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ユウとカオは森の中、多少の間を開けて前後に並び獣道を進んでいた。
気配の察知に長けたカオが先行して索敵し、獣人ならではの5感の鋭さを持つユウが後方からより広範囲に気を配る、それがいつものスタイルだ。
大森林に入って2日目、順調に進んでいる2人はダンジョンが発生してからは最も深い場所までやって来ていた。
「やっぱり以前とは地形が変わっているわね」
「ん、気をつけよう」
鬱蒼と茂る木々に遮られ昼間だというのに薄暗い森の中、これまで見慣れた景色が続いていたのだが、先ほどからその景色が2人の記憶には無いものへと変わってきていた。
それは則ち今進んでいる場所が既にダンジョンの支配域へ入っていることを示していた。
ダンジョンにおいて気をつけるべきことは危険な魔獣だけではない。
様々な罠は勿論、地形的魔術的な迷路なども多いのでダンジョンの探索が始めての2人は慎重にゆっくりと歩みを続けた。
しかしそれから罠どころか今まで時折襲ってきていた魔獣すら姿を現さなくなり戸惑いを感じはじめた頃、急に視界が開けた。
「……花畑?」
黒と緑の世界が一転、そこには色鮮やかな花の絨毯が広がっていた。
太陽を浴びて煌めくその場所は暗い森の中から出てきたからこそ、なお一層の開放感を与えてくれた。
「はあ、なんだか一息つけるわね」
「ん、視界も良い。休憩する?」
決して気を抜いたわけではないが、それでも幾分リラックスして2人は花畑へと足を踏み入れ辺りを見回した。
始めてのダンジョンということでかなり緊張していたのだろう、疲れていたのも確かなので荷物を降ろし腰を落ち着けようとしたところで、カオがユウの腕を掴んだ。
「待って、虫が居ない」
「え? 虫?」
狐獣人であるユウは視力や聴覚、嗅覚が人族に比べてかなり効くのだが、生来の気質の問題なのか危険に気がつくのは何時もカオが先だった。
だから今回のカオの言葉も危険を知らせるものだとすぐに分かった。
花畑を出るべく走り出した2人の立っていた地面から木の根が突然飛びだしたのは、まさにその瞬間だ。
後を追うように次々と襲ってくる木の根を間一髪で逃れた2人が続いて響いた轟音に振り向くと、花畑が盛り上がり地が裂け無数の木の根が幾重にも重なって出来た見上げるほどの巨体が姿を現した。
「……これ、なに?」
「えっと、多分だけどトレントかな?」
「トレントなの?」
「うん、マイナさんの本によるとトレントの亜種は、特殊な擬態をしてくるらしいから。ただ攻撃方法や弱点は変わらないはずだわ」
「了解!」
手早く打ち合わせを終えた2人が走り出す頃、トレントの幹というか胴体部に亀裂が出来て目を口を形作る。
さらには2束の木の根が腕のように別れ、大きく振り上げられた。
目の位置に裂けた空洞の奥からは赤く揺らめく魔力の光が灯り、巨大な口から獣の咆哮が響き渡る。
ビリビリと空気を震わす咆哮に弱者ならば威圧されて動けなくなるところだが2人は違った。
僅かに頭上の狐耳を伏せるだけでやり過ごし、ユウはトレントに向けて走り出した。
『我が内に宿りし魔力よ、火炎と成りて我が身を隠せ』
小刻みに左右に体を揺らしながら疾走するユウの体がユラリと歪んだ。
その足元を花を散らして木の根の槍が貫くが、紙一重でユウを捕らえることは出来ない。
そんな攻撃に頓着することなくトレントの前まで達したユウは足を止めることなく刀を抜き放ち巨大な腕を切り裂いた。
一抱えもある木の根が数本ちぎれ飛び、トレントは怒りの咆哮と共に残った腕を振り下ろしたがユウの姿は既になく地面を叩くことしかできなかった。
『魔力よ集え、風と成りて敵を貫け』
その時、いつの間にかトレントのすぐ近くに槍を振りかぶったカオが走り寄っていた。
詠唱を終えると、構えた槍の穂先が白く輝く。
走った勢いと体の捻り、さらには風の魔術のすべてを乗せた一撃がトレントの本体を削り取った。
本体の半ばまで達した攻撃だったがトレントは動きを止めなかった、傷の周囲を軋ませながらも根を動かし意外な程の速さでカオに体当たりをする。
巨体を避けきれないと判断したカオは体の前に槍を横にして構え受け止めつつ、その巨体を蹴り付けて勢いよく弾き飛ばされると花畑の中で数度転がって勢いのままに起き上がり後ろに下がる。
「こっちよ!」
カオを追撃しようとしていたトレントに、再び駆け寄ってきたユウが大声を上げながら縦横に刀を振るい細い無数の根を断ち切ると、地面から突き出る根の槍や腕の振り下ろしをかい潜り距離をとった。
「怪我は大丈夫?」
「問題ない。攻撃範囲は15mくらい」
「そうね、体当たりには驚いたけど、他はどうにかなると思うわ」
「回復も厄介」
「問題はそっちよね」
地面から引き抜いた根を動かし近づいて来るトレントだが、その巨体に刻まれた傷も切り落とされたはずの根も半ば治って来ている。
その歩みは遅いとは言わないが決して逃げられないほどではない、しかしユウもカオも逃げるつもりはなかった。
「まずは削って機が来たら、アレで仕留めるわよ」
「ん、対処は任せて」
「わかったわ。それじゃあ……行くわよ!」
「ん!」
楽しげに笑みを交わすと左右に別れトレントに向かって走り出した。
ユウは陽炎のようにその身を揺らめかせながら巨体の周囲を走り回り向かって来る根の槍を全て切り飛ばし、カオは風を纏わせた槍で振り下ろされる腕を受け流し今だ治りきっていない本体の傷口を削り取る。
傷を受ける度に怒りの叫びを上げるトレントはますますその攻撃を激しくさせ、少しずつユウとカオも手傷を負うが2人の動きが鈍ることはなかった。
そして一際大きくトレントが咆哮し目の奥の明かりが瞬くのを見たカオが大きく槍を振りかぶった。
「ユウ! 来た!」
「オッケー!」
合図を受けたユウはカオの背の後ろに控える尻尾をピンと立て太く膨らませながら詠唱を始めた。
『魔力よ集え、集え魔力よ。火炎の如く燃え盛り我が友の力と成れ』
魔術の発動によりカオの槍が炎に包まれるのと、大きく身を震わせたトレントの体中から無数の根の槍が射出されたのはほぼ同時だった。
カオが振りかぶっていた槍を大きく振るうと槍に宿った風と火は業火となって根の槍をことごとく打ち落とし焼き尽くす。
根の槍による全方位攻撃を終えたトレントが一瞬動きを止めたその瞬間、ユウはカオの背の後ろから飛び出て刀を横凪ぎにして2つの目を切り裂いた。
「今よ!」
「ん、これで終わり!」
弾丸の如く飛び出たカオは今だ業火を纏う槍をトレントの本体深く突き刺した。
『鋭き風よ、猛き火炎よ、今こそその力の全てを解き放て。「爆炎烈風撃!」』
瞬間、トレントの体内で業火が荒れ狂い、その巨体は上下真っ二つに折れて力無く地へと倒れ込んだ。
ユウはゆっくりと倒れたトレントに近づくと確かに倒したことを確認して大きく飛び上がった。
「やった、やったよ! 凄いよ! トレントを倒しちゃったよ!」
「ん、私たち強い!」
ブンブンと尻尾を振って喜ぶユウと手を合わせてカオも満足げに頷く。
実際問題としてトレントは4レベルの魔獣だ。
通常ならばたった2人の3レベル冒険者で倒せる相手ではない。
しかも2人ともそれなりに手傷を負っているとはいえ、戦いは終始彼女達の狙い通りに進めることが出来た。
そのことは大きな自信となり、ユウとカオはこのトレント討伐を機にさらなる成長をしていくことになるのだった。
明後日に第2話の最終話を投稿予定です。




