表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不滅のダンジョンマスター  作者: やみあるい
聖女邂逅の章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

167/204

144.人間の動き

あらすじ


強烈な死を感じたことによる恐怖から立ち直った私は、配下たちに使った『感覚共有』がまた消えていることを知る。さらに今回の一件で、ダンジョンの探索に準備が必要と感じ、それについて思考を巡らせていく。ダンジョンにいた敵のより正確な戦力確認。『罠感知』や『地形把握』といったスキルの習得。そして、回復手段について。

一通りの思考を終えた私は近場にいたフォレストラット、ゴジュウを呼び出し、『感覚共有』が切れたフォレストラット、サンジュウイチの代わりに、新たに人間の監視を任せるべく『感覚共有』を施すと、森へ送り出したのだった。




『感覚共有』を使って、私と感覚を繋げたゴジュウがダンジョンを出発してから四日後、ゴジュウは人間の監視をしていたサンジュウイチと無事に合流を果たした。ゴジュウはその場でサンジュウイチと情報の交換をすると、人間の監視を始める。一方でサンジュウイチは、私への報告の為にダンジョンへと向かう。

 本当はゴジュウを通じて、この場でサンジュウイチから報告を聞くことが出来ればいいのだが、魔鼠たち固有の意思疎通手段は私には分からないし、心言葉は言葉と言っても聴覚で聞き取れるものでは無いため、こちらも『感覚共有』では伝わってこない。その為、多少面倒ではあるが、感覚の共有が切れていた間の詳しい報告は、サンジュウイチの到着を待って、当鼠から直接、聞くしかないのだ。


 さて、ゴジュウの視界を通じて確認できた数日振りの人間の様子は、かなり変化していた。より正確に言うならば、変化していたのは人間の周りだ。

 最後にサンジュウイチの視界を通じて得た『記憶』によれば、あの人間は魔獣系統を中心として、病魔の森に住まう多種多様な魔物を連れ歩いていた。大抵はFランクだったが、中にはEランクや、少数ではあるがDランクの魔物も混じっていたようだ。

 しかし、今、ゴジュウの視界を通じて確認した人間の周囲からは、何故かそんな魔物の数が大幅に減ってしまっている。離れて行動をしている可能性や、一時的にはぐれてしまった可能性なども考慮して、暫く時間をおいて様子を観ていたが、結果は殆ど変わらず。何があったというのだろうか。気にはなるが、現状では知り様がない。そこは全てを目撃していたはずのサンジュウイチがダンジョンへ戻ってくるまで待つしかないだろう。


 さて、引き連れている魔物の数こそ半分以下に減ったが、あの人間自身には以前から目立った変化のようなものは見られない。相変わらず、魔物たちを引き連れて森の中を歩き続けている。一応、森の深部に近づいているようではあるが、微妙にダンジョンがある方向とはズレていた。ダンジョンが目的では無いのだろうか? では一体、何の目的があって、あの人間はこんな森の中をさ迷い歩いているのだろう?

『記憶』から『感覚共有』が切れる前に送られてきたサンジュウイチの情報を思い出してみたが、あの人間が行っていることと言えば、殆どが出会った魔物を従えることばかりだ。

 自分や引き連れている魔物たちに襲い掛かってくる魔物がいれば、それをあの透明の壁で捕らえ、あの儀式で従える。また、自分たちとは無関係な魔物たちが争い合う現場を目撃しても、わざわざそこへ介入してあの透明な壁で双方を捕らえ、あの儀式を行った。

 しかし、そこまでして引き連れる魔物を増やしても、その魔物たちに何かをさせようとはせず、むしろ、人間の代わりに戦おうとした魔物たちを透明な壁で止めているくらいだ。ただ、多くの魔物を従える事だけが目的なのだろうか? 何の為に?

 それに従える魔物の数を増やすことが目的ならば、何故、魔物の数がこんなにも減っているのだろうか?

 考えれば考える程、気になってくる。

 こうなったら、サンジュウイチには一刻も早く、この謎を解く為の答えを持ち帰ってもらいたいところだ。しかし、だからと言って、急ぎ過ぎて途中で他の魔物に見つかり、殺されてしまっては元も子もない。そうなれば、答えは永久に失われてしまう。その方が今の私にとっては、大きな損失である。やはり、安全第一だ。

 私は一応、改めてサンジュウイチへ、慎重に帰ってくるよう命令を送っておいた。これで少しでも、サンジュウイチの危険が減れば幸いだ。



 サンジュウイチは七日目の夜に無事、ダンジョンへ帰還した。ゴジュウと比べると三日程、余計に時間がかかったのは、途中で危険な魔物に見つかりかけ、暫く木の根の底に隠れていたかららしい。なんにせよ、生きて帰って来てくれて助かった。

 これでようやく、肝心な『感覚共有』が切れた後の情報をサンジュウイチから聞くことが出来る。ちなみに、ゴジュウの視界では相変わらず、人間が出会った魔物を透明な壁で囲み、あの儀式を行っているようだ。引き連れている魔物の数は、この七日でまた着実に増え続けている。

 それが何故、ああも減ってしまったのか。

 サンジュウイチの報告はFランクの魔鼠に相応しい酷く拙い内容だった。しかし、私はこれまで魔鼠情報網から様々な情報を得てきている。その過程で効率よく多くの情報を引き出す術は心得ていた。その甲斐あって、幾つかの質問を繰り返すことで、少しずつではあるが人間たちに起きたことの真相を掴めてきたように思う。


 事が起こったのは、『感覚共有』が切れてから、数日後のことだ。どうやら、唐突にあの人間が引き連れていた魔物達の中で、大きな争いが起こったらしい。魔物同士の殺し合いだ。当然、あの人間はそれを止めようとしたが、一気に全体へ広がった争いは数が多すぎて、全てに対処することは出来なかったらしい。その間にも魔物たち同士での殺し合いは続き、ようやく止まった頃には、今の数まで減っていたそうだ。

 ふむ。何が原因だったのだろうか? サンジュウイチの話からでは、その争いの引き金となったであろう事が分からない。サンジュウイチの視点では、本当にいきなり殺し合いが始まったのだという。

 そうなると、後はもう分かることから可能性を想像していくしかない。

 ふむ。少し考えてみようか。


 まず思いつくのは、あの人間が引き連れている魔物たちは多種多様だったことだ。あの人間と魔物たちの間で意思疎通を出来ていないであろうことは、その行動から察していたが、魔物たち同士でも恐らく意思疎通はあまりうまくいっていないだろう。異種族同士の魔物たちが近場で寄り集まっていれば、常に何かしらの諍いが起きることは想像に難くない。なにせ、それは私にも経験があることだから。魔狼と魔鹿の仲を取り持つのは本当に大変だった。

 これまでの監視で得た情報からして、あの人間は魔物たち同士が戦うことを酷く嫌っている。命のかからないような諍いであっても、すぐにあの透明な壁で両者を分け、物理的に仲裁してしまう。

 もしかしたら、そのせいで積もり積もった鬱憤が、その瞬間に爆発したのかもしれない。

 ありそうなことだ。


 他にはどんなことが思い浮かぶだろうか? そう考えた所で、私の意識にふと、スタンピートという言葉が浮かんできた。それは、同じ統率者を仰ぐ魔物たち同士が、殺し合ったという情景から連想された言葉だ。鼠の王国。随分と懐かしい、そして悲しい記憶である。


 スタンピート。それはダンジョンの機能に異常が起こることで、魔力供給が正しく行われなくなり、その結果として、それまでダンジョン内で魔力供給を受けていた魔物たちが暴れ出す現象のことだ。ダンジョンから魔力供給を受けている配下たちは、魔力の供給が強制的に断絶されたことで、強いストレスとダンジョンに対する敵意を抱くようになる。

 以前、スタンピートを経験した配下たちからその時のことを聞き取りしてみたところ、どうやら魔力供給が強制的に断絶すると、ダンジョンと深く繋がっていた魔物たちは、強い飢餓感のようなものに苛まれるらしい。それがそのままダンジョンに対する怒りに変わるようだ。


 飢餓感か。

 一般的な魔物たちの食事事情については、これまで触れてきた魔物たちの観察や日常会話の断片から、既に大よそのことは明らかになっている。ダンジョンからの魔力供給を受けている配下たちは、その間、一切の食事を必要としない為、あまり関係は無い。しかし、そんな配下たちでもダンジョン外で活動する際には、魔力供給が無くなるため、普通に食事を必要とする。

 ただ、前生で人間だった頃の私の感覚からすると、この世界の魔物たちはそこまで食事を必要とはしていないようだった。以前、ダンジョンの入り口手前の集落に住んでいたゴブリンたちは一日に、二度から三度ほどの食事を食べていたけれど、それはどうやら例外だったようだ。

 他の魔物たちは大抵が一日一食。中には二、三日食べないことすらある。まあ、相手は野生に生きる魔物たちだ。定期的に食事が供給される機構が存在しなければ、そんなこともあるだろうと思っていたりしたのだが、最近、どうやら魔物たちは環境の魔力を取り込んでいるらしい、ということが分かった。

 それはさながら、ダンジョンで倒した複製体の魔力を吸収するときのように。いや、どちらかというと、魔狼ガルセコルトが夜の魔力と同化していたのに近いのかもしれない。呼吸をするように周囲の魔力を取り込むことで、活力へと変換しているようだった。

 とはいえ、それで全く食事が必要なくなるという訳では無い。あくまでそれは、前生の私が持つ感覚よりは空腹になりづらいという程度。魔物たちにも飢餓感というものが存在するようだし、食事は大切なようだ。

 特に怪我をしたり、激しく動いた後などは、消費した魔力を回復するために、食事を必要とするらしい。

 あと、食べるものは基本的にどの魔物も雑食のようだが、それとは別にそれぞれ好みのようなものはあるようだ。魔鹿たちが専ら、木の実や草などを食べているのは、それが魔鹿たちの好みだからであり、実際の魔力の回復量は実のところ魔物の肉を食べた時の方が多いらしい。

 魔鹿ジャイアントディアーが以前、傷を負った時、回復の為に木の実や薬草を与えていたが、本当は強い魔物の肉を与えた方がもっと早く回復していたようだ。まあ、魔鹿的には、どれだけ回復量が少なくても、木の実や草の方が嬉しかったようだが。

 そんなわけで、基本的に野生の魔物たちは強くなることも兼ねて、他の魔物を倒し、その肉を喰らって、戦いの傷を癒すのだ。


 そう言えば、あの人間が連れ歩いている魔物たちは、食事をとっているのだろうか? 襲ってくる魔物との戦いを邪魔されるならば、その肉を喰らう事は出来ないだろう。

 少なくとも、私が主思考で観察している間にそのようなそぶりは無かった。副思考が『記憶』に刻んでいた情報を探ってみると、人間が食事をする時に、その周りで共にその辺の草を食んでいるようだったが、集まっている魔物の数が数だけに、全員が満足するほど食べられているようには思えない。そもそも魔物が雑食とはいえ、どんな食事でも満足できるという訳では無い。食事が魔力を回復する手段である以上、強い魔物ほど魔力の強い物で無ければ満足な食事とはならないのだ。

 案外、魔物たちの争いは飢餓感から来るものだったのかもしれない。


 それにしても、それまで連れ歩いていた魔物同士が唐突に争い合った後だというのに、あの人間の行動に変わった様子は無かった。今も変わらず、魔物を集め続けている。争いが起きてから数十日は経っているのだろうけれど、やはり、人間にとって魔物など、その程度の存在なのか。

 まあ、私とて似たようなことをしたことがあるので、それを責める権利など無い。

 ただ、行動とその非情さが、何処か噛み合っていないような気がしただけ。


 全く持って、不可解な行動の多い人間だ。




 さて、サンジュウイチから聞きたいことは大よそ聞き出すことが出来た。そろそろ人間の観察は主思考から副思考に切り替えて、元の作業へ戻ることにしよう。

 元の作業とは勿論、『感覚共有』というスキルについての考察と検証だ。丁度、ここには『感覚共有』の消失を経験した魔鼠サンジュウイチがいる。

 私側からは『感覚共有』が消失したことはすぐに分かったが、繋がっているサンジュウイチ側はどうだったのだろう?

 早速、それを尋ねてみると、『感覚共有』が消失したことで、特に異変のようなものは感じなかったそうだ。そもそも繋がっている感覚すら、分かってはいないらしい。

 ふむ。もし繋がりが切れた感覚が分かるのであれば、それを感じた時に一度、ダンジョンへ戻るように予め伝えておけば、とりあえずの『感覚共有』が唐突に断絶した際の対処方にはなったのだが、そううまくはいかないか。


 いや、待てよ? 配下側に伝わらないというのは、あくまで配下たちが『感覚共有』を意識していない状態でのことだ。最初から配下たちに『感覚共有』を使った際に出来る意識の流れを強く意識させて、もっと細かく調べていけば、もしかしたら『感覚共有』が切れることで起こる変化を、配下たちも感じ取ることが出来るかもしれない。

 それに今、それを知る術が無かったとしても、それを意識して繰り返し行ってみたら、何かしらのスキルが発現する可能性もある。この世界でなら、在りうる話だ。ならば、期待する価値はあるだろう。

 もし、これが可能となれば、『感覚共有』が切れるということに新たな活用方法が生まれる。そう、こちらから意図的に『感覚共有』を切ることで、配下たちに合図を送ることが出来るようになるのだ。まあ、一度でも切ってしまえば、またダンジョンへ戻ってくるまで『感覚共有』を繋ぎ直すことは出来ないから、出来るのは緊急時のダンジョンへの帰還命令くらいになるだろうが、その一つであっても、こちらから伝える手段が出来るのは有難い。

 そうと決まれば、サンジュウイチにはこれから暫くダンジョンへ滞在してもらい、この実験に付き合ってもらうことにしよう。

 ほんの僅かでも、何らかの異変を感じ取ってくれるようになれば、この問題への対策は大いに進展する。場合によっては、ダンジョン探索の為にスキル習得を頑張っている他の種族の名付き配下たちにも付き合ってもらうことになるだろう。

 ならば、ついでに『感覚共有』と絆の関係についても、調べておこうか。あちらも早めに調べておきたいことだったから。


 さて、この調子で『感覚共有』に関しての検証を進めていくことにしよう。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ