはかなりの粘りを見せた。決して逃げず、透明な壁に攻撃をし続ける複製体ゴブリンに対して、時には説得を試み、時には威嚇? のようなものをしたりと、何とか複製体ゴブリンの方から離れていってもらおうと頑張ったようだ。

 しかし、複製体にそのようなものは通じない。ダンジョンの複製体は、特別な命令でもしない限り、ダンジョンへの侵入者をただ排除する存在でしかない。

 そうして色々と試したミーシェは、最終的に透明な壁で複製体ゴブリンを完全に囲い、その場に放置するという方法で、その状況を解決した。

 どうやらミーシェが透明な壁から離れても、透明な壁は解除されないらしい。ミーシェの後を追おうとする複製体ゴブリンが、透明な壁にぶつかり続けるが、透明な壁はずっとそのままだ。

 なんという力技だろう。攻撃した訳でも無いのに、そんな印象を受ける解決法だ。


 ところでこれ、いつまでそのままなのだろう?



 そのままミーシェはまた確かな足取りで先へ先へと進んでいく。そして、それなりの時間が過ぎた頃、唐突に立ち止まった。

 そして、叫ぶ。


「ま、迷ったぁー!!」


 あー、うむ。まあ、途中から何となくわかってはいた。ミーシェは気づいていなかったようだが、既に同じ道を何度も通り過ぎている。その度に何故、あんなにも堂々と歩き続けられるのか不思議に思っていた。しかし、こうなると罠に気づかなかったのも、ただ単に鈍感だったからという可能性が高くなるな。


 それで。これ、どうすればいいんだ?

 私が悩んでいると、ミーシェはまたとぼとぼと歩き始めた。しかし、先ほどまであった自信は何処へやら、その歩みはミーシェの今の感情を表しているかのようなとぼとぼ具合だ。

 なんだろう。今、私はすごく残念なものを見ている。醸し出されていた不気味な雰囲気も、私から配下を奪い取った事も、聖女という肩書も、全てがどうでもよくなってくるような光景だ。

 改めて思い返してみれば、もしかしたら、ミーシェは私が思っていたほど、危険な存在では無いのかもしれない。確かにミーシェの『神聖魔法』による透明な壁は、非常に強固だ。あれを突破するのは、私の配下たちであってもかなり厳しいだろう。それに、攻撃手段を隠し持っている可能性も完全に消えてはいない。さらに聖女という肩書と、『神託』という謎のスキルの件もある。

 しかし、それら全てを加味しても、ダンジョンの探索系スキルを持たないミーシェ単体で言えば、今のところ私にとって脅威とは言い難い。どれだけ強かろうと、どれだけ頑強だろうと、結局のところ、ダンジョンコアに攻撃が届かない限り、私を殺すことは出来ないのだから。


 もう、放っておいてもいいかな?

 一瞬、投げ遣りな気持ちが思考を過ぎる。しかし、ミーシェの監視を続けている内に、私はその緩んだ思考を思い直した。

 ミーシェは半べそを掻きながらも、前に進む足を止めずにいる。つまり、諦めてはいないのだ。ならば、歩き続けたミーシェが偶然、第二階層へ続く階段部屋に辿り着く可能性はまだある。或いは最終的にダンジョンの入り口に戻ってくる可能性だってあるだろう。だが、それならそれでいい。問題は、そうなるよりも前にミーシェが何らかの探索系スキルを習得してしまう可能性だ。


 スキルの習得速度というのは、個体によって大きく異なる。得意であれば、通常よりも早く習得出来ることもあるが、中にはどれだけ訓練を続けても習得が難しい者たちもいた。だから、今の段階ではミーシェがダンジョンを彷徨う間に探索系スキルを習得できるかどうかは未知数だ。しかし、スキルの習熟度というものは、必ず少しずつは貯まっている。故にどれだけ才能が無かったとしても、絶対に覚えられないということだけは無い。この世界では足掻き続ける限り、可能性は存在している。

 そうして、もしミーシェが探索系スキルを手に入れてしまったら? ゼロを一にするよりも、一を育てていく方が容易だ。しかも、ここでは環境が整っている。探索系スキルは、すぐに育っていくだろう。そうなれば、ミーシェは私にとって危険な存在となる。明確な対策が立てられていない今の状況で、そのような可能性を呼び起こすのは得策ではない。

 それに、せっかく友好的な人間が現れたのだ。ここで、少し恩を売っておくというのは悪い選択では無いだろう。ミーシェには色々と聞いてみたいこともある。

 とりあえず、道案内を寄越すか。

 決めた私は即座にゴブリンの一体を呼び出すと、案内役としてミーシェの居る地点へ送り出した。


 ゴブリンがミーシェの前に現れると、ミーシェは即座にそれを透明な壁で囲う。そうして、そのゴブリンを無視したまま、先へ進もうとした。最初の頃は透明な壁で囲い込んだ後、その都度、襲ってきた複製体と対話を試みようとしていたのだが、もうそれも行わない。さすがに幾度も襲われたことで、ミーシェもこのダンジョンで出会う魔物が異質な存在であると理解したようだ。

 しかし、今、ミーシェが捕らえたゴブリンは複製体ではない。私が案内役として送り出した通常のゴブリンだ。もしそこに違和感を持っていれば、このゴブリンが森で出会う魔物たちと同一のものであると気が付くことは出来ただろう。やはり、ミーシェには複製体と通常の魔物との違いが分かっていないようだ。

 そんな考察を行いながら、私はミーシェに『伝心』を送る。


 ――入り口まで、案内しようか?


 辺りを見回したミーシェは、そこで透明な壁に囲まれながらも、暴れる様子の無いゴブリンに視線を留めた。


「もしかして、マスターさん?」


 ――この者も我の配下だ。ついてこれば、入り口まで送り届けよう


「あ、ありがとう~」


 ミーシェがふにゃふにゃとその場に頽れると、ゴブリンを閉じ込めていた透明な壁が消えた。私はゴブリンに命令を送り、ミーシェを助け起こさせると、そのままミーシェをダンジョンの入り口まで案内させる。




「みんな、たっだいまーっ!」


 余程、独りでダンジョンを彷徨い続けたことが心細かったのか、入り口まで戻ってきたミーシェは待たせていたお友達に駆け寄ると、全身で再会を喜び合う。何とも毒気を抜かれる光景だ。


 そうして暫くお友達との再開を喜び合ったミーシェは、次に自身をここまで導いてくれたゴブリンへと向き直った。


「マスターさん。聞きたいことがあるの」


 そのイメージからは、ミーシェの真剣さが伝わってくる。

 ふむ。内容は、予想がつく。

 だからこそ、私は冷静に尋ねることが出来た。


 ――聞こう


「ダンジョンの中にいた魔物さんたちも、マスターさんのお友達なの?」


 それまでずっと、純真無垢という雰囲気だったミーシェから、その時初めて僅かに敵意を感じる。


 お友達、か。恐らく私が送った配下という言葉を表すイメージを、ミーシェはお友達と解釈したのだろう。だから、あれもお友達なのかと返してきた。そこには、若干のイメージのズレを感じる。恐らくイメージを受け取る段階で、取捨選択が成されたのだろう。これはイメージによる意思疎通の弊害、いや、恩恵か? それはともかくとして。


 その定義に当てはめると、ミーシェが言いたいのは、複製体たちも私の配下なのか、ということだろう。敵意が混じっているのは、恐らく私に対する疑いだ。ミーシェは複製体という存在に違和感を感じていない。あれもただの魔物だと認識している。だからこそ、あの尋常な行動の理由を私へ求めたのだろう。私がやらせているのだ、と。

 歓迎すると言った私がミーシェを襲わせた。それは敵意を向ける理由として十分すぎる。

 だが、こちらの言い分は既に用意してあった。神の試練で戦うという神獣に対するイメージを受け取った時から、なんとなくこうなることは予想がついていたのだ。


 ――あれは私の配下とは少し違う

 ――あれは厳密に言えば、魔物ではないのだ


「魔物さんじゃ、ない?」


 ――あれはダンジョンが己を守るために生み出した、魔力で魔物の形を真似た罠のようなものだ

 ――故に、魔物のような形をしていても、魔物のような意思は持っていない

 ――あれは、ダンジョンを守るためだけに存在しており、侵入してきた者たちをただ無差別に襲う

 ――あれらの行動は、私が意図して行っているものではないのだ


 複製体に感じる機械的なイメージを添えて、私はそれを『伝心』でミーシェへと送る。


「え? …………? あ――…………」


 ミーシェから返ってきたのは、随分と微妙な反応だった。出来るだけ、砕けた内容を思い浮かべるよう心がけたのだが、どうしてもこの世界の人間の常識が欠けている私の説明は、少しわかりづらかったようだ。


「…………うん」


 それでもミーシェは、暫くの時間をかけて何とか噛み砕き、呑み込んだらしい。何処まで理解してくれたのかは分からないが、複製体がダンジョンを守る行為に、私の意思が関与していないということは納得してくれたようだ。その証拠にミーシェから感じていた僅かな敵意が、消えていくのを感じる。


「つまり、ダンジョンは危ないってこと、だね」


 ――ああ……まあ、そうだな


 やたら要約されたような気がするけれど、まあわかってくれたならいいか。私がそう思った時だ。続けてミーシェが呟く。


「でも、よかった。やっぱりマスターさんは、魔物さんたちを無理やり戦わせるようなことがしないんだね」


 何気なく告げられたそれは、何処までも無邪気なイメージで出来ていた。

 敵意は無く、邪気も無い、純粋な言葉。しかし、同時に強い、強い意志を感じる。きっとそれは、ミーシェという人間の根底にある感情だ。

 だとしたら、ミーシェが私に敵意を向けてきた理由は、むしろ、こちらにあったのかもしれない。きっとこれはミーシェという人間を理解する上で、とても重要なことだ。

 私は感じたそれをしっかりと、その言葉と共に『記憶』した。



 さて、ステータスを確認したことで、私はミーシェが聖女だということを知った。そうなると、ミーシェに対しては色々と聞いてみたいことがある。だが、それを今すぐに尋ねるのは、少し躊躇われた。


 神の試練のことを聞いた際にも思っていたのだが、ミーシェはあまりダンジョンやダンジョンマスターというものに詳しくはない。

 それがミーシェだけの話なのか、それとも人間全体に共通する知識なのかは、まだ分からないが、念には念を入れておくべきだ。ミーシェがそれを知らないのであれば、出来る限り、ダンジョンの機能については触れずにおきたい。

 だからこそ、ダンジョンコアの機能でステータスを確認したことも、出来ればミーシェには知られたくなかった。


 正直、ミーシェと話していると、さすがに警戒しすぎていないか、と思わなくもない。一切の悪意が感じられないミーシェに、そこまでする必要は無いんじゃないか、と。

 ただ、なんとなくそうするべきだと感じたのだ。曖昧で、あやふやな感覚だが、私はそれを信じることにした。そもそも、この危険な世界で、警戒しすぎるなんてことはありえないのだから。


 だが、ならばどうやって、聖女の話を聞こうか?

 そのまま尋ねる訳にはいかない。今の私は、未だミーシェが聖女だとは知らないはずなのだから。

 そもそも、何故ミーシェは自己紹介の際に、聖女だと名乗らなかったのだろう? ただ、話す必要性を感じなかっただけ? それとも、意図的に出自を隠そうとしているのか?

 ふむ。ならば、少し探りを入れてみようか。


 ――こちらからも少し聞きたいことがある

 ――ミーシェ使っていたあの透明な壁は『神聖魔法』によるものだな

 ――かなり硬そうな壁だったが、ミーシェは『神聖魔法』が得意なのか?


『加速思考』や『並列思考』を目いっぱい使い、考えに考えを重ねながら、イメージを構築していく。まるで、綱渡りをしているかのようだ。しかし、その甲斐あって、初手としては悪くない質問になったのではないか? 私がそう考えた時だった。


「もちろん。だって、私は領域教会の聖女なんだからっ!」


 ミーシェは胸を張って、そう応えたのだ。

 何かしらの情報を引き出せたら、と思って出した問いかけだったのだが、思った以上にあっさりと望んだ答えを引き出せてしまった。どうやら、相手が魔物だからと隠していた訳では無いらしい。拍子抜けだが、ここは全力で乗っかろう。


 ――聖女?


「そうよ。領域教会の総主神たる聖女神リクシルさまにその信仰を認められ、直接『神託』のスキルと【恩寵】を授けられた正真正銘の聖女」


 その言葉からは、ミーシェの誇らしげな様子が伝わってくる。神に聖女と認められたことは、ミーシェにとって、とても重要なことらしい。

 だが、これは僥倖。大好きなことについて、人は口が軽くなるものだ。これなら、色々と聞き出すのも幾らか容易いだろう。


 聖女、領域教会、聖女神。

 それからミーシェの事、人間の事、『神聖魔法』や『神託』の事。


 幸い、あちらも私に興味を抱いているようだし、あとは『加速思考』と『並列思考』を併用して、何とかうまく会話を進めていくだけだ。





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