#..2
「皐月さん、気をつけてね」
「おう」
噂を聞きつけたここら辺の土地に住む人たちが、皐月に挨拶をする。
「ここの安全は絶対だから。俺が保証する」
「そうかい・・・」
お年よりはその言葉を聴いて、ほっと胸をなでおろした。
「ねぇ、お兄ちゃん。どうやったら、僕は霊能力者になれる?」
「いっぱい勉強するんだな。お前ならできるよ」
子供はそういって頭をなでられ、照れたように去っていく。
「霊能力者・・・かぁ・・・」
皐月は、去っていく人々を見ながら、ポツリとつぶやいた。
霊能力、というものをご存知だろうか?
基本的に霊は、物理的な物事をすることは出来ない。
しかし、霊能力者は、全くの“見えるだけ”の存在に力を加え、人や物に影響を及ぼせるようにする。その上で、自分の思うように操り、様々なことを成し遂げるのだ。
たとえば、物を直す、霊視をする、結界を張るなど、術者の能力が上がるほど、様々なことが出来るようになるのだ。
皐月は、その霊能力者だった。
キムロの羊小屋を直したのも、遠くを見せる鏡を出現させたのも、その力。
もちろん、霊能力が使えれば、何でもできるわけではない。
いくら力の強い術者でも、死んだ人間を生き返らせることは出来ないし、霊能力に頼りすぎて、使いすぎれば体力を消耗してしまう。
けれど、完璧ではなくても、その力は普通の人よりも優れているし、いろいろな対応もできる。それでも、それなりの苦難が待ち受けていることは明らかだった。
「皐月兄、ゴメン。ばっちゃんがなかなか帰してくれなくてさ」
「おう、出発するぞー」
皐月と同じくらい、いや、それ以上に白い肌を持ち、同じく真っ黒で流れるような髪をポニーテールに結わえた水落が、やっと石段を駆け下りてくる。
皐月は、一度手を打ち、地面に当てた。
また、さっきと同じような鏡が現れ、彼は何のためらいも無くその鏡を覗き込んで妹に説明を始める。
「今いるのが、ここ、“JAPAN”だ。で、俺たちが向かうのは・・・」
「“CENTRAL”でしょ?」
「そ、ユーラシア大陸のど真ん中だ。こんな隅っこの町みたいに田舎じゃないらしいからな。いろいろ気をつけなきゃいけねぇ」
「うん」
皐月は鏡をすっと消して、立ち上がった。
「結界張っておかないとな」
指に、さっき羊小屋の前で取ったのとは、少し違う印を結んで、今まで自分が居た場所に向いて、小さくつぶやく。
「我懐に集り者たちよ、この土地を悪事から守りたまえ。力を与えしは我。我に背くべからず。何事の悪事からもこの土地を守り、清らかな生を恵みたまえ」
皐月は印を解き、自分の人差し指を小さく切った。
血が滴り、地面に付いた瞬間、風が吹いた。
「・・・いつもと違うやり方するんだ」
風がやんだとき、水落が皐月に話しかける。
「でっかい結界だからなー。いつものじゃ力がもたないんだよ」
皐月は血を滴らせた人差し指を少し舐めた。
「よし、行くか」
「うん」
二人は、並んで歩き出す。
今までいた土地と絶縁するかのように、一度も振り返らずに。




