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私も学校を終えるような年齢になった。
人間である私がラミアの里に来て、もうだから8年以上が過ぎた訳だ。
私がラミアの里に来た時は、私はまだ幼過ぎて、人間とかラミアとか、そんな事が気になることもなかった。 ただ私にはない尻尾が珍しく思っただけだった。
それに私はそんなことを気にする余裕もなかった。 お母さんが死んで、それからお姉ちゃんと共に、お父さんと旅をしていたのに、そのお父さんまで死んでしまったのだ。 私はただただ、お父さんが死んでしまったことが悲しくて、そしてお姉ちゃんしかいなくなってしまったことが心細くて、他のことはほとんど気にする余裕がなかったのだ。
でもまあ、お兄ちゃんは優しかったし、ラミアのお姉ちゃんたちも優しかった。 そして私にはイクス母さまという、もう1人のお母さんが出来て、とても甘えさせてもらえたから、気がついた時にはもう寂しさはなくなっていて、毎日が楽しくて仕方なくなった。
もちろん、そうなるまでには、お姉ちゃんはとても苦労していたのだろうけど、私が気づいた時にはもう、お姉ちゃんもラミアのお姉ちゃんと同じように、お兄ちゃんのお嫁さんになっていて幸せそうだったし、私も完全にラミアのお姉ちゃんたちの妹にもなっていたし、なんだか解らないうちに幸せだった。
そうしているうちにラミアの同い年の友達もたくさん出来て、イクス母さまがティッタを産んで、私はお姉さんにもなって、同じ頃に生まれたラーリアおばちゃん、ラーリナおばちゃん、レナお姉ちゃんの子どものシャイちゃん、サイちゃん、ゼルちゃんなんかも良くウチに来てたから、そんな小さい子の世話を友達たちとも一緒に世話したりして、それからアレクお兄ちゃんの妹のエーデルお姉ちゃんが鶏を連れてきたりしたら、馬だけじゃなくて鶏も世話しなくちゃならなくなっちゃって、みんなと忙しいけど楽しい日々を過ごしていた。
それから私たちは、私たちというのは私と私と同い年のラミアの友だちたちだけど、最初はイクス母さまや、レンお姉ちゃんなんかになんとなく教わっていたのだけど、学校が作られたら、若い子たちと言われていた私たちとお姉ちゃんたちとの間の世代のお姉ちゃんたちと共に、学校で勉強するようにもなって、それがもう卒業するという年齢になったのだ。
ちなみに私は友だちたちの中で、学校がラミアの里の中だけでなくて、もっと広い所から生徒を受け入れるようになるまで、唯一の人間だったのだけど、それが珍しかったからか、私たちは私の名前からメリー世代と呼ばれるようになってしまった。
私たちの上の世代は、アーブとサーラの世代と呼ばれているのだから、他の子の名前も一緒なら、まだ良かったと思うのだけど。
それはともかくとして、お姉ちゃんたちは、私の実のお姉ちゃんは人間だから別なのだけど、お兄ちゃんの奥さんとなったお姉ちゃんたちは、ラミアとハーピーで私も年頃になったから解るのだけど、どちらも種族としての滅亡の危機にあったこともあって、とても子どもを欲しがっていた。 いや違った、今もだから欲しがっているだ。
その結果として、お姉ちゃんたちは今現在で、それぞれに3人ずつの子どもがいる。 全部合わせると、ティッタも含めて22人だ。 まあ、一人ひとりは3人の子供だから、まだそんなに子沢山とは言わないのかも知れないけど、全員集まるとやはりかなりの数だ。
私は子どもたちにとって、本当は叔母さんに当たるのだけど、最初のティッタはイクス母さまの娘だからもあって、妹のような気もして、お姉ちゃんと呼ばせてしまった。 それからはもうそれが定着してしまって、私はこの家の、今ではラミウィン子爵家という大層なことになっているのだけど、要はアレクお兄ちゃんの家族の長女というような立場になって、子どもたちに対して絶大な権力を振るっているのだ。
我が家の中だけに限らない、シャイちゃん、サイちゃん、ゼルちゃんの世話も良く家にいて、結局ラーリアの方たちの最初の子たちから始まって、私が中心になって、私の代のみんなが子育てを手伝ったからなのか、どういう訳か分からないけど、子どもたちはみんな私に従うようになってしまった。
私の前では微塵もそんな事は言わなのだけど、どうもウォルフがウチの子以外の子たちに、私を怒らせると怖いから、「絶対に逆らわないように」と吹聴しているらしい。 ティッタたちも、笑ってそれを是認しているから、私は子どもたちには一面では凄く怖がられているのだ。
子どもたちだけの間なら、もしかしたらリアおばちゃんより私の方が、時によっては怖がられているかも知れない。 もしかしたらこれは誇れることではないだろうか。
私ももう少しで、お姉たちがお兄ちゃんのお嫁さんになった年齢になる。
お姉たちがお兄ちゃんのお嫁さんになった頃は、まだラミアやハーピーの女の人が、相手を見つけるのが難しい時代だったらしいし、お姉たちと同世代のラミアの人たちや、アーブさんとサーラさんの代の人たちは、今ではラミアの騎士と呼ばれるお兄ちゃんたちのイメージが強くて、相手選びが大変だった、あ、これもまだ進行形だった、大変らしい。
それにお姉たちはラミアの慣例から外れて、ラミア5人でお兄ちゃんのお嫁さんになっている。 一応イクス母さまもだけど、イクス母さまは別枠な感じだ。
私はというと、考えるまでもなく、もう相手は決まっている。
私は、子どもの頃から仲良しの2人と共に、フランツくんと一緒になることが決まっている。 別に強制ではないけど、フランツがラミアの里にやって来て、「同じ人間として気にかけてやって」と言われた時から、きっとそうなるのだろうなぁ、と感じていたから、すんなりと決まってしまった感じ。
フランツくんは、アルフお兄ちゃんとデイヴお兄ちゃんの大叔父に当たる人の孫だから、奥方様の養女ということになっている私は、親戚の男の子と結婚することとなる。 別に血の繋がりがある訳じゃないから、ちょっとだけ変な気分だ。
残念ながら、ハーピーにはちょうど良い年頃の女の子がいないので、モエお姉のようなハーピーの嫁仲間は出来ない。 ボブお兄ちゃんのところのクリアさんに頼んで、ドワーフの女の子を紹介してもらおうかな。 ドワーフの女の子はあまり学校には来てなくて、来ている子は、「もっと上の学校に進みたい」と言っていたから、フランツのお嫁さんにはなってくれないだろうから。
まだ先の話に飛んでしまったけど、少し元に戻すと、私や私の同世代の友だちが、小さい子たちの世話を昔からしていたのは、一つには単純にウチに小さい子がいつも沢山いたからだけど、もう一つ大きな理由がある。
それは、私たちは今まで何度も戦乱に巻き込まれていたからだ。
ゴブとの戦いは仕方のないことだと簡単に理解出来るけど、それ以外との戦いもある。
そして大きな戦いとなると、お兄ちゃんたちだけでなくて、お姉たちもみんな、その戦いに巻き込まれることになる。
そんな時、私や、私の同世代の子たちに出来ることは、そして期待されたことは、子どもたちの世話をすることだ。
昔は、お姉たちも忙しくて、子育てに手が回らなくて、それを手伝わないと、という感じだけで、私たちは子どもたちの世話をしていた。
今になって考えると、私たちは、子どもたちの世話をするという役割を振られることで、私たち自身も安全な場所に保護されていたのだろう。 そんなことが最近になって、私にもやっと解るようになってきた。
それからもう一つ、最近になってやっと理解できたことは、お兄ちゃんやお姉たちが、私たちに子どもたちを託す時の、思いだ。 色々たくさんの想いがあって、とてもじゃないけど上手く言い表せないのだけど、その想いを私は理解出来る、感じることが出来るようになってきた。
とても重い。 受け取った想いを真剣に考えると、その重さ、深さに震えてしまいそうだ。
そんなことを急に考えてしまったのは、今回のお姉たちも総動員されている戦乱の発端が、キースお兄ちゃんたちが謀殺されたことにあるからかも知れない。
戦いに出て、ラミアの騎士と呼ばれるお兄ちゃんたち全員が、寝込んでしまい復調するのに時間が掛かったりしたこともあったのに、サーお姉が危うく死にかけたりしたことがあることも知っていたのに、私はやっぱりお兄ちゃんたちやお姉たちが戦いに出て戻ってこないなんてことを考えたことがなかった。
でも今回は、そういう可能性もあるのだと認識した。
ケンお兄ちゃんたちのように、事故で亡くなってしまうのは、悲しくてもそれでも仕方ないことと思えるし、こっちは全く予想出来ることじゃない。
でも戦いに出て、帰れないということは、可能性としては、確率的にもかなりあってもおかしくないことなのだ。
そういうことが無いように、センお姉とディーお姉が、頭を振り絞って考えているのを知っている。 ナーお姉が、出来るなら完全無謬の指揮がしたいと常に努力しているのを知っている。 レンお姉が、何時でも何処でも警戒を怠らないようにしているのを知っている。 サーお姉が、いざという時には自分を盾にしても守ると決心しているのを知っている。
そんな風にお姉たちがするほどの厳しさが当然あるのだろう。
お姉ちゃんやモエお姉も、役目は違うのだけど、気持ちはきっと変わらない。
そしてお兄ちゃんもお姉たちも、一面では自分が帰って来れない可能性も覚悟している。
私とイクス母さまは、今回も子どもたちの世話のために残らなければならない。 今回はエーデル姉も一緒だ。 ワーリアは他に残れる人が誰もいないのだ。
私とイクス母さまは、子どもたちの迎えと、みんなの見送りをするために、ラミウィン領邸までやって来た。
お兄ちゃんやお姉たち、ワーリアのお姉たちもとても忙しくて、ほとんどエーデル姉1人で子どもたちの面倒をみていた。 だから私たちが領邸に着くと、エーデル姉は喜んだ。
「今回、お兄とワーリアは王太子殿下の世話係だから、あまり心配してないのよね。
心配なのは、ナーリアとウチの旦那。 お兄が王太子殿下の命で摂政補佐官なんていうのをしなければならないから、前線での指揮はクラウスがしなければならないから、一番心配かな」
クラウスさんは、ストーム師匠さんの息子で、この前の大会で優勝したほど強い。 それでもやっぱり心配なんだな、と私は少し思った。
お兄ちゃんとワーリアの人たちは、王太子殿下の側に居ることになるのか。 さすがに王太子殿下が最前線に立つなんて無いだろうから、少しはそこは安心なのかな。 エーデル姉は、私の知りたそうなことを教えてくれた。 ラミアの里にいた私には、そこまでの情報は入ってないからね。
大急ぎで次々と出発、いや出陣して行くみんなを、私たちは見送った。
子どもたちは邪魔にならないように、領邸の屋上から見送らせた。 もうティッタたちに言っておけば、子どもたちだけでも問題はないだろう。 とてもじゃないけど落ち着いた顔をして、見送ることなんて出来そうもなくて、そんな顔を子どもたちに見せる訳にはいかないから。
私は、今までにないほど、ドキドキして、みんなを見送った。 今までは分かっていなかったから、ここまでドキドキはしなかったんだなと思った。
イクス母さまは、今までもずっと、こんな風にドキドキして、みんなを見送っていたのだろうなと、ふと、考えた。




