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不滅のダンジョンマスター  作者: やみあるい
聖女邂逅の章

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147.スピリットライン

あらすじ


開催した力試し大会は私の想像していたもの大分違う結果となった。十二体の配下の順位とそれぞれの戦いぶりを振り返った私は、順当すぎる結果に、今の配下たちの格上に挑んだ経験の少なさを悟る。同時に、この大会の有用性にも気づく。

私はこの形式の大会をこれからも定期的に開くことを決めた。




 常連たちからコツコツと貯めていたDPが九十万DPまで貯まったところで、私は新たなアサシンラットを召喚した。ダンジョンの階層を増やす分が足りなくなるので、またエルロンドの探索者たちから無言の圧を掛けられるかもしれないが、今の私にはアサシンラットがどうしても必要だったのだ。

 早速、そのアサシンラットに名前を与える。新たなアサシンラットに使える名は、黒刀。死んだ黒餡の代わりとして、似た名前を付けた。というか、正直もう、何も思いつかない。そう言う意味でも、斥候の黒たちにはもう死んでほしくないものだ。


 さて、黒糖、いや黒刀に与えた任務は、他の黒たちの下を巡り、一時帰還の命令を伝えること。他の黒たちが旅立ってから既に半年ほどが過ぎたけれど、黒たちが定期的な報告のためにダンジョンへ帰還してくるのは一年に一度。つまり、黒たちが次にダンジョンへ帰ってくる日までには、まだ半年もある。

 その間、『感覚共有』が切れたままにしては、緊急事態が起きた際に対処が遅れてしまう。なにせ、黒たちにはそれぞれ、森の外で私に関係のある重要なものを探らせているのだ。それが知った時にはもう手遅れ、なんて笑えない事態は何としても避けなければならない。そこで、黒たちの下へこちらから出向き、一時帰還の命令を伝えに行くことにしたのだ。

 ちなみに、予てから探している『感覚共有』が断絶したことを配下側に気づかせる方法は、未だ見つかってはいない。そろそろまた、方針を転換する時期だろう。その代わりと言っては何だが、『感覚共有』と絆の関係については、多少の進展があった。



 そもそも、私が絆と名付けたこの配下たちとの繋がりは、この世界でいうところのスピリットラインと呼ばれる概念の一つらしい。これは、双方に関係性が生まれると構築され、関係性が深まるほど、その強度を上げていくという。

 スピリットラインを構築するための関係性の種類は様々だ。

 友愛、親愛、恋愛、憎悪、畏怖、信仰、契約等々。それら全てがスピリットラインを構築しうる関係性である。この関係性が深まっていくことで、繋がりはより深く、太く、強靭に変わっていく。

 関係性。それはつまり、絆を結んだ両者の心の在り方だろう。相手を自分の中で、どのような存在として捉えるか。それが、絆の強度を上げる要因となる。私は地脈で見つけた情報を、そのように解釈した。それを念頭に置いて考えてみると、確かに思い当たることはある。


 例えば、それは私が病魔の森全体に多く放っている魔鼠情報網を構築する魔鼠たちのことだ。私と魔鼠たちの間にある絆は、平均的に細く、脆い。それは何故なのか?

 思い返せば私は、無意識のうちにこの魔鼠たちを全体で一つの存在と見做している。故に、その魔鼠の一体や二体が死んだところで、私は何とも思わない。なにせ、変わりはいくらでもいる。その死が、私には何の痛手ともならないのだ。

 そんな魔鼠たちのことを表す時、私は暫し、心の内で魔鼠情報網と、或いは魔鼠たちと呼ぶ。それこそ私が、魔鼠たちを個ではなく、集団として識別していた最たる証拠だろう。

 実際、名付けを行い、より強い絆を結んだ魔鼠情報網のまとめ役たちでさえ、付けた名前も全てがただの数字の羅列であり、そこに大した思い入れは無い。

 私にとって魔鼠たちは、魔鼠情報網を構築するための部品でしかなく、決して、それ以上の存在にはなり得ないのだ。故にこそ、魔鼠たちとの絆が強くなることは無かったのだろう。


 翻って、斥候役を任せた黒たちはどうだろうか?

 名前のセンスはともかくとして、私は黒たち一体一体にしっかりと考えた名前を与えていた。そうして、この地を動けぬ私の目として、全ての個体へ丁寧に『感覚共有』を施し、各地へと派遣している。黒たちに与えた役目は私にとって、極めて重要なことだ。そんな重要な役目であっても、私は黒たちならば問題無いと信頼して、外の世界に送り出していた。

 そう。私にとって、黒たちは非常に特別な配下だった。時に私自身の一部であると感じてしまう程に。そうして私の心で育った特別という感情が、次第に黒たちとの絆を強くしていったのだ。


 これが、森に張っている魔鼠たちと、黒たちとの絆の強さの違いの理由。ただ、これだけではまだ、私が知りたかった答えには辿り着いていない。あの時、私が黒餡との絆を通して受けた死の感覚は、もっと深く、もっと恐ろしいものだった。正気を完全に手放してしまう程に。きっと、今、他の黒たちが死んだとしても、あそこまでの感覚を味わうことは無いだろう。何故、黒餡の時はそうなってしまったのか。


 では、これまでの事を踏まえ、いよいよ本題に移ろう。『感覚共有』と絆の関係についてだ。

 あれから私は、新しく手にした力を使い、地脈内の探せる範囲を精一杯探してみたのだが、とうとう『感覚共有』というスキルが直接的に絆、スピリットラインを強めるという情報は得られなかった。そう得られなかったのだ。ただ、その過程で知った先の情報と『感覚共有』というスキルの性質を照らし合わせて考えてみると、見えてくることがあった。

『感覚共有』とは、繋がった相手の感覚を直接的に受け取るスキルだ。とはいえ、その感覚を配下たちがどのように受け取ったかまでは共有していないため、その感覚の感じ方までが完全に同じという訳では無い。けれど、少なくとも主観による加工前の情報としては、同一のものを受け取っている。だからこそ、繋がった相手を強く意識してしまっているのではないか。それこそ、本当に自身の一部であると錯覚してしまう程に。

 勿論、いつもそんな感覚を持っている訳では無い。ただ、送られてくる感覚に集中しすぎてしまうと、それは顕著となっていくだろう。特に現在進行形で感覚を共有していたならば、より没入感は深まっていくはずだ。

 そう。重要なのは『感覚共有』というスキルそのものでは無く、それを使う私自身の心の変化だったのだ。

 そうして、仕組みが紐解けていけば、対処法も自ずと分かってくる。要は、私にとって『感覚共有』を使った配下が、必要以上に特別でなければいいのだ。とはいっても、唐突にその感情を捨て去るのは難しいだろう。自身の感情とは、なかなかに制御の効きづらいものだから。しかし、時間をかければ、ゆっくりと手放していくことは出来るはずだ。

 また、これから新たに『感覚共有』を使う際にも、そこに気を付けていれば、絆が必要以上に強くなることもある程度、防げるのではないか。


 悪くはない。が、問題はまだ残っている。この対処法を使えば、絆の強さが一定以上になるのは抑えられるだろう。しかし、配下たちと繋がる絆が強いというのは、全てが全て悪い事という訳でもない。この絆は、配下たちに恩恵を与えている。それが、絆を通して私から、配下たちへ流れる力だ。そもそも、私は始めの頃、配下たちへの名付けを、配下たちの力の強化の為に用いていたのだから。

 スプリットラインというのは、その起因となる関係性によって様々な効果を生むが、総じてその効果は繋がりが強まれば強まるほど、より強力になっていく。つまり、配下たちとの絆が強まれば強まるほど、配下たちの強化具合もまた共に強まっていくのだ。

 最近では名付けによる絆の強化を、ダンジョン外での命令の活用や、『感覚共有』を使うという目的の為に行っている部分も多くなってきたけれど、だからと言って、配下たちを強くするという当初の目的が、無くなった訳では無い。この問題の要点が、配下が倒された際に送られてくる死の感覚にある以上、そもそも強ければ倒されることも無いのだから。

 絆が強すぎては死んだときの反動が恐ろしく、絆が弱すぎては名付けの意味が無くなってしまう。

 その辺りの兼ね合いはいずれ考えるとして、とりあえず、今は必要以上に相手へ心を傾けぬためにも、『感覚共有』で繋げられる感覚を全て繋げるのは、控えることにしよう。



 伝令役の黒刀を森の外へ送り出してから暫くして、森の中を歩く人間にまた変化が起きた。二度目の反乱だ。今度は私も監視していたゴジュウの視界を通じて、その瞬間を自身で確認することが出来た。


 ふむ。一つ所で争いが起きた瞬間、そこに連鎖して他でも争いが始まったようだ。あちこちで同士討ちが頻発している。だが、今のところ報告で聞いていた程、壊滅的な被害は出ていない。あの人間が透明な壁で一体一体を隔離し、被害を減らしているようだ。

 とはいえ、減ったというだけで、完全に止めるまでには至っていない。そりゃそうだ。ただでさえ障害物の多い森の中で、あの数は明らかにあの人間が対処できる許容限界を超えている。私が知る中でも、既に一度は同じことが起きたはずなのだから、あの人間にもその可能性は予想出来ていただろうに。

 しかし、やはり私自身で視認するのは大切だ。報告だけでは気付かない点が色々と見えてくる。

 魔物たちの中には、倒した魔物を喰らっている者たちがいた。だが、飢餓感の解消が目的で殺し合ったという感じではない。ただ単に殺し合いで消耗した魔力を補充しているだけのように見える。むしろ、殆どの魔物たちは倒した相手を喰らうより、次の魔物へ襲い掛かる事を優先している者たちの方が多いくらいだ。さすがに同族同士で争っている魔物たちはいないようだが、その様子は何処か戦いを楽しんでいるようにも見える。

 それから、あの人間が浮かべている表情。苦しそうで、悲しそうで。人間は必死になってこの状況をどうにかしようと、動き続けている。しかし、そんな人間の様子に構うことなく、魔物たちの殺し合いは続いていた。あの人間を主軸として捉えてみると、何とも悲壮感の漂う光景だ。

 そんな光景を見ていると、昔、まだダンジョンが外と繋がっていなかった頃、私が生み出し、滅んでしまった鼠たちの事を思い出す。きっと私もあの時、もし顔があったのなら、あんな表情を浮かべていた事だろう。まあ、争いを止めようと動き続けるあの人間と違って、あの時の私には、何もできることは無かったのだけど。

 この様子を見る限り、少なくともあの人間は連れ歩いている魔物たちが死んでいくことを、何とも思っていないわけではなさそうだ。


 そうこうしている内に、あの人間が対処出来る許容量まで減った魔物たちは、全員が人間の生み出した透明な壁で囲まれたことにより、その騒乱を止めた、かなり無理やり感があるけれど、一応は何とかなったようだ。


 人間は暫く、その場で呆然としていたが、両の手で自らの頬を叩くと、毅然とした眼差しで隔離した魔物たちを一つ一つ確認し始めた。

 隔離された魔物たちはまだ、気持ちが高ぶっているのか、ビクともしないと分かっているだろうに、透明な壁に攻撃を加えている者たちも多い。人間はそんな魔物たち一体一体の下を回って、どうにか心を落ち着けさせようとしているようだ。しかし、心言葉や『伝心』、『読心』などの意思疎通手段が無い状況で、なかなかに苦戦しているように見える。

 それでも、時間をかけてゆっくりとそれを続けていたら、次第に効果を発揮してきたのか、魔物たちは少しずつ落ち着きを取り戻していった。

 まあ、暴れ疲れただけという可能性もあるけれど。


 ゴジュウの視界で確認できる限りでは、残った魔物の数は四十八体。その一体一体に対して、あの人間は透明な壁を使っている。数もさることながら、形も細かく設定されているようだ。

 前にダンジョンを襲った人間たちは、『神聖魔法』による壁を、もっと単純な攻撃を遮る壁としてしか使っていなかったはずだが、果たしてこれはあの壁とは違う力なのか、それとも、単にこの人間の使い方がうまいだけなのか。どちらにしても、こちらの方がより高度な技術のように思える。



 もしも、あの人間がダンジョンに攻めて来たら、私はどう対処すればいいだろうか? 私が監視している中で、あの人間は幾度か不意打ち気味に森を彷徨う魔物から攻撃を受けたことがあった。だが、その全てはあの人間の手前で透明な壁に防がれている。当人が驚いていたところを見るに、あちらは自動防御の類いなのか。それとも、常に張り続けているのか。どちらにしても、持続時間は相当に長そうだ。時間切れは、考えない方が良いだろう。

 となると、問題はあの壁の強度か。私が知る中で、Dランクまでの魔物の攻撃は、あの壁によって完全に防がれている。つまり、Dランクまでの攻撃ではビクともしないと証明されているわけだ。ならば、Cランクの魔物による攻撃はどうだろうか?

 現在、私が動かせる中で最高火力を持つ配下は、魔熊ストロングベアの熊吉だ。例えば、その攻撃であの壁を割ることは出来るのか?

 もし、割れなかったとしたら、相当に厄介だ。何とかして、あれをどうにかする方法を考えておかなければならないだろう。

 勿論、あれがダンジョンに興味なんて持たず、そのまま森の中で仲間にした魔物たちを引きつれ、何処かへ行ってしまうという可能性もある。

 それならそれでいい。


 あの人間は現在、森の中を縦横無尽に動き回っている。目的など、無いかのように。そう、必ずしも真っすぐダンジョンに向かっている訳では無いのだ。ならば、全く関係ないままに、終わるという可能性だって、無くはない。ただ、あの人間がもし、森の奥へ向かおうとすれば、必然的に最後は森の中心にあるダンジョンへ辿り着く。

 ああいう厄介そうな存在には、出来れば関わりたくはない。

 願わくば、早めに回れ右をして、森から立ち去ってほしいものだ。









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