146.力試し大会、の結果
あらすじ
名付き魔鼠たちと『感覚共有』の検証を行っていた私の元に、ゴブリンシューターから探索系のスキルを覚えたという報告が来た。確認してみると他の配下たちに、ちらほらとスキルを習得し始めている。そこで私はいよいよ、探索の準備を次の段階へ進めていくことにした。探索に向かわせるパーティーの選定を行う中で、私は配下たちの正確な戦力を調べる方法を考える。そうして思いついたのが、ダンジョン内で行う配下同士の戦い、力試し大会だった。
私は力試し大会のルールや場所を選定すると、これから始まる戦いに胸を躍らせる。
…………何だか、思っていたものと違う。それが、配下たちの戦いを一通り観察した私の素直な感想だった。
そもそも、私が最初にこの力試し大会から想像したのは、武道大会のようなものだ。上には上がいる魔物たちの世界ではあるけれど、Cランクともなれば、その中でもそれなりの強者と言える。少なくとも私の周囲に広がる病魔の森の中では、頂点に次ぐ実力者たちだ。
それ故に私は、そんな拮抗した力を持つ実力者たちの派手で見ごたえのある戦いが繰り広げられる事を期待していたのだが。
しかし、ふたを開けてみると、戦いの殆どは短時間で終わる一方的なものばかり。辛うじて、幾つかの戦いだけは、少しそれっぽかった気もするが……何とも言えないな。
まあ、そんな私の個人的な感想は置いておこう。重要なのはその結果として得られた情報だ。総当たり制の全六十六試合。試合の多さゆえに、当初は何日かに分けて行おうかと考えていた大会だったが、その一方的な試合運びの多さに、意外と早く終わってしまった。
ふむ。何はともあれ、結果を上から順に確認していこう。
まず、今回の力試し大会の栄えある第一位は、魔熊ストロングベアの熊吉だ。その勝利数はなんと十勝。まさに圧倒的な戦いの数々だった。
最古参故の豊富な戦闘経験と、名付き故に絆から流れ込む私の力による後押し。それらに裏打ちされた基礎能力を存分に注ぎ込んだ圧倒的な力による反攻の一撃。熊吉は基本的にゆったりと動くが、相手を襲う一瞬の動きは非常に早かった。
続いて第二位と第三位。この二つは同じ八勝という同率の勝利数だったが、その二体による直接対決で勝利を収めた魔猪ジェットボアの猪丸を第二位とした。
やはり、熊吉と同様に最古参の配下であり、名付き故の実力は非常に強力だ。その素早さを生かして普段の狩りでは、誰よりも多くの獲物を狩っており、実はレベルだけであれば配下たちの中でも一番に高い。ただ、惜しくも熊吉との戦いでは、その直線的な攻撃を読まれ、反攻の一撃を当てられて敗北していた。
一応、猪丸は突進を得意とする魔猪にしては、小回りの利く素早い動きを得意としている。実際、戦闘では動きに幾つもの牽制を重ねていたのだが、毅然と待ち構える熊吉はそんな猪丸の陽動をものともせず、叩き伏してしまった。あの戦いを端的に表すなら、寸前の反射神経で熊吉が上回った感じだろうか。勝負は一瞬でついてしまったが、あの戦いはなかなかに見ごたえのある試合だった。
次に同じ勝利数でありながら、惜しくも直接対決にて猪丸に敗北し、第三位となったのがゴブリンフォートレスだ。
その戦いは良くも悪くも堅牢の一言に尽きる。ゴブリンフォートレスの堅い守りは、対戦相手の物理攻撃の殆どを無効化していた。とはいえ、さすがに熊吉や猪丸の強力な一撃は防ぎきれなかったようだ。一方で短槍による攻撃は、威力重視の配下たちの攻撃と比べれば一歩劣ってはいたけれど、その代わりに技術を駆使して、なかなか的確に相手を抑え込んでいた。三位とはいえ、名付きの猪丸と同率というのは、かなり良い結果だったのではないだろうか。
第四位、第五位もまた勝利数が同じで同率。という訳で、第四位は同じく直接対決を制した魔蟷螂ブラッディーマンティスとなった。この辺りまでは私が想像していた通りに順当な順位だ。ちなみに勝利数は七勝。
ブラッディーマンティスの戦い方は、羽を使うことで上下移動も可能とした立体的な動きによる回避と、鋭い鎌による斬撃が特徴だ。今回は命を奪う攻撃はしないというルール故に、普段の一撃必殺の攻撃こそ、見せることは無かったが、その代わりに手数を増やし、軽い傷を多く付けることで相手を削っていき、勝利数を稼いていた。
もし、ブラッディーマンティスにも名前を付けていたならば、もしかしたら、もう少し順位が変動していたかもしれない。ブラッディーマンティスの戦いからは、そう思わせるような迫力があったように思う。
そんな期待のブラッディーマンティスに並ぶ勝利数で、惜しくも第五位となったのは、私的に今大会のダークホースとして勝利を荒稼ぎした新進気鋭の配下、魔蝶ヴェノムバタフライだ。
四天王候補の中では新参者故に戦闘経験は少なく、私としてもそこまで期待していなかったのだけれど、戦いが始まってみれば、その特性を生かし、かなり優位に立ちまわっていた。そんなヴェノムバタフライの特性こそが、『飛行』による滞空能力だ。
ちなみに、第四位のブラッディーマンティスは、羽を持っていても『飛行』のスキルは持っていないため、そこまで長く大地を離れて飛んでいることは出来ない。その為、ブラッディーマンティスの羽は、どちらかというと移動の補助という感じで使われている。それでも、羽を持たない配下たちに比べれば、上下も加えたその立体的な動きは、非常に自由度の高い動きと言えた。
話を戻そう。戦いの舞台がダンジョンの中とは言え、中部屋はそれなりに天井が高い。それ故に、空を飛べるという特性はとても有利に働いてしまった。なにせ、空を飛んでいる間、地上の魔物たちは殆どの攻撃手段を失ってしまうのだ。さすがにこれは、大会のルールに問題があったかもしれない、なんて途中で考えたりもしたのだが、そのルールを存分に使ったヴェノムバタフライが最終的にこの順位という時点で、そこまで問題は無かったのかもしれない。
それに、ヴェノムバタフライがここまで勝利数を伸ばせたのは、『飛行』のスキルを持っていたのが理由というだけではなかった。私の配下たちの中で『飛行』を持つ配下は十二体の内、二体。その中でもヴェノムバタフライが上位に来たのは、ヴェノムバタフライの攻撃方法によるところが大きい。それは、上空からの毒鱗粉による攻撃だ。上空からの毒鱗粉攻撃によってヴェノムバタフライは、直接攻撃しか攻撃手段を持たない多くの魔物たちを相手に、無双とも言える勝ち方をしていた。実際、今大会の優勝者である第一位の熊吉に唯一、土を付けたのは、このヴェノムバタフライの毒鱗粉だったのだ。それ以外にも、第二位の猪丸や、第三位のゴブリンフォートレスにも勝利している。まあ、空を飛ぶ相手に対する攻撃手段を持つ配下たちには、成す術も無くやられていたので、このような順位になってしまってはいるけれど、それでもその戦績はダークホースと呼ぶにふさわしい健闘だろう。
次は第六位。ここに位置するのはゴブリンデストロイヤーだ。勝利数は六勝。
その戦いっぷりは良くも悪くも激しかった。防御を殆ど考えない攻撃の連続だ。ただし、それは以前、ダンジョンにやってきたトロールたちのような防御に信頼を置いた戦い方ではない。攻撃こそ最大の防御という言葉を体現するかのような、先手必勝を地で行くような攻撃の数々。それ故に当たれば強いが、外せば非常に脆い。本当によくこのような戦い方で、これまで生き残ってこれたものだ。
あともう一つ、ゴブリンデストロイヤーの戦いを観察していて、分かったことがある。
私は最初、ゴブリンデストロイヤーをダンジョン探索のパーティー候補に入れていたが、あれは完全な間違いだった。周りの状況を無視して、ただひたすらに暴れまわるゴブリンデストロイヤーの戦い方は、完全に単独での戦いに振り切ってしまっている。あれではパーティーでの戦いなど、絶対に出来はしないだろう。あんなのをパーティーに入れて戦ったら、むしろ、ゴブリンデストロイヤーの攻撃で味方に被害が出かねない。
それを察した私は、ひっそりとゴブリンデストロイヤーを、ダンジョン探索の最初のパーティー構成候補から外すことにした。
さあ、どんどん進めて行こう。
第七位、第八位もまた同率で、勝利数は五勝。ここでもまたそれぞれが相対した戦いの勝利者である魔狼ホーンウルフを第七位としておく。
うむ。正直、ここから先は然程、見どころがあった訳では無い。ホーンウルフの強みは卓越した『魔力操作』による『身体強化』。そしてそこから繰り出される素早さだ。
ただ、素早さを武器とする配下は他にも数体いて、他の配下たちは素早さ以外にもそれぞれに得意な戦法を持っていた。まあ、仕方がない。ホーンウルフは新参の部類だ。結果、順当に勝利し、順当に敗北して、この位置に着いた。取り立てて弱いという訳では無いが、強みと言えるような強みも無い。まあ、このまま鍛えていけば、それなりに強くなるのではないだろうか。今後に期待、と言った所だ。
そんなホーンウルフと同じ勝利数で、惜しくもホーンウルフに敗退したのが、第八位の魔鹿ビッグホーンディアーだった。
こちらはお隣さんとは無関係な私が直接召喚した魔鹿である。その為か、同じ魔鹿でもなかなかに戦闘意欲が高いのだけど、ホーンウルフと同じく新参故か、今回はこの位置付けとなった。目立った戦い方の特徴は、その巨大な角を用いた中距離戦だろうか。近距離戦や遠距離戦を得意とする配下たちが多い中で、中距離という独特な位置での戦いを得意とする配下は意外と少ない。そう言う意味では、なかなかに興味深い配下だと言える。
ビッグホーンディアーに、言えることはこのくらいか。
さて、残り四体。ここから先は、単純に弱いというよりも、戦い方がルールに合っていなかった者たちというべきだろう。
第九位、第十位もまた同率でありながら、直接対決でその決着をつけた。そんな第九位はゴブリンシューター。その勝利数は四勝。
まあ、遠距離攻撃である弓での戦い方を主体とし、近距離戦を苦手とするゴブリンシューターがこのルールで勝つのは無理があった。これは最初から分かり切っていたことだ。むしろ、そんな状況でありながら、第九位まで上がれたことを賞賛するべきだろう。
この順位の理由は偏に、空を飛ぶ相手に強かったというのに尽きるだろう。他の配下たちには必勝法となった距離を取るという手段が、ゴブリンシューターには全く通じない。むしろ、逆に距離を採られた方が強くなる。それ故に、四勝をもぎ取ることが出来たのだ。
ダークホースと化したヴェノムバタフライに勝利したのは、順当でありながらも、素晴らしい結果である。
続いて、ゴブリンシューターと同率で惜しくも第十位だったのは魔蜂ナイトビー。
Cランクの魔物なのだから弱いという訳では無いのだけれど、この大会ではぱっとしなかった。ヴェノムバタフライと同様に『飛行』のスキルを持ってはいるが、その攻撃手段故に相手へ近づかなければならないというのが短所。それがこの大会で見事に露わとなってしまった。
ただ、ナイトビーに関しては、少し考えていることがある。もしかしたら、そもそもナイトビーは単独での戦いに向いていないのかもしれない、と。以前、病魔の森にいた魔蜂は群れで戦っていたという。そう考えると、パーティーでの戦いに向いている可能性もある。ゴブリンデストロイヤーの件もあるし、ナイトビーに関しては後ほど、個別に要望を聞いてみることにしよう。もし当蜂が望むようなら、配下の魔蜂を付けることもやぶさかではない。
残るはあと二体。実はこの二体もまた、同じ勝利数だった。
勝利数は共に一勝。その中でも何とか十一位を死守したのは、魔蜘蛛トラッパースパイダーだ。
そもそも、罠を張って敵を待ち伏せる戦い方を得意とするトラッパースパイダーに、この大会は完全なる場違いと言ってよいだろう。それでも僅かな希望を添えて、出場させてみたのだ。この結果はまあ、順当なところと言えるだろう。
そして、この一勝の相手は第十二位の魔茸イビルファンガス。魔植物の中でも移動を可能とする歩く茸ではあるけれど、さすがに他の魔物たちと比べると、その動きは遅い。その分、強力な毒胞子を持っているのだけれど、ちょっと今回のルールでは合わなかった。
向き合って戦いが始まるため、最初から位置は特定されているし、部屋内で戦っているため、目くらましとしての胞子も効きづらい。そして、毒が相手に回り切る前に、あっさりと攻撃を受け、負けてしまう。
ちなみにトラッパースパイダーは、イビルファンガスを自らの糸でグルグル巻きにして、勝利を収めていた。
ちょっと可哀そうなほどに負け続けていたイビルファンガス。しかし、そんなイビルファンガスでも一勝した相手はいた。その相手はなんと、ヴェノムバタフライ。毒鱗粉を使うヴェノムバタフライに対して、同じ毒で勝利していた。
その結果で、辛うじて毒使いとしては、格上という地位を示している。
とまあ、これが今大会の総評だ。全体的に単純な強さや、特性で勝負が決まっており、相手に合わせた戦略というものが息をしていない。最初は驚いたこともあったけれど、あとから考えてみれば、納得の結果の数々。良くも悪くも全てが順当な戦いだった。
今回はダンジョン探索のパーティー決めという理由もあったし、何よりも初めての試みだったので、仕方のない部分もあるのだろうが、そこがちょっと気になる。これが、大会観戦の面白さだけに関係するのであれば、そこまで気にすることではない。ただ、私にはそれだけでは無い様な気がした。
何故、このような結果になったのか。私はその鍵がゴブリンたちにあるような気がした。実は、この大会でゴブリンたちだけが、予想外の戦いを見せていたのだ。結果的には惜しくも振るわなかったことも多かったが、それでも他の魔物たちの戦いよりは面白い戦いだったように思う。まあ、一部の例外はあったけれど。それを考えた時、私はある一つの可能性に思い至った。今回の大会に参加した四天王候補の配下たちは、Fランクから進化してきたゴブリンたちを除いて、決死の戦いというものを殆ど経験していないのだ。
四天王候補たちは病魔の森内でレベルを上げている。そうして、戦闘経験を磨いてきた。だが、最初からCランクとして召喚された配下たちにとって、病魔の森の魔物たちは殆どが格下である。それは結局のところ、狩りであっても、戦闘ではない。それ故に、格上の相手に打ち勝つ為、工夫を凝らしたことが無いのだ。
なるほど。そう考えてみれば、順当な結果になるのも頷ける。配下たちはこの大会をいつもの狩りの延長線上として行っていたのだ。それでは大番狂わせなど起きないだろう。強いからこそ勝って、弱いからこそ負ける。順当も順当だ。
ただの兵であれば、それでもよい。だが、この配下たちは私の四天王候補だ。それはつまり、このダンジョンの主力候補であるということ。
もしも、格上の相手がダンジョンに攻めて来たら、果たして今の配下たちで勝つことが出来るのか? 黒牙のようにギリギリの戦いの中で、生き残ることは出来るのか?
強い敵との戦いで得られるのは、何もレベルだけでは無いのだ。
そう考えてみると、今回の思い付きで行った大会は、意外と悪く無かったのかもしれない。
配下同士で力比べを行い、それをきっかけとして配下たちが同格や格上の相手との戦い方を模索していけば、今の配下たちに足りない経験を補うことが出来るだろう。
それに、それを続けていけば、きっといつかは見ごたえのある大会を観戦できるかもしれない。
そうと決まれば、これから定期的にこの大会を開くことにしよう。
ふむ。楽しみだ。




