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スターティア世界における『侍』というのは大陸東方の蓮花国における騎士階級の戦士たちのことを指す言葉なのだが、転じて連花国で普及している武器戦闘術を使う者達のことも『侍』と呼ぶようになった。
その戦闘術には様々な流派があるのだけれど、その全ての基本として魔力を使って自らの肉体能力を強化する『練術』がある。
つまり何が言いたいかというと……。
「ちゃんと修業をしている侍は魔力の操作を常に行っているから、魔術を使う素養がかなり育っているはずなんだ」
「それは侍は魔術師にもなれるってこと?」
「大雑把にいえばそういうことだね」
夜になり、月と私が出した魔術の明かりに照らされた空地に私達は3人で集まっていた。
私はいつもの格好だけど、ユウとカオは鎧を脱いで自分の武器だけ持っている状態だ。
温泉から出た2人と話したときに色々と聞き出した結果、私の話に興味をもったので詳しく教えることにしたのだけれど、2人の希望で他の人が見ていないときにしたいとのことだったので、ニコライさんが帰るのを待っていたらこの時間になってしまった。
「繰り返しになるけど侍は練術の鍛練によって魔術の使用に必要な魔力操作と魔力量を自然と身に付けてるわけだね」
ゲームのときに侍にこだわった人たちが見つけだしたことなんだけど、蓮花国のある東方ではともかく案外この西方では広まっていないのかな?
これが分かって魔術と組み合わせるのが有効だと知ったから、私も調子にのっていろいろな技を作ったなあ。
昔を思いだしながら2人に基本の魔力操作から教えていくのだけれど、流石というべきか2時間もする頃には最低限とはいえ問題なく魔力操作が出来るようになってしまった。
「なるほど、確かにこれは練術」
「そうね、全身に力を漲らせるところを必要な所に必要な分だけ集める感じだわ」
胸の前でボールを持つような形で構えた両手の間に魔力を集めながら話す2人。
会話をしながら出来るようになったのなら、とりあえずは十分かな。
「うん、問題なく出来ているね。あとはその集めた魔力に真言の詠唱で世界の法則を刻み込んで、火や水に変化させたりしていくんだけど、今日はもう魔力もギリギリだよね?」
「結構使ったのは確かだけど、まだまだ大丈夫よ」
私の問いに答えたユウさんの言葉にカオさんも頷く。
とはいえ、明らかに疲れが見える。
無理をして魔術を暴発とかされても大変なので、ほどほどの所にしておかないとね。
「やる気があるのは良いけど1日でどうにかなるほど甘いものじゃないし、先はまだまだあるんだから焦らずにじっくりと取り組もうね」
「……じっくり教えてくれるの?」
「勿論、中途半端なことはしないよ」
「そっか、それじゃあお言葉に甘えようかな」
「ん、お願いする」
そんなわけでじっくり教えることになったわけだけど、そうは言っても私も知識はあっても現実のこの世界での経験はないので、これからは手探りでの鍛練になった。
翌日からはパラパラとだけどベースキャンプや温泉を使うお客さんも増えてきたし、ユウとカオは昼間は大森林の調査をして夜になってから鍛練をするという日々だ。
「それじゃあ今日の所は魔力を純粋な力場に変化させてみようか。そのまま飛ばせば飛び道具としても使えて、ちょっと形を変えれば盾にも成るから便利だしね」
力場への変化は基本なので魔力操作が出来るのなら難しいことじゃない。
私がよく使うマジックブリッドもこれに誘導性能を付け加えたものだし、基本的な防御魔術であるマジックシールドも力場の変化で可能な魔術だ。
「詠唱の文言は『我が手の中に集いし魔力よ、形を取りて力と成れ』だよ。なんて言っているのかしっかりと言葉に意味を込めて結果を想像するのが大事だから、始めはゆっくりと言ってみて」
詠唱は魔術言語である『真語』で行う。
普段使っている大陸共通語とは全く違う魔術専用の言語なので、抑揚や正確な発音も難しいのだけど、魔術を発動する為にはなによりもどういった魔術を使うのかという想像力が必要なので、まずは私が同じ魔術を使っているところを見てもらってから細かい解説をしていく。
これは流石にそう簡単にはいかなかったけど、それでも3日も経つと形になった。
そこからは「火」「水」「土」「風」の基本4属性の初級魔術を教えつつ、他にも適性のある属性を探って行った。
そんなこんなでさらに一週間も経つ頃には、魔術の力を加えた新たなを新技を2人とも開発することができたので、腕試しの為にと2~3日かけての探索に向かった。
大森林で新たな動きがあったのはそんな時だった。
「やっぱりトレントが出たんだ?」
「そうなんじゃよ。ギバルのパーティを中心にした10人で探索をしていたようなのだが、樵の集落から2日ほどのところでトレントに襲われたらしくてな。3人が犠牲になってしまった。マイナ嬢ちゃんから気をつけるように言われていた魔獣なんじゃがなあ」
厳しい顔で唸るのはニコライさんだ。
トレントは4レベルの魔獣で見た目は巨木そのもので枝や根で攻撃をしてくる上、普段は樹木に擬態しているのが特徴で、森林型ダンジョンでは定番のボス魔獣なので冒険者組合としても注意を促していたし私も対処法などを伝えていたんだよね。
本来は人里離れた森や山の奥深くに棲息している魔獣で、戦いとなればとにかく耐久力が高く自然回復もするのでかなりの攻撃力がないと倒すのは難しい上、木々に紛れて待ち伏せしてくるので先に気付かなければ初手でかなりの被害をうけることが多い。
ギバルがリーダーをしているパーティは3レベルの冒険者4人で構成されているのだけど、今回は若手を育てると言って2レベルの4人組パーティと荷物持ちとして新人を2人連れて探索に出たらしい。
1日目は順調だったのだが、順調だっただけに進みすぎてしまい2日目にはついつい予定よりも深部に入ってしまったとのことで、結果として新人1人とギバルのパーティの内2人が亡くなってしまった。
今回の大森林探索で初の死亡者だ。
「若い奴が死ぬってのはいつになってもいやなものじゃな」
「そうだね」
私が直接会ったことがある相手はいないけれど、それでもベースキャンプを始めて10日ほどでそれなりの数の冒険者には会っている。
冒険者の生死は自己責任ではあるけれど、無事に帰ってきてほしいな。
「そういえばユウとカオも今回はこれまで以上に奥まで行くと言っておったが大丈夫かのう」
元々顔見知りでは会ったのだけど、ここ数日でニコライさんもあの2人とかなり親しくなっていたこともあって心配そうだったが、私は少し考えて明るい声で返した。
「むしろあの2人が遭遇したら、倒してくれると思うよ?」
「ほう、随分と2人を評価しておるんじゃな?」
「対トレント戦の問題は不意打ちへの対策と倒せるだけの攻撃力を持っているかだからね。あの二人なら問題ないもの」
2人の鍛練に付き合っていて分かったのだけど、彼女達が2人組で冒険者を続けていられたのにはちゃんと理由があった。
攻撃役、防御役、探索役、回復役の主に4つの役割に分けられる冒険者だけど、ユウは速さを活かした防御役とポーションでの回復役を、カオは範囲攻撃と単体強打を併せ持つ攻撃役と高い感知力を活かした探索役をそれぞれ高いレベルで兼ねていた。
あえて言えばユウの回復役、すなわち治療や援護が多少物足りないものではあったが、それも今回の鍛練でかなり改善された。
なによりも彼女たちの新技はかなり役に立つだろう。
「ふむ? もしや夜に何やらやっていたことと関係があるのかね?」
「まあ、それは秘密ってことで。でも、期待して良いんじゃないかな」
ニコライさんが好奇心を覗かせて聞いてきたので笑って答えると、私の余裕ある様子に納得したのか仕事へと戻って行った。
その後ろ姿に手を振りながら、私は新技の開発が一段落したときのユウとカオ、2人との会話を思い出していた。
彼女たちは師匠から武術が一人前になったらさらに学ぶべきことがあると言われていたらしい。
それは奥義と呼ばれるもので、侍の武の神髄だと。
「だけど師匠は私たちが冒険者になってすぐ、急にいなくなってしまったの」
「奥義は習得できないと思っていた」
そもそもとしてホックス王国のある大陸西北部に侍はほとんどいない上、奥義を知っている者となると相当の実力者なのでさらにその数は少ない。
例え実力者の侍を見つけることができても奥義はその流派の者にしか教えることはないのでお師匠さんを見つけなければ奥義を習得することは出来ないと思っていたらしい。
ユウとカオは顔を見合わせて笑い合ってから、私に向かって頭を下げた。
「マイナちゃん。あなたの知識はとても貴重なものだわ。私たちからすれば宝石のようなものなの。本当にありがとう」
「うん、恩は忘れない。困ったら言って? 助ける」
日本でも今時なかなか見ることが出来ない背筋の伸びたしっかりとした礼だった。
どちらかと言えば興味本位で教えていたので、なんだか気恥ずかしいな。
「私が教えたくて教えたんだから気にしないで良いよ。まあでも、これからも仲良くしてくれたら嬉しいかな」
2人は、勿論だよと答えてくれた。
思い出して1人でニマニマと笑っていると、袖を引っ張られた。
見るとローシュが袖を引っ張っており、温泉の方を見ろと鼻先を向けている。
「あ、お客さんだね。教えてくれてありがとう、ローシュ」
私はローシュの頭を一撫でしてから温泉の入口で話している3人の冒険者達の元へ向かった。
「やっほー、魔女のベースキャンプへようこそ。温泉のご利用ですか?」




