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付き合ってないのに彼氏面してくる男を、正式に否定したら全部終わった話  作者: そらのことのは


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【第5話】外堀、埋められる

事態は、私が想像していた最悪を軽々と超えていった。


ある平日の夜、風呂上がりにスマホを開いた瞬間——

通知の数を見て、心臓が止まりそうになった。


LINE:未読 31件

インスタDM:未読 18件

通知「メンションされました」:大量


「……何これ。誰か死んだ?」


震える指で、友人からのLINEを開く。


『おめでとう!!!』

『え、聞いてないんだけど!』

『何勝手に匂わせカップルやってんの』

『佐藤と付き合ってるって本当?』


何の話だ。


スッと血の気が引いていくのを感じながら、インスタを開いた。



一番上に表示された通知をタップする。


@satou_XXXX があなたをタグ付けしました


嫌な予感しかしない。


飛んだ先にあったのは、オシャレ気取りのカフェ写真だった。


白い皿に盛られたパンケーキ。

ラテアートのハート。

窓際の席から見える街並み。


全部、見覚えがある。


私が以前、友達と行ったときにストーリーに上げた店だ。

そのとき送った、店内の写真。


それを、佐藤が綺麗にトリミングして、自分の投稿に使っていた。


問題は、そこじゃない。


キャプションだ。


> 『彼女が行きたがってたカフェにやっと連れてこれた☕️

> 念願叶って嬉しそうな顔が可愛かった

> #彼女とデート #幸せ #俺たちの思い出 #カップル』


タグ付け:@私


一瞬、視界が白くなった。


「…………は?」


声が出た。誰もいない部屋で。


恐る恐るコメント欄をスクロールする。


『おめでとう!!』

『え、いつから付き合ってたの!?』

『やっぱりそうだと思ってた〜』

『美男美女カップル〜』

『幸せそう』


いいね数は、見慣れない三桁。


誰も疑ってない。

誰も「本当に?」と聞かない。


前提が「付き合ってる」で、全員が会話してる。


私の意思は、そこに一ミリも存在しない。


これはもはやテロだ。

デジタルテロリズムだ。


私の人生が、リアルタイムで改変されている。


震える手で、佐藤にDMを送った。


「佐藤さん。勝手に私を『彼女』と書いてタグ付けしてますけど、これ普通に迷惑なんで、今すぐ消してください」


すぐに既読がついた。返信もすぐ来た。


『あ、ごめん!嫌だった?でも顔写ってないし、みんな喜んでくれてるからいいじゃん』


いいじゃんって何ですか。私の人生勝手に改変しないでください。


「嫌です。肖像権とプライバシーの侵害です。訴訟の準備始めていいですか?」


『そこまで言う?ていうかさ、みんな祝福してくれてるんだし、良くない?』


良くないです。事実じゃないことを拡散するのは虚偽表示です。


「消してください。今すぐ」


『だって、〇〇を彼女って紹介できるの、嬉しくてさ』


自慢って何ですか。私、あなたの戦利品でしたっけ?トロフィー?剥製?


「本気で嫌なんですけど」


『そう言いながら、ちゃんと返してくれるところ、ほんと優しいよね』


会話が成立しない。


その間にも、通知は増え続けていた。


友人A『やっぱり佐藤と付き合ってたんだね!おめでとう!』

友人B『聞いてないんだけど!?いつから??』

友人C『佐藤の投稿見た。まさかの匂わせカップルだったとは』

友人D『お似合い〜!』


否定しようとして、指が止まる。


(「付き合ってない」ってここで言ったら、説明が地獄だな……)


「いや、違うんだよ。実は佐藤が勝手に……」から始まる長文説明を、私のメンタルは今処理できない。


「ありがとうございます」


とだけ返す自分に、ちょっと吐き気がした。


否定する気力より、「面倒くさい」の方が勝ってしまった。


本当のことを説明するエネルギーより、「とりあえず合わせる」を選んでしまった。


それが、決定的なミスだった。


佐藤くんは、完璧な罠を仕掛けてきた。

外堀を埋めて、内堀も埋めて、最後は本丸に旗を立てる作戦。


でも、その本丸には、まだ誰も住んでいないのに。



数日後。


またインスタの通知が来た。


@satou_XXXX があなたをタグ付けしました


心拍数が上がるのを感じながら開く。


そこには、見慣れた写真があった。


私がストーリーに上げた、オムライスの写真。

キャプションに「至高」とだけ書いた、あの一皿。


それを、綺麗にスクショして切り抜いた画像。


また、地獄の文章が乗っていた。


> 『彼女の好きなオムライス。

> 俺も好きになった。

> 同じものを好きになれるって幸せ

> #カップルあるある #俺たちの日常 #シェア』


タグ付け:@私


「カップルあるあるじゃない。ストーカーあるあるだよそれ」


思わず口に出た。


即座にDMを送る。


「本気でやめてください。私のストーリーを勝手に保存して『カップル投稿』にするの、普通に気持ち悪いです」


『だってさ、俺と君の思い出だし』


「思い出って何?私、あなたとオムライス食べに行ったこと一回もないですけど」


『でも、君が好きな店は、俺にとっても特別じゃん』


「勝手に特別扱いしないでください。私の生活をあなたのドラマの材料にしないで」


『ちょっと大げさじゃない?彼氏として普通のことしてるだけじゃん』


彼氏じゃない。そこがスタートラインだ。


そして、翌日にはまた別の投稿。


今度は、私が友人と行ったイタリアンの写真。


> 『彼女とディナー

> いつもより少しおめかしした君が可愛かった

> #記念日 #俺たちの時間』


私、そこ行ってない。

あなたと一緒に行ってない。


もはや、現実と妄想の区別がついていない。



週末、友人Aとカフェにいたときのこと。


「そういえばさ」


友人がストローをいじりながら言った。


「こないだ職場の飲み会で、佐藤と同じ会社の人と一緒になったんだわ」


嫌な予感しかしない。


「で、その人に『ああ、〇〇ちゃんでしょ?佐藤くんの彼女』って言われた」


「……」


「私、『え、違いますよ』って言ったんだけどさ」


「ありがとう」


「でもその人、『え、でもいつも佐藤くん、彼女の話してますよ?』って」


やっぱりか。


「どんな話してたか聞いてもいい?」


「『ちょっと口悪いけど、そこがまた可愛い』だって」


「口悪いのは事実だけど、『そこが可愛い』って思われるのは恐怖でしかない」


「あと、『将来は同棲して、いずれは結婚も』みたいな話も普通にしてたっぽい」


友人Aは、申し訳なさそうに顔をしかめた。


「正直、その時点で一発ぶん殴りたかったわ」


「殴ってよかったのに」


「会社の人相手だからさすがにね」


完璧な包囲網だった。


そして、決定打が来た。


佐藤くんからのLINE。


『そろそろ、君のご両親に挨拶したいんだけど、いつ都合いい?ちゃんとした男だってこと、分かってもらいたいから』


ご両親。

挨拶。


私の手が震えた。


「付き合ってないって何回言えば理解するんですか。脳の構造、バグってます?」


『またまた。そういう照れ隠し、もういいから』


照れ隠しじゃない。マジの拒絶です。


「私の親に会う資格、あなたにはゼロです。マイナスです。負債です」


『親に挨拶するのって、彼氏として当然じゃない?ちゃんとしたいんだよ、俺』


彼氏じゃない。


「佐藤さん、あなたが『ちゃんとしたい』と思ってる関係、そもそも存在してないんですよ。ゼロにいくら掛けてもゼロです。算数からやり直してください」


『あはは、数学の例え好き。やっぱり頭いいよね』


褒めてない。罵倒してるんです。


その夜、友人Aに電話した。


「もう限界」


開口一番、それだった。


「親に挨拶しに行くって言い出した」


「うわ、ついに来たか」


「これさ、放置したらマジでやばくない?」


「やばい。とっくにやばいラインは越えてるけど、まだギリ戻れる」


「どうやって?」


「オフラインで、第三者の前で、ハッキリ言う」


友人Aはあっさりと答えた。


「本人と、共通の友人がいる場で『付き合ってないですよね?』って」


「そんなこと言ったら……」


「空気悪くなる?でも、このまま放置したら、お前の人生乗っ取られるよ」


図星だった。


「SNSで『婚約しました』って勝手に書かれて、周りから『おめでとう』って言われ続けたら、否定しづらくなるよ。今まさにそれじゃん」


「……そうだね」


「自分の人生の話なのに、『否定するのが悪いこと』っぽい空気にされるんだよ」


私はため息をついた。


「今度の飲み会、行く」


「マジで?」


「そこで終わらせる」



電話を切ったあと、ベッドに倒れ込んだ。


「これ、放置したらダメなやつだ」


やっと、口に出して言えた。


このままいけば、次は本当に親だ。

実家に押しかけてくる。

「娘さんをください」とか言い出す。


第三者の前で、ハッキリ言うしかない。


「付き合ってないですよね?」


逃げ道を全部断ち切る、一言を。


私はスマホを開いて、飲み会のグループLINEにメッセージを送った。


「今度の飲み会、絶対参加する。佐藤も来るんだよね?」


『来るよー。てか最近いつも一緒じゃん、あんたら』


一緒じゃない。勝手についてきてるだけです。


「分かった。じゃあ、絶対行く」


送信ボタンを押した指が、少しだけ震えていた。


公開で、終わらせる。


その決意が、次の飲み会での地獄絵図に直結するとも知らずに——


いや、知っていた。

分かっていた。


でも、それでもやるしかなかった。


このまま放置したら、私の人生が本当に「佐藤くんの物語」に乗っ取られる。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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次回、公開処刑。

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