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 そこは正方形の小さな部屋。

 継ぎ目のない滑らかな白い壁と灰色の床にはホコリ一つ無く、中央には一抱えもある大きな水晶球、迷宮の魂石が浮かんでいる。

 ダンジョンメーカーのスタート状態そのままだね。

 一先ず両手を見てみる。

 うん、間違いなく私の手。

 続いて身体と顔を触り、頬をつねってみた。


「痛い」


 思いのほか強くつねってしまったらしくジンジンと痛む頬をさすっていると、ベタではあるけれどこれが夢ではないとようやく思えてきたよ。


「本当に転生したんだ」


 声に出すとますます実感が湧いてくる、となればやることをやらなければ。

 部屋の中央へ進み、水晶球に触れながら呟く。


「ダンジョンメーカー、起動」


 透明に澄んでいた水晶球が虹色の輝きを宿し、ゆっくりとその場で回り始める。


「オペレーションボード、展開」


 水晶から一歩下がって命じると目の前に半透明なタブレット画面のようなオペレーションボードが現れた。

 慣れ親しんだ操作画面に触れ、開始直後のお約束としてダンジョンの状態や自分のステータスを確認していく。

 迷宮の魂石は起動すると共に大地や大気から生命力や感情を吸収しはじめ、魔素へと変換し貯蔵を始める。

 ダンジョンマスターはその貯蔵した魔素を使いダンジョンを創造していくのだが、一ヶ月ほどすると半分は今までどうり貯蔵するものの、残りは周囲や大地へと放出をはじめる。

 それでも始めの魔素量は微々たるものだが、魔素が濃くなっていけば魔術の素養のあるものには感知されるようになり、魔素を好む種族、魔獣なども寄ってくる。

 迷宮の魂石は破壊したものに膨大な魔力を与えるし、超級弩級の魔法装置の心臓部としても使用され、人の世では莫大な価値で取引されるので狙う者は後を絶たないが、もし迷宮の魂石を奪われたり破壊されればダンジョンは勿論、ダンジョンマスターも死ぬことになる。

 せっかく転生したのにそれは勘弁してほしいよね。

 それを防ぐには開始から一ヶ月の間に可能な限りの準備を整えておく必要がある。

 一ヶ月は長いようであっという間。

 今は僅かな時間も惜しいので、次々に確認をすませていたけど自分自身のステータスを確認したところで操作していた指が止まる。


「漆黒の戦装束?」


 生まれ変わる前に受けた一通りの説明では基本的にはゲームの仕様と同じだと言われていたのだけど、装備欄に見慣れない装備品を発見してしまった。

 随分と大仰な名前の装備品、どうやら服みたいだね、……服?

 ふと下を向き自分の身体を見下ろすと細身の身体を包む黒い衣装があった。


「これだ!」


 本来なら見た目はそれなりの普通の服を身につけているはずなのに、私は女神さまから頂いた制服風の衣装を着たまま。

 落ち着いた黒い生地の各所には光沢のある黒糸で刺繍が入っており、丈の短いジャケットの首元を飾るショートタイは赤、ボタンとカフスは銀、下は膝下丈のスカートとブーツ。

 うん、なんだか凄い格好だね。

 転生の際に、見た目が10代まで若返っているはずなのがありがたい。

 実年齢でこれはヤバすぎる。

 果たして私に似合っているのかとかそういう疑問も沸いて来るわけだが、とりあえずその辺は横に置いておこう。

 私の場合、転生とはいえ元々この世界に組み込まれているシステム内のことなので、常識外な力、いわゆるチートな力を与えることは出来ないと言われていた。

 あまり期待してはいけないのだけれど、それでも多少の期待を込めて装備欄の漆黒の戦装束をタップして解説を表示する。


「うわあ、女神さま奮発しすぎ……」


 その能力を見てちょっと引いた。

 いや、ありがたいけどね?

 さて、ではここでダンジョンマスターの基本的な能力を確認してみよう。


1、ダンジョンの管理者でありダンジョンの心臓部である迷宮の魂石と一心同体である。


2、あらゆる場所から迷宮の魂石の元へと即座に移動することが可能である。


3、ダンジョンの貯蔵魔素を利用することによって、ダンジョンの拡張や改造、ダンジョンモンスターの創造、魔法の品を含む各種物品の製造、などが可能である。


4、ダンジョンから生命力の供給を受けており生命力や魔力の回復能力を持つが、生存可能なのは支配域内のみであり、支配域から出てしまうと生命力の供給が止まり、やがて死亡する。


5、肉体及び精神の破壊の他、迷宮の魂石の破壊やダンジョンの支配域からの持ち出しによって自身への生命力の供給が止まることでも死亡する。


 大雑把に五つにまとめると、こんな感じ。

 これを踏まえた上で、漆黒の戦装束の解説を見てみよう。


漆黒の戦装束:女神の戦装束を模して作られた衣装であり神器。ユーナ専用に作られたものであり高い物理魔術防御力を持ち、身体能力及び魔力の上昇とダンジョン支配域外での活動が可能となる特殊能力を有する。


 以上。

 色々と驚くところはあるんだけど、一番重要なのはダンジョン支配域外での活動が可能になる点。

 一口にダンジョンと言ってもその形状は典型的な洞窟型や塔型、城型などから森林型に火山型、海洋型にそれらの複合型と色々あるわけだけれど、本来ならダンジョンマスターはそのダンジョンから離れることは出来ない。

 ゲームではダンジョンの支配域から出ると即座に生命力の減少が始まり最高レベルまで育てきったキャラクターでもゲーム内時間で10分もしない内に死んでしまった。

 これがどうやら解決できそうなわけだ!

 せっかく異世界へと来たのにダンジョンから出れないのは残念と思っていたら、来た瞬間にもう解決だなんてこれは女神さまに感謝だね。

 ダンジョン内に神棚でも作って奉ってもいいかもしれない。

 いやいや、むしろ本拠地を神殿にしちゃうか?


 やりたいこと、やれることがぐっと増えてますます楽しくなってきた。

 

「これは思った以上に忙しくなりそうだね!」

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