俺、バスターになる
ウイルスを討伐してはや2ヶ月。充実した生活を送っていた葛西に起こる次の試練とは……
「暑いな…」
真夏の昼過ぎ、強い陽の光が全身を照らしてくる。
″元″ニートの俺にとってこの暑さはなんとも耐え難いが、せっかく始めた仕事だ。こんな早々に諦めるわけにはいかない。
あの一件を解決してからパソコンを使えるまでには数日かかるようだった。
その数日間いつも通り起きて寝てを繰り返すこともできたが、自分でもわからないことに、なぜか外に出たくなった俺は近所の八百屋のバイトに応募した。
面接当日の朝、支度を終えてリビングに降りてきた俺を見る母さんのあの顔はこの先一生忘れないだろう。
(まさか泣かれるとは思わなかったな…)
「結城くん?ちょっとこっちきてもらえるかな?」
「はい!今行きます!」
「このキャベツなんだけど…」
この人はこの八百屋の店長、青苗一樹さん。ニート歴一年の俺を快く雇ってくれた恩人だ。
面接当日は一年振りにリアルの人間と喋る緊張でまともに会話もできなかったが、結果はその場で即採用。
どうやら母さんがよく買い物に来るらしく、俺の名前と顔を見て採用を決めたらしい。
「…やってもらえるかな?」
「はい!任せてください!」
「ははっ!頼りになるな!…にしても結城くんは随分明るくなったよな」
「はは…そうですね」
面接でほとんど喋れなかった俺に、店長は気を利かせて裏方の仕事を割り当ててくれた。
だがその気遣いに後ろめたさもあり最初の1週間はずっと下を向いていたのを覚えている。
「結城くん!下を向いてばっかだと頭ぶつけるよ!」
「すみません…」
今思えばあれは店長なりの「顔を上げろ」っていうメッセージだったんだろう。
当時はそんなこともわからなかったが、店長とその奥さんの恵美さんの優しさに助けられて今はこれだけ明るく会話できるようになった。
話せるって言っても家族と店長たちにだけだが…
「疲れた…」
家につくやいなや布団に飛び込む。朝から夜までに肉体労働を続けるのは元ニートの俺にとっては過酷だ。
風呂など入る余裕もなく瞼を静かに閉じて眠りにつく。
(これは…パソコン?)
部屋の真ん中に置かれたパソコンが眩い光を放っている。
(夢の中でもパソコンが出てくるなんて、元ニートは伊達じゃないな)
にしても眩しい。夢でもこんな眩しさを感じるものか?それに何か音も聞こえてくるみたいだ。随分とリアルなものだ。
「yuukiさん!!」
「うわっ!」
「びっくりした、エルンまで夢に出てくるなんて…」
「夢じゃありません!早く目を覚ましてください!」
「夢じゃない……夢じゃない!?いやでも俺は自分の部屋にいて、エルンがここにいるわけが…」
辺りを見渡す。一面白で覆われた不思議な空間、だが俺には確かに見覚えのある場所。
そうパソコンの中。
「えっ!なんで俺はここにいんの!?ベットで寝てたはずじゃないのか!?」
「yuukiさん話しかけたらふらふらって歩いて椅子に座って自分の手で来たんですよ?本当に覚えてないんですか?」
「俺が…自分で?」
「はぁ…まあいいです。そんなことより今日はyuukiさんに伝えたいことがあるんです」
「俺に伝えたいこと?」
「はい!」
「いきなりになるんですけど…yuukiさんには…」
「俺には…」
「【ウイルスバスター】になってもらいたいんです!」
「【ウイルスバスター】?」
「はい!言葉通りの【ウイルスバスター】です」
「ウイルスバスターってそんなもんデバイスに既に入ってんだろ。てか人の俺がウイルスバスターなんてできるわけが…」
「あー…そのウイルスバスターと今回なってもらう、【ウイルスバスター】は違うんです」
(勝手になることになってるけど…)
「それでその【ウイルスバスター】ってのは具体的に何をやるんだ?」
「yuukiさんって漫画とかよく読んでますよね」
「あぁ」
「その漫画とかによく、『ギルド』とか出てくると思うんですけど、要はそこでやるようなことをyuukiさんにも頼みたいんです」
「『ギルド』…」
漫画に出てくる『ギルド』といえば一つしかない。
魔物を討伐する冒険者たちが集まり、換金したり依頼を受けたりする場所のことである。
そこでやることなんて…
「それってもしかして面倒くさい話か?」
「いえいえ!そんなことありません!yuukiさんならきっと問題なくやれると思いますよ」
「問題なく、ねぇ…」
「ともかく来て欲しいところがあるんです!まずはそっちの方に移動しましょう」
「いや、まだ俺はやるなんて言って…」
「転送!」
食い気味にエルンがそう口にする。
するとすかさず以前パソコンに出入りした時よりもより歪んだ光に包まれた。
全身が溶けていく。そして完全に溶けきったその瞬間目が覚めた。
「んっ…」
騒がしい。大学時代に一回だけ人数合わせに誘われた
しょーもない飲み会を思い出す騒がしさだ。
「エルン…ここは」
「あっ説明遅れました、ここはバスターズハウスです。漫画で言うところのギルドですね」
「ギルド…もしかしてエルンお前、俺をここに参加させるつもりじゃないよな?」
「勘がいいですね!わかってもらえてるなら話が早いです!今すぐ登録に…」
「待て!誰がやるって言った!」
「え?やらないんですか?」
「やらねーよ!なんてったって…」
(この騒がしさ…こういうのが苦手で大学のサークルをいくつも辞めてきたんだ)
「おいそこの兄ちゃん!新人か?その見た目成人してんだろ、ほらこれ飲めよ!俺の奢りな」
(ほら、言ったこっちゃない。早速めんどくなのに絡まれた)
「おいどうした兄ちゃん、無視はひどいぜ」
「あ、すみません。自分お酒苦手で…」
「なんだ!最初からそう言ってくれよ!あ、名乗ってなかったな。俺の名前は…」
「yuukiさん!こっち来てください!こっちです!こっちこっち!」
(エルン…!このタイミングで助け舟を出してくれるとは意外と気が利くんだな…)
「っと、兄ちゃんペアに呼ばれてるみたいだな。さっ行ってこい。また今度あったらじっくり呑み語りしよう」
「すみません、それじゃあ…」
そう言って俺は席を離れる。振り向くと笑顔でおっさんが手を振ってくる。悪い人ではなさそうだ。
「エルン…助かったよ。にしてもここはなんの場所なんだ?」
「私なにか助けましたか?でもyuukiさんも素直にここに来てくれるって事は覚悟決めてくれたんですね!さすがyuukiさんです!」
「覚悟?」
「君がyuukiくんかな」
さっきの騒がしい広場とは異なり、静かな何もない部屋に置かれた椅子に座っていると、背後から男性の声が聞こえてきた。
「はい、結城ですけど…」
「って誰もいない」
「いるわ!こっちだこっち!どこを見てる」
声をたどるとエルンより小さな男の子?が立っていた。
「なんだその目は!まあいい、君がyuukiくんなんだね」
「はい、てかなんなんですか?ここは」
「え?【ウイルスバスター】の登録に来たんでしょ?もしかしてそこの子に聞かされてないの?」
「エルンっ…」
振り向くとエルンは魂が抜けたように壁を見つめている。
「聞かされてないとなると問題なんだけど…とは言ってもここに入ってしまった時点で登録されてしまってるしねー」
「登録されてる!?どういうことですか!」
「君本当に何も知らないの?あれ見てよ」
「あれって、なっ…!」
『ウイルスバスター情報登録盤』
そう書かれた板が入り口の前に置かれていた。
「なんであんなところに!罠邪魔ないですか!」
「いやー、普通あんなとこらには置いてないんだけど、誰が動かしたのかな?」
「っっ…!」
すかさずエルンを見る。エルンは相変わらず魂が抜けたように壁を見つめている。
「それで、いいのかな?君は。今更聞いても遅いんだけど、一応ね」
「よくないですよ、全く…てかウイルスって大分新しいはずですよね?僕初見で戦わされたんですけど、こんなバスターがいっぱいいるなら僕戦わなくてよかったんじゃないですか!?」
「それも聞いてないのか。エルン、君は何なら説明したんだ?」
エルンは相変わらず魂を抜いているようだ。
「まあ簡単にいうと、この場所自体できたのはここ1ヶ月のことなんだ。君が戦ってから1ヶ月後くらいのことかな」
「実はウイルスと戦ったのは君だけじゃなくてね、あの時以来何体もいろんな場所にウイルスが発生したんだよ」
「そこで、エルンみたいなあるエリアを監視するために生まれた管理者が、1エリアにつき1人だけインターネットに連れて来れることを利用して、ウイルスを討伐していったってわけだ」
「でも、ウイルスの数がだんだん増えてきてね、また人間に来てもらわなきゃいけなくなったんだよ。しかも現れるウイルスにも強さにムラがあってみんながみんな倒せたわけじゃないんだ」
「そこでこのバスターズハウスを作ることにした。そしたら人間をこの場所に正式に登録できるし、複数人での戦闘も可能になるからね」
「今はみんな楽しく飲んだりしてると思うけど、別にまだ既出のウイルスを全部倒せたわけじゃない。既にいくつかのデバイスがウイルスに占領されてて人間の死者も出てる」
「死者!?」
「あぁ…インターネット上だと言っても、ここでウイルスに負けると死に至ることがある。そう言った事は呼び出される前に君も聞いてると思うんだけどね?」
「おい、エルン」
「エルン!!」
「はいっ!!すみませんでした!!!!」
やっと反応した…説明されてなかった怒りのあまり叫んだが、反応したからまあいいとしよう。
「まあ俺は死んでないからまだ許してあげるけど、ね」
「すみませんでした…」
あれから管理長にこの世界についての説明を受けた。
俺にとってエルンはいわゆる『ペア』である事。
そのペアにも色々な能力があって、エルンは『身体能力操作』というものらしい。
他にも『ヒール&ポイズン』、『武器生成』、『加護』、『不屈』なんてのもあるらしい。
どれも俺らより強そうで羨ましい。
「それで、あの人が言ってた通りなら、俺はとにかく依頼を消化してけばいいんだよな?」
「はい。また私たちの能力はこれまで使う機会がなかったのですが、ウイルスを倒すと能力も強化されることがわかりました。なので依頼を達成すればするほど強くなるという理屈です」
「俺の方は変わらないのか?」
「そうですね…仮想トレーニングルーム等がありますのでそちらで練習したり、ヒールもこの場所でならできるので自身でトレーニングしてもらう他はないと思います」
「トレーニングか…」
ランニング程度しかやったことがない俺にできるトレーニングなんて何があるだろうか。
「でもさ、俺は実際だとエルンの能力と一緒に戦うわけでしょ?」
「え?はい、そうですが…」
「じゃあさ、その練習をしようよ。エルンの能力がどのくらい使えるのか、俺もまだ全然慣れてないし、この前も自分の速さに追いついていけなかったくらいだしさ」
「でも、私の能力はこの場所では使えませんよ?」
「あぁ、だから行こう、倒しに」




