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 ホックス王国は今でこそ辺境の小国だが大陸でも有数の長い歴史を持つ国だ。

 もっとも都市と言える大きさの街は王都しかなく、他には幾つかの宿場町と農業や畜産を行う多数の村があるだけであり、他国からは塩の輸出だけが取り柄の小さな国としか思われていない。

 小さな国なので王族はいるが他に貴族はおらず、王と民の間が近いのも他国から低く見られる原因なのだが、ホックス王家はその手の評価を気にすることなく民と手を携えて国を守ってきた。

 3年前に前王が亡くなり現在のホックス王家は3人の姉妹のみとなったが、長女のディアナを女王として妹たちは勿論、前王時代の家臣達も一丸となっている。

 

 その日の夕方、女王であるディアナ・ディアス・ホックスは執務室で警備隊からの報告を受けていた。

 執務室内には女王ディアナと父王の時代から宰相を勤めているロイド、そして王国軍の制服を着たフラウが居る。


「それで、そのマイナさんという魔術師の方はどう言っているのかしら?」

「はい、大森林の魔素が増えているのは異変の前兆であり、近い内になにか起こるだろうと」

「そう、それは困ったわねえ」

「問題が起こる前に王国軍を派遣して大森林の調査を行うべきだと思います」


 のんびりと普段と変わらぬ様子で小首を傾げる姉の姿に、本当に困っているのだろうかと思いながらフラウベルは自分の考えを伝える。

 先王である父が若くして亡くなってしまった為に3年前に王位についた姉は能力的にはなんの問題も無いのだが、20歳になった現在でもまだ少女のような雰囲気を持つ人物で、姉妹の中では最も常識人だと自負しているフラウベルとしては自分が支えなくてはとの思いが強い。


「お待ちくだされ。フラウベル様のご心配も理解できますが、そもそもその魔術師の言うことが信用できるのでしょうか?」

「ロイド、心配するのもわかるけどベルの勘の良さは貴方も知っているでしょう?」


 グラナス・ロイドは文官として仕え始めてからすでに50年、宰相になってからも20年という王国の生き字引のような人物であり、ディアナとフラウベルにとっては生まれたときからの付き合いだ。

 自然、2人の性格や能力もかなりの部分で把握している。


「幼少時より見てきましたからな、フラウベルさまが本能的に危険を見分けることに疑いはもっておりませんが、それでも王国軍を動かし大森林の調査を行うとなれば手間も費用もかなりのもの。民の不安も招きます。素性もしれぬ魔術師の言葉を根拠にすることは出来ません」

「そうねえ……」


 ロイドがこういった話し合いの場で反対意見を出すのはよくあることだった。

あえて異論を挟むことで話の流れではなくしっかりと考えた上で方針を決定するよう若い女王とその妹に求めているのだとディアナもフラウベルも知っている為、2人はもう一度落ち着いて方針を考える。


「まずはマイナさんがどんな方なのか良く知りたいわね。ベル、貴方が危険がないと思うのなら直接会って話を聞きたいわ」

「私が話したところ隠していることはあるようですが、騙そうとしていたり害意をもっていたりということはありませんでしたので準備します」


 フラウベルの直感に頼りすぎにも思えるのだが、直感と言うには精度の高すぎる危機察知能力は彼女の周囲では有名でありそれを疑うものは居ないため、ロイドも文句は言わなかった。


「大森林の調査はまず冒険者組合に依頼を出すのはどうかしら」

「そうですね。塩樹の森にフォレストウルフが出たのは間違いないことですから、塩の採集を安心して行うためにとすれば、問題もないと思います」


 ディアナとフラウベル、2人の会話に時折ロイドが口を挟みながら基本方針が決められ、その後細かい所をロイドを筆頭とする文官で煮詰めた結果、魔術師マイナを王城へと呼ぶ手筈が整えられ、翌日には冒険者組合へ大森林調査の依頼表が届けられたのだった。


⬜


 フラウベルさまが訪ねて来てから数日、私は森で魔素集めをしている。

 魔素を集める方法は2つ。

 1つはダンジョン支配域内に生物が一定時間以上存在する、または死亡すること。

 もう1つはダンジョンマスター及びその配下が生物を殺すこと。

 そしてダンジョンマスターは本来ダンジョン支配域から外にでることが出来ないが、配下にその制限はないので初期のダンジョンではむしろこの方法で魔素を集めるのがセオリーだったりするんだよね。

 なお、生物の中でも人族が一番効率良く魔素を発生させてくれるのだけど、可能な限り人族を害する気はないので今回は魔獣が狙いだ。

 

 昼頃に洞窟を出てローシュに乗りレッドベル大森林の奥へ向かうこと約1時間、徒歩なら3~4時間はかかる場所で、私は何度かの戦闘を行い、今も魔術補助用の杖を手にサヴェッジラビット3匹と戦っていた。

 サヴェッジラビットは犬ぐらいの大きさの兎の魔獣、その強さは個体差があるけど基本的に1レベルなので戦闘の練習相手には丁度良い。


ギギッ!


 威嚇の叫び声をあげ襲いかかってくる3匹のサヴェッジラビット。

 初めて魔獣を目の前にしたときにはかなり怖かったけど、何度も戦闘を繰り返している内に慣れてきたみたいで、今ではしっかりとその動きが見えるようなっている。

 サヴェッジラビットは強靭な後脚で地を蹴り飛び跳ねて移動し、攻撃方法としては鋭い前歯での噛み付きと頭からの突撃がある。


「魔力よ集いて敵を討て、マジックブリット!」


 真語の呪文詠唱で発生した青色の魔力の弾丸を先頭のサヴェッジラビットに向けて放つと若干の誘導性もあるので上手く頭部に着弾し仕留められた。

 だけどその結果が分かる前に足はすでに動き出している、というか初めの頃悠長に結果を待って突っ立ってたらローシュにメチャクチャ怒られたんだよね。

 木を盾に使って大きく回り込み、右側のサヴェッジラビット1匹だけを相手に出来るようにしてから牙を向いて飛び掛かってきたその腹に魔弾を撃ち込んだ。

 詠唱無しで放ったので威力は弱かったが、それでも仕留めることは出来た。

 私を追って近づいてくる残り1匹を見ると、丁度飛び掛かろうとしている所だった。


『シールドッ!』


 短縮詠唱によって発生した魔力の盾が空中でサヴェッジラビットを弾く。


『魔力よ集いて槍となれ、マジックジャベリン!』 


 威力が大きいかわりに狙いを付けなければならないマジックジャベリンだけど、これだけ近ければ問題ない、狙いを外すことなく最後のサヴェッジラビットの胸を貫けた。

 念の為に3匹が死んでいるのを確認してから周囲を見回すと、私の戦いを見守ってくれていたローシュの姿につい苦笑が洩れた。


「ありがとうね、ローシュ」


 大したことじゃないとでも言いたげに小さく鳴いたローシュの足元には3匹のサヴェッジラビットが血を流し倒れている。

 私が戦っている間、周辺を警戒してくれていたので近づいてきたのを仕留めたのかな。

 剥ぎ取りしやすいようにここに集めておいてくれたようだ。

 サヴェッジラビットは革も肉も売れるし、魔獣なので心臓の中には魔石が入っている。

 安物だけど実は無一文の私には貴重な収入になるので手間を惜しまずに6個の魔石を剥ぎ取り、血抜きをして内蔵を抜いた肉はそのまま保管庫に収納する。

 保管庫はダンジョン内に設置できる施設で、ダンジョンマスターなら何時でも何処でも出し入れ可能という便利なものだ。

 ダンジョンの外に出ても使えるのかが不安だったけど、問題なく使えているので有り難いね。

 大きさは現状で6畳間くらいしかないけれど、後で広げることも出来るので余裕が出来たら広げたいな。

 獲得したを魔素を確認するためにオペレーションボードを呼び出して、ダンジョンポイントを確認してみる。


「今日はこれで15体。魔素ポイントは1レベル15匹で150ポイントか。数が多くなって来たね、予想よりも早く規模が大きくなっているかな」


 ゲーム知識でこの後の展開はある程度わかってはいるものの、私が知っているのはあくまでもゲーム開始時点、つまり私が転生してきた時点のものでしかないんだよね。

 そこから1ヶ月が過ぎてどうなっているのかをここ数日の狩りで確認していたのだけど、私の予想よりも魔物が多い。

 さすがに今の私のダンジョンの規模ではレッドアン大森林になんらかの影響を与えていたりはしないと思うけど、のんびりしていて被害が大きくなるのも目覚めが悪いし、情報提供でもしてこようかな。

 

「ローシュ、この後は東の樵の集落に向かうよ。ローシュの足なら、そう時間もかからないと思うけど、お願いね」


 ローシュの背に乗り、首の後ろ辺りをわしゃわしゃと強めに撫でるとちらりとこちらを見てから小さく頷き走り出した。

 振り落とされないようにローシュの背中にピッタリと張り付き、驚くほどの速さで進む景色を楽しむ。

 どうやらローシュは私を背に乗せて走るのが好きなようで、時折大きくジャンプしたり木と木の間をギリギリですり抜けたりと悪戯をするのでちょっと心臓に悪い。

 風の魔術を使っているのか風圧もそれほど感じないし、しっかり掴まっていれば落ちることもないので好きにさせている、というか実に楽しそうでやめさせるのは気が引けるんだよね。

 こういった魔獣の個性のようなものを感じると、本当に現実になったんだなと実感する。

 うちの子が良い子でよかった。

次は21時に。

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