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ラミアの独り言 ---「気がついたらラミアに」サイド・ストーリー ---  作者: 並矢 美樹


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別に後を継ごうという訳じゃない

 今度の戦いでの私の役目は、実際のことを言うと浮いてしまっている。

 一応先陣の本部において、ナーリアの護衛をすることが役目ということになっているけど、指揮官のナーリアの周りには参謀のセカンとディフィーもいるし、他の者もいる。 必要があるとは思えない。

 私だって、ディフィーの目を掻い潜ってナーリアに近づくなんて不可能だし、セカンの攻撃を掻い潜るのはもっと無理だ。 ま、ナーリアと一対一で戦うのなら、六分四分で、スピードに勝る自分が勝つのではないかと思うが、それだって紙一重だ。

 結局のところ、私が前衛部隊の本部に詰めている意味なんてない。


 今までの戦いにおいては、私は斥候の役をしたり、アレクと共に騎兵の前頭に立って、敵陣に騎射して引っ張り出すとか、そんな役が多かった。 私は指揮官と共に本部に居るのではなく、動き回る側だったのだ。

 ところが今回は、斥候の役は他の者がもう常にしていて、敵の斥候を捕まえているし、アレクも直接戦闘に出る予定がないので、私は浮いてしまっているという訳だ。


 普段は指揮官と共に本部に居る訳でないのはサーブも同じなのだが、今回サーブは、色々な部隊との連絡の、仲介役というか、指揮官のナーリア、参謀のセカン・ディフィーという中枢と各部隊長を繋ぐような役にとても忙しい。 サーブがそんな気を使う役をするのか、なんて私は思ってしまったのだけど、サーブは私たちの中では最も各部隊長に顔が広いのだ。 辺境伯領を越えての、基礎訓練教官という役どころが、サーブの天然の人を惹きつける魅力と合わさって、人脈として有効な繋がりを作り、こういう役目にうってつけの人材となっている訳だ。


 だいたいにおいて、私だけ自分たちより若い騎士や騎士見習いに、名前を呼ばれる時も違うからなぁ、なんて少し思ってしまう。

 ラミアはアーブたちの世代が、実戦に出始めているけど、さすがに彼女たちが私を呼ぶ時は「レンスさん」だ。 しかし、彼女たちと同時期に、またそのすぐ後に学校をでた人間たちは呼び方が違う。

 ナーリアに対してはナーリア指揮官だし、セカンとディフィーは参謀、サーブはサーブ教官だ。 そして私は、レンス先生だ。

 アンだけは、どう呼べば良いのか分からなくて「アンさん」だけど、私たちがミーレナさんを呼ぶ時の様な、「さん」がそれ以上の意味を持つような響きだ。

 モエギシュウメも困るみたいだけど、モエギシュウメも時々隊長と呼ばれているんだよなぁ。


 何を言いたいのかというと、アンを除いて、みんなは辺境伯軍の中での役職で呼ばれている様な感じなんだけど、私だけは、学校で呼ばれたそのままなのだ。 学校を出た彼らにとって、私は今でも博物学教師の「レンス先生」という認識なんだろうなぁ、と思う。

 嫌じゃないというか、嬉しくもあるのだけど、ちょっと複雑。


 私はそもそも誰かにモノを教えようとか、考えたこともない。

 お母さんは教育熱心だったのだけど、字を覚えるのだって、ナーリアの中で私とサーブが一番後だった。 私は、セカンやディフィーの様な熱心さは全くなかった。

 ただ、ナーリアと二人で、図書館の周りの花壇を綺麗に整備したくて、それをする必要に迫られて、植物の分類とか、成長とかを調べるのに必要で、字を覚え、必死に読んだ本の一つが、父親の著作だったというだけだ。

 二重の意味が、私をその本に没頭させたのは、極々自然なことだと思う。

 それをラーリア様が、

 「やはりレンスは、そうなるか。 ダルフ様の血だからな」

などと、さも特別なことのように言うのが、おかしいと思うのだ。 そう言われて、つい嬉しくなってより没頭してしまったのも本当だけど。


 そして気がついたら、ラミアで一番博物学に詳しくなって、その時の若い子たちや子どもたちに教えるようになって、またそして気がついたら、ナーリアの中で最も学校に関わって、多く教壇に立つようになってしまっていた。 私には、他人にモノを教えるような技術というか特性は全くないのに。 そもそも私は、あまり人と話すことさえ苦手なんだ。


 博物学の一つの分野として、地質学というか鉱物についてもある。 元々は、ボブに鉄がないかを相談されて、父の調査の中に、鉄鉱石の鉱床があることが記されていたことを教えたことが始まりだった。

 みんな自分で調べれば良いのに、自分で図書館の本から関連するところを見つけるのは手間が掛かるから、そういう分野は私が担当と、押し付けられただけの気がする。 そしてこっちも気がついたら、ヴェスター領、ラミウィン領を越えて、トルセン領、ライマー領の地質調査まですることになってしまった。 実はもうカドス領の調査もすることが決まっていた。

 今回のことで、ちょっと先行きが不透明になってしまったけど、私はきっとそのまま実施することになるんじゃないかと思っているけど。


 実は少し前に、そういった経験が私にはあるからだろうか、セカンとディフィーから、ある相談を受けた。


 「レンス、ここから王都までの地図作りに知恵を貸してほしい」


 「詳しい地図が欲しいなら、ハーピーに上空から観察してもらって、どんどん書き足したり、間違いを直したりすれば良いだけじゃない。 私に出来ることって特段ないと思うのだけど」


 「そりゃ、道がどう繋がっているとか、どこに何があるかとか、そういうことならハーピーに詳しく書き込んでもらうのが一番よ。 私たちラミアや人間よりも、ハーピーは全然目が良いから、ずっと詳しいことを書き込むことができるわ。

  だけど、私たちが欲しいのは、そういう詳しさじゃなくて、別の詳細な詳しさなのよ」


 ディフィーとセカンが何か困っていることは分かったけど、何に困っているのかも、何を私に相談したいのかも分からない。

 私が無言で首を傾げると、セカンの方が少し詳しく説明してくれた。


 「私たちは、その地図で描かれている場所の起伏というか、高低差を詳しく知りたい。 王都への行き帰り、しっかり覚えようと注意しているけど、さすがに私とレンスと二人で全部を詳細に記憶できるはずもない。

  だから、そういうことも記された詳細な地図が持てないかと考えた」


 「レンス、貴方、鉱山を見つけたりもしているじゃない。 そうすると見つけた場所を確実にドワーフに教えたりもしなければならないでしょ。 その為に地図も作るでしょ。 その地図はきっと登り下りも解る様になっているんじゃないかと思ったのよ」


 「ま、そりゃそうね、鉱石を普通は運んで、別の場所で加工することになるから、運搬用のルートも考えないとならないから、高低差は重要な要素だもの」


 「でしょ、だからその、高低差も詳しく記載された地図が作れないかという話なのよ」


 結局私は、生徒たちも連れて、実地研修の名目で、かなりの日数をかけて、ラミウィン領と王都の間の、荒野や平原を主にして、多くの場所の高低差を記した地図を作ることになった。

 荒野や平原が主になっているのは、町や村は建物なんかが邪魔になって、本当に大まかにしか土地の高さを測量することができないからだ。 それでも私と生徒たちの作った土地の高低差を表した地図と、ハーピーが上空から観測して作った地図を組み合わせると、王都までのそれぞれの場所がとても詳しく理解出来るようになったのは確かだと思った。


 私は今回の戦いにおいては、結局前衛部隊の本部要員としてはあまり用が無くて、アレクの摂政補佐官の護衛と秘書と妻の役目を主に務めることになった。 というのは、アレクの仕事のほとんどが、訪ねてくる貴族との会談になってしまったからだ。

 アレクに護衛が本当の意味で必要とも思えないし、秘書としての役目も事務仕事は、とても忙しくて、専門の騎士見習いが数人がかりで行っていて、私は報告を聞くだけだ。 私は、それでも前線部隊の本部に顔を出して、生の状況を聞きに行ったりもして時々アレクの許を離れるので、全体の把握もままならないからだ。 いや、それ以前に面倒過ぎて自分でやりたくないのだけどね。


 私が貴族との会談の席に、アレクと共に出向くと、それが貴族の礼儀なのか、単なる癖なのか知らないけど、戦場に向かう場での会談で、ピリピリした雰囲気が、相手貴族が私に対して挨拶したりしなくてはならないことで、一旦緩和されるというか、アレクは相手を観察したりする余裕が生まれるみたいだ。 どうやら他の貴族の軍には、女性兵自体もヴェスター領ほど一般的ではないし、貴族家当主の妻が戦陣に一緒にいるということはないみたいだ。 そのために、どうも戸惑って、気勢が削がれるみたいだ。 アレクにとっては、それが結構助かることのようだから、つまらない役だけど、私も他に人がいないので務めていたという訳だ。


 その役をしていた長いようで、実はとても短い時間もやっと終わって、アレクも私もとうとう前線に到着した。 王太子殿下は、逆にここまでは来ないで、後衛に下がった。 私は直接に王太子殿下と関わる機会は少なかったのだけど、それでもどこかほっとした気分になった。

 他貴族との会談の場に出るよりも、戦いの前線にいる方が落ち着くというのも、どうなんだと思うけど、事実だから仕方ない。

 王太子殿下の世話から離れ、前線の作業に配置換えされたワーリアたちほど、あからさまな喜びを私は見せてないと思うけど、その気持ちが理解出来てしまう程度には、やはり私は今回の役はストレスだったんだよなぁ。


 そのワーリアたちが新たに受けた指令によって、私はセカンとディフィーが、どうして詳細に高低差が解る地図が欲しかったかを理解した。

 夜目が利き、土木作業に長けたドワーフの部隊を使って、セカンとディフィーは傾斜の下部に陣を張る敵からは見えないように、土を掘ったり盛ったりして、巧妙な陣を、ほんの数日で築き上げた。

 地図作りはこの為の用意だったのだと私は知った。


 うわぁ、これは敵軍はもう毎度のことだけど、完全にセカンとディフィーの手の平の上だよ。

 私は、戦いは完全にこちらの完勝に終わると確信した。


 この戦いが終わったら、私はどうしようか。

 ほんの数日だけどやってみて、やっぱり私はアレクの秘書役は似合わない。 この戦いが終われば、もうセカンもディフィーも参謀を務める必要もないだろう。 そうしたらアレクの秘書役は二人に任せれば良いだろうと私は思う。

 貴族の当主の妻としての役はナーリアに擦り付けよう。 これも私はしたくない。

 アンはヴェスター辺境伯家全体の経済的なことを、これからも担当しなければならないだろう。

 サーブも当然今の訓練教官のようなポジションは続けることになるだろう。

 モエギシュウメは、ウスベニメが復帰すれば共にハーピーの女性の先頭に立たねばならないだろう。


 私はやっぱり学校なのかな。

 学校だとかの教育関係は、エレクとその妻のシルク、それにウチのお母さんが中心になっている。 ラーリド様以下のエレクのラミアの妻は図書館関係で手一杯だからだ。

 そしてエレクは、学校とか教育関係を担当するというよりも、もっと広く、今ではクラッドさんと共に、昔のカーライルさんとストーム師匠のような、辺境伯領全体、いやもっと広く辺境伯軍に参加する貴族家全体を総括するような立場になってきている気がする。 ま、アルフさんがエレクにどんどん仕事を振っているということだけど。

 その影響で、学校とか教育関係は、シルクとウチのお母さんが司るような形になっている。


 最近、さすがにちょっとキツそうなんだよね。 前はメリーが手伝ってくれるようになるかと思っていたのだけど、メリーはフランツくんと結婚して、ヴェスター領の外交を担う一翼にならねばならなくなったようだし、無理っぽいんだよね。

 そうなると、戦いが終わったら、やっぱり私がもっと学校とか、教育行政だとかに関わっていかないとダメだろうなぁ。

 お母さんも、イクス母様じゃなくて、本当はイクスおばあちゃんという歳だからなぁ。 仕方ないか。


 またラーリア様に言われそうだな。

 「やっぱりレンスはそうなるか」って。


 後を継ぎたい訳じゃないんだけどなぁ。


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