8
「マイナさん、お久しぶりです」
「久しぶり、ベルさん」
「丁度こちらから出向こうと思っていたので助かりました」
「いやいや、私も話したいことがあったから……」
応接室のような部屋に通されて暫く待つと3人の人物が入ってきた。
一人は私をここまで案内してくれた警備隊の人でもう一人は入ってくるなり話しかけてくれたフラウベルさま。
ここまではまあ良いんだけど、残り一人は大問題だと思う。
艶やかな金髪を腰まで伸ばし簡素だけれど高級そうなドレスを着た品の良い美女は、ディアナ女王陛下だよね?
元気で実直なフロウベルさまに対して清楚でゆるふわな印象ではあるけれど二人の顔はよく似ているし、髪の色や年齢的にも間違いないでしょ。
てっきり警備隊の方で話を聞かれると思っていたのだけれど、お城に通された上に目の前には女王さまがいるって……え、こんな身元も不確かな相手の前に出てきていいの?
キャラ作りもあって基本的に敬語だとかを使うつもりはあまりなかったんだけど、流石にここは使わないとまずいよね?
「えっと、女王陛下にはご機嫌うるわしく……」
うん、駄目だ。
これ以上思い浮かばないね!
なれないことを言おうと思ったら、まったく続かなかったので途方に暮れていると、ディアナ陛下にくすくすと小さく笑われてしまったよ。
「こんにちはマイナ、ホックス国女王ディアナ・ディアス・ホックスです。今日は正式な場ではないので気楽にしてください」
「えーと、ホントに良いんですか?」
「ええ、率直にお話を伺いたいのでどうぞ」
国民から愛されている女王さまだとは知っていたけれど、なかなか親しみやすい人みたい、いかにもフラウベルさまのお姉さんだね。
「姉上のことを知っていたんですね、それでは私のことも?」
「うん、知ってたよ。ホックス王国の王妹にして剣聖の弟子、フラウベル・ホックスさま」
「うーん、出来れば今まで通りベルと呼んでほしいんですが」
「こっちは構わないけど」
「では今までどおりでお願いします。普通に接してくれる人って貴重なんです」
今までどおりと言っても、今までも心の中ではフラウベルさまだったけどね。
まあ何はともあれその後に挨拶やらこちらの名乗りやらも終えて、今はメイドさんが入れてくれたお茶を飲みながら2人と向かい合って座っている。
なお警備隊の人はこの間、扉の側に立ったまま微動だにしていない。
この人が護衛ってことなのかもしれない、いかにも出来る軍人さんって感じだしね。
そして一応ディアナ陛下に改めて自己紹介するとメイドさんが入ってきてお茶を入れてくれた。
勧められてお茶を飲みお菓子を食べる、うん流石に美味しい!
実はダンジョンマスターは食事の必要がないんだけれど、やっぱり美味しいものを食べて飲むのは良いね。
そうしてほどよく和んだところでディアナ陛下が話しはじめた。
「まずは我が国の民を助けて下さり、ありがとう。樵達から報告が来ましたが、彼らが危なかった所を救ってくださったようですね」
もう女王さまに報告が行っているんだ?
随分早いように思うけど、それだけ大森林のことは気にしているのかな?
「たまたまだけど、間に合って良かったよ。怪我をしてた人たちは大丈夫そう?」
「ええ、大きな怪我をしたものはいなかったようで、不幸中の幸いでした。貴女のおかげです、礼を言います」
樵の人たちは多少の怪我は我慢しちゃう感じだったから、本当に大丈夫なのかちょっと不安だったんだけど問題なかったなら良かったよ。
そしてディアナ陛下の横に座るベルさんが同じく樵たちのことで礼を言ってから話しを続ける。
「それで今日お呼びしたのは大森林のことです。冒険者組合に協力を求めて調査をしてみたのですが、貴方が言っていたようにやはり異変があるようです」
「そうだね、私もここのところ大森林の中へ入っているけど、明らかに魔獣の数が多いみたい」
「やはり大森林の中で魔獣の討伐をしている少女と狼というのはマイナさんでしたか」
「私としては討伐というよりは調査ついでの狩りだけどね」
レッドアン大森林の中で冒険者を見かけることは度々あったので、当然こちらの姿も見られている。
まあ、レッドアン大森林に興味があるのが嘘じゃないと分かってもらう為にわざと姿を見せていたんだけどね。
「我が国としては事態が大きくなる前に対処しようと思っているのですが、そこでマイナさんのことが気になってしまいまして」
「っていうと?」
「ちょっと言いにくいんですが……異変にマイナさんが関わっているんじゃないかという者もいまして、もう一度しっかりとマイナさんの目的を話してほしいんです」
真剣な顔で真っ直ぐ見つめて来るベルさま、相変わらず直球だね。
心なしか扉横の警備隊の人からもプレッシャーがきてるような……。
ディアナ陛下がニコニコ微笑んでいるのであまり深刻な雰囲気にならないですんでいるんだけど、これは狙いなのかな?
「んー、この間も言ったけど私はこの異変に興味があるんだよね。旅をしながら色々な知識を集めてきたけど、今回の異変……ダンジョンが生まれる時に立ち会うなんてそうそうあることじゃないから」
ダンジョンが生まれると言うと、室内に緊張が走った。
「ユーナさんはこの魔獣の大量発生はダンジョンのせいだと思っているんですか?」
「冒険者組合に調査を依頼したんでしょ? その可能性くらいは考えていたんじゃない?」
「可能性があるとは思っています。ですがまだ断定は出来ないと……」
「間違いないよ、あらゆる状況がダンジョンの存在を示しているもの」
ベルさまの顔が厳しく引き締まる。
まあ、ダンジョンがこんな近くに出来るとなると危険なだけでなく、面倒も多い。
平和なこの国にとっては有り難いことじゃないよね。
とはいえ事実は事実だし、私の有用性を強調する為にもここは強気で押す。
「魔素濃度の上昇、在来の魔獣の棲息地域の変化、新たな魔獣の大量発生、明らかに通常の魔獣の生態とは違った行動、その上での人里へと襲撃。状況的には蓮花の大樹海が発生当時の状況と一緒だね」
蓮花の大樹海とは大陸東部の蓮花国にある有名な森林型ダンジョンで誕生してから100年程度なのだけど、誕生当時は対処が遅れて周辺の人々や冒険者にかなりの被害が出たことで有名だったりする。
「蓮花の大樹海というと、森林型ですか?」
「うん、森林型ダンジョンで間違いないと思う。しかも成長速度がかなり早い。これだけの速さで成長していることを考えるとすでにそれなりの犠牲者が出ているはずなんだけど、噂にも出ていないのが不思議なんだけどね」
そうこれだけははっきり言って不可解だ。
人族に限らず動物や魔獣からも魔素は回収できるから、大森林に元々住んでいた動物や魔獣をかなり糧にしてはいるんだろうけど、やはり効率的なのは人族だ。
一般人なら少なくとも数十人は犠牲者が出ていなければ、ダンジョンだって魔素が足りなくてこんなに早くあの数の魔獣を生み出せはしないはずなんだけど、商人どころか冒険者組合でも村とか商隊が襲われたって話は聞かないんだよね。
私が首を捻っているとディアナ陛下が口を開いた。
「それについては私に心当たりがあります」
ディアナ陛下によると1ヶ月ほど前に隣国で有名な盗賊団の討伐があったのだが、首領を含む多数の盗賊がホックス王国内に逃げ込んだ可能性があると警告が来ていたので警戒していたのに、今日になるまでまったく姿が見えないとのこと。
「もしや大森林に逃げ込んでいたのかもしれませんわ」
「なるほど、その盗賊がダンジョンの糧になったのかもしれないね」
この世界、人族でもレベルが高いものほど多くの魔素を保有しているし、一流以上になればその量は桁外れだし、4レベルとは言わなくても3レベル程度の盗賊が複数いたのなら、初期のダンジョンからすれば結構な魔素を稼げたかもしれない。
「さて、そういうことで私としてはダンジョンの誕生は間違いないと思っているんだけど、そこで一つ提案があるんだ」
「提案ですか?」
さぞ胡散臭く見えてるんだろうなとは思いながらも、聞く姿勢をみせてくれるディアナ陛下とベルさんに甘えて話しを続ける。
「私は長らくこの世界について研究しているし、その過程で得たダンジョンや魔獣についての知識はかなりのものだと自負している。だから、今回のダンジョンへの対処に協力させてくれないかな? 知識の提供は勿論、攻略の手伝いなんかも色々出来るよ?」
あまり自分を売り込むのは得意じゃないんだけど、これに関しては自信があるので堂々と言えるね。
目の前の2人も取り合えずどうするか考えてはくれているみたいだ。
2人で目配せし、ベルさんが答えてくれる。
「申し訳ないのですが、即答は出来ません。少々考える時間を下さい」
「勿論良いよ。多分長丁場になるし、ゆっくり考えて。ただ、一先ずお願いしたいことがあるんだよね」
「お願いですか、どんなことでしょう?」
「大森林の中、私の家の近くで商売をする許可が欲しいんだ」
「はっ?」
なにをお願いされるのかと少し構えていたベルさんが何を言っているんだろうという顔をした。
「取り合えずお風呂屋さん。許可はもらえるかな?」
「お風呂屋さん?」
「そう、あの場所は良い温泉が出るんだ、なんだったら暇なときに入りに来てよ!」
その後、温泉の素晴らしさをゆっくりと話したんだけど最後までベルさんのこの人は何を言っているんだろう顔は変わらなかったが、なぜかディアナ陛下が許可をくれたので、他に冒険者組合との協力関係など色々な話も出来たし良かったよ。




