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ラミアの独り言 ---「気がついたらラミアに」サイド・ストーリー ---  作者: 並矢 美樹


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図書館の鍵

 「イリヤ、ラーリド様が呼んでいる。 部屋に来て欲しいって。

  あんた、何かしちゃった?」


 「ええっ、心当たりは無いんですけど。

  アーレド様、何か知っているんですか? 知ってたら教えといてください」


 「あはははは、冗談よ。

  厳しい顔じゃなくて、割と上機嫌な感じだったから、悪い話じゃないと思うわよ」


 「そうなんですか。 ふう、それなら良かった。

  ここでアーレド様に厳しい顔されたら、足が重くなって行くのに時間がかかって、余計に怒られそうですから」


 「こらこら、そんなこと言ってて遅くなると、本当に怒られるわよ」


 私は、アーレド様の様子から、最初から私を揶揄っているのは分かっていた。 それで軽口をたたいていたのだけど、確かにそんなことしてて遅れたら、ラーリド様に怒られてしまう。 大急ぎでラーリド様の事務室に向かった。


 「ラーリド様、イリヤです」

 入り口の扉をノックして、外から中のラーリド様に声を掛ける。


 「中に入って、ソファに座って楽にしてて。 今、お茶を淹れてあげるわ」


 ええっ、そんな、「私がやります」と言おうとして、こんな事務室に、たとえラーリド様の部屋だから一番広くて豪華だからといって、部屋の中に竈門があるとは思えない。 ええっ、どういうこと?


 私が混乱して、どう反応すれば良いのかオロオロしているのを見て、ラーリド様はコロコロという感じの笑い声を上げられた。


 「そ、そういう反応を私は見たかったのよ。

  本当に良いから、ソファに座っていなさい」


 ラーリド様は本当に上機嫌で、私をソファに座らせると、自分は部屋の隅の小さなテーブルに向かった。 知らない器具と、お茶の道具だけがやっと載るくらいの大きさだ。

 ラーリド様は、そこで私の知らない器具をいじると、小さな火がついた。 そして、そこに小さな鍋を乗せた。


 「私はこのハイク草のお茶が好きなのよね。 残念ながらエレクとは、お茶は好みが別なのよね」


 ラーリド様が淹れてくれたお茶は、とても美味しかった気がするのだけど、私はお茶の味よりも、他のことが気になって、味が良く分からなかった。 でも、ラーリド様に不躾に、「あれ、何ですか?」とは、とても聞けない。


 「気になっちゃって、お茶の味も分からないみたいね」

 今度は大笑いされてしまった。


 「意地悪はしないわよ。

  あれはね、エルフとハキのお店で開発している、携帯用の竈門の試作品なのよ。 イリヤも燃える水を、いくつかの成分に今では分けていることは知っているでしょ。 その中の一つの成分を使って、ちょうど良く、小さな火を出すような器具を作ろうとしているのよ。

  もう少しで実用化できるかな、というところまで来ているらしいのだけど、残念ながら、ちょっと次の戦いには間に合いそうに無いわね。

  間に合えば、戦の時でも簡単に兵たちにも温かい食事をさせることが出来ると思うのだけど、残念だわ」


 ラーリド様って、図書館と資料関係の責任者だけど、それだけじゃなくて、そういうことにも目を向けて、目立たないけど色々なことをしているのだなと、私はあらためて知った。

 きっと当然、エレクさんやハキさん、それにこの領の領主様であるアルフさんなんかは知っているのだろうなぁ。

 まだまだ私の知らない、目に入っていない所で、上の人は色々なことをしているのだろうなぁ。


 私がその試作品を見て、色々と頭の中で考え込んでしまって、沈黙してしまっているのを、ラーリド様は何だか微笑ましく眺めて、自分に意識が向くのを待っていてくれていたみたいだ。


 「すみません。 つい、色々と頭の中で考え込んでしまいました」


 「良いのよ。 実際のところ、戸惑ったり驚いたりする姿を見て楽しもうと思った悪戯心もあったのだけど、あなたがこれを見て、どういう反応を示すかを見てみたいという気持ちもあったから。

  あ、大丈夫よ。 十分合格な反応だったから。 イリヤ、あなたが何を色々考えていたかは、あなたの表情や体の動きで、大体想像出来たわ。

  そう、まだまだあなたの知らない所で、重要なことをしている人はたくさんいるのよ。 私だって全部を把握している訳じゃないわ。 

  常にそういう人がいるのだと、心の中で自重して、知る努力をしなさい」


 ラーリド様は私にすごく重要なことを教えてくれた気がする。

 私はすごく厳かな気持ちになった。


 「えーと、今日あなたを呼んだ本題は、これじゃ無いのよ。 別のことよ」


 私は、その言葉にまたちょっと緊張した。 私が厳かな気分となったのとは別に、ラーリド様が厳かな雰囲気を出したというか、格式ばった調子になったからだ。

 でも少し笑みも漏らされた。 何なんだろう?


 「イリヤ、あなたは、ここの資料室関連も含めて、図書館という場所がどれ程重要な場所であるかは、しっかりと理解したわね。

  そしてこの図書館を維持、管理して、より一層発展させていかねばいけないことの重要性も理解出来ているわね」


 「はい。 単純にここでの仕事をするだけでなく、他のこと、参謀役を任されたり、戦闘報告を自分で纏めたり、そしてこの前参加させていただいた新しい本の購入なども含めて、より一層図書館の重要性が分かった気がします」


 「そうね、理解が深まったのは良いことだわ。

  そういう重要施設だから、ここの管理はとても厳格で、図書館に入るための鍵を持っている者も、僅かしかいない。

  あなたは図書館の鍵がいくつあるか知っている?」


 「いえ、知りません」


 「少し前までは、図書館の鍵は、3つしかなかったのよ。

  厳密には3つではなくて4つだったんだけどね。 それは私も知らなかった。

  一つは当然私が持っていた。

  後の2つもイリヤなら予想がつくわね」


 「私が確実だと知っているのは、ナーリアさんたち、たぶんセカンさんかディフィーさんが持っているのだと思います。

  もう1つは、イクス様でしょうか。 でもイクス様はナーリアの人たちと一緒に居たから、違う人でしょうか」


 「ううん、正解よ。

  イクス様は、私の前の図書館の管理者だったから、そのまま持っていたのよ。

  イクス様がアレクの妻の1人となり、ナーリアたちと共に暮らすことになった時に、イクス様はラーリアに渡そうとしたのだけど、ナーリアは受け取らなかったのよ。

  『私が持っていても、私自身が明日も知れないので、何かあった時に面倒になりますから』ってね」


 それって、つまり、ラーリア様は自分が遠くない未来に死ぬだろうから、と覚悟していたということだと、私はすぐに理解することが出来た。 まだそんなに遠い過去の話ではないし、私でもその時の状況が分かる。

 ラーリド様が、態度を改めて話すはずだ、と私は思った。


 ちょっと軽い調子になった。

 「ラミアの里にある鍵は、だからつい最近までは3つだけだったから、私もそれが全てだと思っていたのよ。

  そしたら、図書館の鍵をデイヴがマジマジと見て、

  『ああ、あの鍵はこの図書館の鍵だったのか』だって。

  考えてみれば、持っていても全然おかしくは無いのだけど、領主の館にも図書館の鍵はきちんと保管されていたのね。

  結局、昔からの鍵は、今のところ4本が確認されているわ。

  これ以上はなかなか増えないでしょうね」


 ラーリド様は、鍵の話で、より一層この図書館の重要性を私に分からせようとしているのだろうか。


 「で、今はというと、鉄を自由に使えるようになったし、細かい細工物も作れるドワーフもいるから、鍵は複製されて、もう少しだけ数が増えている」


 それも私はいくらかは知っている。

 ラーリド様だけじゃなくて、ミーリド様も持っていて、ミーリド様の鍵は必要に応じて他の方も使われている。 と、言ってもエレクさんの奥さんたちの間でだけだけど。

 それと確か、ハーピーも所有していて、こちらはエルシム様に渡されたけど、イルヒム様に管理が任されている。 これはアライムさんに教えてもらった。


 他にもいるのかなと考えていたら、ラーリド様に否定された。


 「イリヤの知っている人以外にはいないわよ。

  ラーリアにも渡そうとしたら、『私はイクス様が持っているのや、ナーリアたちのが必要ないつでも使えるからいらない』と言われ、エルフもエルリヒトさんが『領主家にあるのが必要なら使える』と同じように辞退。 ドワーフもガルガインさんが、『図書館に来るにはラミウィン領やラミアの里を通るから、私が持っている必要がない』とこちらも辞退なのよ。 で、増えてないのよ」


 図書館の鍵は、それぞれの種族の長でも所持を辞退したり、管理者を定めるような、やはり特別な物なのだな、と私は考えた。


 「だけどまあ、ここにもう1本、複製した鍵があるのよ」


 小箱に入った鍵を、ラーリド様はいつの間にか目の前のテーブルに置いていた。 鍵は新調された物らしく、光を放っている。


 「この鍵を、イリヤ、あなたに預けるわ」


 「わ、私にですか?」


 あまりに緊張して、口の中の唾をゴクリと飲み込んだら、今度は口の中が乾いて、舌が口内に張り付いたようになって、まともに受け答えが出来ない。


 「そう、あなたに預ける。

  それにどういう意味があるかを良く考えて、これからも精進しなさい。

  戻って良いわ」


 私は気がついたら、自分の部屋の椅子に座って、預けられた鍵をただ眺めていた。


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