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不滅のダンジョンマスター  作者: やみあるい
聖女邂逅の章

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151.切れた絆

投稿予約し忘れてました。すいません


あらすじ


着飾ったダイアウルフを代理に立てて、ここに来た理由を問う私に、人間は驚きと喜びで応えた。

人間の名はミーシェ・エトローダス。この森にお友達を作りにやってきたという。

知識にある人間の情報と乖離するミーシェの行動を、私は混乱しつつも、次第に受け入れていく。全てが順調すぎる程、順調に進んでいた。しかし、ミーシェが私に向けて、名前を与えたその瞬間、事態は思わぬ方向に動く。私とダイアウルフとの間にあった絆が切れたのだ。






 いったい、何をした?


 思わず、そう尋ねそうになるのをぐっと堪える。

 冷静になれ。今は知覚を働かせ、何が起こったのか、状況を探るんだ。

 辛うじて残った冷静な心が、副思考の一つを動かし、私に囁いている。


 まず、ダイアウルフが死んだわけではない。つまり、これは私が絆と呼ぶ、主と配下という関係性が生み出したスピリットラインを、あのダイアウルフが自ら断ったということだろう。

 私は試しに『伝心』を使い、ダイアウルフに戻ってこいと伝えてみたが、ダイアウルフからは拒絶の意思しか返ってこなかった。これは、命令の効果も切れているな。

 いや、それどころか、ダイアウルフはなんと人間に恭順を示している。幸か不幸か、人間はそんなダイアウルフの意図にまだ気づいてはいないようだが、それも時間の問題だろう。ダイアウルフが人間の率いるお友達の群れに加わった所を見れば、さすがに気づくはずだ。

 あれではもう、私の代理として使うことは不可能だろう。いやむしろ、このまま人間に従うダイアウルフを私だと思われては困る。私は別に、あの人間の下に付きたいわけでは無いのだから。

 あの人間の様子からして、この事態をあの人間が意図的に引き起こした訳ではなさそうなことだけが、不幸中の幸いと言えよう。もし、これをあの人間が意図的に起こしていたとしたら、最悪、私は全ての配下をあの人間に奪われるかもしれない。

 いや、さすがに名付きの配下たちまでが、あれほどあっさり反旗を翻してくるなんて可能性は考えたく無いけれど、それは召喚したばかりのダイアウルフだって同じだった。一体、何故、そんなことになってしまったのか。早急に解明へ乗り出したいところではあるが、今はそれよりも人間の対応をすることが先だ。

 とりあえず、原因の考察は副思考に任せ、今はダイアウルフの行動をあの人間に釈明するべきだろう。



 ――あー、すまない

 ――人間よ


 私が『伝心』で人間に話しかけると、人間は戯れていたダイアウルフと改めて視線を合わせた。


「私の名前はミーシェよ。ミーシェって呼んで、ラプシェ」


 真剣な言葉に込められた感情は、僅かな不快感と親愛の情。どうやら、お友達が名を呼んでくれないことが、嫌だったらしい。


 ――あ、ああ。分かった。ミーシェだな

 ――それでミーシェよ。実は一つ訂正させてほしいのだ


「私、何か間違ってた?」


 ――うむ。ミーシェがラプシェと呼んだその魔狼は、実のところ、こうして話している我自身では無いのだ


「え?」


 人間、ミーシェは私の『伝心』の無いように驚くと、次にダイアウルフをじっと見つめる。


「ラプシェ?」


 そう呼んだミーシェの言葉に応えるダイアウルフ。何故か、ダイアウルフはそれを完全に自身の名前だと認識しているようだ。そうして一拍置いたミーシェは、次に周囲へ視線を巡らせる。恐らく、頭に響く言葉の主を探しているのだろう。


「なら、本当の貴方はどこなの?」


 やはり、そこが気になるか。だが、私はそれに何と答えるべきだろう?

 もう一度、別の配下を向かわせて、それを私だと告げるか? いや、まだ絆が切れた原因が分からない以上、もう不用意にあの人間へ配下を近づけたくない。


 なら、もういっそ、私のことを正直に話してしまおうか。対話という手段は私が想像した以上の成果を出したのだ。それはあの見習い勇者に拒絶された経験を補って余りある結果だった。ミーシェがいうところのお友達というものに、私がなることを了承した以上、少なくとも、ミーシェがすぐさま私と敵対することは無いように思う。なにせ、正体不明の声を前にしているというのに、今のミーシェからは全くと言って良い程に敵意を感じない。まあそれは、最初からそうだったのだけど。

 かといって、私の全てを曝け出す気は、まだ無い。私の生い立ちはなかなかに複雑だ。全てを説明するには、それなりの信頼関係が必要になる。それに、私はまだ、完全にミーシェという人間を信用したわけではない。だから、語るのはごく一部だけ。


 ――我はこの先のダンジョンの最奥にいる。我はそのダンジョンの主だ


「え、ダンジョンマスター?」


 わざと少しずらしたイメージを送ってみたが、ミーシェから返ってきたイメージは、より明確にその意味を形作っていた。なるほど。ミーシェはダンジョンマスターというものを、知識として知っているのか。


 ――ああ、そうだ

 ――その魔狼は、我が配下の一体でな

 ――唐突に見知らぬ人間が来訪してきたので、確認の為に送り出したのだ

 ――すまない


「そうだったの。それは、ごめんなさい?」


 何処へともなく視線を向けたミーシェは、首をかしげて私に謝る。一瞬、何故謝罪をされたのか分からなかったが、加速した思考でミーシェから送られてきた謝罪のイメージを細かく精査したところ、その意図はなんとなく察せられた。

 どうやら私の送った『伝心』のイメージに、私の抱く警戒心が滲んでしまっていたようだ。ミーシェはそれを感じ取ったからこそ、不用意にここへ訪れたことで、私を警戒させてしまったことに対して、謝ったのだろう。

 まあ多少、自分でも謝った理由について分かっていない部分はあるようだが、だからこそ、それがミーシェの持つ素の性格なのだと察せられる。何とも律儀な人間だ。


 ――ミーシェが謝る必要は無い

 ――ただ、出来れば我と直接会うのは諦めてくれると助かる


「あら、恥ずかしがり屋さんなのね。マスターさんと出会えないのは残念だけど、そういうことなら諦めるわ」


 ――ありがとう


 ふむ。試しに言ってみたのだが、案外あっさり受け入れられた。私はそれを喜ぶべきなのだろう。だが、こうも私の望む通りに話が進んでしまうと、どうにも複雑な気分になってくる。だが、今のところ話が順調に進んでいるのは事実。精々、このまま流されぬように警戒心を高めておくとしよう。


 その時、ダイアウルフとの絆が断たれた原因について考えていた副思考で、ついに一つの結論らしきものが出た。まだ仮説ではあるが、随分と速い。少しそちらにも意識を割いていたのが功を奏したか。



 落ち着いて考えてみれば、そこまで難しい事では無かった。恐らく、直接の原因は、ミーシェがあの時に行った行動。即ち、名付けだ。

 あの時、ミーシェは話し相手である私に、名前を与えたつもりだったのだろう。だが、ミーシェがあの時、私だと認識していたのはダイアウルフだった。それ故に、あの名前はダイアウルフへ付けられたことになったのではないか。そして、ダイアウルフはその名前を受け入れた。そう考えれば、この状況につじつまが合う。


 日頃の情報収集の賜物だ。『地脈探査』というスキルを得たことで、私が知る名付けに関する知識は、以前よりもさらに深くなっている。今回は、そんな名付けに関する知識が役に立った。


 名付けには双方の関係性によって、大よそ三つの形があるそうだ。

 一つは、実力が同列の者同士の名付け。

 一つは、実力が上下する者同士の名付け。

 一つは、不特定多数による名付け。

 この中で、私と最も関わりが深く、今回の原因ともなっている名付けは、実力が上下する者同士の名付けだ。

 これは、基本的に魔物の主と配下との間で交わされる名付けである。主は配下に名前を与えることで強めたスピリットラインを通して、自らの力を配下へと分け与えるのだ。その力の対価として配下は、名を授けてくれた主に対し、忠誠を誓う。これが、主と配下の間で行われる一般的な名付けの儀式である。つまり、魔物が与えられた名を素直に受け取るというのは、名を授けてくれた者の配下になるということと同義なのだ。

 では、それを踏まえて、今回の状況を確認してみよう。


 ダイアウルフは元々、私の配下だ。私がダンジョンコアの機能により召喚した時点で、ダイアウルフとの間にはそういう関係性が出来上がっていた。

 しかし、先ほどラプシェという名に反応したことから考えても、ダイアウルフがミーシェから授けられた名を受け取ったことは明白だろう。その瞬間、ダイアウルフはミーシェにも忠誠を誓ったことになる。

 だが、魔物たちの世界に二心は無い。その性質から二つの異なる主に仕えるということは、決してないのだ。故に、新たな主に忠誠を誓った時点で、ダイアウルフは古い主であった私を捨てたのだろう。

 要するに、ミーシェから名を与えられたことを誘いとして受け取ったダイアウルフは、これ幸いと私を捨て、ミーシェに忠誠を誓ったのだ。その結果、召喚時に私とダイアウルフの間に出来た主従という関係性で構築されたスピリットラインが切れた。これが、ダイアウルフとの絆が切れた原因である。


 絆の切れた原因は理解できた。しかし、そうなると新たな疑問が湧いてくる。何故、ダイアウルフは私を捨てたのか。その原因を理解するには、ダンジョンコアの機能である召喚と、それによって生まれる関係性についての情報が役に立った。


 ダンジョンコアの機能で召喚された魔物には、刷り込みのような形で召喚者を主と認識するよう刻み込まれる。私は以前まで、この認識が非常に強力なものなのだと考えていた。だからこそ、召喚したばかりの魔物は、それがどんな命令であろうと、召喚者である私の命令に従ってくれるのだ、と。

 だが、最近知った情報によれば、どうやら召喚時に刻まれる認識というのは、ただの切っ掛けに過ぎないらしく、むしろもう一つの要素こそが、召喚された魔物に、どんな命令をも聞いてくれるという状態を作り出しているようだ。

 そのもう一つの要素とは、召喚されたばかりの魔物が持つ関係性の希薄さである。いや、希薄なんてものではない。召喚されたばかりの魔物には、一切の関係性が存在していないのだ。完全に何処とも繋がらぬ存在として生まれた魔物にとって、唯一ある召喚者との関係性は非常に強い効力を発揮する。それこそ、まだ生まれたばかりの不完全な自己を捨て去ることさえ、認めてしまう程に。だから、召喚した魔物は私の配下として、どんな命令であろうとも聞いてくれる。

 幼い子供が親を盲目的に信じるのは、頼れる存在が親しかいないからだ。きっと、召喚された魔物が私の命令を聞くのも、それと似たような理由なのだろう。


 それを踏まえて考えれば、私が捨てられたという状況も、理屈としては理解出来る。単純に私とダイアウルフとの間にあった関係性よりも、新しくミーシェとの間に出来た関係性の方が強かったということだ。理解は、出来た。しかし、納得はいかない。


 あの直前に私が嫌がるダイアウルフへ装飾を強制したから?

 ミーシェがダイアウルフに抱き着き、その毛を撫でたから?


 さすがにたったそれだけのことで、私とミーシェの立場が、ダイアウルフの中で反転するとは思えない。それほど簡単に絆が切れてしまうようなら、今頃、私の配下は私の下に殆ど残ってはいなかっただろうから。

 私は配下たちに裏切られることを恐れて、出来る限り、配下たちの意見を尊重してきた。しかし、それ以上に私の命を優先している。私が死なないためならば、幾らでも配下たちを使い捨てにしてきた。時には配下たちの嫌がることだって、させてきた。とても、良い主であるなどとは言えない。そのくらいの自覚はある。

 そんな私だからこそ、言えるのだ。この程度のことで、配下との絆は切れない、と。


 恐らく何か、私の知らない要素が関係している。その要素が何なのかは分からないが、とりあえずもう一つ、ミーシェに頼むべきことが出来た。


 ――それともう一つ、頼みたいことがある

 ――私も含め、私の配下たちへ不用意に名前を付ける行為も、出来れば止めてもらえるとありがたい


「? ええ、分かったわ」


 私が何でそれを頼むのか、理解出来てはいないようだったが、それでもミーシェはそれを了承してくれた。未だ当人にダイアウルフの件の自覚は無いようだ。

 まあ、そうか。

 なんにせよ、とりあえずこれで、ミーシェの意図しない配下の裏切りだけは防げるだろう。恐らく。



 それにしても、何なんだろうな。このミーシェという人間は。何とも警戒心を抱きにくい存在だ。『敵意感知』が全く反応しないというのもあるが、話す内容からも悪意のようなものを微塵も感じられないせいだろうか?

 何よりも、それを自覚しながら、そこに危機感を抱けない自分に違和感を抱けない事が、何となくもどかしい。








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