131.第六階層へ
あらすじ
合同探索グループは第三階層へと踏み込んだが、そこで待つ複製体が物理攻撃の効かない死霊レイスだと分かると撤退を開始した。これで残る侵入者はリザードマンのパーティー、子竜の塒だけだ。
子竜の塒は種族固有スキル『硬鱗』を駆使して、危なげなく戦闘に勝利していく。
魔法を使える子竜の塒は第四階層の死霊レイスも難なく倒し、ついに第五階層へ続く階段に足を踏み入れる。しかし、そこで黒牙の放つ危険な魔力を感じ、踵を返すことになった。
少し、もったいなかったかな?
今回、探索者たちに最悪の被害が出なかったのは、幸いなことだったと思う。無いとは思っているけれど、一応相手はあの魔王レティシアと関連のある者たちだ。万が一を考えれば、わざわざ禍根を残すようなことはしない方が良い。
ただ、全てが終わってみると、もうちょっと探索者たちに探索を続けさせたかったと思えてきた。なにせ、ここ数日で回収できたDPの量が、文字通り桁違いなのだ。たったの七日間で三十万DP以上も回収できている。今までの回収量が一日当たり、約一万DPだったから、探索者たちの強さや数を加味しても、かなりの量だ。
もしも、第五階層にダンジョンコアが無く、ダンジョンとして整備されていたら。少なくとも子竜の塒は、もっと先まで探索を続けていただろう。そうすれば、もっと多くのDPを回収できていたかも知れない。そんな考えが浮かんでしまうのは、欲張り過ぎだろうか?
まあ、過ぎてしまったことを後悔していても仕方がない。帰り際の探索者たちの様子からして、彼らがまたここにやってくる可能性はある。今はその時に、もっと探索時間を長められるよう、何か対策を考えることにしよう。
ふむ。まず思いつくのは、各階層の経路や罠の見直しと、部屋や通路の追加や新たな階層の追加。それと、第四階層にも複製体を配置したい。そうすると、第四階層はもっと広げておいたほうがいいか。それなら罠も設置しておかないと。ああ、広げるというのなら、第三階層も広げておきたい。
差し当たって、この辺りが無難だろう。さて、何処から手を付けていこうか。
一先ず、各階層の経路の見直しと、第四階層に配置する複製体の選定は、それぞれの副思考で行っておくとして、これから主思考で何を行うにしても、残りDPが重要になってくることは変わらない。そんなわけで、まずはお馴染みのステータスの確認からしていこう。
名前:――――
種族:ダンジョンコア
年齢:18
カルマ:+9
ダンジョンLV:5
DP:1,000,015DP
マスター:無し
ダンジョン名:病魔の森のダンジョン
スキル:『不老』『精神的苦痛耐性LV10』『空想空間LV8』『信仰LV7』『地脈親和性LV10』『気配察知LV9』『魔力感知LV10』『伝心LV9』『読心LV10』『記憶LV9』『土魔法LV3』『加速思考LV8』『並列思考LV8』『敵意感知LV5』『感覚共有LV3』『魔力精査LV1』
称号:【異世界転生者】【□□□□神の加護】【時の呪縛より逃れしモノ】【聖邪の核】【鼠の楽園】【惨劇の跡地】【E級ダンジョン】
気が付けば百万DPの大台に乗っている。
元々、ダンジョンに侵入してきた病魔の森の常連たちからある程度のDPは回収できていたけれど、エルロンドの探索者たちから回収したDPが最後の後押しとなったようだ。まったく、探索者様様だな。
いや、待てよ? エルロンドの探索者たちからDPを大量に回収できるのは、その強さも理由の一つではあるけれど、長時間の探索を行っているという点も大きい。ならば、病魔の森の常連たちにも、長時間の探索を行って貰えば、もっとDPを稼げるようになるのではないか?
どうすれば、複製体からの魔力吸収が出来るようになるのだろう? ああ、微量な魔力吸収は既に行われていたのだったか。魔力関係だったら、スキルの『魔力操作』が関係しているかもしれない。だが、『魔力操作』が無い魔物たちでも、魔力の吸収は行われていた。
うーん。どちらにせよ、病魔の森の常連たちには、今のところこちらから過度な干渉は出来ない。彼らはあくまで味方では無く、敵なのだから。
だったら、あとはもう病魔の森の常連たち自身に、その術を編み出してもらうしかなさそうだ。エルロンドの探索者たちは全員が出来ていたのだから、きっと難しい事では無いのだろう。ちょっとしたコツさえ掴めれば、何とかなる類いのことかもしれない。
ただ、たとえ複製体からの魔力の吸収が出来るようになったとしても、それだけで長時間ダンジョンの探索が行えるようになるわけでは無いだろう。慣れない探索は必要以上の体力を使うだろうし、複製体が相手であっても弱ければ、戦いで傷を負う可能性はある。それでは僅かな魔力の吸収が出来るようになったとしても、長時間の探索を続けることは出来ない。
その為に病魔の森の常連たちには、もっとダンジョンの探索に慣れてもらう必要があるし、もっと強くなってもらわなければならないだろう。
となると、これに関して今の私に出来るのは、病魔の森の常連たちの成長を信じ、ただダンジョンをより魅力的に改築し、拡大、成長させていくことだけだ。
つまり、今まで通りということだな。
さて、せっかくこれだけのDPがあるのなら、いい機会だから今回は久々にDPを大量に消費する階層の追加へ挑戦してみることにしようか。
第五階層の追加まではダンジョンコアの覚醒に伴い、色々と出来ることが増えていった。けれど、ダンジョンコアが完全に覚醒した今となっては、いくら階層を追加してもダンジョンコアに新たな機能が増えるとは思えない。ただ、もしかしたらまだ何かが増える可能性はある。だから、それを確認する意味も込めて、第六階層の追加を行ってみよう。
第六階層の追加には、まず第五階層にある部屋の数を十部屋にする必要がある。今の第五階層にある部屋は、階段のある小部屋とダンジョンコアのある小部屋、それとゴブリンたちの住む中部屋の三つだから、最低でもあと七部屋が必要だ。さらに、それらの部屋を繋ぐための通路も合わせて追加しないといけない。
第五階層では、小部屋一つの追加に五万DP、通路一つの追加に五千DPが必要だ。それらを七つずつ追加するとなると、合わせて三十八万五千DP。これを追加した状態で、さらに第六階層自体の追加に六十万DPが必要となる。
全部合わせると、九十八万五千DP。何とか、足りる。
私は早速、DPを消費して、第五階層に部屋と通路を追加。続けて、第六階層の追加を行う。その際に一応、部屋や通路、階層が追加される瞬間は、『魔力感知』を意識して使い、魔力の流れを『記憶』しておく。
『魔力精査』というスキルを習得した影響か、今まで以上に細かな魔力の性質や流れが分かる。これなら機能がどのように魔力を活用しているのか、今まで以上にわかりそうだ。
ふむ。やはり、そこには『土魔法』に使われる魔力と似たような性質の魔力が使われているらしい。ダンジョンコアから『土魔法』の魔力が、魔力供給路を通って流れ、部屋や通路、階層を追加する部分に魔力を届けているのか? どうやら、ダンジョンコアの内部に刻まれた機能を扱う為の魔法陣らしき部分が、それら魔力の動き全てを操作しているようだが、魔法陣らしき部分が複雑すぎて、さっぱりわからない。ダンジョンコアの内部に刻まれた魔法陣は、絡み合う細い魔力が、もはや一つの玉を形成している。恐らく、これも魔法陣だとは思うのだが、毛糸の玉みたいになってるな。『魔力精査』をもってしても、全体像を把握することすら難しそうだ。全体像を把握できなければ、『記憶』に写し取ることも出来ない。
とりあえず、分かる所までしっかりと『記憶』しておこう。この記憶が未だ諦めず『土魔法』の使い方を模索し続けている副思考の一助となることを願って。
全ての工程が終了すると、ダンジョンコアが第六階層に新しく出来た小部屋へ移動した。それ以外の変化は、今のところ感じないな。ステータスはどうだろう?
名前:――――
種族:ダンジョンコア
年齢:18
カルマ:+9
ダンジョンLV:6
DP:1,515DP
マスター:無し
ダンジョン名:病魔の森のダンジョン
スキル:『不老』『精神的苦痛耐性LV10』『空想空間LV8』『信仰LV7』『地脈親和性LV10』『気配察知LV9』『魔力感知LV10』『伝心LV9』『読心LV10』『記憶LV9』『土魔法LV3』『加速思考LV8』『並列思考LV8』『敵意感知LV5』『感覚共有LV3』『魔力精査LV1』
称号:【異世界転生者】【□□□□神の加護】【時の呪縛より逃れしモノ】【聖邪の核】【鼠の楽園】【惨劇の跡地】【E級ダンジョン】
ダンジョンLVが一つ上がっている以外に変化は無い、と。ダンジョン内にも変化はなさそうだし、階層が増えただけ……いや、改めて魔力の流れを確認してみると、ダンジョンコアから流れる魔力量が増えている。これなら深い層では、また一段と供給できる魔力が増えるだろう。
ふむ。まあ、今はこんなものか。第五階層を追加する前までの成長具合と比べれば、どうしても成長が少ないと感じてしまうけれど、あれはあくまでダンジョンコアが本来持っている機能を取り戻していただけなので、これが本来のダンジョンコアの成長なのだろう。
それよりも、これで集めたDPはすっからかん。でも、まだ病魔の森の常連たちや、エルロンドの探索者がダンジョンに侵入してこれば、DPはどんどん増えていく。
そうしてDPが溜まったら、今度は第四階層をもう少し拡張して、複製体を配置していくか。
作業が一段落ついてから暫くした頃、病魔の森の外縁にあった元冒険者たちの拠点へ遠征させていた猪丸とゴブリンたちが帰ってきた。猪丸と『感覚共有』していた視界で、大体のことは把握しているが、思った以上の収穫があったようだ。
あの廃墟には人間の冒険者たちが多く居ただけあり、まだ使えそうな武具や魔道具らしきものがそれなりに残っていた。それに加えてもう一つ、実はもしあれば回収してきてほしいと伝えてあったものがある。そちらに関しても、収穫があった。
それは、書物の類だ。本であったり、巻物であったり、紙束であったり、ただの紙片であってもいい。とにかく、文字や絵が描かれたもの全般だ。
以前までの私は、紙に書かれた文字を知覚することすら出来なかったので、これらのものは完全にコレクション以上の意味は持たなかったのだが、ダンジョンコアとしての知覚を手に入れてからは、紙に書かれた文字もなんとか知覚できるようになった。
そこで、以前手に入れた紙片に書かれた内容を確認してみたのだが、内容はさっぱりわからない。それはそうだろう。私はこの世界の人間が使う文字を知らないのだから。
だが、それで諦めたくはない。人間たちが残していった紙片は、数少ないこの世界の人間の情報を得る手段なのだから。では、どうするか。簡単だ。文字が分からないのであれば、解読すればいい。しかし、未知の文字を解読するには、より多くの資料が必要という話だ。それで言えば、今は手持ちの資料が足りなさすぎる。そこで今回、その資料となりそうな書物全般を探してきてもらうことにしたのだ。と、いうのは全て建前の話。
そもそも、私は未知の文字を解読するなどという技術を持ち合わせていない。なので、どれだけ前生の頃に聞きかじった情報を信じて資料を集めたとしても、未知の文字の解読なんてどれだけの年月がかかることか。
それでも、私が書物の類を集めようと思ったのは、いつか読めるようになるかもしれないというややいい加減な希望的観測と、前生の頃の本が好きだった記憶から、何とはなしに集めたいと思っているからだ。
とまあ、そんな理由もあり、猪丸たちには、もしあれば、と伝えておいたのだが、どうやらこちらも大量に回収してきてくれたらしい。
それにしても、改めて確認するとすごい量の荷物だ。武具に魔道具に書物類、あとは破壊を免れた小物や家具なども運んできたらしい。
あの拠点を外から確認した時、かなり破壊されているように見えたので、残っている物に関しては、それほど期待してはいなかったのだが、ゴブリンたちが頑張って探してくれたようだ。
ただ、そのせいで、ここまですべての荷物を運んでくるのは、それなりに苦労したらしい。なにせ、この量の荷物だ。普通に運んでくるとなったら、何十往復も必要になる。しかし、そこはゴブリンたちが機転を利かせてくれた。
ゴブリンたちは拠点の中心辺りに山と積まれた荷物を見て、このままでは全てを運ぶのにかなり時間がかかると察して、何とか全ての荷物を一気に持ち帰る方法はないかと考えたようだ。そうしてその末に、拠点に放置されていた荷車を猪丸が引けるよう作り変えたのである。しかも、幾つかの荷車を繋ぎ合わせて、乗せられる荷物の量を増やすというおまけつき。道中の道がまだ、辛うじて残っていたのも幸いした。そうして猪丸とゴブリンたちは、大量の荷物を一回の遠征で全て持ち帰ってきたのだ。
ちなみに、ダンジョン内へ戻ってきたゴブリンたちのステータスを確認したら、行きには無かった『木工』のスキルが新たに追加されていた。恐らく、荷車を改造した時に覚えたのだろう。
この『木工』のスキルの扱いに関しては、ゴブリンたちの自主性に任せておくことにする。これで工作に目覚めるゴブリンがいたなら、空いた時間でスキルを磨くのも自由だし、興味がわかなかったら磨かなくても別に構わない。
興味が向くものを育てる方が、ゴブリンたちの成長には良いだろうから。
さて、拠点から持ち帰ってきた荷物の整理を早速、ゴブリンたちへ指示することにしよう。




