マクレル伯爵の血
エリック様とマリエ様に連れられてサンデル公爵領が誇る市場にやってきた。
変装しているし、一定の範囲内に姿が確認できる護衛が5、6人いる。
姿が見えないのもいれたら3倍ぐらいにはなりそうだ。
「ふふっ、お友達と買い物なんて久しぶりだわ」
マリエ様は今にもスキップしそうなぐらい機嫌良さそうに言う。
「ただ、遊びに来るだけなら俺も久しぶりだな」
エリック様は周りを見渡しながら言う。
私自身もマクレル伯爵領以外をこんな自由に散策することは初めのためかなりソワソワしている。
市場には野菜や果物、お肉などの食品以外にもコップにお皿などの日用品やサンデル公爵領が誇る織物で作られた小物なども売っていた。
あっちにこっちにと次々にいろんなものに目移りしてしまう。
「サラ!あのお店に売ってる髪紐可愛いわ!」
マリエ様はサッと私の手を握るとお店の方に向かって歩き出す。
流石に街中で様づけで呼んでは身分を隠している意味がないし、私の名前は平民に多いが二文字だから呼び捨てにしてもらい、マリエ様とエリック様のように三文字以上の名前は貴族に多いのでマリエ様はマリ、
エリック様はリクと呼ぶことにした。
「マリ、そんなに焦らなくても店は逃げませんよ!」
そう言いながら彼女の後をついていく。
すると次の瞬間、ぶつかる気満々ですって感じの女性が私を真っ直ぐに見つめながら迫ってきた。
マリエ様に手を引かれているため、避けることができない。
体当たり女といい、この女のといい何故わざわざぶつかってくるのだ?
予想していた通りぶつかってしまったが、エリック様が支えて下さったおかげで、かなりの勢いの体当たりだったが倒れずに済んだ。
「きゃっ!」
なんか可愛らしい悲鳴が聞こえるが威力は全然可愛くなかった。
「サラ、大丈夫か?」
「私は大丈夫です。マリも急に後ろに引っ張ってしまいましたが大丈夫ですか?」
「私も大丈夫よ。サラ怪我してる場所に当たらなかった?」
「庇ったので大丈夫です」
「念のためどこがで休憩しよう。せっかく良くなっているのに、悪化してしまっては大変だ」
こんな風に体当たりをしてきた女性を無視して話していると
「ちょっと!そっちからぶつかってきたんだから謝るぐらいしなさいよ!」
女が喚いてくる。
一応建前として
「お怪我はありませんか?」
とだけ聞く。
何と言われようが向こうからぶつかってきたのだ。
「お怪我はありませんか?じゃないわよ!貴族様は謝ることもできないの?!」
女がまた喚く。
体当たりや喚くぐらいなら見逃せたが、喚いたセリフは見逃せないものだった。
エリック様にマリエ様、護衛の者たち全員が殺気立つ。
にも関わらずまだ愚痴を言い続ける女。
マリエ様がわたしの腕を掴み言う。
「サラ、この人怖いわ。ほっておいていきましょう」
「そうだな」
エリック様もすぐさま頷き、周りの護衛たちに出てこなくていいと言う意味で軽く手をあげる。
わたしも頷きその場から立ち去ろうとするが、次の言葉は見逃せる者ではなかった。
「私は貴女の姉妹よ!!」
町中に響き渡るのでと思うほど大きな声で言う女。
別に兄妹が他にいてもなんの不思議はない。
なんせ私の父はユリウス・マクレルだ。
騎士に視線をやり女を裏路地へと連れて行く。
兄妹だと言うのは勝手だが、それを知っていてワザワザ私に会いにくる理由が分からない。
「で、あなたが私の姉妹だと言う証拠は?」
裏路地へと連れてきた女を真っ直ぐ見つめて問う。
エリック様とマリエ様は気を遣ってくださったようで、少し離れたところに立っている。
「えっ、証拠?」
何故か戸惑った様子の女。
何故戸惑うのだろうか?
父の子どもだと言ってマクレル伯爵家へと乗り込んでくる輩は大勢いる。
しかし、本当に父の子どもだと証明できる人は少ないというか、いないに等しい。
「……!母の名前はニフィアで職業はレストランで給仕をしているわ。マクレル伯爵に出会ったのはそのレストランで、母に一目惚れしたと聞いているわ。
それでできたのが私よ!」
急に思いついたかのように話し出す女。
しかし内容はそれのどこが証拠になるのだ、と思うようなものだった。
「それからこの髪!母が赤毛だから少し濃いけどマクレル伯爵とよく似た綺麗なピンクだと母が言っていたわ!」
自分からボロを出すしていることにさえ気づかない女を哀れに思う。
「その髪色が証拠だというのならあなたは確実に私の姉妹ではないわ。父の髪色が女の子に遺伝することはありえないよ」
私がそう言った瞬間、女は唖然として固まってしまった。
「どうしてよ!?両親の髪色が子どもに遺伝するのは当たり前でしょ!?」
今にも掴みかかってきそうな女から私を守るようにケティが間に入る。
「普通はそうでしょうね。でも、父の髪色は違うのよ」
私が冷静に返すと
「違うって何が違うのよ!」
叫ぶようにいう女。
「あの桜色はマクレル伯爵家の中でも男児にしか現れないのよ。しかも、現れる確率は極めて低いわ」
だからこそ、グレイ兄様とセドリックは桜色なのに、ルカは桜色の髪色をしていない。
「そんなの聞いてないわ!」
「そもそも、あなたの赤は父の桜と似てさえもいない」
マクレル伯爵家を象徴する桜。
父の美しさを引き立てる色だ。
桜の模様の話をしないところを見ると、女の母が本当に父と関係を持ったかも怪しい。
「そんな訳ないわ……私はマクレル伯爵の娘なの。本来はこんなところで暮らしていていい存在じゃないの。私は誰よりも愛されているの」
ブツブツ何か言い出す女。
気持ちが悪くなってきたためその場から離れる。
「さようなら、自称姉妹さん」
せっかくの買い物なのだから、こんなことにいつまでも時間をかけていられない。
トムにグレイ兄様への伝言を頼んでエリック様とマリエ様のもとへと戻る。
私の中では完結した問題だったため、聞き逃してしまった。
女が発した言葉を。
「私は伯爵令嬢なのよ、絶対に」
新たな登場人物です。
母はレストランの給仕・ニフィア。
本人の名前は次の話で出す予定です。




