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Appearing ― 突然、君からのメッセージ ―  作者: 和泉發仙


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84/90

始まった場所



Appearing


― 突然、君からのメッセージ ―


第82話


始まった場所


午後三時四十七分。


海鳴町・商店街。


圭介。


少し。


困ったように。


笑う。


「また。」


「会えるよな。」


悠。


一瞬。


何を。


聞かれたのか。


分からなかった。


会える。


そんなの。


当たり前。


だった。


昔なら。


でも。


十二年前。


その当たり前が。


なくなった。


「会える。」


悠。


答える。


「明日でも。」


「来週でも。」


「来年でも。」


圭介。


黙る。


それから。


笑う。


「そっか。」


悠。


「ああ。」


「そっか。」


もう一度。


圭介。


言う。


「じゃ。」


手。


上げる。


「またな。」


悠。


「ああ。」


「また。」


圭介。


歩く。


今度は。


振り返らない。


母親が。


待っている。


家へ。


帰る。


メアリー。


その背中。


見ながら。


小さく。


「またね。」


圭介。


聞こえない。


はず。


なのに。


少し。


立ち止まる。


振り返らず。


片手。


上げる。


メアリー。


目。


丸くする。


悠。


「聞こえた?」


「分からん。」


「じゃあ何で。」


「分からん。」


メアリー。


笑う。


「それで。」


「いいか。」


⸻


午後三時五十五分


白石屋。


引き戸。


前。


紗季。


立つ。


手。


卒業証書。


握っている。


十二年前。


ここから。


出て。


帰らなかった。


店。


変わっている。


看板。


少し。


新しい。


暖簾。


色。


褪せている。


でも。


白石屋。


名前。


同じ。


紗季。


引き戸。


開ける。


「……。」


奥。


女性。


一人。


振り返る。


十二年。


歳を重ねた。


母。


美佐江。


手。


止まる。


二人。


何も。


言えない。


長い。


長い。


沈黙。


紗季。


「お母さん。」


美佐江。


唇。


震える。


一歩。


近づく。


「……紗季。」


紗季。


頷く。


美佐江。


娘。


抱く。


強く。


紗季。


最初。


動けない。


そして。


ゆっくり。


母の背中へ。


腕。


回す。


「ただいま。」


美佐江。


何度も。


頷く。


「おかえり。」


「おかえり。」


「おかえり。」


紗季。


泣く。


しばらく。


二人。


そのまま。


⸻


やがて。


美佐江。


娘の手。


見る。


「それ。」


紗季。


「あ。」


卒業証書。


胸。


抱く。


「卒業。」


「した。」


美佐江。


目。


丸くする。


紗季。


泣きながら。


笑う。


「今日。」


「卒業した。」


「十二年。」


「遅れた。」


美佐江。


証書。


見る。


そして。


娘を見る。


「ええやん。」


紗季。


「え。」


美佐江。


涙。


拭く。


「十二年くらい。」


紗季。


また。


泣く。


「長いよ。」


「長い。」


美佐江。


笑う。


「でも。」


「帰ってきた。」


「それで。」


「ええ。」


⸻


午後四時〇七分


秋山家。


玄関。


透。


鍵。


持つ。


蓮。


後ろ。


「ここ?」


「うん。」


「前の家じゃない。」


「引っ越した。」


「いつ。」


透。


少し。


止まる。


「お前が。」


「いなくなって。」


「しばらくして。」


蓮。


「何で。」


透。


鍵。


見る。


「前の家。」


「どこ見ても。」


「お前。」


「いたから。」


蓮。


黙る。


透。


「部屋。」


「靴。」


「ゲーム。」


「歯ブラシ。」


「冷蔵庫のプリン。」


蓮。


「プリン?」


「俺の。」


「食っただろ。」


「覚えてない。」


「絶対食った。」


「八年前の。」


「プリンで。」


「怒る?」


「怒る。」


蓮。


笑う。


透も。


少し。


笑う。


鍵。


開ける。


扉。


蓮。


中。


見る。


知らない。


兄の家。


八年間。


自分なしで。


生きた。


場所。


透。


先。


入る。


「狭いぞ。」


蓮。


「兄ちゃん。」


「片付けてる?」


「一応。」


「一応って。」


「見るな。」


「まだ何も見てない。」


「見るな。」


「何で。」


「プライバシー。」


「兄弟じゃん。」


「八年ぶりでも。」


「プライバシーはある。」


蓮。


笑う。


玄関。


一歩。


入る。


「ただいま。」


透。


背中。


向けたまま。


少し。


止まる。


「……おかえり。」


⸻


午後四時二十分


佐伯家。


直哉。


玄関。


靴。


履く。


父。


健三。


立っている。


妹。


奈緒。


少し。


離れて。


見る。


直哉。


「行ってくる。」


健三。


「警察か。」


「うん。」


「全部。」


「話す。」


健三。


頷く。


「そうか。」


奈緒。


「お兄ちゃん。」


直哉。


振り返る。


妹。


自分より。


年上。


見える。


十二年前。


まだ。


年下。


だった。


奈緒。


「帰ってくる?」


直哉。


止まる。


あの日。


自分は。


帰らなかった。


メアリーを。


追った。


逃げた。


消えた。


家族。


十二年。


置いた。


「帰る。」


直哉。


答える。


「今度は。」


「ちゃんと。」


「帰る。」


健三。


「行ってこい。」


直哉。


「うん。」


外。


出る。


今度は。


逃げるためではない。


自分が。


したことと。


向き合うため。


⸻


午後四時三十八分


臨時捜査本部。


榊原。


机。


コーヒー。


冷めている。


宮本。


書類。


置く。


「藤崎。」


「話し始めています。」


榊原。


「隆志。」


「はい。」


「十二年前の。」


「供述。」


「少しずつ。」


「ただ。」


「本人の記憶。」


「かなり。」


「混乱してます。」


榊原。


「十二年。」


「経っとる。」


「それに。」


「自分に都合よく。」


「変わっとる部分も。」


「あるやろ。」


宮本。


「はい。」


「物証と。」


「照合します。」


榊原。


地下。


資料。


見る。


橘依子。


回収品。


カセット。


写真。


髪留め。


地下。


現場。


保存。


身元確認。


進行中。


宮本。


「藤崎正臣について。」


別紙。


出す。


「記録。」


「訂正が必要です。」


榊原。


「死亡年。」


「はい。」


「令和二年。」


「二〇二〇年。」


榊原。


「十二年前は。」


「生きとった。」


「はい。」


「以前のデータは。」


「転記ミス。」


榊原。


舌打ち。


「死人に。」


「全部。」


「被せたら。」


「楽やったのにな。」


宮本。


「楽では。」


「駄目です。」


「分かっとる。」


写真。


一枚。


机。


置く。


一九五三年。


水城千尋。


ヨル。


そして。


少年。


藤崎正臣。


宮本。


「この時点で。」


「正臣は。」


「子どもです。」


榊原。


「あぁ。」


「つまり。」


「怪異。」


「作った本人。」


「ではない。」


「少なくとも。」


「そう断定できる証拠は。」


「ありません。」


榊原。


写真。


見る。


「怖かったんやろな。」


宮本。


「……。」


「子どもの頃。」


「こんなん見て。」


「それから。」


「何十年も。」


榊原。


写真。


伏せる。


「でも。」


「怖かったから。」


「十二年前。」


「何してもええ。」


「にはならん。」


宮本。


「はい。」


「恐怖は。」


「説明にはなる。」


榊原。


「免罪符には。」


「ならん。」


十二年前。


何を。


見たのか。


何を。


恐れたのか。


そして。


その恐怖の中で。


何を。


選んだのか。


そこは。


別々に。


記録する。


⸻


午後四時五十二分


喫茶つばめ。


柏木。


ノート。


開く。


新しい。


ページ。


日付。


書く。


八月十六日。


その下。


名前。


一つずつ。


三浦圭介 帰還


神崎春人 帰還


白石紗季 帰還


秋山蓮 帰還


佐伯直哉 帰還


ヨル 帰還


柏木。


ペン。


止まる。


最後。


一人。


メアリー・アンダーソン。


書く。


その横。


帰還。


書こうとする。


止まる。


消す。


死亡。


書く。


また。


止まる。


消す。


忘れない。


書く。


違う。


それも。


消す。


しばらく。


考える。


そして。


書く。


メアリー・アンダーソン


ここにいた。


柏木。


ノート。


閉じる。


「……それで。」


「ええか。」


誰も。


答えない。


店。


静か。


時計。


普通に。


進む。


⸻


午後五時〇六分


古時計店。


ヨル。


テーブル。


前。


座る。


カレー。


見る。


久我。


向かい。


「食え。」


ヨル。


「これ。」


「カレー。」


「知ってる。」


「食べたこと。」


「ない。」


久我。


「ほな。」


「今日。」


「食え。」


ヨル。


スプーン。


持つ。


ぎこちない。


一口。


口。


入れる。


止まる。


久我。


「何。」


ヨル。


目。


潤む。


「痛い。」


久我。


「辛い。」


「痛い。」


「辛い。」


「同じ?」


「だいたい。」


ヨル。


もう一口。


食べる。


涙。


出る。


「おいしい。」


久我。


「どっちやねん。」


ヨル。


泣きながら。


食べる。


ふと。


棚。


見る。


黒い。


古い。


帽子。


瀬川。


かぶっていた。


もの。


ヨル。


「瀬川。」


久我。


「ん。」


「帰って。」


「くる?」


久我。


答えない。


ヨル。


分かる。


少しずつ。


「もう。」


「来ない?」


久我。


「分からん。」


「でも。」


ヨル。


「大丈夫。」


久我。


即座。


「大丈夫ちゃうやろ。」


ヨル。


見る。


「え。」


「寂しいなら。」


「寂しい。」


「怖いなら。」


「怖い。」


「それでええ。」


ヨル。


「……。」


久我。


カレー。


指す。


「ほな。」


「大丈夫ちゃうまま。」


「飯食え。」


ヨル。


少し。


笑う。


「うん。」


また。


一口。


「辛い。」


「せやろ。」


「おいしい。」


「せやろ。」


⸻


午後五時二十三分


花屋。


春人。


白い花。


見る。


店主。


美和。


春人。


見る。


「昨日。」


「渡せた?」


春人。


「……。」


「何を。」


「白い花。」


春人。


視線。


逸らす。


「渡しました。」


美和。


笑う。


「十二年。」


「遅かったね。」


春人。


「はい。」


「何て。」


「別に。」


「嘘。」


「……。」


春人。


白い花。


一本。


取る。


美和。


「また?」


「今度は。」


「墓に。」


美和。


手。


止まる。


春人。


「まだ。」


「ないですけど。」


「できたら。」


「持っていこうかなって。」


美和。


花。


包む。


「じゃあ。」


「その時。」


「もう一本。」


「買いに来な。」


春人。


「今日のは。」


「今日の分。」


「そう。」


春人。


少し。


笑う。


「じゃあ。」


「また来ます。」


「うん。」


「今度は。」


「十二年。」


「待たんでね。」


春人。


「……努力します。」


⸻


午後五時四十一分


海鳴町駅。


悠。


メアリー。


ホーム。


端。


立つ。


電車。


まだ。


来ない。


メアリー。


「悠ちゃん。」


「何。」


「帰る?」


「どこに。」


「横浜。」


悠。


考える。


「そのうち。」


「仕事。」


「あるもんね。」


「一応。」


「一応。」


「何だよ。」


メアリー。


笑う。


「戻ったら。」


「また。」


「同じ?」


悠。


「……。」


派遣。


朝。


起きる。


仕事。


帰る。


酒。


寝る。


また。


朝。


何も。


考えない。


生活。


「分からない。」


悠。


答える。


「でも。」


「何か。」


「変える。」


メアリー。


「何を。」


「それも。」


「分からない。」


「適当。」


「うるさい。」


メアリー。


笑う。


そして。


「それでいい。」


悠。


「え。」


「分からんまま。」


「考えれば。」


「いい。」


悠。


少女を見る。


「お前。」


「急に。」


「まともなこと。」


「言うな。」


「失礼。」


⸻


午後五時五十五分


コンビニ。


悠。


冷蔵棚。


前。


止まる。


氷結。


並ぶ。


十二年前。


いや。


数日前。


最初。


メアリーから。


メッセージ。


届いた夜。


買った。


酒。


悠。


手。


伸ばす。


止める。


隣。


炭酸水。


取る。


それから。


卵サンド。


メアリー。


「健康。」


「うるさい。」


「偉い。」


「子ども扱い。」


「二十九歳。」


「分かってる。」


レジ。


向かう。


メアリー。


後ろ。


ついてくる。


何でもない。


買い物。


それが。


少し。


違う。


⸻


午後六時〇二分


中央公園。


ベンチ。


悠。


座る。


メアリー。


隣。


最初。


ここだった。


スマートフォン。


震えた。


画面。


名前。


メアリー。


最初の。


一言。


『悠ちゃん?』


悠。


メッセージ。


開く。


残っている。


全部。


メアリー。


横から。


見る。


「まだ。」


「消してない。」


「消すわけないだろ。」


「いつか。」


「消えるかも。」


悠。


「バックアップ。」


「する。」


「そういう意味じゃ。」


「分かってる。」


メアリー。


公園。


見る。


「もし。」


「スマホ。」


「壊れて。」


「メッセージ。」


「なくなっても。」


悠。


「やめろ。」


「聞いて。」


「……。」


「私。」


胸。


指す。


「ここ。」


「だけじゃ。」


「ない。」


町。


指す。


「ここにも。」


ベンチ。


「ここにも。」


海。


方向。


「海にも。」


学校。


方向。


「学校にも。」


写真。


「写真にも。」


そして。


悠。


見る。


「人にも。」


少し。


笑う。


「いっぱい。」


「残った。」


悠。


「……。」


「だから。」


「全部。」


「スマホに。」


「入れとかんでも。」


「いいよ。」


悠。


スマートフォン。


握る。


「でも。」


「消さない。」


メアリー。


「頑固。」


「知ってるだろ。」


「うん。」


「知ってる。」


⸻


午後六時〇八分


風。


少し。


涼しくなる。


メアリー。


「悠ちゃん。」


「ん。」


「思い出した。」


「何。」


「十二年前。」


「最後。」


「みんな。」


「向こう。」


「行った時。」


悠。


顔。


上げる。


メアリー。


「透。」


「止めた。」


悠。


「……。」


「悠ちゃんが。」


『お前は残れ』


『誰か一人くらい、全部覚えてないと』


悠。


目。


閉じる。


思い出す。


十七歳。


自分。


透。


腕。


掴んだ。


必死。


だった。


「何で。」


メアリー。


「透だけ。」


「残したん?」


悠。


しばらく。


答えない。


「怖かった。」


「何が。」


「俺も。」


「忘れるかもって。」


メアリー。


黙る。


「だから。」


悠。


「一人。」


「残した。」


「覚えてるやつ。」


「必要だった。」


透。


十二年。


撮った。


記録した。


探した。


忘れなかった。


悠。


「……あいつ。」


「本当に。」


「やりやがった。」


メアリー。


「うん。」


「十二年。」


悠。


「やりすぎ。」


メアリー。


笑う。


「でも。」


「悠ちゃんも。」


「見つけた。」


悠。


「何を。」


メアリー。


「みんな。」


悠。


少女を見る。


「私も。」


メアリー。


笑う。


「見つけた。」


⸻


午後六時〇九分


時計。


見る。


18:09。


悠。


息。


止まる。


メアリーも。


見る。


あと。


一分。


十二年前。


世界。


壊れた。


時間。


メアリー。


少し。


透ける。


悠。


立つ。


「メアリー。」


「うん。」


「何で。」


少女。


手。


見る。


「分からん。」


「おい。」


「大丈夫。」


「何が。」


「分からんけど。」


「大丈夫。」


「それ。」


「大丈夫じゃない。」


メアリー。


笑う。


でも。


目。


怖い。


「悠ちゃん。」


「何。」


「私。」


「怖い。」


悠。


何も。


言えない。


「朝。」


「言ったやろ。」


「このあと。」


「どうなるんかなって。」


「うん。」


「今。」


「分かった。」


「何が。」


メアリー。


涙。


浮かべる。


「いなくなるの。」


「怖い。」


悠。


「……。」


「もう。」


「話せんの。」


「怖い。」


「明日。」


「見れんの。」


「怖い。」


悠。


「俺も。」


メアリー。


「え。」


「俺も。」


「怖い。」


それだけ。


言う。


強がらない。


大丈夫。


言わない。


メアリー。


泣きながら。


笑う。


「そっか。」


「うん。」


「じゃあ。」


「一緒。」


「うん。」


⸻


午後六時十分


時計。


18:10。


何も。


起きない。


風。


吹く。


子ども。


走る。


犬。


吠える。


自転車。


通る。


普通。


ただの。


十八時十分。


メアリー。


まだ。


いる。


悠。


「……。」


メアリー。


「……。」


二人。


時計。


見る。


18:10。


一秒。


二秒。


三秒。


そして。


18:11。


時計。


動く。


メアリー。


息。


吐く。


「動いた。」


悠。


「ああ。」


「時間。」


「動いた。」


「ああ。」


少女。


悠を見る。


「見つけてくれて。」


「ありがとう。」


悠。


「急に。」


「何だよ。」


「言いたかった。」


「それから。」


メアリー。


一歩。


近づく。


「会いたかった。」


悠。


喉。


詰まる。


十二年前。


言えなかった。


朝。


海。


言えなかった。


今。


言う。


「メアリー。」


「うん。」


「好きだよ。」


少女。


止まる。


涙。


一つ。


落ちる。


「うん。」


笑う。


「私も。」


悠。


手。


伸ばす。


触れない。


だから。


額。


近づける。


重ならない。


ほんの。


少し。


距離。


残る。


それでも。


二人。


目。


閉じる。


これで。


終わる。


そう。


思った。


⸻


午後六時十二分。


悠。


目。


開ける。


メアリー。


いる。


メアリー。


目。


開ける。


悠。


いる。


「……。」


「……。」


メアリー。


「消えん。」


悠。


「うん。」


「何で。」


「知らん。」


「今。」


「めっちゃ。」


「綺麗に。」


「終わるとこやった!」


悠。


吹き出す。


「俺に言うな!」


メアリー。


「タイミング!」


「知らねえよ!」


二人。


笑う。


泣きながら。


笑う。


⸻


午後六時十五分


スマートフォン。


震える。


悠。


笑い。


止まる。


画面。


見る。


知らない。


送信者。


メアリー。


「誰?」


悠。


開く。


メッセージ。


『時計台へ来て。』


次。


『怖がらなくていい。』


そして。


最後。


『最後の人が、待ってる。』


悠。


メアリー。


顔。


見合わせる。


メアリー。


「私。」


「送ってない。」


悠。


「分かってる。」


From:


Unknown


悠。


立つ。


「行くか。」


メアリー。


「うん。」


今度は。


謎を。


追うためではない。


最後に。


待っている。


誰かへ。


会いに。


⸻


午後六時二十九分


海鳴町・時計台


いた。


ヨル。


久我。


透。


蓮。


春人。


紗季。


圭介。


レイ。


直哉。


健三。


柏木。


中村。


木村トメ。


神崎文江。


榊原。


宮本。


悠。


「何で。」


圭介。


スマートフォン。


上げる。


「来た。」


紗季。


「私も。」


春人。


「同じ。」


透。


「送信元。」


「不明。」


榊原。


「警察にも。」


「来よった。」


「ナメとんのか。」


宮本。


「落ち着いてください。」


「落ち着いとる。」


レイ。


「それ。」


「落ち着いてない。」


時計台。


扉。


開く。


中。


一人。


男。


立っている。


瀬川宗一。


でも。


姿。


安定しない。


老人。


青年。


少年。


一瞬ごと。


変わる。


ヨル。


「瀬川。」


瀬川。


「おう。」


ヨル。


「メッセージ。」


「送った?」


瀬川。


「送れるか。」


「ワシ。」


「スマホ。」


「持っとらん。」


悠。


「じゃあ。」


「誰が。」


瀬川。


「知らん。」


榊原。


「知らんのかい。」


瀬川。


笑う。


「知らんもんは。」


「知らん。」


悠。


スマートフォン。


見る。


Unknown。


瀬川。


時計。


見上げる。


針。


進む。


「まぁ。」


「ええやろ。」


「分からんこと。」


「一個くらい。」


「残っても。」


⸻


瀬川。


ヨルを見る。


「扉。」


「閉じた。」


ヨル。


「うん。」


「もう。」


「開かん。」


「うん。」


「ほな。」


帽子。


触る。


「ワシ。」


「いらんな。」


ヨル。


「何が。」


「番人。」


「見張り。」


「待つ人。」


瀬川。


笑う。


「卒業や。」


ヨル。


「卒業。」


「そう。」


「お前も。」


ヨル。


「私?」


「名前。」


「借りんでええ。」


「顔。」


「借りんでええ。」


「誰かの。」


「代わり。」


「せんでええ。」


ヨル。


黙る。


「ヨルで。」


「生きろ。」


「でも。」


「家。」


「ない。」


久我。


横。


「ある。」


ヨル。


振り返る。


久我。


「二階。」


「空いとる。」


ヨル。


「……。」


「狭いけど。」


「カレー。」


「ある。」


ヨル。


泣きそう。


「辛い。」


「次。」


「甘口にする。」


ヨル。


笑う。


「うん。」


⸻


瀬川。


悠を見る。


「忘れたな。」


悠。


「……はい。」


「見つけたな。」


悠。


メアリー。


見る。


「はい。」


瀬川。


「ほな。」


「ええ。」


次。


透。


「撮りすぎ。」


透。


「……。」


「今度は。」


「楽しいもん。」


「撮れ。」


透。


小さく。


笑う。


「はい。」


蓮。


「兄ちゃん。」


「頼むぞ。」


蓮。


「俺が?」


「お前が。」


「はい。」


春人。


瀬川。


見る。


何も。


言わない。


春人。


「俺は?」


瀬川。


「花。」


春人。


固まる。


圭介。


「知ってんの!?」


メアリー。


笑う。


「有名。」


春人。


「……。」


瀬川。


「次は。」


「早よ渡せ。」


春人。


「もう。」


「渡しました。」


瀬川。


「ほう。」


春人。


少し。


胸。


張る。


メアリー。


「十二年。」


「遅いけど。」


悠。


「だって。」


春人。


「何が。」


「いや。」


「何でも。」


⸻


瀬川。


直哉。


見る。


空気。


少し。


変わる。


直哉。


目。


逸らさない。


瀬川。


「逃げんな。」


直哉。


「はい。」


「したこと。」


「消えん。」


「はい。」


「ほな。」


「抱えて。」


「生きろ。」


直哉。


「はい。」


父。


健三。


後ろ。


立つ。


何も。


言わない。


ただ。


息子。


見る。


⸻


最後。


瀬川。


メアリー。


見る。


「お前。」


メアリー。


「はい。」


「まだ。」


「おるな。」


メアリー。


「……はい。」


「行く?」


メアリー。


少し。


考える。


「分かりません。」


瀬川。


「そうか。」


「でも。」


「今。」


「ここに。」


「おって。」


「いい?」


瀬川。


笑う。


「ええんちゃう。」


「それで。」


「ええ。」


メアリー。


涙。


拭く。


「はい。」


⸻


瀬川。


時計台。


中央。


立つ。


鐘。


紐。


握る。


一度。


引く。


ゴーン。


音。


町。


響く。


怪異。


ではない。


普通の。


鐘。


ヨル。


「瀬川。」


男。


姿。


薄くなる。


「何。」


「明日。」


ヨル。


言葉。


詰まる。


「明日。」


「何すればいい。」


瀬川。


少し。


笑う。


「それを。」


「考えられるんが。」


「生きるってことや。」


ヨル。


「……生きる。」


「あぁ。」


姿。


さらに。


薄い。


帽子。


落ちる。


ヨル。


手。


伸ばす。


「瀬川。」


瀬川。


最後。


笑う。


「ほなな。」


消える。


帽子。


床。


落ちる。


音。


小さく。


響く。


ヨル。


拾う。


胸。


抱く。


「……ほなな。」


⸻


午後六時三十七分


悠。


スマートフォン。


見る。


メッセージ。


まだ。


ある。


From:


Unknown


その文字。


一瞬。


揺れる。


そして。


消える。


メッセージ。


だけ。


残る。


メアリー。


「調べる?」


悠。


画面。


閉じる。


「調べない。」


「いいの?」


「ああ。」


「分からないこと。」


「一個くらい。」


「残ってても。」


「いいだろ。」


透。


聞いている。


でも。


カメラ。


出さない。


榊原。


「珍しい。」


悠。


「何が。」


「お前が。」


「追わんの。」


悠。


「疲れました。」


「それが。」


「普通や。」


⸻


午後六時四十一分


時計台。


外。


空。


まだ。


明るい。


夏。


メアリー。


隣。


歩く。


「悠ちゃん。」


「ん。」


「私。」


「まだ。」


「やること。」


「ある。」


悠。


「何。」


メアリー。


少し。


考える。


「家。」


悠。


止まる。


「家?」


「うん。」


「私。」


「まだ。」


「帰ってない。」


十二年前。


最後まで。


帰れなかった。


場所。


父。


母。


自分の。


部屋。


悠。


「場所。」


「分かる?」


メアリー。


「たぶん。」


「行く?」


少女。


頷く。


「帰りたい。」


悠。


「じゃあ。」


「帰ろう。」


二人。


歩き出す。


次。


帰る場所へ。


⸻


第82話「始まった場所」 了


次回 第83話「ただいま」


十二年前。


帰れなかった家。


メアリーの父と母。


残された部屋。


残された写真。


そして。


祭りのあと。


悠に渡すはずだった。


一通の手紙。


メアリーは。


十二年遅れて。


ようやく。


「ただいま」を言う。

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