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Appearing ― 突然、君からのメッセージ ―  作者: 和泉發仙


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87/90

また明日



Appearing


― 突然、君からのメッセージ ―


第85話


また明日


前書き


もし。


あの日。


何も起きなかったら。


もし。


祭りのあと。


二人で海へ行けていたら。


もし。


十二年が。


普通に流れていたら。


考えても。


仕方がない。


そんなことは。


分かっている。


それでも。


最後くらい。


考えてみたかった。


二人が。


生きられなかった。


十二年間を。


⸻


午前十一時二十三分


海鳴町・海沿いの遊歩道


悠。


メアリー。


歩く。


白い花。


悠の手。


海。


光る。


メアリー。


「もし。」


「何も。」


「起きてなかったら。」


悠。


「うん。」


「私たち。」


「今頃。」


「どうなってたんかな。」


悠。


少し。


考える。


「お前。」


「卒業して。」


「うん。」


「大学。」


メアリー。


「行ってたかな。」


「知らん。」


「ひどい。」


「本人が。」


「知らないのに。」


「俺が。」


「知るわけない。」


メアリー。


笑う。


「悠ちゃんは?」


「俺?」


「大学。」


「行ってた?」


悠。


「どうだろ。」


「今と。」


「そんな。」


「変わってないかも。」


「派遣?」


「そこまで。」


「固定するな。」


「じゃあ。」


「正社員。」


「急に。」


「現実的。」


メアリー。


笑う。


海。


見る。


「私。」


「写真。」


「やってたかも。」


悠。


「橘先生の。」


「影響?」


「うん。」


「怒られながら。」


メアリー。


橘。


真似。


「メアリー。」


「ブレてる。」


悠。


「似てない。」


「似てる。」


「全然。」


「先生。」


「そんな感じやった。」


「もっと。」


「怖かった。」


「それ。」


「春人先輩が。」


「怒られるやつ。」


二人。


笑う。


⸻


少し。


歩く。


メアリー。


「で。」


悠。


「何。」


「私たち。」


「付き合ってた?」


悠。


止まる。


「……。」


メアリー。


「何。」


「急に。」


「大事やろ。」


「大事か?」


「大事。」


悠。


歩き出す。


「付き合ってたんじゃない。」


メアリー。


止まる。


「え。」


悠。


振り返る。


「お前。」


「手紙。」


「渡すつもりだったんだろ。」


「祭りのあと。」


「……うん。」


「海。」


「二人で。」


「……うん。」


「そこで。」


「好きって。」


「言うつもり。」


「……うん。」


悠。


「なら。」


「付き合ってた。」


メアリー。


顔。


赤くなる。


「何で。」


「そんな。」


「簡単に。」


「俺も。」


「好きだったから。」


メアリー。


固まる。


「……。」


悠。


「何。」


「それ。」


「十七歳の時に。」


「言って。」


悠。


「お前も。」


「言ってないだろ。」


「言う予定だった!」


「予定は。」


「言ってないのと。」


「同じ。」


「ひどい!」


悠。


笑う。


メアリー。


頬。


膨らませる。


「じゃあ。」


「十八?」


悠。


「何が。」


「付き合う年齢。」


「十七。」


「早。」


「何が。」


「私。」


「二十三くらい。」


「考えてた。」


悠。


「遅いだろ。」


「慎重。」


「六年。」


「慎重すぎる。」


「じゃあ。」


「二十。」


「十七。」


「十九。」


「十七。」


「十八。」


「十七。」


メアリー。


「頑固。」


悠。


「十二年。」


「待ったからな。」


メアリー。


「それ。」


「反則。」


⸻


午後零時〇八分


防波堤。


二人。


座る。


メアリー。


「結婚。」


悠。


むせる。


「急だな。」


「今。」


「二十九やろ。」


「俺は。」


「私も。」


「お前は。」


「十七。」


「見た目。」


「そういう。」


「ややこしい話。」


「今せんで。」


悠。


「お前が。」


「始めた。」


メアリー。


海。


見る。


「してたかな。」


悠。


「知らん。」


「子ども。」


「もっと。」


「知らん。」


「一人?」


「知らん。」


「二人?」


「知らん。」


「三人?」


「増やすな。」


メアリー。


笑う。


「名前。」


「考える?」


悠。


「やめよう。」


メアリー。


笑い。


止まる。


「うん。」


少し。


静か。


悠。


「ごめん。」


「何で。」


「いや。」


メアリー。


首。


横。


「いい。」


「そこまで。」


「考えられたから。」


悠。


「……。」


「もう。」


「いい。」


存在しなかった。


未来。


それを。


想像することは。


楽しい。


そして。


痛い。


だから。


二人。


そこで。


やめた。


⸻


午後零時五十九分


風。


変わる。


雲。


少し。


増える。


メアリー。


「悠ちゃん。」


「ん。」


「一個。」


「話してないこと。」


悠。


見る。


「何。」


「私。」


「あの日。」


少女。


自分の。


胸。


手。


置く。


「死んだ時。」


悠。


表情。


変わる。


メアリー。


「思い出した。」


「全部?」


「全部じゃ。」


「ない。」


「でも。」


「最後。」


十二年前。


地下。


暗い。


寒い。


頭。


痛い。


声。


遠い。


身体。


もう。


動かない。


メアリー。


「ヨル。」


「いた。」


悠。


黙る。


「怖かった。」


「うん。」


「死にたく。」


「なかった。」


悠。


拳。


握る。


「まだ。」


「十七やった。」


「うん。」


「お父さん。」


「お母さん。」


「先生。」


「みんな。」


「いっぱい。」


「浮かんだ。」


悠。


「……。」


メアリー。


少し。


笑う。


「それで。」


「ヨルが。」


「聞いた。」


悠。


「何を。」


メアリー。


目。


閉じる。


あの声。


思い出す。


『どこへ帰りたい?』


違う。


もう一つ。


『誰のところへ帰りたい?』


メアリー。


目。


開く。


悠を見る。


「私。」


「悠ちゃんって。」


「言った。」


悠。


動けない。


「……俺?」


「うん。」


「何で。」


メアリー。


笑う。


「好きだったから。」


「でも。」


「家族。」


「いるだろ。」


「うん。」


「家にも。」


「帰りたかった。」


「うん。」


「でも。」


「最後。」


「一番。」


「会いたかった。」


涙。


落ちる。


「悠ちゃんだった。」


悠。


俯く。


十二年前。


自分の。


スマートフォン。


届かなかった。


言葉。


見えなかった。


少女。


その少女は。


死ぬ。


最後。


自分を。


選んだ。


「……遅い。」


悠。


言う。


メアリー。


「うん。」


「十二年。」


「うん。」


「遅すぎる。」


「うん。」


悠。


泣く。


メアリー。


隣。


座る。


触れられない。


それでも。


近く。


⸻


午後一時三十二分


メアリー。


指。


折る。


「会えた。」


一本。


「海。」


二本。


「行った。」


三本。


「学校。」


「卒業した。」


四本。


「お母さん。」


「お父さん。」


「ただいま。」


「言えた。」


五本。


「みんな。」


「写真。」


「撮った。」


悠。


「何。」


「確認。」


「何の。」


メアリー。


「やり残したこと。」


悠。


「……。」


「だいたい。」


「できた。」


悠。


嫌な。


予感。


「やめろ。」


「何が。」


「そういう。」


「数え方。」


メアリー。


悠を見る。


「悠ちゃん。」


「何。」


「明日。」


「何する?」


悠。


「急だな。」


「考えて。」


「仕事。」


「休み。」


「じゃあ。」


「何する。」


「寝る。」


「ダメ。」


「何で。」


「もっと。」


「何か。」


悠。


「映画。」


「いいね。」


「飯。」


「いい。」


「散歩。」


「うん。」


「横浜。」


メアリー。


笑う。


「いいね。」


「じゃあ。」


「明後日は。」


悠。


「知らん。」


「考えて。」


「何で。」


「毎日。」


「考えて。」


悠。


少女。


見る。


メアリー。


笑っている。


でも。


泣いている。


「今日。」


「だけじゃなくて。」


「明日のこと。」


「考えて。」


悠。


答えない。


「明後日も。」


「来週も。」


「来年も。」


「考えて。」


「……。」


「約束。」


悠。


しばらく。


黙る。


そして。


「分かった。」


メアリー。


「ほんと?」


「ああ。」


「毎日は。」


「無理。」


「何で!」


悠。


笑う。


「でも。」


「考える。」


メアリー。


「うん。」


「明日。」


「考える。」


「うん。」


⸻


午後一時四十六分


ぽつ。


悠。


顔。


上げる。


「雨?」


ぽつ。


ぽつ。


メアリー。


手。


出す。


「……。」


雨。


掌。


落ちる。


メアリー。


目。


見開く。


「悠ちゃん。」


「何。」


「雨。」


「降ってる。」


「見れば。」


「分かる。」


「違う。」


メアリー。


手。


見る。


「冷たい。」


悠。


止まる。


「え。」


雨。


メアリーの。


髪。


濡れる。


頬。


水滴。


流れる。


服。


少しずつ。


濡れる。


今まで。


雨も。


風も。


彼女を。


通り抜けた。


メアリー。


笑う。


「冷たい。」


悠。


手。


伸ばす。


「メアリー。」


指。


触れる。


止まる。


触れた。


温度。


ある。


悠。


息。


止まる。


メアリー。


悠の手。


見る。


「……。」


握る。


今度は。


すり抜けない。


「悠ちゃん。」


「うん。」


「手。」


「うん。」


「触れる。」


「うん。」


メアリー。


泣く。


雨。


涙。


混ざる。


⸻


午後二時〇一分


メアリー。


悠へ。


飛び込む。


悠。


受け止める。


軽い。


でも。


確かに。


いる。


腕。


背中。


回る。


メアリー。


顔。


胸。


押しつける。


「……。」


悠。


何も。


言えない。


十二年前。


できなかった。


抱きしめる。


ただ。


それだけ。


「悠ちゃん。」


「ん。」


「いる?」


悠。


強く。


抱く。


「いる。」


「私。」


「いる?」


「ああ。」


「ここに?」


「いる。」


メアリー。


泣く。


「よかった。」


悠。


目。


閉じる。


「遅い。」


「うん。」


「十二年。」


「うん。」


「遅い。」


「校長先生。」


悠。


吹き出す。


「ここで。」


「校長。」


「出すな。」


メアリー。


胸。


中。


笑う。


⸻


午後二時〇九分


雨。


少し。


強い。


二人。


離れる。


でも。


手。


繋いだまま。


メアリー。


悠。


見る。


「ね。」


「何。」


「もう一個。」


「やり残した。」


悠。


「何。」


メアリー。


黙る。


悠。


気づく。


「……。」


メアリー。


「言わせる?」


悠。


「いや。」


近づく。


今度は。


額。


ではない。


唇。


触れる。


短い。


本当に。


短い。


キス。


離れる。


メアリー。


固まる。


悠。


「……。」


メアリー。


「短い。」


悠。


「うるさい。」


「十二年。」


「待った。」


「それ。」


「俺の台詞。」


メアリー。


笑う。


もう一度。


今度は。


少女から。


少し。


長く。


雨。


降る。


海。


音。


消す。


⸻


午後二時二十一分


屋根。


下。


二人。


雨宿り。


メアリー。


悠の。


スマートフォン。


見る。


「貸して。」


悠。


「何する。」


「いいから。」


触れる。


今なら。


画面。


反応する。


メアリー。


嬉しそう。


「動く。」


「現代人。」


「初体験みたいに。」


「言うな。」


メアリー。


何か。


打つ。


悠。


覗こうとする。


「見ない。」


「俺のスマホ。」


「見ない。」


「何してる。」


「秘密。」


送信。


ではない。


何か。


設定。


メアリー。


返す。


「はい。」


悠。


「何。」


「明日。」


「分かる。」


「怖い。」


「怖くない。」


「お前が。」


「言うと。」


「怖い。」


メアリー。


笑う。


「大丈夫。」


「信用ならん。」


「ひどい。」


⸻


午後四時十二分


アンダーソン家。


玄関。


メアリー。


立つ。


悠。


外。


「今日は。」


「ここ?」


メアリー。


「うん。」


「お父さん。」


「お母さん。」


「いるから。」


悠。


「ああ。」


「悠ちゃん。」


「何。」


メアリー。


手。


伸ばす。


今も。


触れる。


小指。


絡める。


「明日。」


悠。


「うん。」


「ちゃんと。」


「起きて。」


「何時。」


メアリー。


「六時。」


悠。


「嫌だ。」


「六時。」


「七時。」


「六時。」


「六時半。」


「六時。」


悠。


「鬼。」


メアリー。


笑う。


「幽霊です。」


昨日と。


同じ。


悠。


「じゃ。」


「また明日。」


メアリー。


少し。


止まる。


そして。


笑う。


「うん。」


「また明日。」


扉。


閉まる。


⸻


午後十一時五十八分


メアリーの部屋。


月。


窓。


差す。


メアリー。


ベッドの。


横。


座る。


手。


見る。


少し。


透けている。


もう。


分かっている。


怖い。


でも。


昨日とは。


違う。


机。


写真。


見る。


今日。


撮った写真。


まだ。


ここにはない。


でも。


頭。


中。


ある。


みんな。


笑っていた。


悠も。


笑っていた。


「よかった。」


メアリー。


横になる。


「明日。」


呟く。


「ちゃんと。」


「来るね。」


⸻


午前零時〇〇分


時計。


日付。


変わる。


八月十八日。


メアリー。


身体。


光。


ではない。


静かに。


薄くなる。


指。


腕。


髪。


輪郭。


少しずつ。


消える。


怖い。


だから。


目。


閉じる。


思い出す。


父。


母。


橘先生。


春人。


紗季。


圭介。


透。


蓮。


直哉。


ヨル。


みんな。


最後。


悠。


「……。」


笑う。


「また明日。」


誰にも。


聞こえない。


声。


部屋。


消える。


少女。


消える。


時計。


止まらない。


〇時〇一分。


〇時〇二分。


進む。


⸻


午前五時五十八分


横浜。


悠の部屋。


スマートフォン。


震える。


悠。


眠ったまま。


二度目。


震える。


目。


開ける。


「……。」


画面。


見る。


メアリー。


心臓。


跳ねる。


開く。


『おはよう。』


悠。


起き上がる。


次。


『起きて。』


次。


『今日は何する?』


悠。


息。


止まる。


そして。


最後。


『私は先に行くけど、悠ちゃんは明日のこと考えてね。』


少し。


間。


最後の。


一行。


『また明日。』


悠。


画面。


見る。


長い。


長い。


時間。


何も。


しない。


やがて。


顔。


手。


覆う。


泣く。


声。


出さず。


泣く。


でも。


スマートフォン。


握ったまま。


少し。


笑う。


「……六時。」


「まだ。」


「なってないだろ。」


返事。


打つ。


『おはよう。』


送る。


当然。


既読。


つかない。


悠。


それでも。


もう一つ。


打つ。


『今日は仕事休み。』


少し。


考える。


『海でも行く。』


送る。


そして。


最後。


『また明日。』


送信。


窓。


開ける。


朝。


空。


明るくなる。


今日が。


始まる。


⸻


第85話「また明日」 了


次回 第86話・最終話


三か月後。


十二年前の事件は。


ようやく。


記録の中でも。


終わりを迎える。


橘依子。


メアリー・アンダーソン。


帰ってきた人たち。


それぞれの名前が。


それぞれの場所へ。


戻っていく。


そして。


一枚の写真。


そこには。


証拠ではなく。


思い出として。


メアリーがいる。

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