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さて、いよいよ昨日から冒険者組合にこのベースキャンプの宣伝が出ているはずなんだけど……誰もこなかった。
素材買い取りをどうするか冒険者組合と話し合った結果、こちらに人を派遣してもらえることになったんだけど、せっかく来てもらってこれじゃあ申し訳ないよ。
「気にせんでよいよ。大森林に入るにはやはり樵の集落辺りからの方が近いからのう、あっちから行ってるんじゃろ。帰りも日帰りのは基本的に入ったところから出ていくで、来るとすれば2日目の今日からじゃよ」
朝になり馬車でやってきた冒険者組合のニコライさんに挨拶に行くとそう言ってくれた。
ニコライさんは冒険者組合の元職員で素材買い取りの専門家なんだけど現在は引退して人手が足りないときだけ手伝いをしているスキンヘッドが素敵なおじいちゃんだ。
今回も冒険者組合の要請を受けて復帰、このベースキャンプに来てくれている。
「それよりも客がいないのなら温泉に入らせてもらおうか」
「あはは、すっかり気に入ったみたいだね」
「うむ、湯舟にゆっくり浸かるのがあれほど良いものだとは思わんかったよ」
実は冒険者組合がここの視察に来たのだけど、その時のメンバーにいたニコライさんは温泉に入ってすっかり気に入ったらしく、さっさと自分の担当にしてしまったらしい。
その時に一緒に来ていた受付嬢さんが出来れば自分が担当したかったと悔しがっていたので、温泉の評価は上々、何よりだね。
その後、温泉から出たニコライさんと世間話をしたりローシュの子分となったフォレストウルフ達と遊んだりしているとオヤツの時間になってやっと始めてのお客がやってきた。
「いらっしゃい。魔女のベースキャンプへようこそ」
フォレストウルフに案内されてやってきたのは2人の女性冒険者だ。
1人はユウ。
狐の耳と尻尾を持つ獣人族で軽革鎧と刀を装備している。。
剣ではなく刀かあ……スターティア世界じゃあ珍しいんだけど、もしかして蓮花国出身だったりするのかな?
笑顔が可愛くて愛想が良い人懐っこい印象の女性。
万が一、侍だったりすると面白いな。
もう1人はカオ。
黒髪ロングの人族で硬革鎧と短槍を装備している。
もの凄い美人さんでこちらもニコニコと笑顔でいるのだけど、話すのはユウさんに任せているようであまり口を開かない。
2人はまず収納力拡大の魔術が掛かった鞄、マジックバックから3レベルのハンマーヘッドボアを始めとした多数の魔獣を取り出してニコライさんに買い取りをお願いしている。
3レベル魔獣を2人で倒したとなるとホックス王国ではトップクラスの冒険者なのかな。
……っていうかニコライさんがハンマーヘッドボアを片手で担いで運んでるね、2人が驚いていないってことは何時ものことなの?
うーん、見た感じ体格も良くてカクシャクとしてはいるけど普通のおじいちゃんなんだけどなあ。
この世界の人は見た目じゃ判断できないね。
お、どうやら査定が終わったみたい。
ニコライさんが組合印の入った割り符を渡してる、アレを冒険者組合に持っていくと換金できるわけだね。
「あ、マイナちゃん。温泉を使いたいんだけど、どうすれば良いの?」
思っていたよりも報酬が良かったのか上機嫌なユウ。
カオはいつの間にやらフォレストウルフを1頭捕まえてお座りやらお手やらを教えている。
うん、フォレストウルフが私を見て助けを求めているので2人を誘って温泉に案内した。
「わあ、遠目にも良さそうだったけど、やっぱり雰囲気良い!」
「温泉は久しぶり」
大工さんによってあの土壁には木目も美しい塩樹を加工した木の板が貼付けられ、しっかりとした天井が洗い場と浴槽を覆っている。
壁の上部や海側の一部に大きな明かり取りの窓があるので閉塞感もない。
2つ並んでいる扉はそれぞれ男湯と女湯への入口だけど、引き戸を開けると番台があってそこにいる家事用のマジックドールに入浴料10エイビスを払ってもらう昔懐かしの銭湯スタイルにした。
「それじゃあ、ゆっくり楽しんで」
一通り入浴時の注意などを聞いて温泉に入った2人を見送り、私はニコライさんの元に向かうと予想通り魔獣の解体をしているので見学させてもらった。
基本的に血抜きはすぐにしないといけないらしく冒険者の方でやってくるとのこと。
私も聞きかじりの知識で行っていたけれど、より正しい方法を教えてもらった。
しかし見事だね、みるみる内に毛皮が剥がされて各部位に切り分けられていくのを見ているとあっと言う間に時間が過ぎていく。
あれ、そういえばそろそろ1時間くらいになるけど2人とも出てこないな。
大丈夫だとは思うけど一応覗きにいくと湯舟でまったりと蕩けていたので、のぼせないように声だけかけて、さらに30分ほどしてやっと出てきた2人に冷たいお茶を渡す。
「あー、美味しい! 風呂上がりの冷たいお茶は最高だわ!」
「ん、ありがと」
「あはは、それで温泉はどうだった?」
「どうだったもなにも最高だよ! あんな高級な浴場なんてお貴族様でもないと入れないって!」
うむ、目を輝かせて力説するユウを見るに満足してもらえたみたい。
それでカオはユウの尻尾を抱きしめているけど、どうしたの?
「髪洗い用石鹸、凄すぎる」
「そう! あの液体の石鹸で髪と尻尾を洗ったらツヤツヤフカフカになったの! 普通の石鹸もなんか良い香りがするしホントに使い放題で良いの?」
「温泉の利用者にはずっと無料で使ってもらうつもりだから気に入ってくれたならよかったよ」
石鹸とシャンプーは自由に使ってもらうことにしたんだけど……そうか、獣人の人のことを考えると思ったよりもシャンプーの消費量が多いかもしれない。
いやまあでも喜んでもらえてるみたいだし、人を集めるには効果あるかな?
どうやら2人は明日からもう一度大森林に行くらしいので、冒険者組合が設置してくれた無料のテントを使ってもらうことにして、情報収集がてら世間話を続けた。
人懐っこいユウは勿論、カオも始めは人見知りしていたようだけど慣れてくると色々な話をしてくれた。
ホックス王国のことや冒険者の常識などは知っていることも多かったが、やはり細かいところまでは把握出来ていなかったので勉強になった。
「なるほど、そうするとホックス王国で冒険者を続けるのはやっぱり厳しかったんだ?」
「そうなの。次の春には帝国に出稼ぎに行こうかカオとも話してたのよね」
「迷宮都市には興味あるから」
フォリート帝国はホックス王国の北にある国で冬になると雪に閉ざされてしまう山岳地帯にある。
鉄などの鉱山資源が豊富なのだけど、帝国には15年前に出現した地下ダンジョンを中心に発展した迷宮都市と呼ばれる街があり、そこには新人から熟練者まで多くの冒険者が集まっている。
「出稼ぎなの?」
「私とカオは幼なじみなんだけどホックスで育ったからね、なかなか故郷から動く気にはなれないのよ」
「そうなんだ。そういえば気になっていたんだけどユウは刀を使っているんだよね?」
「ええ、侍だからね」
「あ、やっぱり侍なんだ、そうするともしかしてカオも侍だったりする?」
ユウが侍だと聞いてうんうん頷きそれならもしかしてとカオに聞くと、意外そうな顔で答えてくれる。
「うん、私も侍。……刀じゃないのに何で分かった?」
「なんでもなにも、刀は侍の象徴だけど槍だって使うでしょ? 幼なじみなら同じ師匠に習ったんじゃないかと思っただけだよ」
「侍は刀って思っている人、多いから」
刀と槍とはいえ侍2人のコンビとはずいぶん前のめりだなあ。
冒険者は基本的にパーティと呼ばれる数人の仲間で仕事をするのだけど、理想は攻撃役、盾役、探索役、回復役を揃えることになる。
これは護衛から採取、討伐、探索と色々な仕事に対応できるようにする為なんだけど、実際にはこの4つの役割を全て揃えているパーティはなかなか珍しい。
大抵は探索役と回復役は他の役割と兼業する形になる。
理由は色々とあるのだけど、なんにしろ2人は少ない。
「回復役とか探索役とかを仲間にしないの? 2人じゃ手が回らないんじゃない?」
「うーん、ホントは入れたほうが良いのかもしれないけど、なかなか難しくてね」
「一度組んだころもある。でも駄目だった」
「駄目っていうと?」
「相性っていうのかな。ずっと一緒にいるわけだから、合わないとキツイのよ」
若干言葉が足りないカオさんをユウさんが補足する。
んー、相性かあ。
2人が分かりあっている分そうじゃない人が入ってくると違和感があるとかなのかな?
「回復はポーションとかでなんとかなるんだけど、魔術が使えないと困る場面があるからなんとか魔術師を仲間にしたいとは思っているんだけどね」
「ん、ゴーストが出てきたときは苦労した」
ゴーストっていうのアンデットという分類の魔獣で、実体がないので魔術が使えないと倒すことが出来ない代表格なんだけど……あれ?
というかまるで魔術が使えないような言い方だけど侍なんだよね?
「あの、侍なら秘技でゴーストくらいなんとでもなるんじゃないの?」
「凄いわね、秘技まで知っているんだ。でも秘技は非実体系の相手には最低限の効果しかないの」
「いやいやいや、秘技だけならそうだけど魔術を組み合わせれば問題ないでしょ?」
「え? なんで魔術が出てくるの?」
不思議そうなユウさんとカオさん。
えっと、話が噛み合っていないなあ。
これはもしかして?
「一応聞くけど侍と魔術の相性の良さは分かっている?」
「え?」
「魔術との相性?」
再び不思議そうな顔をする2人。
あーこれは本当に分かってないみたいだね。
暫くは客待ちしかすることないかと思っていたけど、どうやらやれることが出来たみたいだ。
こうして私のダンジョンの支配域に居てくれるだけでも少しずつ魔力を分けてもらえているわけだけど、それはどんな相手でも一定というわけじゃあない。
簡単に言ってしまえばレベルの高い者ほど多くの魔力を与えてくれるわけだ。
個人的にも気に入ったし、この二人にはぜひとも強くなってもらおう。
「今日はベースキャンプに泊まるんだよね? それならちょっと時間作ってくれるかな?」
「え? それは良いけど……」
「それじゃあ、今日から魔術の特訓ね!」
「は? 魔術の特訓?」
「私たちが?」
困惑する2人をよそに私は最強の侍を作り出すために何をするべきか、考えはじめたのだった。




