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不滅のダンジョンマスター  作者: やみあるい
聖女邂逅の章

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143.再探索に向けて

あらすじ


結局、私はDPブーストを使い続けることを選んだ。それは後ろ向きな消去法の結果であり、私自身も黒餡が生き残る可能性は無いだろうと思っていた。しかし、黒餡は現状を確認すると、生き残るためにダンジョンの探索を開始する。そうして、死に物狂いでダンジョン内を走り続けた黒餡は、ついにある小部屋の中にある宝箱を発見した。しかし、そこには宝箱を守るように二体の複製体がいる。黒餡は策を弄し、決死の覚悟で二体に挑むが、あと一歩という所でDPが切れたことで、複製体にとどめを刺されることとなった。


その瞬間、恐ろしい程に鮮明な死の感覚が私を襲う。




 黒餡との絆から流れ込んできた己が失われていく死の感覚。それにより、私は強い恐怖を覚え、精神を錯乱させてしまった。

 死とは私が持つ最も強い恐怖の根源。それを疑似的とはいえ、体験してしまったのだ。しかもその体験は、何故か今まで感じてきたどの死よりも鮮明で強烈な力を持っていた。如何にスキルで精神的な苦痛を軽減していたとしても、錯乱してしまうのは仕方のないことだろう。

 恐怖を理解して、その恐怖に納得する。嵐のように乱れた意識を何とか掴み取った私は、次にそうして己を宥めていく。


 それから暫くして、私は何とか心を落ち着かせることが出来た。恐らく、あれから数日が過ぎていることだろう。すぐ得られる情報から考えて、さすがに数百日が過ぎたということは無いはずだが、正確な経過日数を知るためには、あとで配下たちから証言を集めて、逆算していかなければならない。

 だが、それよりもまずは現状の確認をしておこう。


 ああ、最悪だ。また、『感覚共有』で繋げた配下たちの感覚が全て消えている。恐らく、『並列思考』が乱された影響だろう。そのせいで『感覚共有』の制御が出来なくなり、繋いでいた感覚が途切れてしまったのだ。

 今回もまた、問題なのは私の命令が届かない森の外へ派遣していた黒たち。即ち、死んでしまった黒餡以外の黒影、黒闇、黒隠の三体だ。しかも、今回は前以上に時期が悪い。なにせ、この三体は最近、森の外へ送り出したばかりなのだ。黒たちには定期的に報告の為、ダンジョンへ帰還するよう伝えてある。しかし、その周期はだいたい一年なので、当分は帰ってこない。つまり、その間、この三体に何があったとしても、私はそれを知ることが出来ないのだ。こうなってくると、いよいよ配下たちの中から伝令役を選び、黒たちを連れ戻すことも視野に入れるべきだろうか。

 それにしても、こうも『感覚共有』が簡単に切れてしまっては、安心して配下たちを森の外へ送り出すのも難しくなる。この問題へ対処するためにも、早急に『感覚共有』というスキルについて、より詳しく知っておく必要があるだろう。地脈から情報を得ることは素より、私自身でももっと色々と試してみなければならない。幸か不幸か、今は『感覚共有』で繋げられる枠がたくさん空いている。三体の黒たちが戻ってくるまでに、今回の件を念頭に置いて、もっと色々と調べておこう。



 現状の確認は一通り終わった。幸いなことに、今回の一件で『感覚共有』の事以外に、目立った被害は出ていないようだ。

 それにしても、今回のことで、あからさまに低レベルな私のダンジョンへ、遠方から人や魔物が集まっていた理由が少しだけ分かった気がする。あのダンジョンでは、弱い人や魔物が修練を積むのは不可能だ。少なくとも、Cランク相当か、それ以上の実力を持つことが最低条件なのだから。

 そう言う意味では、私の配下たちは最低限の条件は達成している訳だ。しかし、それでもこれからあのダンジョンで配下たちの鍛錬を行うのであれば、相応の準備は必要になるだろう。これは、いつぞやの探索者たちが話していたダンジョン探索の心得が役に立つ日が来たのかもしれない。そこも踏まえて、色々と考えていこう。


 さて、あのダンジョンを鍛錬の場とするためには、まずあのダンジョンにいる敵の強さの再確認が必要だ。黒餡は死角からの『暗殺術』で複製体のタウロスを一体倒していたが、それはあくまでDPブーストを受けた状態での話である。あのように瞬殺しろとは言わないが、あそこで鍛錬を行うのであれば、せめて損耗が少ない戦い方で勝利を収めたいところだ。

 だが、今のままでは私の配下たちが果たしてあそこで通用するのか、いまいち確信が持てない。

 四天王候補を向かわせれば、はっきりとした答えは出るだろう。けれど、今の四天王候補たちの実力では、一番の精鋭を向かわせたとしても死の可能性は拭えない。さりとて、使い捨てに出来るような弱い配下たちでは、たとえあのダンジョンまで辿り着いたとしても、何も分からぬままにあっさりやられてしまうのが関の山。

 こんな時にBランクで生存能力も高い黒牙がいてくれれば、安心して送り出し、戦力を分析してきてもらうことが出来たのだが。無い物ねだりをしたところで仕方がないというのは分かっていても、どうしてもそれを考えてしまう。やはり、黒牙の抜けた穴は大きい。

 精鋭の強い四天王候補を送り、帰還の可能性を増やすか。或いは新参の弱い四天王候補を送り、倒された時の戦力減少を抑えるか。どちらにせよ、危険は付きまとう。

 戦力の分析をどうするか、これはなかなかに厄介な課題だ。


 次はダンジョン探索に必要なスキルについて。これもあのダンジョンを経験したことで、重要性を再認識したものだ。まあ、これについては私自身がダンジョンだったからこそ、ダンジョンの探索というものをいまいち、理解し切れていなかったのが原因かもしれない。

 私のようなダンジョンでは必要の無いスキルであっても、未知なるダンジョンに挑むのであれば、当然の如く必要となってくる。当たり前なことだが、当たり前なことだからこそ、私の意識から外れていた。

 配下たちをダンジョンの探索に向かわせるのであれば、最低限の探索系スキルは覚えさせてから向かわせるべきだろう。特に黒餡へ致命的な傷を与えた罠に対する対策として、『罠感知』のスキル。それから、あの迷宮を迷わず進むために『地形把握』のスキル。この二つのスキルの習得は必須と考えるべきだろう。

 これらのスキルについては、地脈から情報を得ることで、大よそのスキルの効果は知っていたが、習得方法となると主観的な情報が必要となるらしく、地脈からの情報ではいまいちわかりにくい。そこで習得方法に関しては、別方向を試してみることにする。


 今までの経験からして、スキルの習得に一番効果的なのは、自力で習得した者に教えを乞うことだ。そうなると、まず『罠感知』のスキルの習得に関しては、幸いなことに身近で当てがある。それはダンジョンに住まうゴブリンたちだ。

 私がダンジョンに威力の無い罠を設置するようになってから暫くして、一部のゴブリンたちがその罠に興味を持つようになった。ゴブリンたちの中で、罠を見つけては、わざと掛かるという遊びが流行ったのだ。

 ダンジョンの罠は一度配置してしまえば、あとは魔力供給路を通る魔力によって、常に最良の状態が維持される。たとえ罠を発動させたとしても、解除されない限りはまたすぐ元の状態に戻るし、ゴブリンたちは侵入者たちを避けていたので、罠が発動する場面を侵入者たちに見られる心配も無い。そんなわけで私としては、実害があるわけでも無かった為、ゴブリンたちの好きにさせていたのだ。

 すると、私の罠を設置する技術が少しずつ上がっていくと共に、ゴブリンたちが罠を見つけ出す技量も少しずつ上がっていき、その結果として、ゴブリンたちのステータスに『罠感知』のスキルが現れた。好きこそものの上手なれ、とはよく言ったものである。

 私の配下たちは漏れなく、種族の違う魔物同士が意思疎通を行う手段である心言葉を使うことが出来るため、そのゴブリンたちに『罠感知』の習得を手伝って貰えば、きっとあまり苦戦することなく他の配下たちにも『罠感知』のスキルを習得させることが出来るだろう。

 という訳で、『罠感知』に関しては、とりあえずこれでよし。


 それでは次に『地形把握』のスキルについてはどうだろうか。

 その前に、『地形把握』とはどんなスキルなのか、今一度確認しておこう。


『地形把握』。それは見知らぬ土地であっても、ある程度の土地勘を得ることが出来るというスキルらしい。外であれば、周辺の大まかな地形を把握でき、ダンジョン内であれば、先に通じている道を大まかに把握できる。そして、その地の情報が増えれば増える程、その精度は少しずつ高まっていく。

 さすがに一切、迷うことが無くなる訳では無いが、それでもこのスキルがあれば、自分が今、何処にいるのか分からなくなることは無くなるようだ。


 そんな『地形把握』のスキルを持つ者についても、一応の心当たりはある。ただ、こちらの当ては私の配下という訳では無い。

 それは私のご近所さんであり、自らの魔法で生み出した岩場を縄張りとする魔鹿たち。その中でも群れを率いるBランクの魔鹿クリスタルホーンディアーとブラッディーホーンディアーの二体のステータスの中にあった。

 もし、教えてもらうのであれば、この二体に頼むのが一番早いのだが、この魔鹿たちは配下という訳では無く、今は同盟を組んでいるわけでも無いただの少し関係があるだけのお隣さんだ。心言葉はその特性上、片方が所持していれば、あちらの言いたいことは伝わるはずなので、教えてもらう方法については問題無い。しかし、さすがに配下同士ほど簡単に教えてもらうことは出来ないだろう。

 とはいえ、今のところ表面上、その関係は悪くない。だから、その辺りは交渉次第かな。

 とりあえず、クリスタルホーンディアーには、あとで『伝心』を使い、相談しておこう。


 よし。スキルに関しては、こんな所だな。



 最後に黒餡があの状況下で一番欲しかったものについて、それは回復手段だ。もちろん、傷を受けないことが一番なのだろうが、現実的な問題として、あのダンジョンの探索を無傷で行うというのは不可能だろう。ならば、傷を回復する手段は必須だ。黒餡だって、自前の回復手段があれば、あの場で焦る必要は無かったのだから。

 ただ、これはちょっと難しい。

 一応、回復手段として、ポーションを持っていくという方法は考えた。ただ、ポーションは液体で、効果を考えるとそれなりの大きさになる。大きな体躯を持つ魔物ならばともかく、例えば魔物としては比較的に小さな魔鼠アサシンラットでは、ポーションを一つ持っていくだけでも荷物になってしまう。身軽さが売りのアサシンラットたちに、そんな重荷を背負わせては、本末転倒だ。

 それに手足を使えない魔獣たちでは、ポーションを持ち歩き、必要な時に使うというのは、なかなかに難易度が高いのではないだろうか。よしんば持ち歩けて、使えたとしても、戦闘が起こった際にポーションの入れ物が壊れる可能性も考慮しなければならない。

 ……ダメもとで、細工物に興味を持っているゴブリンたちに頼んでみるか。もしかしたら、何か良い方法を思いついてくれるかもしれない。


 あと、回復手段として思い浮かぶのは、『神聖魔法』か。だが、こちらは本当に習得方法が分からない。地脈を探っても、いまいちそれらしい情報は得られなかった。探った感触からして、どうやら私と地脈との繋がりが、まだその情報に触れ得るまで至っていないらしい。『神聖魔法』というスキルの習得方法は、地脈の中でもなかなかに深い階層にある情報のようだ。

 とはいえ、それだけが私の情報収集手段という訳では無い。一応、これまでの経験から私は『神聖魔法』が、恐らく『信仰』というスキルが関係していると予想している。ただ、『信仰』のスキルが育つことで習得できるようなスキルであれば、私だってもう覚えることが出来ているはずだ。自慢ではないが、私は今も欠かさず毎日の日課として、私をこの世界へと転生させてくれた神へ感謝の祈りを捧げている。実際、つい最近ではあるが『信仰』のスキルが大台とされる七を超え、ついに八へ達したほどだ。

 それに私を例外としても、私が以前、ゴブリンたちの神として崇められていた頃、『信仰』のスキルを宿したゴブリンたちは多く居たが、その中でも『神聖魔法』を使えたのは私の召喚した直接の配下であるゴブ子だけであった。

 今のままではさすがに情報が少なすぎて、思いつく可能性の数を絞れない。これに関しては、もう聞けるような相手もいないし、どうしようもないな。


 それ以外で回復手段というと、トロールたちが持っていた『超再生』のスキルなどもあるが、特定の魔物が持つ種族スキルらしく、普通に習得する方法など、見当もつかない。あるとしたら、それを覚える種族を私が直接召喚して、配下に加えるくらいか。『記憶』を探っても、今のところそれらしい種族は魔物図鑑に登録されていないので、こちらも難しいだろう。

 ふむ。回復手段についても、今、思いつくのはこんな所だ。



 一通り探索準備についての思考を終わらせたところで、私はもう一つ、消えた『感覚共有』があることに気が付いた。色々あってすっかり意識から外れていたが、森の中を彷徨うあの人間を観察していたフォレストラット、サンジュウイチにも『感覚共有』を使い、感覚を繋いでいたのだ。

 ただ、これに関しては、それほど難しい事ではない。支配領域内であれば、命令で戻ってくるよう伝えることが出来るし、そもそもこの件では何もサンジュウイチに拘る必要すら無いのだ。何なら近場にいる他のフォレストラットに頼んだ方が早い。

 私は丁度、近くにいた名前付きのフォレストラット、ゴジュウを命令でダンジョンへと呼び出す。そうして『感覚共有』を使おうとしたところで、私は止まってしまった。

 Fランクの魔鼠フォレストラットであるゴジュウは、当然のことながら、この病魔の森の中でも弱い部類に入る。種族的に森の中での生活が向いているとはいえ、移動中、運悪く他の魔物に見つかれば、あっさりとやられてしまう可能性は高いだろう。

『感覚共有』を繋げた配下が、死ぬ。

 その可能性を想像してしまったことで、私は黒餡から感じた死の感覚を思い出してしまったのだ。また、あのようなことになるかもしれない、と。

 だが、それを思い出した程度で、また取り乱すことは無い。『精神的苦痛耐性』のスキルも仕事をしてくれているようだ。あまり思い出したくないことではあるけれど、今の状態なら冷静に分析できる。

 あの時、黒餡の死を強く感じたのは、恐らく黒餡との絆が強く結ばれていたせいだ。きっとそれが、あの強すぎる死の感覚の直接の原因だろう。

 その点、今回はどうだろうか? ゴジュウとの絆は名付けたことで強化されているとはいえ、今のところ黒餡との絆程の強さは感じない。たとえ『感覚共有』が絆を強くした要因だったとしても、同じくこれまでずっと『感覚共有』を使っていたサンジュウイチとの絆には、まだ目立った変化は無いようだ。

 ならば、今の状況でゴジュウに『感覚共有』を使い、感覚を繋げたとして、道半ばでゴジュウが倒れたとしても、黒餡の時ほど私が死を感じることは無いだろう。


 落ち着いて考えてみれば、ここで『感覚共有』の使用を止める理由は無いということがわかる。大丈夫だ。私は心の内でそう唱えると、ゴジュウに対して『感覚共有』を行使した。

 視覚、聴覚、嗅覚。『感覚共有』を使った後で、ゴジュウとの絆を改めて慎重に確認してみたが、やはり黒餡の時ほどに繋がりが強固になった気はしない。これなら、問題はなさそうだ。


『感覚共有』を繋げた後で、私が最後に人間を目撃した大まかな方向を伝えると、ゴジュウは森を彷徨う人間の監視に向かった。これであとは数日も待てば、ゴジュウも魔鼠情報網を頼りにして、あの人間を見つけ出してくれるだろう。

 色々と考えていたら、さらに気持ちが落ち着いてきた。さて、魔鹿たちから『地形把握』のスキルを学ぶべく、交渉を始めていこうか。











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