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不滅のダンジョンマスター  作者: やみあるい
聖女邂逅の章

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173/204

150.対話

あらすじ


森を彷徨う人間がついに、ダンジョンのほど近くまでやってきた。そこでようやく、私は先延ばしにしていたあの人間の対処に動き出す。倒してしまえるなら、それが一番楽な解決策だが、あの人間の持つ力は未だ未知数である。故に私は、戦いを最終手段として、他の対処法はないか思索にふける。

そんな私の思考に、ふと、対話という手段が思い浮かんだ。過去の経験から一度はそれを否定する私だったが、他に良い方法も思いつかないことで、最終手段の前段階として、私は対話を試してみることにする。

そうして私は代理として立たせるダイアウルフを召喚し、

着飾らせた後、知覚範囲内に入ってきた人間の下へ送り出した




 ――人間よ、貴様は何用があって我が地に足を踏み入れた?


 ゴブリンたちの手によって、予想以上の出来上がりとなったダイアウルフの雰囲気を加味した結果、私が人間に送る最初の一言はそのようなイメージと相成った。


 現在、私の代理たるダイアウルフは、人間から少し離れた位置で座り込み、じっと人間にその視線を向けている。その見た目は、植物の蔓に草花を編み込んで作った各種装飾と、革製の防具を各所へ身に着けた大きな白い狼だ。手入れされた毛並みの美しさに加え、深い森の中という環境も相まって、なかなかに神秘的な雰囲気を醸し出すことに成功しているのではないだろうか。魔力で強さが判断材料の魔物だったなら、こんな見た目に大した意味は無いだろう。しかし、今回の相手は人間だ。ならば、多少の効果はあるはず。

 さて、出来ることはやった。あとは、異世界の人間にも、似たような感性があることを願うばかりだ。


『伝心』によりイメージを送られた相手が、送った相手を認識出来ない事は、これまでの経験から分かっていた。特にこの人間は始めて、『伝心』で話しかけられたはずだ。ならば、雰囲気から目の前のダイアウルフが、意思疎通の相手だと誤解してくれる可能性は極めて高い。

 内心では失敗の可能性を疑いつつも、私は知覚と『読心』を人間に集中し、答えを待った。その結果は、どうやら私の思惑通り、勘違いしてくれたようだ。未だ人間の姿を監視し続けているゴジュウの視界には、着飾ったダイアウルフに視線を固定したまま、掛けられた声に困惑した様子の人間の表情が映し出されていた。その様子を見るに、一先ずこの人間が唐突に攻撃してくるようなことは無さそうである。

 人間がその状況に困惑していたのは、ほんの僅かな時間だった。すぐに己の本分を取り戻すと、ダイアウルフに向けて話しかけてくる。


「あなたが喋ってるの?」


『読心』で読み取れるその言葉には、確認するようなイメージと共に、抑えきれない驚きと喜びが含まれていた。溢れ出るドキドキとワクワク。私が思った以上に好印象だ。

 ダイアウルフは私から送られた『伝心』に従って、コクリと頷く。


「私の言葉も分かるのね! すごい、すごいっ!」


 人間は感情のままにその場で僅かに飛び跳ねながら、喜びに溢れた言葉を放っている。ものすごいはしゃぎようだ。その姿からは、魔物が言葉を話すということに対する忌避感のようなものは一切感じられない。それどころか、魔物が言葉を話すという事の意味すら、理解していないようだ。ただ単純に、魔物と意思疎通が出来るという状況に驚いている。

 いったい、どういうことだろう?


 ――それで人間よ。何用があって我が地に足を踏み入れたのだ?


 色々な疑問を抱きつつも、私はそんな人間に対して、もう一度同じ質問を繰り返す。他にも聞きたいことは色々あるけれど、まずはその答えを聞かない限り、話を進められない。


「あ、えっとね。私はミーシェ。ミーシェ・エトローダスっていうの。この森にはね、お友達を作りに来たんだ。ねえ、あなたも私のお友達になってくれる?」


 人間は未だ若干興奮した状態で、自己紹介を終えると、最後にそのようなことを伝えてきた。

 なんだろう、予想以上にぐいぐい来るな。それに森へ来た理由も、いまいちよくわからない。一瞬、私が受け取ったイメージの解釈を誤ったのかとも思ったが、『記憶』から呼び戻したそのイメージをもう一度検証し直してみても、その解釈は変わらなかった。

 もう一度よく考え直してみよう。どうやらこの人間は引き連れている魔物たちを差して、お友達と言っているようだ。それをこれまで人間が森で行ってきた行動と合わせて考え直してみれば、おかしな点は無い。

 いや、無いのか? それは人間がこの危険な病魔の森に一人で足を踏み入れる理由として、正しいのか?


 私の知覚範囲内に入ったことで感じられるようになった人間の力は、驚くほどに弱そうだった。この世界にはレベルやスキルという概念がある。その為、見た目と実力が噛み合わないということは間々あるのだが、この人間の場合、感じる気配も魔力も、見た目通りに大したことは無さそうだ。魔物で言えば、その力はFランク以下。辛うじて、Gランク以上と言った所だろうか。

 なるほど。出会う殆どの魔物たちが、あの人間を襲う理由はこれだったのか。私も長く監視していなければ、見誤っていたかもしれない。あの人間の強さは、『気配察知』や『魔力感知』の類いで感じ取れるものでは無いのだろう。

 魔物たちの常識に当てはめれば、あの人間は確実に弱い存在のはずなのに、実際は恐ろしく強い。どう頑張っても太刀打ちできない程に。理解不能な強さは、身体では無く心に刻み付けられていく。少しだけ、あの人間に挑んで破れ、傘下へと下っていった魔物たちの気持ちがわかったかもしれない。


 それにしても、お友達、か。この人間が発する友達のイメージは、何処までも純粋な友達のイメージそのものだった。そこには上下関係など一切無く、ただ純粋に相手を思いやる心が存在する。この人間は本気で、この森に友達を集めに来ているだけのようだ。

 同時に人間の引き連れている、お友達、にも、『伝心』を使って尋ねてみた。この状況に不満は無いのか、と。だが、なかなかに荒い勧誘方法と二度の反乱があった割に、この魔物たちは、現状にそこまで不満を抱いてはいない。むしろ、あの人間は魔物たちから、かなり好かれているようだ。少なくとも、無遠慮なことを聞いてきた私に、敵意を向けてくるほどには。まあ、魔物たちが人間に向けている感情は、人間が想像するお友達という関係とは、大分違うもののようではあるが。ふむ。何とも奇妙な関係性だ。


 ――人間は魔物を嫌うものでは無いのか?


 人間の問いには応えず、私はさらに質問を続ける。すると、人間は急に悲しそうな表情を浮かべた。


「うん。そう言う人たちは多いよ。でも、私はどんな相手とでも、対等なお友達になれるって信じてる。暴力なんて使わずに、心を通じ合わせるの。そうすればきっと、いつかは誰もがお友達になれるはずだから。話し合えるなら、尚更ね」


 真剣な目でダイアウルフを見つめる人間。その言葉に嘘偽りは感じられない。むしろ、この人間が持つ、強い信念のようなものが感じられた。

 淡い夢と、仄かな希望と、強い願い。僅かに見え始めた現実をゆっくりと噛みしめながら、それでも前に進もうとする強い意志。非常に分かりやすい意志からは、それらが強く伝わってきた。


 この人間は信じられるような気がする。漠然とそんな思いが思考を過ぎった。けれど、それと同時に、何処か違和感を覚える。

 何なんだろう、この違和感は。別段、今の状況におかしなところは思い当たらない。それなのに、ほんの僅かな違和感が思考を掠める。それが悪いものかと問われると、そうとも言い切れない。もやもやする。まるで、身近な何かを思わぬ場所で見つけたような、そんな違和感。



 対等なお友達、か。

 対等な友達と言うのがこの人間の抱くイメージ通りであるならば、少なくともこの人間から私を害するようなことはしないはずだ。要するに、私のお隣さんとして暮らす魔鹿たちと似たような立ち位置と考えれば、いいのではないか。それは、今の私にとって悪くない提案だ。まあ、この人間はもう少し深い関係を望んでいるようだが。


 ――貴様の望みは分かった。対等な関係を望む人間よ

 ――貴様が我の敵とならないのであれば、我は貴様を歓迎しよう


 まず、ダイアウルフに『伝心』を使い、ダイアウルフを人間の手前まで歩ませると、私は人間に向かって『伝心』でそのようなイメージを送った。


「わぁ、ありがとう」


 人間から喜びと感謝が溢れ出すイメージが送られてくる。それと同時に、人間は近づいてきたダイアウルフの首に抱き着く。そうして、優しい手つきでその毛を撫で始めた。随分と手慣れた動作だ。


「ところで、あなたのお名前は何ていうの?」


 ダイアウルフの毛を撫でながら、人間がダイアウルフに尋ねる。勿論、その質問は対話相手である私に対してのものだろう。


 私の名前か。今の私に名前は無い。前生の頃、人間であった私には当然、名前があったはずなのだが、今の私のステータスにそれは記されていなかった。それどころか、『記憶』というスキルを得たことで、前生の頃の記憶を思い出す作業が容易になった今でも、その頃の自身につけられた名前だけは未だに思い出せない。少し、不気味ではある。しかし、それについてはもう諦めがついていた。転生という奇跡と、『不老』という願いの代償だと思えば、安いものだ。

 強がりではない。本当に安いものだったのだ。そもそも、前生の頃から私は、自身の名前というものに、そこまで執着してはいなかった。だから、今の私がそれについて諦めた理由も、それがどうしようもないことだから、というよりも、どうでもいいことだからという部分が大きい。

 私は他の誰かからどのような存在として認識されていようとも、そこに興味がわかない。だって、外の世界は私の思惑とは関係無しに、否応も無く変わってしまうものだから。なればこそ、流れ移ろい続ける外界よりも、己の内側に確固たる意識を置くべきだ。終わらぬことを願うのなら、尚更に。

 まあ要するに、他者に固執しても仕方がない、ということだな。


 さて、そんな私だからこそ、この世界に来てから今日まで、自分の名前が無いことに関して、特に気にすることは無かった。まあ、これまでは私という存在を認識する者が少なかった上に、名前を聞かれるような関係が無かった為、という理由もあるけれど。

 一応、以前にゴブリンたちへこの辺りの主と名乗ったことはあったが、この人間が望んでいるのはそういうものではないだろう。今から自分で考えるという手もあるが、非常に面倒くさい。まあ、いいか。


 ――私に名は無い


 僅かな逡巡の末に、私はありのままを『伝心』で伝えた。そもそも、名前のある魔物の方が珍しいのだ。別に名前が無かったとしても、問題は無いだろう。


「なら、あなたの名前も私がつけてあげるね。あなたの名前は、ラプシェ。大昔の誇り高い英雄がお友達にしていたわんちゃんの名前よ。よろしくね、ラプシェ」


 人間がその名を呼んだ瞬間、ダンジョンコアの機能により召喚したことで結ばれた私とダイアウルフの間にあった絆が、あっさりと切れた。



 え、……え?








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― 新着の感想 ―
迂闊だなぁ。 他の魔物が従っている原理を自分の視点から考えればわかっただろうに。
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