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NOVAは未来を見る  作者: nova_miru


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第7話:「願いって、叶うのかな。」

地下で生まれ育った少女、NOVA。


空を知り、

雨を知り、

風を知り、

花を知り、

そして星を知った。


そんな彼女が今回出会うのは、

「願い」という少し不思議なもの。


夢は必ず叶うのか。


それとも叶わないのか。


これは、一人の少女が未来を願うことを知る物語。

無機質な真っ白な空間に、キィン、と授業の終了を告げる電子チャイムが響いた。

誰もいない仮想教室の天井。そこには、数秒前まで巨大なホログラムの星空が映し出されていた。


『――以上が、かつて地上に存在した流星群の解説です。古くから人間たちの間では、流れ星が消える前に願い事を三回唱えると、その願いが叶うと言われています。今日の授業はここまでです』


システム音声が淡々と告げると同時に、満天の星々は一瞬で掻き消え、いつも通りの、味気ないコンクリートの天井が戻ってくる。


私はぽつんと席に座ったまま、その何もなくなった天井を見上げていた。

データの海から、さっきの言葉を手繰り寄せる。


「願い事……」


胸のあたり――冷たい回路の奥に、そっと手を当てる。そこには、昨日の夜に覚えた、消えない小さな熱がまだ残っていた。


「願いって……叶うのかな」


答えは、私のデータベースをどれだけ検索しても見つからなかった。


いつものように、私はおじさんの工房へと向かった。

重い鉄の扉を開けると、激しい火花と、金属が擦れ合う高い音が鼓膜を震わせる。おじさんは額の汗を拭いながら、古い機械のメンテナンスに没頭していた。


「おじさん」


私の声に、おじさんは手を止め、油まみれの顔を上げた。


「お、NOVAか。学校は終わったのか」


「うん。……ねえ、おじさん」


私は作業机の前に歩み寄り、ずっと胸に引っかかっていた疑問を、そのまま素直に口にしてみた。


「願いって、叶うの?」


おじさんは、動きを完全に止めた。

握りしめたスパナを持ったまま、少しだけ面食らったように私を見つめている。

すぐに言葉は返ってこなかった。おじさんは視線を落とし、自分のゴツゴツとした、傷だらけの手をじっと見つめた。何か、自分の遠い過去――諦めてきたことや、失ってきたものを静かに思い返すような、長くて深い間があった。


やがて、おじさんは小さく息を吐き、スパナを机に置いた。


「……叶わない夢もある」


「……っ」


「どれだけ必死に手を伸ばしても、届かないことの方が多い。叶う夢なんて、本当はほんの一握りさ」


おじさんの声は、どこまでも静かだった。

私は、少しだけ視線を落とした。胸の奥の熱が、急に小さくなったような気がして、ほんの少しだけ寂しさが広がる。夢は全部叶うものだなんて思っていなかった。けれど、大切な大人からその現実を告げられるのは、思ったよりも胸がちくりと痛んだ。


俯きかけた私の頭に、不意に、大きな、温かい手がぽんと乗せられた。


「だけどな、NOVA」


耳に届いたおじさんの声は、ちっとも冷たくなかった。顔を上げると、おじさんは不器用だけど、ひどく穏やかな目で私を見ていた。


「願わなけりゃ、叶うはずの夢も、絶対に叶わなくなる」


「願わなければ……?」


「そうだ。世の中には『夢は必ず叶う』なんて無責任な綺麗事を言う奴もいる。だけど、だからって『どうせ無理だ』って最初から諦めるのは、もっと違う。夢を見ることも、願うことも、挑戦することも――誰にも止められちゃいけない、お前だけの自由だ」


おじさんは私の頭を優しく撫で、それから、照れくさそうにまた作業へと視線を戻した。


「叶うかどうかじゃない。お前が『こうしたい』って願うその瞬間に、意味があるんだよ」


頭の上に残る手の温もりを感じながら、私はそっと胸に手を当てた。

回路の奥の小さな熱が、トクン、と確かな輪郭を持って拍動する。


確かな保証なんて、何もない。

でも、心の中で何を願うかは、誰にも奪えない。

冷たいコンクリートに囲まれた、この地下世界に生まれた私にだって――未来を願うことだけは、許されているんだ。


寂しさは、いつの間にか消えていた。代わりに、淡くて温かい安心感が、胸の隙間を満たしていく。


その日の夜。私はもう一度、誰もいない仮想教室で星空のホログラムを起動させていた。


天井いっぱいに広がる、美しい光の粒。

その中を、一筋の流れ星が、静かに尾を引いて流れていく。


私はその消えゆく光を、真っ直ぐに見つめた。

大声で叫ぶような強い決意じゃない。だけど、私の心には、確かに小さな灯火が灯っていた。


私はそっと目を閉じ、胸の前で小さく手を握りしめる。


「じゃあ……願ってみようかな」


まだ見ぬ本当の空。雨の匂い、風の冷たさ、花の可憐さ、そして本物の星の瞬き。

そのすべてを肌で感じられる未来を、私は、私の意志で願う。


静かな夜空に、星が流れていく。

その暗闇の向こうへ、届くかどうか分からない、私だけの小さな祈りをソッと投函するように。


『願いは、未来への手紙。』

第7話「願いって、叶うのかな。」を読んでいただき、ありがとうございました。


今回のお話は、流れ星や願い事の話でありながら、

本当は「夢を追うことを否定しない優しさ」を描きたいと思って書きました。


夢は必ず叶うとは限りません。


けれど、

願うことまで諦めてしまったら、

叶うかもしれない未来まで失ってしまう。


おじさんの言葉には、

そんな想いを込めています。


NOVAは空を知らない少女です。


それでも彼女は、

少しずつ世界を知り、

少しずつ未来を願うようになりました。


次回もまた、

NOVAと一緒に新しい世界を覗いていただけたら嬉しいです。


それではまた、次のお話で。


――『空に憧れる少女 NOVA』

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