137.機能の強化と発生した問題
あらすじ
DPの回収量が増えた代わりに、強力な探索者が深層に居座るようになる。その為、そこから少しでも離れるべく、私は止めていたダンジョンの階層追加に着手し始めた。その背後にいるであろう、魔王レティシアの意図を察しながら。
そうして、ダンジョンが第十階層まで追加された時、私は久方ぶりに意識を失い、気が付いた時、ダンジョンの急激な成長を自覚した。さらに、未だ形の定まらぬ力が漂っていることに気づいた私は、それを自身の願う強さの方向性へ誘導していく。
ふう。
ダンジョンコアという器に満ちた力がようやく安定していく。どうやら、ある程度の形にはなったようだ。ただ、今行ったことはこの世界においても、初めての試みであろうこと。しっかりと確認してみるまでは、何処まで私の願いが反映されたのかは分からない。
そこで、全ての作業を終えた後、私は改めて、新たに形となったダンジョンコアの機能を確認することにした。『並列思考』で副思考を展開し、同時にそれぞれの機能を調べていく。
ふむ、ふむ。
まず、罠の機能が強化されているようだ。ダンジョンにとって、罠とは侵入者を阻む物。そして私にとっては、その意思と実力で直接的に、侵入者を阻むことのできる唯一の方法だ。
つまり、侵入者を遠ざけようと望む私の願いはしっかりと反映しているということ。ただ、罠については、私個人としてもずっと研鑽を積んできたから、その辺りが反映された可能性もある。微妙なところだ。まあ、良しとしよう。
それで、実際に罠の何が強化されたのかだが、どうやらダンジョンコアの機能で設置できる罠の種類の中に、上位の罠というものが新たに追加されたようだ。ただし、罠の種類自体が増えたという訳ではない。
いや、罠が増えた可能性はある、か。罠の種類は数が数だけに、それをすぐ確認することは出来そうにない。魔物図鑑や宝図鑑も含めて、これはもう一度改め直す必要がありそうだ。と、それはともかく。
上位の罠というのは、言ってしまえば罠につくランクのようなものだ。つまり、今まで使ってきた種類の罠を、さらに通常の罠と上位の罠という二種類のランクから選ぶことが出来るということ。そして、上位の罠は通常の罠と違って、罠の強度や威力、解除の難易度や隠密性が大幅に向上している。より正確に言うと、罠を設置した階層が深ければ深い程、罠の性能が上がっていくようだ。
ただし、上位の罠を設置するためには、通常の罠に消費するよりも遥かに高いDPが必要になる。そして、こちらもまた、罠を設置する階層によって消費するDPの上昇量が変わっていく。
階層が深くなればなるほど、強力になっていく罠。今はまだ最深階層に設置しても、そこまで強い威力は出せないだろうが、このまま階層を追加していけば、それと共に威力も増大していく。さらに、それと『罠設置』のスキルが合わされば、いずれは罠をダンジョンの主力とすることも出来そうだ。
これが強化された新たな私の機能。素晴らしい。
とりあえず、ダンジョンの深層近くは、凶悪な上位の罠で埋め尽くしておこう。出来る限り、侵入者をダンジョンコアへ近づかせないために。
さて、他にも幾つかの機能に干渉したはずだが、結果は今のところまだ分かってはいない。しかし、今まで通り機能を使っていけば、変化を感じられるだろう。
そうして、一通りの機能を確認し終え、一段落ついたところで、私はあることに思い至った。何気なくスキルを再起動させてしまったが、常時発動させていた『並列思考』や『加速思考』というスキルが、私の意識の消失を境に停止している。だとしたら、絆を通して配下たちの感覚を私へ届ける『感覚共有』の効果も切れてしまっているのではないか、と。
いや、そもそもが『感覚共有』というスキルは意識的に使用し続けていないと、少しでも意識から外した瞬間、繋がりは途絶えてしまう。つまり、送られてくる感覚情報を管理していた副思考が消えた時点で、共有していた感覚は途絶えていたはずなのだ。
ダンジョンコアとなってから意識が途絶えるなどということは殆どなくなったせいで、あまりその辺りに不便さを感じてはいなかったのだが、これは少し不味い事になっているかもしれない。
急いで『感覚共有』を使った配下たちとの絆を確認してみたが、常に送られてきていた感覚情報が送られてこない。やはり、『感覚共有』が切れてしまっているようだ。
不味いな。病魔の森の中にいる配下たちはまだ、命令を送ることでダンジョンへ呼び戻し、すぐに『感覚共有』を繋ぎ直す事が出来る。だが、病魔の森の外に送り出した配下たちは、そう言う訳にも行かない。あの四体に関しては、定期報告で帰還する時期を待つ必要がある。一応、配下を伝令役として送るという手もあるにはあるが……なんにしても、まずは病魔の森にいるはずの『感覚共有』を繋いでいた配下たちへ命令を送り、ダンジョンへ呼び戻すことにしよう。
現在、病魔の森の中にいる配下たちは、Bランクの魔鼠フィアーナイトラットの黒牙とCランクの魔猪ジェットボアの猪丸、同じくCランクの魔熊ストロングベアの熊吉の三体だけ。命令を送ると程なくして、猪丸がダンジョンへと戻ってきた。そこで私は猪丸に『感覚共有』を使用し、感覚を繋ぎ直していく。視覚、聴覚、嗅覚、と。私が現状の『感覚共有』のスキルレベルで繋げられる分を全てだ。
以前は一つの感覚情報の処理だけで限界だったが、今では全ての感覚を常時繋いでいても、問題無く送られてくる感覚情報の処理が出来ている。
さらに、少し遅れてやってきた熊吉にも同様に『感覚共有』を使い、感覚を繋ぎ直していく。
さて、あとは黒牙だけなのだが、おかしい。黒牙の速度をもってすれば、どれだけ遠くにいようとも、猪丸や、まして熊吉などよりも早く戻ってこられるはずなのだが。
黒牙との絆を確かめながら、そう考えていた時だ。黒牙と繋がる絆から、強力な力の上昇を感じた次の瞬間、その絆が唐突に切断された。死の感触が流れ込んできたわけではない。ただ、絆という繋がりが消えてしまったのだ。
一瞬、また自分の意識が途絶えたのかと錯覚してしまう。私はその事実に対して酷く動揺していた。それほどに私は、黒牙を信用していたのだ。黒牙との絆を。
だが、それは切れてしまった。
走り出したい気持ちが心に溢れる。
走って、走って、黒牙の元に向かい、何故絆が切れたのか問いただしたい。
私を裏切ったのか、と。
そんなこと、出来るはずも無いのに。
一先ず、落ち着こう。
黒牙が私から離反した。
絆の消滅は、それを意味している。
私はこの事実を一旦、受け入れなければならない。
それから? そうしたら、次はどうすればいい?
何故、こんなことになったのだろうか。まず、思いつくのは、ついに私が黒牙から愛想をつかされてしまったということ。
もういい加減、私の手足で居ることに飽きてしまったのか。
それとも、私に手足として使われることを嫌ったのか。
可能性としては、まあまああるだろう。そう思えてしまう私の在り方には、なかなか悲しいものがあるけれど。
黒牙は進化を繰り返すことで強くなり、そして賢くなっていった。特に絆が切れる直前に感じた黒牙の力は、尋常ならざる力だったように思う。だとしたら、あの時、黒牙は何らかの方法で力を得て、それにより不要となった私を切り捨てたのかもしれない。
他には、他には何かないか?
そう考えた時、私はふとある可能性に思い至った。実は前々から少し気になっていたことがあったのだ。それは、魔王レティシアがダンジョンに侵入してきた日の事。魔王レティシアは帰り際、確かに黒牙を殺そうとしていた。魔王レティシアからしてみれば、黒牙もまた仇の内であり、同時にあそこで黒牙を殺せば、私への脅しにもなる。一石二鳥の行動だ。だというのに、魔王レティシアはその行動を途中で止めた。何故、魔王レティシアは寸前でそれを止めたのか?
あの時、黒牙に向けられていた殺意は確実に本物だった。ならば、気まぐれというのはありえない。何かしらの明確な意図があったと考えるべきだろう。
もしかして、黒牙はあの時、魔王レティシアに何かを仕込まれていたのではないか? そう考えてみると、黒牙の態度は魔王レティシアに敗れてからずっと変だった。ますます、怪しく思えてくる。
もし、魔王レティシアがこの件に関わっているのだとしたら、あの時、確認した魔王レティシアのステータスに手掛かりがあるかもしれない。
そう考えた私は、あの時のステータスを『記憶』から思い出してみた。
名前:レティシア・アルドア・エルロンド
種族:トワイライトヴァンパイアクイーン ランク:A
年齢:323
カルマ:99
LV:92/99
スキル:『社交LV10』『計算LV10』『筆記LV10』『舞踊LV10』『楽器LV10』『歌唱LV10』『統治LV10』『記憶LV10』『信仰LV10』『魔力感知LV10』『魔力探査LV10』『魔力精査LV3』『魔力操作LV10』『魔力制御LV10』『魔力掌握LV3』『魔術理論LV10』『魔法陣学LV10』『吸血LV10』『吸血支配LV10』『吸血転化LV10』『血液操作LV10』『肉体操作LV10』『暗視LV10』『超聴覚LV10』『超嗅覚LV10』『超視覚LV10』『神聖魔法LV10』『山歩きLV10』『物理耐性LV8』『精神耐性LV10』『投擲LV7』『加速思考LV10』『高速思考LV8』『爪牙術LV10』『真・爪牙術LV10』『気配察知LV10』『気配探査LV10』『気配精査LV3』『飢餓耐性LV10』『忍び足LV10』『気配隠蔽LV10』『魔力隠蔽LV10』『威圧LV10』『身体強化LV10』『見切りLV10』『心眼LV10』『剣術LV10』『突剣術LV10』『刺突剣術LV5』『体術LV10』『身体操作LV10』『身体制御LV7』『料理LV10』『盾術LV10』『軽盾術LV7』『槍術LV10』『閃槍術LV7』『火炎耐性LV7』『疾風耐性LV7』『斧術LV10』『重斧術LV7』『火炎魔法LV7』『流水魔法LV9』『岩石魔法LV8』『疾風魔法LV8』『飛行LV10』『地形把握LV10』『経路探査LV10』『罠感知LV10』『罠探査LV8』『閃光魔法LV9』『暗黒魔法LV8』『魔剣術LV10』『魔導剣術LV8』『並列思考LV10』『広域探査LV8』『鑑定LV10』『岩石耐性LV7』『流水耐性LV7』『指揮LV10』
称号:【元冒険王国エルロンド第二王女】【生残者】【悲劇の姫君】【追放者】【◆◆◆◆神の加護】【復讐の狂姫】【魔神の信奉者】【転化者】【原初の唯一種】【吸血鬼の始祖】【人間の殲滅者】【黄昏の吸血女王】【魔王】【新生エルロンド王国女王】
こうして改めて思い返してみると、そのステータスの異常さが蘇る。ただ、その中でも気になるスキルは二つ。『吸血転化』と『吸血支配』だ。
前生の頃の印象で言うと、吸血鬼と言えば、血を吸った相手を自らの同胞へと転化させ、支配する存在。そう考えると、この二つのスキルの意味も想像できる。
黒牙が魔王レティシアに敗北した時、その力を使われていたとしたら? ここ数年の黒牙の不信な態度も納得がいく。もし、それがあっていたとしたら?
最悪の事態を考えよう。もし、今の黒牙が敵に回っていたとしたら、私に対処できるだろうか? 厳しいかもしれない。私が最後に確認した黒牙のステータスはどのような感じだったか、『記憶』から掘り起こす。
名前:黒牙
種族:フィアーナイトラット ランク:B
年齢:7
カルマ:±0
LV:43/80
スキル:『暗視LV5』『隠密LV7』『気配察知LV10』『気配探査LV1』『爪牙術LV9』『闇魔法LV7』『魔力感知LV10』『魔力制御LV3』『追尾術LV8』『暗殺術LV9』『病気耐性LV1』『灯耐性LV1』『身体強化LV5』『火耐性LV3』『加速思考LV1』
称号:【――――の眷属】【影に潜む者】【暗殺者】【大魔王の血統】【勇者殺し】【魔蜂殺し】【死線を越えし者】
随分と前の『記憶』だ。これは黒牙が魔王レティシアに殺されかけた後のこと。思えば、あの頃から黒牙はダンジョンへあまり近づかなくなったのだ。それでも、私が呼べば、来てはくれる。エルロンドの探索者たちがやってきた時も、ダンジョンコアのある部屋を守ってくれた。何故、私はあの時、黒牙のステータスを確認しておかなかったのか。
幾らでもその機会はあったはずなのに。いや、だからこそ確認を怠ってしまったのか。
或いは怖かったのか、黒牙に拒絶されるのが、拒絶されている可能性を知るのが。黒牙は今、私が持ちうる最高戦力だ。それに離反されるというのは、何よりも恐ろしい。
果たして、今の黒牙は一体どれほどの力を有しているのか。
絆が切れる直前に感じた力からして、恐らく黒牙はあの瞬間、さらに上の段階へと進化をしていた。と、思われる。
果たして、本当にそうなのだろうか? ふと、そんな疑問が浮かぶ。私の知る黒牙はBランクの魔物だ。この森での最高位。並ぶ者すらほとんどいない頂点のランク。そんな黒牙が進化したとしたら、次はAランク。魔王と同等の力を持つ。
それが恐ろしくて、その事実を拒絶しているというのもあると思う。しかし、もう一つ、私は現実的な問題点を挙げられる。私はこれまで、黒牙の視界を『感覚共有』で、確認し続けてきた。だから、『記憶』を探れば、黒牙が倒してきた魔物を一つ一つ確認できる。確かに黒牙は大量の魔物を狩ってきた。その速度を活かして、ひたすら魔物を狩り続けてきたのだ。
しかし、その中にそこまで強い魔物はいなかったように思う。もう一度、しっかりと確認し直さなくては、詳細までは分からないが、少なくともBランクは一体もいなかった、はずだ。強くてもCランク程度の格下の魔物を倒し続けるだけで、Bランクの黒牙が果たして、進化出来る段階までレベルを上げることが出来るのだろうか? Cランクの配下たちでさえ、未だ進化に至っていないというのに。それだけが、気になった。
そうして、もう一度丁寧に確かめた『記憶』の中。私は黒牙の視界に、幾つかの穴があることを知る。しばらく続く真っ暗な『記憶』。それを知った時、私は言いようのない恐れのようなものを感じた。黒牙との『感覚共有』はずっと、視界だけ。だからこそ、意図的に自らの視界を閉じて戦えば、その間、私には黒牙が何をしていたのか知る術はない。
一体黒牙は、その時間で何を成していたのか。
後日、魔鼠情報網から届いた情報により、私は病魔の森に住まう二体のBランク魔物が消えたことを知る。魔樹エルダートレントと死霊ファントムレギオンだ。もしや、この二体は黒牙が倒したのか?
様々な情報から推測すると、死霊ファントムレギオンが倒されたのは私が意識を失った頃。しかし、エルダートレントが倒されたのは、それよりも幾分か以前の話だった。
だが、それでも腑に落ちない部分は残る。果たして、同ランク帯を二体倒した程度で、Bランクのレベルが上限まで至るのだろうか?
やはり、分からない。
とりあえず、黒牙のことは一旦、置いておこう。情報が足りない今、冷静さを欠いた状態で考えても真っ当な答えなど出ないだろう。きっと、思考は堂々巡りを繰り返すばかり。それならば、他のことに思考を割いていた方が有意義だ。




