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人型のウイルス

(ポータルの中…!!)


一面真っ白なデスクトップとは対照的に、全体が色に囲まれている。見渡す限りでも赤、黒、黄、緑、グレー、、、と無数の種類の色でできていた。


(本来なら他のポータルのように綺麗な青色なのだろうか)


それにしても目的のウイルスがいる気配はない。というより、様々な色が強く光り輝いていて迷彩のような効果を果たしており、段差の有無もなにもよく分からなくなっている。


(そう言えばエルンはどこにいるんだ?)


(いくらなんでも俺だけ飛ばしておいて自分は来ないなんて薄情なことはしないと思うのだが…)


視覚的に不安定である不快感と、エルンがいないという不安に襲われながらも、エルンとそしてウイルスを探すために足を進める。


「うわっ!」


「こんなところに段差があんのかよ…」


(っっ…!!)


倒れた体を起き上げたその瞬間、先程までにはなかった凄まじい緊張感が全身を包み込む。

すかさず周囲を見渡すが、特に変わった様子はない。


(勘違いか…)


再び歩き出そうとしたその瞬間

凄まじい殺気と共に何かが上から飛びついてくるのに気づき思わず身を投げ出す。


「くっ…」


(危ねぇ…なんとか躱せたが…なんだ今のは)


振り返るとそこには、人型の何かが立っていた。


(人…か?いや、でも頭がないし、腕?も3本あるぞ)


(っ…!目が合った!?いや、目はないしそんなはずはないのだが、確実にこいつはこっちに気づいてる)


(来るっ!)


飛びついてくるそれに今度は回避する間もなく、必死に両腕でガードする。

しかし生身の人間である結城が耐えられるはずもなく、数メートル先まで吹き飛ばされる。


「かっ……」


(くそっ、どんな怪力だ……あれ、待てよ、痛くない。そう言えばさっきこけた時も思い切り手と膝をついたが痛みはなかった…もしかして今の俺には痛覚がないのか?)


その人型の攻撃は確かに強力だった。例えるなら時速40キロの車に衝突されるようなものである。

だが結城の体に目立った怪我はなく、痛みも何も感じることはなかった。


(それにしてもこいつ…こいつがあのウイルスなのか?思ってたのはもっと、コ◯ナウイルスとかイン◯ルエンザの病原体みたいなのだったんだが、こいつはどう見ても人型だ。しかも色も赤や緑のようなウイルスっぽい色じゃなく、綺麗な青紫。どこからどこまでもイメージと違うな…)


(とはいえこいつがウイルスならやることは一つだ。都合のいいことに今の俺には痛覚がない。いつもの俺ならビビって諦めてるだろうが今ならやれる)


「お前を、殴り倒す…!」


そう言葉にすると共に結城は今出せる全速力で距離を詰める。運良く人型のそれは止まっている。


(いけるっ!)


完全に詰まった間合い。全身でタックルするように拳を打ち込む。


(当たった…!!)


確かに拳が当たった感覚。痛覚こそないが、全身で打ち込んだ強力なパンチの反動が伝わってくる。

だがその一方で、打ち込んだ″相手″が一切動いていないことも分かっていた。


(効いてない…?)


何かを殴ったことは23年間の人生で一度もなかったが、とはいえ本気で打ち込んだパンチ。それがこんな容易く受けられてしまった。

これはつまり絶好のチャンスをものにできなかったということ。また同じように止まってくれるとは限らない。

その事実が悔しい半分、効くわけがないことも結城は理解していた。


(そりゃそうだ。車みてえな攻撃してくる奴の防御がそんな弱いはずない。仮に車だとしたら俺がどんなに全力で殴っても壊せないのは当然だ)


人型のそれは今度はこちらのターンだと言わんばかりに動き出した。

腕を床につけ四足歩行のように動き出すと、それはあっという間に結城の頭上に現れる。

そしてあるのかも分からない天井を蹴るようにして加速しこちらへ飛びついてくる。


だが結城もただ見ているわけではない。

同じ速さの移動や攻撃なんてことはできないが、それが仕掛けてくるのは一直線の攻撃。


「くっ」


すかさず地面を強く蹴り横に飛び転がる。


闘牛士が自分より遥かに速い牛を躱すことができるように、一直線の攻撃であれば速くても躱すことは可能なのだ。


しかし牛とこいつには違うところがある。


それはこいつには体力という概念がないということだ。


結城の体は痛覚はないが体力は有限である。

一方で人型のそれにはどうやら体力なんて概念は無く、無尽蔵に攻撃を続けてくる。

ずっと俺のターン、という奴である。


(まずい…このままではいつかまた攻撃を喰らう。ましてやこっちから攻撃なんて出来そうにない)


そんなことを考えていると、凄まじい速度で飛びついてきた。


(なっ…!まずい!間に合わない)


「かっ…」


先程より強く当たったその攻撃に、結城の体は10メートル以上吹き飛ばされてしまった。


なんとか体勢を整えた結城が構えを取り直すと、腕から血が流れていることに気づく。


(痛い…)


先程とは打って変わって今度は痛みを感じる。ダメージを負ったことを感じてしまった結城はすかさず腕を押さえつけてうずくまる。


「うぅ…」


(痛いのは苦手だ…なんせ運動なんてダイエットのためにやったランニング程度で、こんな怪我は経験したことないからな)


顔を上げるとそれはすでにこちらに向かってきていた。

脳裏に浮かぶ死という言葉。それは勘違いではないように思えた。


人型のそれの長い腕が結城の顔面を捉える。

顔の骨は粉砕し目玉は潰れ平衡感覚を失う。


そうなっているはずだった。


「痛くない…」


再び10メートルほど吹き飛ばされただろうか。

今度は痛みはなく、代わりに誰かの声が聞こえていた。


「「yuukiさーーん!!」」


「エルン!」


「大丈夫ですか!?どうやらポータルが崩壊してると出てくる場所もランダムみたいで…でもなんとか間に合ったみたいですね」


「あぁ…生きてるみたいだ」


(この世界で死んだらどうなるかなんてのは分からない。ただまた自分の部屋に戻されるだけかもしれない。だがあの瞬間、本気で死の恐怖を感じた)


「俺の体に何をしたんだ?」


「yuukiさんの体にサポートをつけました。普通は現実世界から入ってきたものに干渉は出来ないのですが、yuukiさんは特別私が呼び出したのでサポートできるんです」


「サポートなんてレベルじゃないが…助かるよ」


「逆にいえば私はあのウイルスに触れることはできません。あくまでyuukiさんにしか干渉は出来ないようになってますから」


「やっぱりあいつが例のウイルスなのか」


「はい。以前見たものとは少し形が違いますが、色は同じです」


「ただあいつめちゃくちゃ固えぞ。全力で殴っても全く効かなかった」


「それなら問題ありません。私がサポートすればさっきの何倍もの力で戦えるはずです。それでも効かない場合は考え直すしかありませんが…とにかくやりましょう!」


「あぁ…頼む!」


結城は立ち上がると、再びウイルスに向かって走り出す。さっきよりも体が軽いのがすぐに分かった。

他に変わったところは感じられないが今はとにかく信じることにした。

拳に力を込める。ここまではさっきと同じ、あとはこの拳を目の前のウイルスににぶつけるだけ。


拳を振る直前、ウイルスが目の前から消える。


(読まれた!?)


(さっきまでのこいつは俺の攻撃でダメージを喰らわないことを分かってた。だから何度か触れられることを許していたが、今回は初めて避けた。つまり俺の今回の攻撃にはそれ相応の威力があったということになる)


(なら、いける!)


「エルン!腕力を下げて、代わりに脚力と防御力を上げてくれ!」


「え!あ、はいっ!」


(よし。相変わらず何も変わった感覚はないが、できる)


再び思い切り地面を蹴り出すと、さっきよりも何倍も速く距離が詰まった。


(速い!)


ウイルスもすかさず逃げる。

だが問題ない。結城は先程ウイルスが飛び回る中で壁を蹴って方向を切り替えてきたのを見ていた。

一見壁などない無限の空間のように見えるがどうやらここには壁が存在する。

今度は結城がその壁を使い方向を切り替えて飛びかかる。

逃げられないことを悟ったウイルスがカウンターを打ち込んでくる。


(ここだ!)


このカウンターこそが結城の狙い。

ガードも回避もしない。いや速すぎて出来ないというのもあるが、とにかく結城はそのスピードのままウイルスに詰め寄る。

結城がウイルスに触れるより先に、ウイルスのカウンターが当たった。

しかし結城が怯むことはない。

攻撃を捨てたかわりに上げ切った防御力はウイルスのカウンターももろともせず、結城はそのままウイルスにタックルを仕掛けることに成功した。

地面にウイルスを押し倒す。


「今だ!エルン!」


そう叫ぶと共に結城は拳を振り上げる。

感覚では分からない。でもきっとこれでいい。



放たれた結城の拳はウイルスの体を貫通する。

やがてウイルスは溶けていくように実態を失っていった。


「やった……やったぞ!!!」


「yuukiさん!!」


「エルン!俺、俺、やったぞ!!ウイルス倒したぞ!!!」


「はい!間違いなく倒しました!」


エルンが喜び宙を舞う。

一方の結城は、倒したことによる安堵と戦闘の疲労でその場に倒れ込んでしまった。


「yuukiさん!?大丈夫ですか!?」


「あぁ…大丈夫だ…ちょっと疲れただけだ。なんといっても一年振りの運動だからな」



何時間経っただろうか。

結城はその後ポータルを出たが、エルンはポータル内の修復を続けていた。


「yuukiさん!」


「お!終わったか!」


「はい、なんとか修復できました」


「にしても1体で助かったよ。あれが2体も3体もいたら流石に無理だった」


「そうですね…ポータル内を探し回っても他にいる様子はなかったので、あれが全部だったようです」


「それで俺はこのあとどうすれば」


「任せてください!もうパソコンは使えます。結城さんの部屋に戻しますね!」


「あぁ。頼む」


(なんか寂しいな。久しぶりに人?と話たし、久しぶりに運動した。やっぱり疲れるが、楽しかったな)


ーーーーーーーーーー



来た時に経験した光に再び包まれる。相変わらずこの感覚には慣れそうにない。だが今は少し心地いいような気がした。


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