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ダンジョンのある洞窟に戻った私は地上部分に作った出入口から入ってすぐのカモフラージュ用の部屋で一息ついていた。
カモフラージュ用とはいっても、入口には簡単な扉を備え、壁、床、天井は滑らかに整えてあり、テーブルやソファが置かれて簡単な煮炊きも出来るようにもなっている。
この世界のそれなりに裕福な家庭の居間と比べて遜色ないものなので、ダンジョンにいるときにはこの部屋で過ごすことが多い。
今もお茶を飲みながら深くソファに座り込み中空を見つめているのだけど、これは別に疲れているとかじゃない。
私の脳裏には配下の魔法生物から送られてきた映像が映し出されているので、そちらに意識を集中している状態なだけだ。
その魔法生物はリレイバードのチッチ。
いわゆるゴーレムと同系統の魔法生物であり召喚して呼び出すことができるんだけど、空色の雀のような外見で結構可愛い。
戦闘能力や飛ぶ速さはそれなりだけど、さすがに普通の猛禽類に捕食されるようなこともないし、なによりも特殊能力として契約を結んだ者にリレイバードの見た光景を伝えることが出来るので、偵察用としてダンジョンマスターに人気だったりする。
まあ、半日も経つと魔力切れを起こしてしまうけど今回みたいな場合は十分。
今、送られてきている映像は、先ほど別れた塩採りの人達を追いかけていったもの。
村に到着した彼らは樹塩を倉庫のような建物に運び込み始めたが、リーダー格の青年マイクともう1人が村でも大きな家屋へ入っていき、しばらくするとマイクが馬に乗って村を出て行った。
方角的にホックスへ向かっているみたい。
誰を呼んで来るかにもよるけどまあ予想通り動いてくれているね。
「チッチ、ありがとう。もう戻っておいで」
あれも追いたいけど制限時間が心配なので、そろそろ帰ってきてもらおう。
一つ頷き意識を切り替えると、視界が本来の自分のものになる。
のんびりと寝そべっていた一角狼のローシュが気付いて目を開けたので、歩み寄ってしゃがむと毛並みをすくようにして背中を撫でる。
「先は長いけど、なんとか第一歩ってとこかな」
やっとスタート地点に立った。
ある種の達成感を感じるけれど、実際にはまだまだこれから。
気持ち良さそうに目を細め尻尾を振るローシュと戯れながら、私はこれまでの一ヶ月を思い出す。
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そもそもは女神さまに呼び出され、私が転生を受け入れたところからだろうか。
「それでダンジョンの設置場所なんかの希望はあるのかしら?」
そう聞かれ、私は逆に女神さまを質問攻めにしてしまった。
その結果分かったのは私が転生するのはゲームのスターティア世界、それも最新バージョン開始時の世界情勢だということ。
私のゲーム知識は問題なく使えるが、現実世界になるにあたっての変化もある。
ダンジョンの仕様はゲームと同じではあっても、一定の経験点をためるとレベルアップするようなことはなく、あくまでも成長は現実通り。
ダンジョンマスターも転生の際に様々な特殊能力や魔法、剣などの技能を得ることが出来るが、その成長や新しい技能の取得には経験と訓練が必要になってくる。
「以外に現実的なんだ?」
「それはそうだろう、まぎれもなく現実なんだからな」
「確かに」
「それで? 方針は決まったのかね?」
再度の問い掛けに頷く。
「私のダンジョン運営の方針は、愛されるダンジョンです」
「ほう、愛されるダンジョン!」
「はい、ここ最近の私のプレイスタイルですし、現実の世界ならなおさらですよ」
ダンジョンの王道で行くとすれば、それは数限りない人命を代償にして成長させていくことになる。
そして地球の日本で普通に暮らしていた私にはそんな血塗られた道を進んでいく覚悟なんてない。
そりゃそうでしょ?
ならば他の道を選ばなければならないし、私にはその方策がある。
「参考までにもう少し具体的な話も聞けるかね?」
「勿論」
ゲームの知識と神様の話によるとこの世界のダンジョンの多くは最終的には攻略されてしまうのだけど、実は攻略されずに生き残っているダンジョンもそれなりに存在しているようだ。
地下百階を超えると言われるルフィーユの大迷宮など難易度が高く攻略不能と言われているダンジョンもいくつかあるのだけれど、一丁一石で作れるものじゃないし、そんなものを作り上げるにはどれだけの人を犠牲にしなければならないのかわからない。
ゲームの時ならばそれなりに割り切りもしたが、現実でやる気にはなれない。
最近はいかに犠牲を少なくダンジョンを運営していけるかを試行錯誤していた。
小規模であっても攻略されずに生き残っている迷宮もあり、私が目指すのはそちらだ。
「少々、虫が良すぎるように思うのだが」
「難しいのは承知の上だよ」
では、そのためには何が必要なのか?
それは適度な難易度であったりダンジョン内でお宝が得られることであったりもするのだけれど、なによりも大きいのがダンジョンが存在する場所を管理しているものが、それなりに力を持つ組織であり、ダンジョンの有用性を認め、保護すること。
たとえば辺境の地で現地にすむ住人たちが便利な稼ぎ場だと認識して攻略することなくダンジョン内で得られるお宝や資源を得る為に毎日ダンジョンに潜るようになったとする。
彼らは十分な安全を考えているので死亡することはないが、ダンジョンの支配域にいる間にその生命力や感情をダンジョンに与えつづけることになるので、効率は悪いがダンジョンを運営するだけならばそのままでも何の問題も無い。
「うむ、そこまで持っていければ成功なのでは?」
「残念だけどこれじゃあまりにも人の善意を信じすぎだと思う」
「悪いことではないだろう?」
「道楽でやるんならね。命がかかっているならそうも言ってられないよ」
例えば、そこに攻略可能な実力の冒険者がやってきたとして、彼らが現地の住人に配慮するような者たちならばなんの問題もないが、もし彼らがただお宝を狙うだけのものならば、躊躇なくそのダンジョンは攻略されてしまうだろう。
現地の住人がどれだけ騒ごうと、彼らには関係のないことなのだから。
だがしかし、これが大陸において国家として保護されているところならば、そうはいかない。
国として保護することを宣言し、ダンジョン攻略を禁じているのにそれを無視すればその国はもちろん他の友好国においても犯罪者として追われることになるのだから。
もちろんそれでも絶対安全とはいえないけれど、まず目指すところはそこになる。
ではどうすれば国の保護を受けられるのか?
「その結論が、愛されるダンジョンってこと」
本来敵同士の関係では簡単なことではないけれど、方法は色々ある。
そう、例えば共通の敵がいる場合とかね。
楽しそうに私の話を聞く女神さまからさらに詳しい情勢などを聞き、ゲームで得た知識なども使って、条件の良さそうなダンジョン設置場所を私は決めた。
次は明日の7時に。




