第12話「戦友」 ――気付いたら、隣にいた。
第11話「友達になりたい。」の続きです。
勇気を出して「友達になってください」と伝えたNOVA。
しかし、その想いは届きませんでした。
落ち込むNOVAへ、ヴォルクは初めて自分の過去を語ります。
それは、二百年前――
まだ彼が人間だった頃の、「戦友」の記憶でした。
# 第12話「戦友」
## シーン1 工房
「――友達って、こんなに難しいの?」
膝を抱え、小さな身体をさらに丸めながら呟いたNOVAの問い。
その言葉は、古びた工房の湿った空気に溶けて、静かに消えていった。
ヴォルクは握っていたスパナを、ゆっくりと作業台へ置く。
鉄の仮面の奥で、電子の瞳がわずかに明滅した。
その身体は鋼でできていても、胸の奥には、今も消えない人間だった頃の記憶が残っていた。
「友達ってのはな……」
低く、少しかすれた声。
いつも必要最低限しか話さないヴォルクが、自分の過去を語ろうとしている。
NOVAは膝から顔を上げ、じっとその横顔を見つめた。
「俺にも昔、一人だけ親友がいた。」
少しだけ間を置く。
「……いや、『戦友』と呼ぶべき男だな。」
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## シーン2 200年前
それは今から二百年前。
シェルターの天井ではなく、本物の空が広がっていた時代。
まだ全身が生身だった頃のヴォルクは、硝煙と泥にまみれた戦場にいた。
そこで出会ったのが、同じ部隊へ配属された青年だった。
最初は特別仲が良かったわけではない。
名前を交わし、命令をこなし、同じ場所で戦う。
ただ、それだけの関係だった。
ヴォルクは無口。
青年は少しお調子者。
性格も正反対だった。
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## シーン3 少しずつ
けれど戦場は、二人を毎日同じ場所へ閉じ込めた。
泥だらけの塹壕。
冷え切った固形食。
「なぁヴォルク。」
「これ、本当に人間の食い物だと思うか?」
青年が笑う。
ヴォルクも思わず鼻で笑った。
作戦の合間。
青年がどこからか一本だけ手に入れてきた缶コーヒー。
二人で交互に回し飲みする。
ぬるい。
それでも、不思議と美味かった。
夜になると、硝煙の向こうには本物の星空が広がっていた。
「この戦争が終わったらさ。」
青年は空を見上げながら笑う。
「俺、コーヒー屋でも開くよ。」
「静かな田舎でさ。」
ヴォルクは呆れたように笑った。
「馬鹿げた夢だ。」
そう言いながらも、その話を聞く時間は嫌いではなかった。
毎日話し。
毎日まずい飯を食い。
毎日愚痴を言い合う。
特別な約束なんて何もない。
ただ、同じ時間を積み重ねていった。
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## シーン4 戦友
ある日。
絶望的な防衛任務。
爆発。
銃声。
土煙。
砲弾がヴォルクのすぐ近くで炸裂した。
身体が吹き飛ぶ。
動けない。
その瞬間だった。
「死ぬな! ヴォルク!」
青年が飛び込んできた。
敵弾を浴びながらヴォルクを担ぎ上げる。
ヴォルクも残った力で拳銃を構え、背後の敵を撃ち抜いた。
互いに命を預け。
互いを信じ。
死線を越えた。
戦いが終わる。
夕焼けだけが静かに空を染めていた。
二人は泥だらけのまま座り込む。
青年が笑う。
「おい。」
「コーヒー屋。」
「開けそうだな。」
ヴォルクは肩を震わせた。
「……馬鹿。」
二人は顔を見合わせる。
そして自然に肩を組み、大声で笑った。
その時だった。
ヴォルクは胸の奥で静かに思った。
(ああ。)
(気付いたら。)
(戦友になっていた。)
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## シーン5 現在
「――それだけだ。」
回想が終わる。
工房には換気装置の低い音だけが流れていた。
NOVAは瞬きも忘れたように、ヴォルクの話を聞いていた。
教科書には載っていない。
AIも教えてくれない。
人間だけが積み重ねられる時間。
その温かさを、初めて知った。
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## シーン6 答え
ヴォルクは再びスパナを手に取る。
静かに言った。
「友達ってのは。」
「作ろうとして作るもんじゃない。」
「毎日話して。」
「毎日笑って。」
「困った時に助け合って。」
少しだけ笑う。
「そうして。」
「気付いたら。」
「隣にいる。」
「そういうもんだ。」
契約書にサインをするような始まりなんてない。
気付けば、そこにいる。
それが友達だった。
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## シーン7 NOVA
「気付いたら……。」
NOVAはゆっくり呟く。
「友達になってる。」
「そういうものなんだね。」
AI先生が教えてくれた言葉より。
ヴォルクの泥だらけの思い出の方が。
ずっと温かかった。
「ああ。」
ヴォルクは頷く。
「だから。」
「焦らなくていい。」
NOVAは小さく笑った。
昨日よりも。
少しだけ前を向いた笑顔。
「私にも。」
「いつか。」
「そんな友達ができるかな。」
ヴォルクは迷わず答えた。
「できる。」
少しだけ間を置く。
「必ずな。」
その言葉に。
NOVAは安心したように、静かに頷いた。
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### 第13話へ続く
翌日。
仮想学校。
教師AIの無機質な声が教室へ響く。
「――本日の授業は、人間社会における非言語コミュニケーション。」
「テーマは『抱擁とスキンシップ』です。」
画面には、人と人が優しく抱き合う映像が映し出される。
NOVAは目を丸くした。
「抱きしめる……?」
知らない世界は、まだまだたくさんあった。
第12話を読んでいただき、ありがとうございました。
今回は、これまで多くを語らなかったヴォルクの過去を描きました。
友達は「作るもの」ではなく、「気付いたら隣にいるもの」。
これはNOVAだけでなく、私自身がこの物語で大切にしたいテーマでもあります。
次回、第13話では「抱擁とスキンシップ」をテーマに、NOVAはまた新しい人間の文化を知ることになります。
もし作品を気に入っていただけましたら、ブックマークや評価、感想をいただけると励みになります。
それでは、第13話でお会いしましょう。




