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ラミアの独り言 ---「気がついたらラミアに」サイド・ストーリー ---  作者: 並矢 美樹


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戦場に向かう前に

 戦いが行われる時期というのは、大体決まっている。

 それはゴブとの大きな戦いでもそうだが、人間同士となると余計に、ほぼ同じような時期になってしまう。

 今、私が言う人間は、広義の人間で、亜人種も含まれている。 つまり、いわゆる人間だけでなく、ラミア、エルフ、ドワーフ、その他の小人族、そしてもちろん我々ハーピーも含まれる人間族、王国に存在する意思疎通が出来る種族だ。

 人間にとって春から秋は、やはり一番重要なのは農作業で、戦いのために人手を取られて、農作業が疎かになること、農地を荒らしてししまうことは出来る限り避けたいことなのだ。

 そして真夏の暑い時はやはり負担が大きいので避けたいし、冬の寒い時期は尚更だ。 我々ハーピーはあまり冬の寒さを苦にしないが、ラミアや小人族なんかは寒い時の行動は明白に避けようとする。

 となると、戦いが行われる時期というのは、春早くか、秋の大体の収穫が終わってからという短い時期がほとんどということになる。 それ以外というのは、とても珍しいことなのだ。


 今回の戦いも、その例外とはならず、この秋の時期に行われる。 今から私もその戦場に向かうのだが、私が実際の戦いの場に立つことはないだろう。

 私がハーピーの長だからという理由だけでなく、作戦を考え指揮しているラミアたちは、私たちハーピーの人口が少ないことを考慮して、危険な場所にハーピーを投入することは極力避けるからでもある。

 今回の戦いには、王太子殿下が加わっていることもあり、辺境伯であるアルフレッド殿も直接戦場に赴いている。 今のラミア卿であるミーリア殿は総指揮官だから戦場に当然向かっている。 ドワーフ卿であるガルガイン殿は、ヴェスター領にドワーフが拠点を移してから、ドワーフの部隊が戦いに初めて参加すると意気込んでいる。 小人族は戦いでは役に立てないがと、兵站の方で頑張っている。

 唯一エルフ族だけは、まとまって居住していないので、戦力を集めるのに手間取って、まだ戦場に向かうことが出来ていない。 エルフ卿のエルリヒト殿が躍起になって急がせているが、今回の戦いには間に合いそうにない。 急な事態だったから、これだけはエルリヒト殿が地団駄を踏んでも、仕方のないことだ。 何ら恥ずかしく思ったり、後ろめたく思う必要はない。

 我々ハーピーは、いつもの如く、その特性を活かして、最初から主に偵察部隊として活躍している。 さっきも触れたとおり戦い自体には加わらない予定になっているが、ハーピー卿である私も当然だがその場に向かわねばならない。

 きっと、ミーリア殿によって、王太子殿下、アルフレッド殿らと共に後陣に配されることになるだろう。 しかし私も何か不測の事態があった時は、何処にでも飛んで何らかの役割を果たすつもりだ。 不測の事態などあってはならないが、やはり何時起こるか分からない。 そもそも今の事態自体が、全くの予想もしなかった痛ましい出来事から始まっているのだ。


 この秋の戦いが起きる時期になると、やはり私は思い出さずにはいられない。

 彼女が亡くなった日に、今年はどうやらその日に花を手向に彼女の墓には行けないだろう。

 戦いが長引くとは思わないが、戦後の処理はきっと少し長く掛かるだろう。 アルフレッド殿やミーリア殿、それにアレク殿などは、王太子殿下に伴って、それに深く関わることとなるだろう。 私も、そこに彼らほどではないが、関わらない訳にはいかないだろう。 三人とは違い、私自身が王都に滞在して関わらねばならない時間はそう長くないと思うが、それでも、その時までには戻って来ることは出来ないだろう。


 私も陣に向かう時間が迫っているが、それまでに使えるこの最後の時間を、こうしてミーレア殿の墓に来て、何も語らぬミーレア殿の墓標に花を手向け、心の中で彼女に語り掛ける。

 その最期を私に託してくれた彼女に、その後ハーピーの長などという重責を任される形になった私は、きちんと彼女に渡された想いに応えられているのだろうか。 きちんとその想いを受け止めての行動が取れているのだろうか、折々に常に自問自答しているが、それでは足りずにこうして毎年彼女の亡くなった時期には、彼女の墓標に、自分のその時の行いを報告し、聞いてもらっているのだ。


 私にとっては、ハルオン様の墓標を訪ねるのと共に、重要な神聖な行為だ。

 違うのは、ハルオン様の墓を訪れる時は、イルヒムをはじめ誰かしらが共にすることが多いが、ミーレア殿の墓を訪れる時は一人で来ることだ。

 今回もここには私一人で来ている。 イルヒムは気を使って、私を一人にしてくれているのだろう。


 そうそう、残念なことにもう一箇所、そういう場所が増えてしまった。 シロシュウメ様の墓だ。

 こちらはまだ墓を訪れるのは始まったばかりのことだが、こっちの墓参りは全く様相が違ってしまう。 多くの者と共に訪れることとなってしまうのだ。

 ストラト夫婦だけでなく、シロシュウメ様の墓にはモエギシュウメから繋がる縁で、多くの子どもたちもやって来る。 もちろん友人だった者たちもだ。

 私の知っている長い時、シロシュウメ様は最も孤独に生きているような人に見えた。 それが亡くなる前には、ハーピーだけではなく、人間、ラミアの子どもたちにも「シロおばあちゃん」と呼ばれて、いつも囲まれているようになった。

 そうして亡くなった今は墓参りに、集まってくれているのだ。

 私自身もそれに加わっていることになるのだが、実はシロシュウメ様の墓参りは、私は少し苦手だったりする。 シロシュウメ様の墓の前に立つと、いまだに私は何か怒られている、いや、忠告をされている気持ちになるのだ。 私はシロシュウメ様には鍛えて頂いたから。


 私はあまり時間を取れないのだが、ミーレア殿の墓標の前で、つらつらととめどなく、様々なことを報告したり、考えたり、心や頭の揺れるままに、僅かだけど止まっているような時間を、立ち止まったまま過ごしていた。

 ふと気づくと、すぐ近くにラーリア殿がいた。


 「すまない、邪魔をしてしまったかな」


 「いえ、そんなことはありません。 何かをしていたという訳でもありませんし」


 「エルシム殿が、度々ここを訪れていることは前から知っていた。 我々が訪れる時とは、気を使って別の時にしていてくれたのだろう」


 「ラミアの方々が私に対して何の隔意も持たれていないことは承知しているが、それでもこの場に私が同席しては気を遣われるであろう。 私としても、他に気を取られず、ラミアの方々にはミーレア殿を思い出していただきたいと思うのだ」


 私とラーリア殿は、ほんの少しの間、互いに無言だった。 私もだが、ラーリア殿はもっと、在りし日のミーレア殿を思い出していたのだろう。


 「さて、私はたまたまエルシム殿がここを目指して飛んでるのに気がついたので、邪魔をしてしまうことは重々承知ながら、こういう時なのでエルシム殿と少し言葉を交わしたくて、ここまで来てしまった」


 ラーリア殿は少し申し訳なさそうな様子で、私にそう言った。 そこまで気を遣っていただく程のことではないのだが、ラーリア殿は私と何を話したくて、ここに来られたのであろうか。 ちょっと私には考えつかなかったので、視線で続きを促してしまった。 しまった無礼に思われなかっただろうか。

 ラーリア殿は、そんな私のちょっとした狼狽えなど気づくことなく、当然私の態度など全く問題にせずに言葉を続けられた。


 「今回の件、ウスベニメは危うく難を逃れたが、キースをはじめ、ミーリン、ミーレンと三人が殺められることから始まった。

  それだからであろうか、人間もラミアも戦いになることに対して、闘志を見せることはあっても躊躇いを見せることは無いようだ。 私はそれが何だか心配な気がしてしまって、こんな時だがエルシム殿の意見を聞いてみたく思って、ここに足を運ばせてもらった」


 なるほど、ラーリア殿は今回は人同士の本格的な戦闘が避けられないと思い、戦う者たちの心情を心配しているのだろう。

 その心配をする気持ちは理解出来る。

 過去にゴブに囚われていた女を、今ではラミアの騎士と呼ばれるその時ラミアの里で暮らしていた彼らは、自分たちから志願して殺した。 それは慈悲の行為であると私は思うのだが、私がミーレア殿に最期を任されたの以上に、心に傷を負わせることになり、普段の生活に完全にとまでいかなくても戻れるまでにさえ、かなりの日数を要したのだ。 今回の戦闘の中心はどうしても人間となるだろう。 同族同士が戦って、そこで受ける外面的な傷だけでなく、内面の傷をとても心配しているのだろう。


 「今度の戦いはゴブとではなく、人と人の争いとなりますからな」


 ラーリア殿は、その通りと頷き、言葉を続けた。


 「知っての通り、人を相手としては以前に酷いことになったことがあるので、どうしても心配する気持ちが湧き上がってしまって。 そしてそれを避けられないとは知りつつ、繰り返さない守ろうとラミアも無理もしないかと。

  いや、いけませんな、前線に立たず後方にいると余計なことばかり考えてしまうようで」


 「ラミアは同族同士の戦いの経験が無いようですからな、その様に考えられてしまっても仕方のないことでしょう。

  しかし、ボブ殿たちがショックから体調を崩された時とは、状況が全く違いますから、その心配はないのではないでしょうか。

  それに全軍をミーリア殿が指揮をし、前衛をナーリア殿が指揮して、あの二人の作戦の下に動くのです。 どうということなく完勝するのではないでしょうか。 心に傷を負う暇もないのではなかろうか」


 「ははは、そうかも知れないな。 言われてみれば、その未来しか考えられないな」


 ラーリア殿は私の言葉に、半分くらいは本当に笑ってくれたみたいだ。

 ラーリア殿の心配を本当に取り除けた訳ではないし、そんなことは私には出来ない。 何故ならラーリア殿の話を聞いて、私もここに来て、なんとなくモヤモヤしていた心の中の正体が自覚出来たからである。

 そうか、私は亡くなったミーレア殿に、私の心配を打ち明け、みんなを守ってもらいたいと思っていたのだ。 私が今、ここに来たのは、ミーレア殿の命日辺りにはここには来れないからだと自分でも考えていたが、本当はそれ以上に今この時、ミーレア殿に私はお願いがしたかったのだ。

 「どうか、彼らを守ってください」と。

 そして守って欲しいのは、ラーリア殿が心配している、彼らの心なのだ。


 ハーピーは、ラミアとは違って、大火の後直ぐは、今のようにその数が少ないということは無かった。 厳しい時代に、その人数は適正ではないということだったのだろう。 同族の中で大きな争いが生まれてしまった。

 ハルオン様の懸命の努力も、その争いを押し留めること能わず、その争いは血で血を洗うような悲惨なものとなり、結果としてハーピー族は大きく数を減らし、種族として滅亡の危機を迎える一番の原因となってしまった。

 私自身は、その争いに直接に関わることの無かった次の世代に属すのではあるが、その争いを止めることの出来なかったハルオン様の思い、その争いを実際に見ているシロシュウメ様の気持ち、そんなことを身近にひしひしと感じてきたのだ。

 人間族はハーピー族とは違って元々の数が違うから、今回の争いがどの様に転んでも、ハーピーの様に種族の滅亡を考えるような事態にはならないだろう。 しかし、それと心に傷を受けるかどうかは、やはり全く別の事だと思うのだ。


 私は自分にも言い聞かせるように、ラーリア殿に言った。


 「これは聞いた話なのですが、アレクによると、同じなのだそうです。

  自分たちの存在を脅かす攻撃をして来るモノは、ゴブであれ、なんであれ、それから守るべきモノを守る為に戦うというのは、同じことで、違いはない。

  確かに、そのとおりで、彼らはその決意の下に、今回も戦いに向かうのです。

  私も彼らと同じように思って、そこに向かおうと思います。

  ミーリア殿をはじめ、ラミアの方々もきっと同じ思いでしょう。

  確かに心配は尽きません。 でも私は、彼らとミーリア殿たちが選んで進む道を共に歩んで行きたいと思っているのです」


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