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仕事

 城門の横の立て看板には、冒険者ギルドの依頼が掲示してあった。アイルが五年前にブリスコーを訪ねた時には、この辺境の地に好き好んでやってくる冒険者は少なく、広場も閑散としたものだったが、今は前線基地となっただけあって腕自慢の猛者もたくさん集まっていた。

 一番端の看板では、戦闘能力のないものでもこなせる雑務が募集されていた。

 ちょうど堀浚いの仕事があったので、アイルたちはこの仕事を受けることにした。


 彼は仕事が始まる前にスラム街に寄った。そして、昨日の少年を堀浚いの仕事に誘った。

 彼の名はミゲルといった。彼は南のホルムという村の出身だった。親は死に、今は救貧院の施しだけで生きていた。

 城壁の堀は既に水が抜かれていて、底のヘドロが見えていた。彼はスコップを受け取り、泥を救い出した。


 こうして昼頃には堀浚いの仕事は終わった。彼らには給金と昼食のふかし芋が配られたので、二人で一緒に城壁に登って飯を食った。

 城壁の外には冒険者たちのテント群が広がっていた。それらは形も大小も様々だった。

「いろんな形のテントがあるね」ミゲルが言った。

「ああ。国中から冒険者達が集まってるからな」

「へえ。でも外に泊まるのなんて危ないんじゃないの?」

「あれは難民たちに遠慮してるんだよ。これからどんどんブリスコーに難民が集まってくるから、場所を取らないように気を使ってくれてるのさ」

「でもやっぱり危ないよ」

「彼らは猛者だから。魔物が襲撃してきてもすぐにやっつけちゃうんだ」

「オークでも」

「そう、オークでも。”オークを倒せば冒険者として一人前”っていう言葉がある。だけどそれは、裏を返せばオークも倒せないやつは半人前ってことさ」

「ふ~ん」ミゲルは鼻を鳴らした。「冒険者っていくらぐらい稼げるのかなあ」

「僕が前に会ったことのある冒険者は、月に二十金貨稼ぐって言ってたな」

「二十金貨!?」ミゲルは驚いた。「決めた。僕冒険者を目指すことにするよ」

「ははは、まあ頑張れよ」


 城壁を降りた後、アイルとミゲルは市場の青果店の前にやって来た。

 青果店の店主は二人に気づくと、腕を組んで二人を見下ろした。

 アイルはミゲルの背中を押した。ミゲルは店主の前に行き、右手の駄賃を差し出した。

「さあ、謝って」アイルは後ろから囁いた。

「昨日はごめんなさい」ミゲルはうつむきながら言った。

「ったくしょうがねえなあ」店主は頭をかきながら言い、りんご三つを袋に入れて渡すと、おまけの一個をミゲルに持たせた。

 ミゲルは顔を上げ、欠けた歯を出して笑った 。


 魔法学校の生徒


 後ろから声がかかった

「あらドアンナさん、どこへ行かれるのですか」その声の主はセーラだった。

「酒場で仕事よ」

「もうお仕事なされているのですか?」

「うん、皿洗いの仕事をね。昨日は兵士たちが乱闘騒ぎを起こして店がしっちゃかめっちゃかになったから。朝のうちに店の掃除をしないといけないんだ」

「すみません、お仕事ってどこで探すものなんですか?あたしこういうことに疎くて……」

「仕事なら城門に冒険者のための掲示板があったよ。そこで探せばいいんじゃないかしら」

「冒険者のお仕事、ですか……」

「別に戦闘だけが冒険者の仕事じゃないよ。魔法使いなら冒険の合間にやる簡単な依頼がたくさんあるわ」

「そうですの?」

「とりあえず行ってみれば。あんたの魔法ならすぐに仕事見つかりそうだけど」

「ドアンナさんも一緒に来てくださいませんこと?」

「なんでよ」ドアンナは笑った。

「ひとりじゃ心細いんですもの」

「しょうがないわね。あたし急ぐから、早く着替えて頂戴」

「かしこまり!」

 彼女は寝巻きから着替えるため。慌てて部屋へ走っていった。


 ドアンナは城門でセーラと分かれると、キッピス亭に行き、中を覗き込んだ。椅子やテーブルは滅茶苦茶にひっくり返り、壁にかけた絵画には赤いトマトソースがべチャリと張り付いていた。絵画は支えの一点が外れて傾いてぶら下がっていた。

 彼女が店に入ると、足元はこぼれたビールでビチョビチョに濡れてい割れた皿がそこら中に散らばっていた。彼女はひっくり返ったテーブルの間を進んだ。床板は料理の油でネチョネチョとしていた。

 店の奥に進むと、すでに床をモップで磨いている女性がいた。彼女は長い茶髪に三角巾を被っていた。

「おはようございます、ネネさん」

「おはよう、ドアンナちゃん」ネネが応えた。

「いや~、昨日は災難でしたね」

「あははは」

「あの喧嘩した男の子、あなたの知り合いですよね」

「そうよ~。まあ 弟みたいなものかな」

「私もアイル君も義勇兵団に入ってるんです。まあ知っていると思いますけど」ドアンナは襟を下げ、首の線を見せながら言った。「招集がかかれば国からお給金出ますから、ここもすぐやめられますよ」

「あはははは。でもこの店はやめないかな」

「やめないんですか 。あんな風にお尻とか触られていやじゃないんですか。」

「まあ昨日は特別な日だったから。しょうがないんじゃない」

「ああいう人たちには、嫌ってはっきり言わないと調子乗るだけですよ」

「ありがとね、心配してくれて。でも私は全然平気だから」

「失礼します」店の入口の方から男の声がした。見ると、背の高い男が立っていた。彼は言った。「北部連隊の者です。昨日の騒動について謝罪に伺いました」

「店長なら奥の部屋にいます」ネネが言った。「案内します」

兵士は店に入り、ネネの前に直立して言った。

「先日はあなたに大変なご迷惑をおかけしました」

「いえいえ、構いませんよ」ネネが答えた。

「あなたは大変に美しい女性ですから。駐屯兵はあなたの話で持ちきりなんです」

「あらそうでしたか。一体どんな話をするんでしょう?」

「それはですね……ええと」

 兵士は盛大に口ごもった。その時、店長が厨房から現れた。

「あねさん!」 

 騎士はそう言い、店長の元へ向かい、ぺこぺこと頭を下げた。

「ドアンナさん」ネネは言った。

「はい何でしょう」

「その首の線のことだけど。軍団の命令を聞かないと、首を切り落とされるって聞いたんだけど」

「ええ、そのとおりです。でもその代わりに私達は戦う力を得ました 」

「私、アイルのことが心配で」

「心配いりませんよ」ドアンナは言った。「私たちは下っ端だし、重要任務なんて任されたりしませんから」

「でも……」

「大丈夫大丈夫。さあ、さっさとお掃除終わらせましょ」


(通りではレイセンがはちまきを巻いて焼き鳥をひっくり返していた。パフォーマンスで口から火を噴き鶏皮を焼くと、皆大受けして拍手していた。)


(セーラは畑まで出向いて、雨を降らせていた。)


(ジータは氷菓子を作っていた)


(アンナも給仕服に着替え、店を手伝った。)


こうして時間は過ぎていった。そして10日が経ち、ついに義勇兵の訓練が始まった。

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