148.続・探索準備の進行状況
あらすじ
DPが貯まったことで私は新たなアサシンラットの召喚を行い、黒刀という名をつけると、他の黒たちへ帰還命令を伝える伝令役として、森の外へと送り出す。今度はあまり絆を深め過ぎないよう、『感覚共有』で繋げる感覚を最小限にして。
それから暫くして、監視していた人間に変化が起こる。二度の反乱が発生したのだ。私はそこで、殺し合うことを楽しむ魔物たちと、それを悲しそうに止める人間の姿を目撃する。同時に人間が持つ『神聖魔法』の厄介さにも気づいた私は、もしものことを考えて、その対策の検討を始めた。
二度目の反乱を乗り越えた日から、あの人間の行動に多少の変化があった。
これまで人間は、出会う魔物たちを軒並み自分の仲間へと引き入れていたが、あの日からは仲間を増やしていないのだ。さすがに数が多すぎると懲りたのだろうか。その為、襲い掛かってくる魔物たちは、あの透明な壁で追い返すだけになった。
それに仲間の魔物たちへの接し方にも、少しだけ変化が起きている。魔物たちが争っていても、よっぽど激しい戦いにならない限りは止めることをしなくなった。それに、以前より単独で行動することを許している。いや、見逃しているというべきか。二度の失敗を経験したことで、あの人間もようやく少し方針を緩和することにしたらしい。
ただ、人間の様子を観察している限りでは、節々で完全には納得できていないという感情が垣間見えた。さすがに、私もそれなりに長く監視しているだけあって、ゴジュウの視界越しでも、その辺りの機微が読み取れるようになってきたようだ。前生の頃の経験も生きているのかもしれない。まあ、当人から聞いたわけでも無いので、確証がある訳では無いけれど。
あの人間がそれをどう捉えていたとしても、実際に行動として方針の緩和が取り入れられている以上、あの反乱の原因が私の想像していたようなところにあるならば、きっともうあのようなことは起きそうにない。私としては、非常に残念だ。
だが、病魔の森に住まう魔物たちにとっては、これで少し落ち着けるかもしれない。
それというのも、あの人間が魔物たちを率いて病魔の森を練り歩いている間、魔鼠情報網を介して、私の下へあの人間に対する森の魔物たちの警戒が多く報告されていたのだ。
然もありなん。縄張りも何も関係なく、病魔の森の中を縦横無尽に練り歩き、襲ってきた魔物は決して殺すことなく強固な力で動きを封じ、多種多様な魔物を種族関係無く仲間へと引き入れるあの群れは、良くも悪くも森の中で非常に目立っていた。しかも、そんな群れの主は一見すると弱そうなのに、どんな魔物たちであっても太刀打ちできないような力を持っているのだ。
人間の監視を継続している私でさえ、理解できていない部分が多いというのに、あまり状況を理解できていない森の魔物たちからしたら、あの人間の存在なぞ、それはもう不気味な怪物として映ることだろう。
実際、Bランクの高位魔物が消えた後に台頭してきたような、普段であれば格上であっても勝負を挑む血気盛んな若い群れの主たちが、あの人間の移動に追われ、自身の縄張りを放棄している。そのせいで最近、病魔の森の中ではあちこちで、縄張りを放棄した群れの魔物たちが、他の縄張りに攻め込むことから、小競り合いが頻発していた。
理解出来ない存在というのは、理解出来る脅威よりも時に恐ろしいものだ。そういうこと、なのだろう。
全く、人間というやつは、何処までもはた迷惑な存在だ。
人間……か。
いや、気持ちを切り替えよう。
前回の力試し大会を経たことで、私は配下たちの強さやその性質について大よそを把握した。今はそこで得た情報を基にして、こちらで選定した配下たちに、仮のパーティーを組んでもらい、連携して戦う為の訓練をしてもらっている。このパーティーは、暫定的な探索パーティーの候補者として選んだ九体の配下たちを、二つのパーティーに割り振って作ったものだ。
ちなみに、力試し大会へ出場した十二体の配下たちの中で、今回の訓練から除外されたのは三体。戦いになると見境が無くなるゴブリンデストロイヤーと、毒をまき散らす攻撃が広範囲に及んでしまうヴェノムバタフライとイビルファンガスだ。この三体の配下たちは、パーティーで連携して戦うのが難しいと考え、この連携訓練から外している。
さて、次に肝心の暫定的なパーティーの内訳だ。
まず一つ目のパーティーは、魔熊ストロングベアの熊吉、ゴブリンシューター、魔鹿ビッグホーンディアー、魔蜂ナイトビーの四体。それぞれの役割は、熊吉が前衛、ゴブリンシューターが後衛、ビッグホーンディアーが荷物持ちで、ナイトビーが遊撃といったところか。なかなかにバランスの取れたパーティーだ。
続いて二つ目のパーティーは、魔猪ジェットボアの猪丸、魔蜘蛛トラッパースパイダー、ゴブリンフォートレス、魔蟷螂ブラッディーマンティス、魔狼ホーンウルフの五体。こちらはトラッパースパイダーを抜かすと、かなり前衛に寄った攻撃的なパーティーだ。ただ、ゴブリンフォートレスの防御もあるし、全体的に思考が回る者たちが多いから、そう言う意味では、こちらもそこまで悪くはない気がする。
とはいえ、これらはあくまで暫定的なパーティー構成だ。訓練の結果次第では随時、入れ替えていくし、何なら最終的に送り出すパーティーは、全体から改めて決めようと思っている。なので、配下たちには今のパーティーでは無理に連携を高めることに固執することなく、不満があったら随時意見を出してもらうよう伝えておいた。これで訓練が進めば、配下同士の相性なども分かってくるだろう。
そうして暫くの間、訓練に励む配下たちの様子を観察してみたのだが、その過程で私は、個としての強さと連携による強さは別だ、ということをしみじみと実感することになった。
力試し大会で上位の成績を残した配下たちであっても、連携しての戦いとなると途端に弱くなることがあるのだ。勿論、全ての配下が同様に弱くなっている訳では無い。一部は『連携』のスキルが無くても、ある程度は周りに合わせて戦える配下たちもいた。だが、それ以外の配下たちは明らかにぎくしゃくとしていて、いつもの動きが出来ていない。私も連携を使いこなす者たちの強さというものは、理解している。だが、まさかその逆があるとは思わなかった。仲間がいることで弱くなる。中にはそのようなこともあるのだ。
とはいえ、まだ訓練は始まったばかり。このまま訓練を続けて『連携』のスキルを覚えることが出来れば、きっとそんな者たちの動きも変わってくるだろう。しかし、もしそれでもスキルを習得出来なかったら、どれだけ個として優れていても、パーティーからの除外は考慮すべきかもしれない。それを確認するほどに、今の配下たちが見せる戦力の低下は著しかった。残念だが、個としての強さを求めた弊害だ。
しかし、連携が苦手な魔物たちもいれば、中には逆に連携することで真価を発揮する魔物もいた。その中でも特に良い方向へ変化したのが、魔蜂ナイトビーだ。訓練を始めた直後から、その才能を発揮したナイトビーは、その広い視野で全体の状況を観察しつつ、都度、仲間に合わせた動きで周りを助けている。その甲斐あってか、ナイトビーは誰よりも先に『連携』のスキルを習得した。恐らく、群れで動く魔蜂の性質故だろう。力試し大会の時にも少し考えていた可能性ではあるが、その時に期待していた以上の成果だ。
そして、それを知った私は、ある事を思いついた。このナイトビーの特性ならば、もしかしたらパーティーのリーダーとしても活躍出来るのではないか、と。
今は、最古参である熊吉と猪丸を中心としてパーティーを動かしているが、そちらだってまだ暫定のリーダー候補だ。それよりも、ナイトビーの方がリーダーとしての適正を持っているように思える。
そう考えた私は、早速リーダー候補を熊吉からナイトビーへと変えてみた。すると、ナイトビーは私の予想していた通りに『指揮』のスキルも容易く覚え、すぐに的確な指示でパーティーを操るリーダーへと変貌していったのだ。
だが、ここで別の部分に問題が起こる。それはナイトビーをリーダーとして据えたパーティーに属する他の配下たちからの不満だ。
恐らく、これもまた種族的な差異なのだろう。ナイトビーは何というか……非常に集団的な思想を持っているようなのだ。個よりも集団を尊ぶというか、仲間を自分の一部のように考えているというか。
パーティーの一員だった頃、ナイトビーはパーティーの為に尽くすことが出来ていた。だが、リーダーとなったナイトビーは、パーティーを自分の手足かのように好き勝手に使い始めたのだ。かといって、傲慢、というのとも違う。リーダーととなった後も、ナイトビーは常にパーティーの目的を第一として行動している。ただ、他の配下たちにも自身のようなふるまいを強制しただけで。集団を動かすうえで、その思想は非常に有用だろう。だが、個としての実力を持った今の私の配下たちを動かすとなると、かなり問題だ。
ナイトビーの行動はあまりにも合理的過ぎる。その思想がどうにも他の種族たちには理解されがたいようだ。さすがにこんな状態でパーティーのリーダーを任せることは出来ない。私はナイトビーをリーダー候補から外すことにした
ちなみに、この思想は魔蟲族というよりも、魔蜂に由来するもののようだ。その証拠に同じ魔蟲族であっても、魔蟷螂ブラッディーマンティスはどちらかというと個体主義であり、『連携』は苦手な方である。
今回の探索のリーダーとしては向いていなくとも、ナイトビーがリーダーとしての資質を有していることは間違いない。個としての強さの成長には、ナイトビーも限界を感じていたようだし、丁度良い機会だ。ダンジョン探索の件が片付いたら、ナイトビーには同じ魔蜂の配下をつけてみよう。そうすれば、うまくいくかもしれない。
さて、ナイトビー程では無いにしても、配下たちの中にはまだ他に『連携』の才能を持つ者たちがいる。例えばそれは、ゴブリンフォートレスやホーンウルフ辺りだ。まあどちらも、ナイトビーの次点と言った感じではあるが、他の配下たちと比べれば、そこまで筋は悪くない。
それ以外は大方が似たり寄ったりと言った感じだった。同じゴブリンだというのに、ゴブリンシューターに『連携』の可能性が感じられないのは、この個体特有の性格なのか、それともゴブリンシューターという種族故なのか。ちょっと判断に困るところだ。
ゴブリンシューターと言えば、探索に必須と考えた二つのスキルである『罠感知』と『地形把握』をいち早く習得した配下ではあるが、今はこれらのスキルを両方習得している配下たちも少しずつ増えてきている。片方だけ習得している配下たちも加えれば、選択肢はさらに広がるだろう。探索系スキルを覚えた配下たちには、引き続き連携の訓練とは別に探索系スキルの訓練時間も取ってあるので、今ではもうそれを目的にゴブリンシューターを選ぶ意味は薄れている。最終的なパーティーを選ぶ際には、そう言ったことも考慮する必要があるだろう。
さあ、これから暫くは忙しくなりそうだ。
幸いなことに、あの力比べ大会の後から、配下たちの士気は高い。どうやら仲間同士で強さを比べるという行為が魔物たちの本能的な部分を刺激したらしい。それに触発されてか、最近では非戦闘員のゴブリンたちまで、それぞれの創作意欲に火がついたらしく、そちらの開発も順調だ。
ゴブリンたちが使いやすい背負い鞄のようなものや、四足歩行の魔獣たち用に取り回しやすい荷車、携帯性と強度を両立したポーションの専用容器、他にもちょっとした武具などの改良も含め、細かな部分で色々と新しい発想を形にしている。ならば、これらのアイテムの取捨選択も同時に進めていく必要があるだろう。
さらに、時を同じくして、森の外へ送り出した黒刀から、嬉しい知らせが届けられた。黒刀の視界に、エルロンドの中間拠点を監視している黒闇の姿が映ったのだ。私に共有される視界の中で、黒刀は黒闇に帰還命令を伝え、森へ帰還する黒闇の姿を確認すると、自身は黒闇の一時的な代わりとしてエルロンドの中間拠点の監視を始めた。
効率を考えるのであれば、黒刀にはそのまま次の黒の下へ伝令に走ってもらうのが一番だろう。だが、正直なところ、最近はここの情報が一番気になっていたので、あえて私は黒刀へ黒闇が戻ってくるまで代わりに監視を行うよう伝えておいた。
それというのも最近、エルロンドからやってくる探索者が全くやってこなくなってしまったのだ。以前からダンジョンに訪れる探索者の数が減っていることには気が付いていたが、ついにその僅かな探索者すら来なくなってしまった。
まあ、それ自体は良い。いや、DPの回収量的には問題だが、それ以上に今は探索者がやってこないことが嬉しかった。なにせ、そろそろ階層の追加を行う時期なのに、私はそれを行う為のDPを黒刀の召喚に使ってしまったのだ。もし、時期になっても階層が追加されなければ、また高ランクの探索者がダンジョンに送られてくる。そうして、深層へ留まり、私に圧力をかけてくるのだ。それを考えれば、今はやってこない方が有難い。
しかし、今は来なくとも、いずれはまたやってくるはずだ。それを私が止めることは出来ない。ならばせめて、やってくるときは事前に知っておきたかった。そう言う理由で、エルロンドの中間拠点の監視は、いち早く再会してほしかったのだ。
黒刀が代わりに監視を務めてくれるお蔭で、またエルロンドの中間拠点の監視を行うことが出来ている。これで、もしまた探索者がダンジョンにやってくることになっても、心の準備くらいは出来るだろう。
さあ、これで懸念材料は一つなくなった。私も『加速思考』や『並列思考』を最大限に活用し、ダンジョン探索の準備を進めていくことにしよう。




