最後の写真
Appearing
― 突然、君からのメッセージ ―
第84話
最後の写真
前書き
写真は。
過去を。
残すものだと。
思っていた。
忘れないため。
消えた人が。
確かにいたと。
証明するため。
でも。
今日。
撮るのは。
違う。
これは。
昨日までを。
残す写真じゃない。
これからを。
始めるための。
一枚。
⸻
八月十七日 午前八時五十七分
海鳴町・海岸
悠。
海。
見る。
「……眠い。」
隣。
メアリー。
「九時。」
「言ったやろ。」
「昨日も。」
「六時。」
「起こされた。」
「今日は。」
「三時間も。」
「寝坊できた。」
「そういう。」
「計算じゃない。」
朝。
海。
昨日より。
少し。
風。
強い。
メアリー。
髪。
押さえる。
「昨日も。」
「ここ。」
「来たね。」
「ああ。」
「二人で。」
「ああ。」
「今日は。」
後ろ。
声。
「全員で。」
悠。
振り返る。
圭介。
手。
上げる。
「おはよ。」
悠。
「お前。」
「早いな。」
「母ちゃんに。」
「追い出された。」
「何で。」
「十二年ぶりに。」
「帰ってきた息子が。」
「朝から。」
「家でゴロゴロするなって。」
悠。
「強い。」
「強い。」
メアリー。
笑う。
「圭介のお母さん。」
「好き。」
悠。
「だって。」
圭介。
「何が。」
「秘密。」
⸻
午前九時〇二分
紗季。
来る。
証書。
今日は。
持っていない。
普通の。
小さなバッグ。
「おはよう。」
圭介。
「卒業生。」
紗季。
「やめて。」
「昨日。」
「泣いてた。」
「圭介。」
「海に沈めるよ。」
「すみません。」
春人。
来る。
手。
白い花。
一本。
悠。
見る。
春人。
「何。」
「また。」
「買ったのか。」
「……悪い?」
「いや。」
メアリー。
花。
見る。
昨日。
もらった。
白い花。
今。
春人が。
持っているのは。
別の。
一本。
「春人先輩。」
小さく。
「ありがとう。」
春人。
聞こえない。
でも。
海。
見ながら。
「昨日の。」
「ちゃんと。」
「渡せたから。」
悠。
「うん。」
春人。
花。
見る。
「これは。」
「今日の。」
⸻
透。
蓮。
来る。
透。
首。
何も。
下がっていない。
悠。
そこを見る。
「カメラは?」
透。
「持ってない。」
圭介。
「写真撮るって。」
「言ったのお前だろ。」
透。
「俺が。」
「撮るとは。」
「言ってない。」
圭介。
「屁理屈。」
蓮。
「兄ちゃん。」
「昨日から。」
「ずっと。」
「こう。」
透。
「うるさい。」
悠。
「じゃあ。」
「誰が。」
遠く。
声。
「ワシじゃ。」
中村。
歩いてくる。
カメラバッグ。
肩。
かけている。
悠。
「あ。」
中村。
「何や。」
「年寄りが。」
「朝から。」
「呼び出されとるんやぞ。」
透。
「すみません。」
中村。
「九時は。」
「朝やない。」
悠。
「年寄り基準。」
「聞こえとるぞ。」
メアリー。
笑う。
「中村さん。」
「元気。」
悠。
「ああ。」
中村。
悠の横。
一瞬。
見る。
「……。」
「何ですか。」
「いや。」
「今日は。」
「ええ日や。」
それだけ。
⸻
午前九時十一分
直哉。
少し。
遅れて。
来る。
「ごめん。」
圭介。
「警察?」
「うん。」
「まだ。」
「何回か。」
「行かないと。」
「そっか。」
直哉。
顔。
疲れている。
でも。
昨日とは。
違う。
逃げる。
顔。
ではない。
最後。
ヨル。
久我と。
来る。
ヨル。
瀬川の。
帽子。
かぶっている。
大きい。
目深。
メアリー。
「似合う。」
ヨル。
「本当?」
悠。
「ちょっと。」
「でかい。」
ヨル。
帽子。
押さえる。
「瀬川。」
「頭。」
「大きかった?」
久我。
「そういう。」
「問題ちゃう。」
ヨル。
首。
傾げる。
全員。
笑う。
⸻
午前九時十五分。
九人。
揃う。
悠。
メアリー。
圭介。
春人。
紗季。
透。
蓮。
直哉。
ヨル。
中村。
少し。
離れて。
見る。
「で。」
「どう撮る。」
透。
海。
指す。
「普通に。」
中村。
「普通。」
「一番。」
「難しいぞ。」
透。
「知ってます。」
昨日まで。
普通では。
なかった。
十二年。
ずっと。
普通では。
なかった。
だから。
今日は。
普通に。
並ぶ。
⸻
午前九時十九分
中村。
位置。
決める。
「もっと。」
「寄れ。」
圭介。
「誰に。」
「全員。」
紗季。
「狭い。」
「写真いうんは。」
「狭いくらいが。」
「ちょうどええ。」
ヨル。
端。
立つ。
中村。
「そこの。」
「帽子。」
ヨル。
「私?」
「そう。」
「もっと。」
「中。」
ヨル。
一歩。
入る。
「そこ。」
直哉。
端。
行こうとする。
中村。
「兄ちゃんも。」
「逃げんな。」
直哉。
止まる。
「……はい。」
一歩。
中へ。
透。
後ろ。
立つ。
中村。
「お前も。」
「後ろに。」
「隠れるな。」
透。
「身長。」
「あるんで。」
「知らん。」
「顔。」
「出せ。」
蓮。
笑う。
「兄ちゃん。」
「怒られてる。」
透。
「お前。」
「あとで。」
「何。」
「何も。」
圭介。
「悠。」
「もうちょい。」
「右。」
悠。
動く。
すると。
メアリー。
隣。
空く。
自然に。
そこへ。
立つ。
中村。
ファインダー。
覗く。
止まる。
「……。」
透。
「どうしました。」
中村。
何も。
言わない。
ただ。
少し。
笑う。
「いや。」
「ええ。」
⸻
春人。
白い花。
持ったまま。
メアリーを見る。
正確には。
悠の隣。
何もない。
場所。
「悠。」
「ん。」
花。
差し出す。
「これ。」
悠。
「俺に?」
「違う。」
「じゃ。」
春人。
少し。
困る。
「メアリーに。」
悠。
止まる。
昨日。
春人自身が。
一度。
渡した。
十二年。
渡せなかった。
白い花。
今日は。
違う。
春人。
「昨日のは。」
「十二年前の分。」
「これは。」
「今日の分。」
メアリー。
目。
潤む。
春人。
「持てないの。」
「分かってる。」
「だから。」
悠へ。
渡す。
「隣に。」
「置いてやって。」
悠。
受け取る。
「分かった。」
メアリー。
「春人先輩。」
笑う。
「今度は。」
「早かったね。」
悠。
「だって。」
春人。
「何て。」
悠。
「今度は。」
「早かったって。」
春人。
少し。
笑う。
「……そう。」
悠。
白い花。
メアリーの。
前。
砂。
刺す。
中村。
「いや。」
「それ。」
「持っとけ。」
悠。
「俺が?」
「写真やと。」
「分からん。」
悠。
白い花。
持つ。
メアリー。
「貸して。」
「持てないだろ。」
メアリー。
手。
重ねる。
当然。
すり抜ける。
「じゃ。」
「一緒に。」
悠。
花。
メアリーとの。
間。
持つ。
ファインダーの中。
白い花。
二人の。
間。
⸻
午前九時二十六分
中村。
「撮るぞ。」
圭介。
「待って。」
紗季。
「何。」
「俺。」
「目。」
「閉じそう。」
「知らない。」
「撮るぞ。」
中村。
「三。」
「二。」
透。
「待って。」
全員。
「何!?」
透。
海。
見る。
そして。
みんな。
見る。
「……何でもない。」
圭介。
「お前。」
「何なんだよ!」
透。
笑う。
「いや。」
「本当に。」
「これで。」
「いいんだなって。」
蓮。
「何が。」
透。
答える。
「全員。」
「いる。」
静か。
メアリー。
透を見る。
「うん。」
悠。
「いるよ。」
透。
頷く。
「じゃ。」
「撮ってください。」
中村。
「最初から。」
「そう言うとる。」
カメラ。
構える。
「三。」
「二。」
「一。」
その瞬間。
風。
吹く。
メアリー。
金色の髪。
揺れる。
悠。
笑う。
圭介。
少し。
変な顔。
紗季。
ちゃんと。
笑う。
春人。
白い花。
見る。
透。
カメラを。
持っていない。
蓮。
兄の。
隣。
直哉。
逃げず。
前。
見る。
ヨル。
瀬川の帽子。
押さえながら。
笑う。
シャッター。
切れる。
一枚。
⸻
中村。
画面。
確認。
「……。」
透。
近づく。
「どうです。」
中村。
見せる。
透。
止まる。
悠。
「何。」
透。
画面。
見る。
そして。
笑う。
「いる。」
悠。
覗く。
そこ。
メアリー。
写っている。
透けていない。
普通の。
十七歳の少女。
白い花。
そば。
悠。
隣。
みんな。
いる。
メアリー。
悠の肩越し。
画面。
見る。
「……私。」
指。
伸ばす。
「いる。」
悠。
「ああ。」
「ちゃんと。」
「いる。」
昨日。
同じ。
言葉。
言った。
でも。
意味。
違う。
昨日は。
帰ってきた。
証拠。
今日。
撮ったのは。
これから。
進む人間。
その中に。
メアリーも。
いる。
⸻
午前九時三十四分
圭介。
「もう一枚。」
中村。
「何で。」
「今。」
「絶対。」
「変な顔。」
「知らん。」
「お願いします。」
「一枚って。」
「言ったやろ。」
「そこを。」
「お願いします。」
紗季。
「私も。」
「もう一枚。」
春人。
「俺も。」
透。
「俺も。」
蓮。
「俺も。」
直哉。
「……俺も。」
ヨル。
「私も。」
中村。
「お前ら。」
悠。
「お願いします。」
中村。
ため息。
「最後の写真。」
「ちゃうんか。」
透。
少し。
笑う。
「最後じゃ。」
「なくなりました。」
中村。
「?」
透。
海を見る。
「これから。」
「また。」
「撮ればいいんで。」
中村。
透を見る。
しばらく。
黙る。
そして。
笑う。
「ほな。」
「何枚でも。」
⸻
そこから。
写真。
増える。
圭介。
目。
閉じる。
紗季。
笑う。
春人。
横。
向く。
蓮。
透。
肩。
組む。
透。
嫌がる。
ヨル。
帽子。
風で。
飛ぶ。
久我。
遠くから。
拾う。
直哉。
初めて。
声。
出して。
笑う。
悠。
メアリー。
隣。
立つ。
何枚。
撮ったか。
分からない。
最後の写真。
だった。
はず。
なのに。
最後。
決める。
必要。
なくなった。
⸻
午前十時〇八分
防波堤。
全員。
座る。
圭介。
「俺。」
「仕事。」
「どうしよう。」
紗季。
「まず。」
「生活。」
「戻してから。」
「だね。」
蓮。
「学校。」
「行くのかな。」
透。
「行きたい?」
蓮。
「分かんない。」
「じゃ。」
「考えろ。」
「兄ちゃん。」
「雑。」
「八年分。」
「一日で。」
「決めるな。」
蓮。
「……うん。」
春人。
海。
見る。
「俺も。」
「分からない。」
圭介。
「春人も?」
「当たり前だろ。」
「十二年前の。」
「続き。」
「そのまま。」
「できるわけじゃない。」
紗季。
「でも。」
「何か。」
「できる。」
春人。
「うん。」
直哉。
黙って。
聞く。
「俺は。」
全員。
見る。
「まず。」
「ちゃんと。」
「話す。」
「警察にも。」
「家族にも。」
「そのあと。」
「考える。」
悠。
「ああ。」
ヨル。
「私。」
全員。
見る。
ヨル。
真剣。
「甘口。」
圭介。
「何。」
「カレー。」
久我。
遠く。
「そこからかい!」
笑う。
朝。
海。
声。
響く。
⸻
午前十時三十七分
少しずつ。
帰る。
圭介。
「また。」
悠。
「ああ。」
昨日。
聞いた。
『会えるよな』
今日は。
もう。
聞かない。
紗季。
「またね。」
春人。
「じゃあ。」
蓮。
「兄ちゃん。」
「帰り。」
「コンビニ。」
「寄って。」
透。
「何買う。」
「アイス。」
「朝から。」
「もう。」
「十時半。」
「細かい。」
直哉。
悠。
見る。
「また。」
悠。
「ああ。」
ヨル。
メアリー。
見えない。
でも。
何となく。
その方向。
見る。
「またね。」
メアリー。
「うん。」
「また。」
一人。
一人。
帰る。
昨日まで。
別れること。
怖かった。
今日。
違う。
また。
会えるから。
⸻
午前十時五十二分
海岸。
残った。
悠。
メアリー。
中村。
透。
中村。
カメラ。
しまう。
透。
「データ。」
「消さないでください。」
中村。
「当たり前や。」
「三つ。」
「バックアップ。」
「取ってください。」
「お前。」
「ワシを。」
「誰やと思っとる。」
透。
「写真屋。」
「そうや。」
悠。
「透。」
「ん。」
「お前の。」
「古いカメラ。」
透。
少し。
止まる。
「家。」
「置いてきた。」
「もう。」
「持ち歩かない?」
「分からない。」
「でも。」
「あれで。」
「撮るものは。」
「もうない。」
悠。
「そっか。」
透。
「今度。」
「新しいの。」
「買おうかな。」
中村。
「高いぞ。」
透。
「知ってます。」
「十二年。」
「撮っとったくせに。」
「金。」
「貯まっとらんのか。」
透。
「機材に。」
「消えました。」
中村。
「一番。」
「アカン。」
「写真屋に。」
「言われたくないです。」
中村。
笑う。
透も。
笑う。
⸻
午前十一時〇四分
中村。
透。
帰る。
海。
二人。
残る。
悠。
メアリー。
昨日。
朝。
二人で。
来た。
海。
今日。
みんなで。
来た。
そして。
また。
二人。
メアリー。
「最後の写真。」
悠。
「最後じゃ。」
「なくなったな。」
「うん。」
「よかった。」
悠。
「何が。」
「最後って。」
「決めなくて。」
「よくなった。」
悠。
海。
見る。
「そうだな。」
メアリー。
白い花。
見る。
悠。
まだ。
持っている。
「それ。」
「どうする?」
悠。
「お前の。」
「だから。」
「私。」
「持てん。」
「じゃ。」
「俺が。」
「持っとく。」
メアリー。
笑う。
「また。」
「預ける。」
「何を。」
「私の。」
「いろいろ。」
悠。
「重い。」
「ひどい。」
「十二年分。」
「重い。」
メアリー。
悠。
軽く。
睨む。
でも。
笑う。
⸻
午前十一時二十三分
海沿い・遊歩道
二人。
歩く。
メアリー。
「悠ちゃん。」
「ん。」
「もし。」
「何も。」
「起きてなかったら。」
悠。
見る。
メアリー。
海。
見たまま。
「私たち。」
「今頃。」
「どうなってたんかな。」
悠。
止まる。
メアリーも。
止まる。
白い花。
風。
揺れる。
それは。
もう。
戻れない。
十二年間の。
話。
そして。
最後に。
二人が。
しなければならない。
話。
悠。
「考える?」
メアリー。
少し。
笑う。
「うん。」
二人。
また。
歩き出す。
⸻
第84話「最後の写真」 了
次回 第85話「また明日」
もし。
何も起きていなかったら。
卒業して。
働いて。
恋をして。
結婚して。
子どもがいて。
そんな。
存在しなかった十二年間を。
悠とメアリーは。
初めて。
二人で想像する。
そして。
メアリーは。
あの日。
自分が最後に。
誰のところへ。
帰りたいと願ったのか。
悠に話す。




