↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
7/16

6

前話にてロイド伯爵とありましたが、ホックス王国に貴族はいませんので修正しました。

失礼しました。

 王都ホックスから歩いて2~3時間の場所、レッドアン大森林のすぐ側に樵(きこり)の集落がある。

 集落と言っても仕事の間だけ寝泊まり出来るように共同の宿舎や炊事場がいくつか用意されているだけで、寝泊まりしている人数もせいぜい20~30人程度なんだけどね。

 その集落までもう少しというところでローシュが立ち止まった。

 そして耳と鼻をピクピクと動かし私を振り返り唸り声を上げる、狩りで獲物を見つけた時の動作だ。


「近くに魔獣がいるの?」


 がう、と肯定の声をあげるローシュの頭を撫でて、急いで魔獣がいる方に向かってもらう。

 とたんに木々をすり抜けながら今まで以上の速さで走り出すローシュ。

 ゲームではもう1週間くらいすると仕事中の樵たちがゴブリンに襲われて全滅する事件がおこるので念のため早めに警告しておくつもりだったのだけど、もしかしたら私が思っているよりも進行速度が早いのかもしれない。

 高速で景色が流れていく中、やがて木々が開けた場所に出ると私の耳にも喧騒が聞こえ、すぐに数人の体格の良い男たちが多数のゴブリンに取り囲まれているのが見えてきた。

 ゴブリンは緑色の肌と小さな角を持つ小柄で醜悪な人型の魔獣で殆どが1レベルなのだけど数匹体格の良い2レベルのが混ざっているみたい。

 すでに戦いは始まっているらしく、樵たちは斧やナタでゴブリンは棍棒や小剣を手にして互いに打ち合い血を流しているものも多い。

 ギリギリ間に合ったかな!


「突っ込むよ!」


 一言で私の意を汲んだローシュが私を背に乗せたまま突撃すると、囲みの外側から突っ込んであっという間に1匹のゴブリンの首を噛みきった。

 突然の出来事にゴブリンたちが狼狽している間に私はローシュから下りて樵たちに合流する。


「味方だよ! 援護するからなんとかもう少しがんばって!」

「おいおい、お嬢ちゃんは冒険者かなんかか?!」

「詳しくは後でね。まずは生き残ろうね」

「おう、そりゃそうだな。おい、お前ら。もう一踏ん張りするぞ!」


 見上げるほど背の高い厳ついおじさんがどうやらまとめ役らしく、他の3人たちを叱咤激励しつつなんとかここまで持たせていたようだ。

 それでも多勢に無勢だったせいだろう、無傷の人はいない。

 皆がどこかしら怪我をしており、輪になっている中央では1人が腹から血を流して意識を失っていた。


「あの狼も味方だから倒すのはあの子に任せて、おじさんたちはとにかく身を守ることだけ考えて!」

 

 倒れている男の人の服をまくり上げ、取り出した回復ポーションを腹の傷に振りかけるとみるみる内に傷口が塞がっていく。

 下級ポーションなのでまだ安心は出来ないが応急処置としては十分でしょ。

 

「アレが味方か! そりゃ心強いな!」


 ゴブリンの棍棒を斧で受け止めたおじさんの視線の先には高速で走りながら次々とゴブリンをはじき飛ばし、噛み殺していくローシュがいた。

 そこからは一方的な展開だった。

 いかにローシュとはいえ止まった状態で多数のゴブリンに囲まれれば怪我ぐらいするかもしれないのだが、ローシュと私たち、どちらに対処するべきか統制がとれていないゴブリンは右往左往したあげく個々にローシュの牙の餌食になっていく。

 さらに樵の人たちが守ってくれている間に私が魔術で攻撃する。


「魔力よ集いて敵を討て、マジックブリット!」


 拳大の青い魔力の弾丸が大きく弧を描き樵のおじさんと打ち合っていたゴブリンの頭を撃ち抜いた。

 撃った後も誘導できるマジックブリットはこういった混戦では使いやすいね。

 その後こちらの優位は変わらず、18匹ものゴブリンを全滅させることが出来た。

 まあ、大半はローシュが倒したんだけど。


「俺は樵のウルスだ。ありがとうな嬢ちゃん、助かったぜ」

「いやー、間に合ってよかったよ」

「嬢ちゃんは冒険者か? あんな強い魔獣を連れているなんて凄いな」

「いやいや、冒険者じゃないんだ。私は魔術師のユーナ。それでこっちは私の使い魔のローシュ、見ての通りの強さだけど普段は大人しい子だから安心してね」


 ウルスさんは、私が名乗ると何か納得したのか大きく頷いた。


「おう、塩採りの奴らを助けてくれた魔術師ってのは嬢ちゃんか」

「助けたって言っても成り行きだけどね、っていうか知ってるんだ?」

「塩採りと樵と狩人は大森林で仕事をしてる仲間だから、よく情報交換してるんだよ。あっちに友達(ダチ)も多いしな」


 がははっと笑いながら握手してくるウルスさん。

 私より頭二つは大きいので大変な迫力だけど気の良い人みたい。

 しかし意外なところで友好的な反応がもらえたな、人助けはしておくものだね。

 ……あれを人助けと言って良いかどうか微妙な気もするけど。

 その後、私たちは一緒に樵の集落に戻ったのだけど、その前にウルスさんたちはゴブリンの魔石を集め、私に渡してくれた。

 怪我をしているんだから無理しないで良いと言ったのだけど、助けてくれたお礼らしく、回復ポーションの代金も必ず返すと言っている。

 見た目は厳ついのになんだか律儀な人たちだ。

 

 

 集落に到着するとちょっとした騒ぎになった。

 丁度、切り倒した木材を取りに行く用意をしていた人たちが私たちに気づいたのだけど、私以外はもれなく血まみれだし大きな狼が一緒だしで、そりゃ騒ぎになるよね。

 すぐに人が集まり事情の説明やら傷の手当やら色々やっていたら、落ち着いた頃には日が暮れはじめていた。

 私は水場を借りて返り血を浴びたローシュを綺麗に洗ってやり、その後はゆっくりと木陰で休んでいたのだけど、治療を終えたウルスさんが手を振ってやってきた。


「恩人を待たせちまって悪いな」

「構わないよ。それよりも怪我は大丈夫なの?」

「俺はかすり傷だよ。ロイの奴は腹を刺されたからかなり危なかったが、回復ポーションを使ってもらったお陰で落ち着いてるな。意識も戻ったし休んでいれば大丈夫だ」


 ロイさんは戦いの時に倒れていた人で、突然表れたゴブリンに真っ先に襲われてしまったらしく意識の戻らないロイさんをウルスさんが抱えて帰ってきたんだよね。

 かすり傷と言ってはいるけどウルスさんだって何カ所も打撲や切り傷を負っているのに、本当にタフだ。


「それにしても本当に助かったぜ。よくあんな所で襲われてるのを気付いてくれたよ」

「気付いたのは私じゃなくてローシュだけどね」

「おお、その狼が気付いてくれたのか。ありがとうよ」


 私に寄り掛かられてクッションとして現在活躍中のローシュにウルスさんがお礼を言うと、ローシュは少し目を閉じたまま尻尾を一振りした。


「大したことじゃないってさ。それで一段落ついたのならちょっと大切な話があるんだけど」

「大切な話?」

「そう、今日ウルスさんたちはゴブリンに襲われたけど、これからも同じことがおこると思うんだ」

「おいおい、縁起でもないことをいうなよ」


 苦笑しておどけたように言うウルスさんだけど、その目は笑っていない。

 実際にゴブリンに襲われた直後だから当然だね。


「塩樹の森にフォレストウルフが出たのは知ってるみたいだけど、その理由がわかってきたんだ」

「うん? 冒険者がその辺を調査してるって話は聞いているが、お嬢ちゃんも依頼を受けたのか?」


 うんうん、冒険者の人たちも大森林で何度か見かけたね。

 フラウベルさまがしっかりとお仕事してくれているみたいでありがたい。


「違うよ。私は自分の研究の為に調べてたんだけど、どうも大森林の深い所で魔獣が大量発生してるみたいでさ。そこに住んでいたのが浅いところに追いやられているみたいなんだよね」

「おいおい、フォレストウルフだって十分をヤバイ魔獣だぜ。それを追いやるなんてよっぽど数が多くないと無理だぞ?」

「そうだね、だからよっぽどなくらい大量発生してるってこと」

「……確かなのか?」

「ここ何日か森に入ってゴブリン討伐をしていたけど、日に日に増えてるよ。その上でさっきのアレだからね」


 証拠とばかりに採れたての魔石をジャラジャラ見せると、ウルスさんはそれを見て難しい顔をする。


「すぐにでもヤバイ感じか?」

「それなりに数を減らしはしたけど、私の考えが正しければ明日にはまた出てくるかもしれない。ここはホックス王国では大森林から一番近い集落だよね? まっさきに狙われるとしたらここだと思うよ?」

「そうか……」


 ため息をついたウルスさんが後ろで私たちの話に耳をそばだてていた他の男たちを振り返った。


「おい、聞いていたな! ここにいると魔獣に襲われるかも知れないってわけだ、急いで撤収するぞ!」


 おおっ、見事な即断即決だね。

 そんなに急がなくてもいいんじゃないかっていう意見もあったけど、ウルスさんが説得して本気だと分かるとすぐに従っていた。

 それにしても私を信じすぎじゃないのかと思い聞いてみると、ここ何日か作業中にゴブリンなんかの魔獣を遠目にだがよく見かけるようになっていたらしい。

 とはいえ襲ってくるわけでもないし、たとえ襲われても4~5匹程度ならなんとでもなると思っていたとのこと。

 それがあんなことになったので、多少は無理をしてでも安全をとることにしたようだ。

 他の樵たちもウルスさんを信頼しているらしく、一度撤収すると決めたら作業場を片付け作業が済んでいた木材やら道具類やらを運搬用馬車の荷台に積み込み、ほんの小一時間で準備を終えてしまった。


「よーし! それじゃあさっさと帰るぞ!」


 ウルスさんの呼び掛けに樵たちが大きな掛け声を返す。

 そろそろ日も傾いてきているのだけど、今日のうちに帰るつもりらしい。

 邪魔にならないように少し離れているとウルスさんがやってきた。


「それじゃあ俺達はホックスに帰るが、嬢ちゃんはどうするんだ?」

「そうだね、良ければ一緒についていっても良いかな?」

「おう、良いぞ。荷台でよければ乗っていくか?」

「ありがと。でも私はローシュに乗っていくから大丈夫」


 樵の人たちも歩いていくようだし、普通の馬よりかなり大きい馬だけど、それでも山と積み上げた木材などを運ぶところに私まで乗って負担をかけるのは可愛そうだ。

 ……もちろん私一人乗っても誤差の範囲だとは思うけどね!

 ローシュの背に乗り、ウルスさんと並んで進む。

 これなら日が落ちてからそう遅くならずにホックスに到着できそうだ。 


「戦いでも頼りになるし乗ることも出来る。使い魔ってのは凄いんだな」

「使い魔も色々だよ。ローシュは特別に優秀なんだ」


 ローシュの背中に乗り頭を撫でると当然だとばかりに澄まし顔をしているが、尻尾は左右に降られている。

 ローシュは素直じゃないね。

 夜の移動だ、念のためチッチを呼び出してホックスに着くまで、道のりを時折偵察しながらも、ローシュやチッチと戯れ、ブルスさんや他の樵たちと話し、なかなか有意義な時間を過ごすことが出来た。

この後は1日1話で何回か更新する予定。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。