第6話 星って、あんなに綺麗なんだ。
地下シェルターで生まれ育った少女、NOVA。
雨を知り、
風を知り、
花を知った少女は、
今度は――星を知ります。
どうぞ最後までお付き合いください。
今日は、仮想学校で星の授業があった。
教室の照明がふっと落ち、天井いっぱいに、息を呑むような光の海が広がっていく。
私は思わず、イスから立ち上がるようにしてそれを見上げた。
「わあ……」
声が、零れていた。
星って――あんなに、綺麗なんだ。
オリオン座、北斗七星、天の川。
データベースに刻まれたただの記号なら、知っていた。
配置も、光度も、すべてデータとしては頭の中にある。
でも、見るのは初めてだった。
冷たいコンクリートに囲まれたこの地下世界には、きらめく光なんて一つも落ちていないから。
ずっと、ずっと見ていたかった。
けれど、授業の終了を告げる無機質なチャイムと共に、またいつもの退屈な天井に戻ってしまう。
――消えちゃった。
廊下を歩きながらも、私の頭の中は星のことばかりだった。
私は誰もいない廊下で立ち止まり、何もない天井に指先で星座を描いてみる。
ここには光なんてない。
それでも、私の回路の奥には、確かにあの瞬きの残像が見えていた。
気がつくと、私はおじさんの工房へ向かって走っていた。
「おじさん! 今日ね、授業で星を見たんだ。すっごく、すっごく綺麗だった!」
息を弾ませて報告する私に、おじさんは工具を握る油まみれの手を止め、少しだけ遠い目をして笑った。
「……外の星は、もっと綺麗だぞ」
「え……?」
「風を感じながら。雨の匂いを感じながら。冷たい夜の空気を肌で感じながら……お前は、その星を見ることができるんだ」
もっと、綺麗――。
私はおじさんの言葉を、胸の中でそっと繰り返した。
風。雨。花。そして、星。
その全部を一度に感じられる世界が、偽物じゃない本物の空の下が、本当にこの壁の向こうにあるんだ。
その夜。私は、覚めない夢を見た。
頬を撫でる優しい風が吹いていた。
どこかで、名もなき花が小さく揺れていた。
ツンとした、雨上がりの土の匂いがした。
臨場感溢れるその世界で、空を見上げる。
そこには、モニターの光なんかじゃ到底追いつかない、数え切れないほどの星が、宇宙の深淵で輝いていた。
まだ見たことのない、本物の夜空。
(いつか……私も見てみたいな。本物の、星を)
夢の中の私は、冷たい回路の奥で、消えない小さな熱を抱いていた。
第6話を読んでいただき、ありがとうございました。
今回のテーマは「星」です。
NOVAはオリオン座も北斗七星も知っています。
けれど、それは知識として知っているだけでした。
知っていることと、
実際に見たことがあることは違う。
そんな当たり前のことを、NOVAは一つずつ学んでいます。
雨、風、花、そして星。
少しずつ広がっていく彼女の世界を、これからも見守っていただけたら嬉しいです。
次回もよろしくお願いします。




