127.トロールたちの戦法
あらすじ
私はまず、主思考でエムカトラムの猟犬、鮮血の牙、ヘッドクラッシャーという、三パーティーで構成された合同探索グループの監視から行うことにした。さすがに三度目の探索となるエムカトラムの猟犬が先導するだけあり、合同探索グループは他のパーティーなどよりも早く、守護者のいる第一階層の最深部へと到達する。
部屋の中で待つ守護者ゴブリンリーダーの前に進み出たのは、最も戦闘力がありそうな前衛特化のトロールたちによるパーティー、ヘッドクラッシャーだった。
Cランクの探索者パーティー、ヘッドクラッシャーに属する四体のトロールたちが、部屋の中央へと進み出る。それと同時に、他の二パーティーは壁際へと移動した。座り込みこそしていないが、完全に観戦する気満々である。どうやら、あのコボルトたちは、ここでの戦闘を完全にトロールたちへ任せる気のようだ。
ダンジョンの小部屋は、その名に反してそれなりに広い。しかし、さすがに合同パーティー全員で戦おうとすれば、少し窮屈だろう。トロールたちの体格を考えれば余計に。
それに加えて、元々は別々のパーティーであることも考慮すると、同士討ちの可能性を見据えての選択なのかもしれない。
それに対して、守護者であるゴブリンリーダーたちは、各自が大きく距離を取り、トロールたちを囲うように陣形を組む。あのゴブリンリーダーにしては、なかなかに珍しい陣形だ。どちらかと言えば、いつもは密集して守りを固めつつ、力を合わせて戦っている印象が強い。
ふむ。この陣形では敵がそれぞれに分かれてしまい、実質的に一対一での戦いとなってしまう。しかも、ただでさえ、相手は格上だ。このままでは、あっさりと終わってしまいそうだが、果たして。
そうして、戦いが始まった。
四体のトロールがそれぞれに、四体のゴブリンたちと向かい合う。
ふむ。トロールたちが手にする武器は、大剣が二本と、大斧に大槌が一つずつ。どの武器もかなり巨大だが、トロールたちが持つと丁度良い大きさに思える。一方で今回もゴブリンリーダーは、【闇夜の射手】の称号を持つゴブリンに、部屋端の影へ隠れるよう指示しているようだ。前回戦ったエムカトラムの猟犬のコボルトたちは、隠れているゴブリンに気が付いているようだが、果たしてトロールたちは気が付いているのかな?
そうこうしている内に、トロールたちからゴブリンたちへ最初の攻撃が仕掛けられた。
のっしのっしとゴブリンたちに近づいていったトロールたちは、それぞれの武器を振り上げると、大振りの一撃を繰り出す。当然ながらそんな分かりやすい一撃を大人しく喰らうゴブリンたちではない。冷静にトロールたちの行動を観察していたゴブリンたちは、余裕をもってその一撃を躱した。ゴブリンたちに躱されたその一撃は、勢いあまってダンジョンの岩床にぶつかると、その場に深い傷跡を生み出す。
速度はそれほどでもないようだが、一撃の威力は強烈だ。あれでは、直撃を喰らわずとも、掠っただけで重症だろう。
しかも、トロールたちの攻撃はそこで止まらない。振り下ろし、地面に叩きつけた反動を利用して、さらにゴブリンたちへ追撃を仕掛ける。それもまた、ゴブリンたちが何とか避けられる程度の速度だ。しかし、威力が威力だけに余裕を持って躱しているから、ゴブリンたちはずっと反撃へ移れずにいる。そうこうしている内に、連撃の勢いでトロールたちの攻撃速度が次第に上がっていく。何て凄まじい攻撃の嵐だ。
それは、どれも猛攻と呼ぶにふさわしい攻撃だった。トロールたちは避けることも防ぐことも考えていない。ただひたすら、武器を振り回すことだけに集中している。スキルを確認した時から予想していた事ではあるけれど、こいつら完全な脳筋だ。
ちょっと不味いな。ただ、武器を振り回すトロールたちと比べ、必殺の一撃を大きく避け続けているゴブリンたちの方が、明らかに消耗が激しい。このままでは、上がった速度と体力の消耗が重なって、いずれ避け損なって倒されてしまうだろう。
だが、それは四対四で戦った場合の話だ。トロールたちは四体のパーティーだが、守護者たちは五体いる。そう、前回も活躍した影からの刺客。【闇夜の射手】が部屋内の影からトロールたちを狙っていた。
その矢はダンジョンの暗闇から放たれ、一体のトロールを正確に貫く。
矢の突き立った位置は、ゴブリンリーダーの相手をしているトロールの片目。素晴らしい狙い、そして見事な腕前だ。さすがのトロールもその痛みに攻撃を中断する。
その隙をついて、ゴブリンリーダーは己の身体に強く魔力を巡らせ、『身体強化』を高めた状態で、目の前のトロールを攻撃した。
それは今のゴブリンリーダーが出せる最高の攻撃。ゴブリンリーダーが握っていた棍棒により、トロールの足を狙って放たれたその一撃は、しかし、大して効いているようには思えない。どうやらトロールたちの全身を覆う長い毛皮が衝撃を吸収してしまったようだ。
ゴブリンリーダーは攻撃が効いていないことを確かめると、二度、三度と打つ場所、或いは角度を変えて打撃を放ったが、やはり攻撃は効いていない。スキルとして存在している訳でも無いのに、あの毛皮は相当に厄介な代物のようだな。
そうこうしている間に、トロールは自らの片目に刺さった矢を引き抜くと、再度、攻撃を仕掛けてきた。トロールの片目から流れ出る血は僅か。されど、さすがに痛みは感じているようで、トロールの攻撃には前にも増して力が籠っている。まるで、自らの抱いた怒りを武器に宿して叩きつけるかのように。それはトロールの一撃一撃に、先ほどまで以上の力と速度を与えていた。それでもゴブリンリーダーは必死で攻撃を躱し続けているようだが、かなり厳しい状況だ。これは、明らかに不味い。
しかもそれは、ゴブリンリーダーの戦いだけでは無かった。ゴブリンリーダーと対峙するトロールが猛攻を始めた直後から、他のトロールたちも攻撃を強め出したのだ。さながらそれは、痛みを受けたトロールの怒りに呼応するが如く。全ての戦闘が、一気にトロールたちの勝利へと近づいている。
このままでは不味い。そう感じたのか、そこへ再度、暗闇から一本の矢が放たれた。しかし、今度の矢はトロールの攻撃に弾かれてしまう。目を狙った一撃は、警戒されているようだ。そこで【闇夜の射手】は別の個所を狙って矢を放ったのだが、腕に突き刺さった矢はそれほど効いていない。
そこからの【闇夜の射手】はもう、姿を隠すというのを止めて、トロールたちへ次々と矢を放っていく。だが、どれだけ矢の雨を降らせようと、目を狙った一撃はあっさりと防がれてしまうし、その他の部位では長い毛皮に防がれて、大した傷を与えられない。矢が牽制にすらならないとは。
そうしてついに、ゴブリンファイターの一体が、トロールの一撃を避け切れず、倒れる。そこからは一体、また一体とやられていき、最後に部屋の隅に隠れていたゴブリンも倒されたことで、第二階層へと続く階段を閉ざす扉は開かれたのだった。
まさか、これほど圧倒的だとは。【闇夜の射手】の矢が、トロールの片目を貫いた瞬間には、もしかしたらと思ったのだけど、全くそんなことは無かった。今思えば、壁際で観戦していた他のパーティーたちが、全く動かないことに違和感は感じていたのだ。あれはきっと、トロールたちならば絶対に勝てるという確信からの余裕だったのだろう。
全ての守護者が倒され、第二階層へ続く階段の前に設置された扉が開くと、観戦していた他のパーティーたちも小部屋の中央へと進み出てくる。
戦いは終わった。しかし、守護者たちはしっかりと、その役目を全うしてくれている。私は片目に傷を負ったトロールに、意識を集中した。
ああ、これが『超再生』というスキルの効果なのか。
私は『魔力感知』で、トロールが傷付いた片目に魔力を集中させているのを感じ取った。そして魔力が消費されていくと共に、トロールの片目に着いた傷は癒えていく。『超再生』とは己の魔力を消費して、傷を再生させるスキルなのか。
片目を矢に貫かれたはずのトロールは、それから程なくして、片目を完治させていた。小さな傷とはいえ、こんな短時間で傷を癒せるとは、破格のスキルだ。
なるほど。
これ程の再生能力を持つのなら、確かにあの防御を一切無視した戦闘方法にも頷ける。多少の攻撃であればあの毛皮が防いでくれるし、たとえ傷を受けたとしても『超再生』のスキルで魔力を集中すれば、あっという間に治せてしまう。
まさに、削り合い特化の能力。本当に厄介なスキルだ。問題は戦闘中に『超再生』のスキルを使わなかった点。怒りで我を忘れていたというのも考えられるが、傷を癒すのには相応の集中力がいるとも考えられる。
戦闘中は容易に使えないのであれば、戦いで気にする必要は無い。しかしもし、ただ怒りで忘れていただけだとしたら、戦闘中でもあれほどの再生能力を常に使えるというのなら、あのトロールたちを倒すためには、あの再生力を超える程の一撃で対応するしかないだろう。
合同探索グループは、その後、暫くその小部屋で休んでから、階段を降りて第二階層へと進んだ。第一階層と第二階層にそこまでの違いはない。出てくる魔物の種類は違うが、Fランクであるということは同じだ。故に第一階層を突破した合同探索グループが、第二階層で苦戦するということは無いだろう。恐らく、第二階層もいずれは突破してくるはずだ。
とはいえ、第二階層も第一階層に負けないほど広い。それにここまでの案内役であったエムカトラムの猟犬も、ここからは初めての探索だ。当然、地図も無い。
きっと、前回と同様にそれなりの時間を必要とするはずだ。




