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話し合いを終えお城を出た後、屋台で簡単に食事をして樵のウルスさんから聞いていた大工さんを訪ねると色々と相談してから、ダンジョンに戻る。
途中で塩採りの村に寄って挨拶をすると、レッドアン大森林に入る冒険者が増えていることや、その冒険者たちから魔獣が増えているので十分に気をつけるように警告されたことなどを教えてくれた。
ダンジョンに戻り荷物を置くと、表に出て周囲を眺めた。
「さて、それじゃあ久しぶりにダンジョン作りといこうかな」
塩樹の森から暫く歩いた海辺の崖に近い場所にある洞窟に出口を繋げる形でダンジョンを作っているので、後ろには海が広がっており前には森が広がっている。
「近くに人はいないよね?」
オペレーションボードのマップやチッチを放って空から監視もしているけれど、念のために食事中のローシュに確認すると、昨日狩ったサヴェッジラビットを丸かじりするのを止め、小さく鳴いて問題ないことを教えてくれた。
よしよし、それじゃあ温泉作りといきますか!
この一週間で多少はダンジョンポイントも貯まって634ポイントある。
とても余裕があるとはいえないがこれでなんとか進めるしかない。
どこに作るのかはすでに決めていたので崖に近い草地へ向かいオペレーションボードを操作、あらかじめ作っておいた浴場デザインを呼び出して多少の修正をしてから、地図を表示して設置場所を指定する。
「ポチッとなっと」
決定ボタンを押すと指定された草地の範囲が青い光に包まれ、僅かな地響きと共にまずは平地に均されると続いて2つの楕円形の窪みが作られていく。
床は乳白色のタイルが敷き詰められていき、浴槽とその縁が白い石材へ変わる。
二つの浴槽から等距離にある三角形の頂点の位置に白い円形の噴水のようなものが現れるとあっという間にお湯が湧き出て溢れ出る。
溢れ出たお湯は床に作られた溝に沿って浴槽に注がれ、浴槽から溢れ出たお湯は側溝で崖から海へと流される。
厳選掛け流し温泉と言われるものなのだけど……。
「……実際に出来上がっていく過程を見るのは始めてだけど、とんでもないビックリ映像だね」
ほんの1分程で出来あがった温泉にため息をつく。
いままで作ってきた部屋は地下室だったので出来上がってから中に入っていたけど、この制作過程を見られたらどうやっても「魔術で作りました」でごまかせるものじゃないね。
噂にでもなったらすぐに私がダンジョンマスターだってばれそうだ。
今でも十分に注意はしているけど、よりいっそう気をつけよう。
で、それはそれとして。
男女に分けて温泉を作ったのだけど、本来作るはずの仕切りや壁、さらに言えば脱衣所なども含めた建物自体がない。
これはもう単純にダンジョンポイントが足りないので苦肉の策。
今持っているのが634ポイントなのに、温泉だけで500ポイントも必要なんだ。
まあ片側だけでも10人以上が同時に使えるように大きくしたのと、素材やらなんやらに色々こだわったせいなので仕方ないんだけどね。
「とはいえこのままじゃどうにも使えないね」
オペレーションボードを消し、魔術師の杖を構える。
出来上がりをしっかりとイメージして、集中。
『大地に宿りし魔の力、我が呼びかけに呼応せよ。クリエイトウォール』
魔術師の杖の先端が青く輝くとゆっくりとイメージした土の壁が地面から生えてくる。
急ぐ必要はないので、しっかりと思い描く壁の形を意識して出来上がりまで集中しつづけた。
「……こんなものかな」
時間にして5分ほどかな、表面が多少いびつだけれどしっかりとした壁が温泉を囲うように作られていた。
しっかりしているとはいえ本当に目隠しにしかならないものだし、天井もないがそれでも範囲が広いのでなかなか疲れた。
……ダンジョンの能力で作れば30ポイントもあれば作れるよね?
…………はっ、ダメだ。
ついつい30ポイントくらいなら使っちゃったほうが良いんじゃね? とか思っちゃったよ!
私の計画じゃあどうしたってポイントは足りないんだから無駄遣いは出来ないよ。
贅沢は敵だ! ブルジョアは滅べ!
あ、なんかやさぐれてたら贅沢に魔獣を量産している大森林の中のダンジョンが憎くなってきた。
「厳しい道だけど絶対にやるよ、ね! ローシュ!」
食事が終わったのかいつのまにか足元で横になっていたローシュに抱き着くと、大変だなとばかりに尻尾でぽんぽんと頭を撫でてくれた。
うう、この癒しがあれば頑張れるよ。
「まあ、とりあえず温泉が出来たんだから一番風呂といこうかな。ローシュも入る?」
気を取り直して立ち上がる。
ローシュは温泉に興味はないのかそのまま寝そべっているので、一人で寂しく入ることになった。
ちなみに温泉は最高だったよ!
⬜
王の執務室へ戻ったディアナ女王とフラウベル王女はメイドの入れてくれたお茶を飲みながら、先ほど会った人物について話していた。
「かなり風変わりだけど、ベルの言うとおり悪い方ではないようね」
「はい、それに貴族とは思えませんがかなり高度な教育を受けているようです。ダンジョンについても想定の内の一つではありましたが、説得力は十分ありました」
「少なくともマイナさん自身がそう思っているのは間違いないわ、彼女は一度も嘘は言わなかったもの」
「そうですか」
ディアナの言葉にフラウベルは安堵の吐息を漏らした。
ごく一部の者しか知らないが、ディアナには『嘘が分かる』という特殊能力がある。
そもそもホックス王国は大陸でも有数の歴史をもつ国なのだが、その長い歴史を守ってこれたのには王族の多くが何かの特殊能力を持って生まれてくることが無関係ではなかった。
周辺国もそれを把握している為、かつてはホックス王国を併呑しその血を自らの国へ取り入れようともしていたのだがその度に他国の横槍が入り、結果的にホックス王国は小国ながらも歴史を積み重ねることが出来たのだった。
そして現在では婚姻によって平和的にホックス王家との繋がりを作ることが主流となっいる。
「マイナさんが信用できそうで安心しているの? ずいぶんと気に入ったみたいね」
「いや、そんな。私は職務として不安材料が減るのがありがたいと思っただけでして」
くすくすと小さく笑いながら言うディアナにフラウベルは何となく恥ずかしくなり、つい否定してしまう。
「あら、否定するつくことないわ。私は良いことだと思っているのよ? ベルはちょっと真面目すぎてお仕事ばっかりだったから、今まで同年代のお友達も少なかったもの。マイナさんみたいに明るい方は良いと思う」
「あの、その……はい」
嘘が通じないというのは実にやりにくいな思いながらも、姉が自分を案じていたのも知っていたのでフラウベルとしては何とも返事が出来ない。
「貴女とはまったく違うタイプみたいだけど、どこが気に入ったの?」
「え……別に気に入ったとかではないのですが、物おじせず言うべきことをハッキリと言う所とか、女性にしてはサッパリとした気質とかが話しやすいと言いますか……」
普段は凛としている妹の、頬を染めてモジモジしている年相応な姿を見て満足したディアナはそこでからかうのは止めておくことにして話を進めることにした。
「それならマイナさんのことはベルに任せるわね。彼女が言っていることを全面的に信じるわけにはいかないけれど、協力してもらえるのなら色々と助けてもらえそうだわ」
「はい! ありがとうございます。それでは明日にでも彼女を訪ねてみようと思います」
「お願いね」
やる気を見せる妹を微笑ましく思いながら、ディアナは魔術師マイナのことをもう少し調べてみる必要があるとも考えていた。
彼女が着ていた服だが、立場上様々な高級品に触れることが多いディアナからしても滅多にないほど上質なマジックアイテムであることが見て取れた。
軍服か儀式用の衣装かと思える装いだが、とてもじゃないが無名の旅の魔術師が着ている代物ではない。
他国の間者にしてはいささか目立ちすぎだとも思えるが、そういった者の中には様々な主義のものがおり、影に隠れて行動するものばかりではない。
わざと派手に動いてディアナが接触してくるのを待っていたのかとも思っていたが、先ほど会ったときも何も動きがなかったことを考えると判断がつきかねる。
なにしろディアナの『嘘が分かる』能力は交渉において強力な力ではあるものの、逆に言えば単に嘘が分かるだけでしかなく、なんの決め手にもならない力なのだから。
どうせなら『相手の心が読める』能力なら良かったのにとも思うが、実際にその能力を持っていた先祖がとても幸せとは言えない人生だったことを思いだし、小さくため息をつくのだった。




