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Appearing ― 突然、君からのメッセージ ―  作者: 和泉發仙


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祭りの夜

Appearing


― 突然、君からのメッセージ ―


第79話


祭りの夜


前書き


十二年前。


彼らの夏祭りは、


午後六時十分で終わった。


花火を見ることも。


屋台を回ることも。


くだらない話をしながら帰ることも。


できなかった。


だから今夜は、


事件を追わない。


謎も解かない。


誰かを疑うこともしない。


ただ。


十二年前の続きを、


やり直す。


⸻


午後八時十二分


海鳴町・旧社前


赤色灯が、


木々を照らしていた。


警察。


救急。


鑑識。


旧社地下で発見された橘依子の遺骨。


十二年間、


「町を離れた教師」とされていた人が、


ようやく。


名前を取り戻した。


悠は、


規制線の外から、


旧社を見ていた。


隣。


メアリー。


「先生。」


「うん。」


「やっと。」


「帰れるね。」


悠。


「あぁ。」


メアリーは、


少し笑った。


寂しそうではない。


安心したような。


そんな顔。


その時。


後ろ。


「おーい!」


レイ。


走ってくる。


手。


ビニール袋。


「何してんだよ!」


悠。


「何って。」


「先生が。」


「それは警察に任せろ。」


「でも。」


「榊原さんから伝言。」


レイ。


妙に。


偉そう。


「『素人は捜査の邪魔すんな、ダボ』。」


悠。


「……。」


メアリー。


吹き出す。


「言いそう。」


「完全再現。」


レイ。


「あと。」


袋。


上げる。


「これ。」


「何。」


「食い物。」


悠。


「なんで。」


レイ。


「帰ってきた連中。」


「全員。」


「腹減ったって。」


悠。


「……。」


「特に。」


レイ。


顔。


しかめる。


「圭介。」


⸻


午後八時二十分


海鳴町・祭り会場


「高っ!!」


三浦圭介。


屋台。


前。


叫ぶ。


「焼きそば七百円!?」


店主。


「兄ちゃん。」


「買うんか買わんのか。」


圭介。


「十二年前いくらだった!?」


店主。


「知らんわ!」


悠。


額。


押さえる。


「お前。」


「帰ってきて最初に。」


「物価にキレるのやめろ。」


圭介。


「だって!」


「自販機も高いし!」


蓮。


横。


たこ焼き。


食べながら。


「兄ちゃん。」


透。


「何。」


「八年前より。」


「全部高い。」


透。


「俺に言うな。」


「兄ちゃんが。」


「八年間。」


「何とかしといてよ。」


「何を。」


「日本経済。」


透。


「無理。」


レイ。


「スケールでかいな。」


紗季。


笑う。


本当に。


笑っている。


十二年前。


高校生だった。


白石紗季。


見た目は。


あの日のまま。


でも。


目。


違う。


向こう側で。


十二年。


過ごした。


普通の高校生では。


もう。


ない。


それでも。


りんご飴。


見つめている姿は。


普通。


「紗季。」


春人。


「食う?」


「……。」


「何。」


「お金。」


「俺もない。」


「……。」


二人。


沈黙。


十二年前の財布。


使えるのか。


春人。


財布。


出す。


千円札。


古い。


「これ。」


レイ。


「使える。」


「マジ?」


「日本銀行券だから。」


圭介。


「勝った!」


悠。


「何に。」


圭介。


「時代に。」


悠。


「十二年負けてるけど。」


「うるせぇ!」


⸻


少し離れた場所。


佐伯直哉。


立っている。


動かない。


父。


健三。


母。


美津子。


妹。


奈緒。


家族。


十二年。


歳を取った。


直哉だけ。


二十三歳。


奈緒。


もう。


兄より。


年上。


直哉。


妹を見る。


「……奈緒?」


「うん。」


「お前。」


「何歳。」


奈緒。


「三十五。」


直哉。


「……。」


「兄ちゃんは。」


「二十三。」


「……。」


「敬語使う?」


直哉。


「やめろ。」


奈緒。


笑う。


泣く。


直哉も。


笑う。


そして。


母。


美津子。


息子の頬。


両手。


触れる。


「ほんまに。」


「変わってない。」


直哉。


「母ちゃんは。」


言いかける。


健三。


「言うな。」


直哉。


「まだ何も。」


「絶対余計なこと言う。」


奈緒。


「兄ちゃん昔からそう。」


「お前。」


「三十五になって。」


「強くなったな。」


「十二年。」


「誰のせいやと思ってんの。」


直哉。


言葉。


止まる。


奈緒。


すぐ。


「あ。」


空気。


変わる。


でも。


直哉。


少し笑う。


「俺だな。」


健三。


「直哉。」


「うん。」


「それも。」


「あとで話せ。」


「……。」


「今日は。」


父。


息子の肩。


叩く。


「帰ってきた日や。」


直哉。


唇。


噛む。


「うん。」


⸻


午後八時三十一分


祭り会場・参道


悠。


メアリー。


少し。


離れて歩く。


周囲。


誰も。


メアリーを見ていない。


見えるのは。


悠。


春人。


透。


それから。


ごく一部。


怪異に触れた者だけ。


メアリー。


屋台。


見る。


「チョコバナナ。」


悠。


「食いたい?」


「うん。」


「無理だろ。」


「分かっとる。」


「じゃあ言うな。」


「言うくらい。」


「ええやん。」


悠。


一本。


買う。


メアリー。


「買うん?」


「俺が食う。」


「ずる。」


一口。


「……甘っ。」


メアリー。


「おいしい?」


「微妙。」


「じゃあ。」


「私に。」


「無理。」


「ケチ。」


悠。


少し。


考える。


チョコバナナ。


メアリーの前。


出す。


「匂い。」


メアリー。


「……。」


「分かる?」


少女。


顔。


近付ける。


目。


閉じる。


「……ちょっと。」


悠。


「本当?」


「たぶん。」


もう一度。


「甘い。」


笑う。


「チョコ。」


悠。


何も。


言えない。


メアリー。


「そんな顔せんで。」


「してない。」


「しとる。」


「してない。」


「泣きそう。」


「チョコバナナで泣くか。」


「悠ちゃん。」


「昔。」


「犬死んだ映画で泣いとった。」


「それ関係ない。」


「めっちゃ泣いとった。」


「お前もだろ。」


二人。


笑う。


⸻


前。


春人。


白い花。


一輪。


持っている。


悠が。


花屋から。


預かったもの。


渡した。


「春人。」


「ん。」


「それ。」


「十二年前。」


「毎年買ってたんだって?」


春人。


固まる。


メアリー。


「何を?」


悠。


「あ。」


春人。


「お前。」


「言うな!」


メアリー。


「何?」


悠。


「白い花。」


春人。


「悠!!」


「メアリーに。」


「毎年。」


「渡そうとして。」


「渡せなかった。」


メアリー。


「……。」


春人。


顔。


真っ赤。


「違う。」


悠。


「花屋のおばちゃんが。」


「全部喋った。」


春人。


「美和さん!!」


メアリー。


春人を見る。


「春人先輩。」


「……はい。」


「十二年。」


「渡せんかったん?」


「……。」


「ヘタレ。」


圭介。


後ろ。


「ヘタレ。」


紗季。


「ヘタレ。」


蓮。


「誰か知らないけどヘタレ。」


春人。


「お前は黙れ!」


透。


「弟に怒るな。」


レイ。


「十二年越しの公開処刑。」


春人。


「お前ら!」


メアリー。


笑う。


声。


上げて。


久しぶり。


悠。


その顔。


見る。


春人。


諦める。


花。


メアリーへ。


差し出す。


「……。」


メアリー。


「触れんよ。」


「知ってる。」


「じゃあ。」


「気持ち。」


春人。


顔。


逸らす。


「だけ。」


メアリー。


白い花。


見る。


そして。


深く。


頭。


下げる。


「ありがとう。」


春人。


「……遅くなった。」


「うん。」


「そこは。」


「肯定するなよ。」


メアリー。


笑う。


「十二年は。」


「遅すぎ。」


春人も。


笑った。


泣きながら。


⸻


午後八時四十四分


金魚すくい


圭介。


ポイ。


構える。


「見とけ。」


悠。


「何を。」


「十二年前。」


「俺。」


「七匹取った。」


紗季。


「嘘。」


「本当!」


春人。


「三匹。」


「七!」


透。


「二。」


「何で減るんだよ!」


蓮。


「ゼロ。」


「お前。」


「会ったばっかだよな?」


店主。


「兄ちゃん。」


「やるんか?」


圭介。


「やります。」


真剣。


一匹。


狙う。


破れる。


一秒。


全員。


「……。」


圭介。


「紙。」


「弱くなってない?」


店主。


「兄ちゃんが下手なんや。」


悠。


笑う。


腹。


痛い。


十二年前。


多分。


こんな夜に。


なるはずだった。


くだらない。


何の意味もない。


誰も。


死なない。


誰も。


消えない。


誰も。


謎を解かない。


ただ。


友達が。


アホなことをする。


それを。


笑う。


本来。


夏祭りなんて。


それで。


よかった。


⸻


午後八時五十分


神社境内


透。


一人。


カメラ。


持っている。


蓮。


隣。


「兄ちゃん。」


「何。」


「撮らないの。」


透。


「……。」


カメラ。


見る。


十二年間。


これで。


残した。


忘れないため。


証明するため。


失ったもの。


追い続けるため。


でも。


柏木。


言った。


今日。


最後の一枚。


透。


「撮るよ。」


「何を。」


透。


みんな。


見る。


悠。


圭介。


春人。


紗季。


蓮。


直哉。


家族。


レイ。


そして。


悠の隣。


メアリー。


「全員。」


蓮。


笑う。


「じゃあ。」


「俺も。」


「写る。」


「当然。」


透。


カメラ。


三脚。


置く。


タイマー。


「集まれ。」


圭介。


「写真?」


春人。


「また?」


透。


「最後。」


悠。


その言葉。


見る。


透。


「このカメラで。」


「最後の一枚。」


紗季。


何も。


言わない。


分かっている。


写真。


必要だった。


でも。


もう。


証明するために。


生きなくていい。


⸻


「メアリー。」


透。


呼ぶ。


少女。


「うん。」


「悠の横。」


「最初から。」


「そのつもり。」


悠。


「何で。」


「嫌?」


「そうじゃない。」


「じゃあ。」


メアリー。


悠の隣。


立つ。


春人。


反対。


圭介。


真ん中。


紗季。


蓮。


直哉。


レイ。


家族も。


少し。


後ろ。


透。


タイマー。


十秒。


走る。


「待って。」


圭介。


「何。」


「俺。」


「焼きそば持ってる。」


悠。


「いいだろ。」


「写真だぞ。」


「祭りだろ。」


蓮。


「兄ちゃん。」


「顔怖い。」


透。


「元から。」


「もっと怖い。」


「黙れ。」


三。


二。


一。


メアリー。


悠。


見る。


「笑って。」


悠。


「お前も。」


カシャ。


フラッシュ。


一瞬。


夏の夜。


白く。


染まる。


透。


カメラ。


確認。


誰も。


すぐ。


見ない。


怖い。


メアリー。


写っているか。


でも。


透。


画面。


見る。


動かない。


悠。


「透。」


「……。」


「どう。」


透。


顔。


上げる。


笑う。


「写ってる。」


悠。


息。


吐く。


全員。


集まる。


液晶。


そこ。


みんな。


いる。


そして。


悠の隣。


メアリー。


普通の。


少女。


透けていない。


笑っている。


メアリー。


「……。」


自分。


見る。


「私。」


「いる。」


透。


「あぁ。」


「ちゃんと。」


「いる。」


カメラ。


電源。


切る。


そして。


首から。


外す。


蓮。


「兄ちゃん。」


「ん。」


「終わり?」


透。


少し。


考える。


「違う。」


「じゃあ。」


「始める。」


蓮。


「何を。」


透。


弟を見る。


「普通の生活。」


蓮。


笑う。


「できる?」


透。


「……自信ない。」


レイ。


「まず寝ろ。」


悠。


「あと食え。」


紗季。


「お風呂。」


圭介。


「服も。」


透。


「お前ら。」


蓮。


「兄ちゃん。」


「全部だ。」


透。


「帰ってきた日に。」


「集中攻撃するな。」


みんな。


笑う。


⸻


午後九時七分


祭り本部裏


榊原。


戻る。


宮本。


一緒。


悠。


気付く。


「榊原さん。」


「おう。」


「藤崎。」


榊原。


少し。


考える。


「話し始めた。」


「……。」


「カセットも。」


「警察が確保した。」


悠。


「藤崎正臣は。」


「死んどる。」


「せやけど。」


「死んどるから。」


「終わりにはせん。」


榊原。


祭り。


見る。


「何があったか。」


「公的な記録に残す。」


「橘先生の遺骨も。」


「身元確認。」


「ちゃんとやる。」


悠。


「大石さんは。」


「事情聴取。」


「証拠隠した件。」


「記録いじった件。」


「全部。」


「これから。」


榊原。


悠を見る。


「ただ。」


「一個。」


「勘違いすんな。」


「何。」


「警察が。」


「全部きれいに。」


「答え出せるわけちゃう。」


悠。


「……。」


「十二年前。」


「誰が。」


「どの行為について。」


「法的に。」


「どこまで責任負うか。」


「時効。」


「証拠。」


「因果関係。」


「いろいろある。」


悠。


頷く。


「でも。」


榊原。


「メアリーが。」


「おったこと。」


「死んだこと。」


「橘先生が。」


「最後まで助けようとしたこと。」


「それは。」


「もう。」


「消させへん。」


悠。


「はい。」


榊原。


「それでええ。」


メアリー。


隣。


「ありがとう。」


榊原。


聞こえない。


でも。


一瞬。


悠の横。


見る。


「……。」


悠。


「見える?」


「見えへん。」


「じゃあ。」


「何。」


榊原。


鼻。


掻く。


「なんとなく。」


メアリー。


笑う。


「刑事の勘。」


悠。


「らしい。」


榊原。


「何が。」


「何でもないです。」


⸻


午後九時二十三分


海鳴町・海岸


花火。


始まる。


みんな。


防波堤。


座る。


圭介。


「おお!」


蓮。


「すげぇ!」


紗季。


空。


見上げる。


春人。


白い花。


隣。


直哉。


家族。


透。


カメラ。


持っていない。


手ぶら。


それが。


一番。


大きな変化。


ドン。


大輪。


海。


赤く。


染まる。


メアリー。


悠。


隣。


「きれい。」


「さっきも言った。」


「何回言っても。」


「ええやん。」


「そうだな。」


ドン。


青。


メアリー。


「悠ちゃん。」


「何。」


「十二年前。」


「私。」


「これ。」


「見たかった。」


「うん。」


「みんなで。」


「うん。」


「見れた。」


悠。


返事。


少し。


遅れる。


「……うん。」


メアリー。


膝。


抱える。


「それだけで。」


「結構。」


「満足かも。」


悠。


「やめろ。」


メアリー。


「何が。」


「そういう。」


「終わりみたいな。」


メアリー。


少し。


黙る。


「終わるよ。」


悠。


顔。


向ける。


少女。


花火。


見ている。


「何でも。」


「終わる。」


「祭りも。」


「夏休みも。」


「学校も。」


「人生も。」


悠。


「……。」


「でも。」


メアリー。


「終わるから。」


「今日。」


「楽しいんやろ。」


悠。


何も。


言えない。


メアリー。


少し。


笑う。


「私。」


「死んどるよ。」


「知ってる。」


「十二年前に。」


「知ってる。」


「悠ちゃん。」


「何。」


「怒っとる?」


「……。」


悠。


空。


見る。


「怒ってる。」


「誰に。」


「全部。」


メアリー。


「雑。」


「お前にも。」


「え。」


「勝手に。」


「いなくなった。」


メアリー。


少し。


悲しい顔。


「ごめん。」


「謝るな。」


「どっち。」


「分かんねぇ。」


メアリー。


笑う。


悠も。


少し。


笑う。


そして。


長い。


沈黙。


⸻


最後の花火。


大きい。


夜空。


全部。


白。


メアリー。


「明日。」


悠。


「海。」


「うん。」


「約束。」


悠。


小指。


出す。


メアリー。


見る。


「触れんよ。」


「知ってる。」


少女も。


小指。


出す。


二つ。


重ならない。


でも。


並ぶ。


「朝。」


メアリー。


「六時。」


悠。


「早い。」


「起きろ。」


「七時。」


「六時。」


「六時半。」


「六時。」


「……分かった。」


「寝坊したら。」


「置いてく。」


悠。


「幽霊が。」


「置いてくとか。」


「ある?」


「ある。」


二人。


笑う。


⸻


午後九時四十一分。


花火。


終わる。


人。


帰り始める。


圭介。


「腹減った。」


悠。


「また?」


「十二年分。」


蓮。


「ラーメン。」


透。


「まだ言ってんの。」


「食べてない。」


レイ。


「店探す?」


春人。


「この時間。」


紗季。


「ファミレス。」


圭介。


「ファミレス!」


悠。


「お前。」


「知ってるだろ。」


「十二年前にもあったわ。」


圭介。


「でも。」


「行きたい。」


みんな。


歩き出す。


普通に。


誰が。


先でもなく。


誰が。


後ろでもなく。


メアリーも。


その中。


歩く。


悠。


少し。


後ろから。


見る。


十二年前。


六人。


今。


もっと。


増えた。


失ったもの。


全部。


戻ったわけではない。


戻らないものも。


ある。


それでも。


時間は。


進む。


六時十分を越えて。


九時四十二分。


九時四十三分。


九時四十四分。


一分ずつ。


当たり前に。


⸻


午後十時二十六分


海鳴町・ファミリーレストラン


「タッチパネル!?」


圭介。


「うるさい。」


悠。


「注文どうすんの!?」


蓮。


「貸して。」


圭介。


「お前分かるの?」


「八年前にもあった。」


「先輩!」


「誰が先輩だ!」


紗季。


笑う。


春人。


メニュー。


見る。


「高くなってる。」


圭介。


「だろ!?」


悠。


「お前ら。」


透。


「俺。」


「コーヒー。」


全員。


「飯食え。」


透。


「……。」


蓮。


タッチ。


「兄ちゃん。」


「ハンバーグ。」


「勝手に。」


「ライス大盛り。」


「待て。」


「ポテト。」


「多い。」


「パフェ。」


「食えない。」


蓮。


注文。


確定。


ピッ。


透。


「お前。」


蓮。


笑う。


「八年分。」


透。


何も。


言えなくなる。


「……。」


「分かった。」


レイ。


「食うんかい。」


悠。


笑う。


⸻


メアリー。


悠の隣。


メニュー。


覗く。


「オムライス。」


悠。


止まる。


「食べたい?」


「うん。」


「じゃあ。」


タッチ。


オムライス。


注文。


メアリー。


「食べれんよ。」


「俺が食う。」


「またそれ。」


「匂い。」


「分かるかもしれない。」


メアリー。


少し。


笑う。


「うん。」


料理。


届く。


黄色。


卵。


ケチャップ。


湯気。


悠。


皿。


メアリーの前。


少し。


置く。


「どう。」


少女。


目。


閉じる。


ゆっくり。


息。


吸う。


「……。」


長い。


沈黙。


「メアリー?」


少女。


涙。


一筋。


「覚えとる。」


悠。


「何を。」


「味。」


「……。」


「食べてないのに。」


「分かる。」


メアリー。


笑う。


「卵。」


「ケチャップ。」


「ご飯。」


「昔。」


「みんなで。」


「食べた。」


悠。


「うん。」


メアリー。


目。


閉じたまま。


「おいしい。」


悠。


フォーク。


取る。


一口。


「……。」


メアリー。


「どう?」


悠。


飲み込む。


「普通。」


「そこは。」


「おいしいって言え!」


「普通にうまい。」


「なら最初からそう言え。」


圭介。


向かい。


「何一人で喋ってんの。」


悠。


「うるさい。」


春人。


笑う。


「メアリー。」


「怒ってる?」


「めっちゃ。」


悠。


「らしい。」


圭介。


少し。


止まる。


そして。


空いているように見える。


悠の隣の席。


見る。


「そっか。」


静かに。


言う。


「いるんだ。」


悠。


「あぁ。」


圭介。


笑う。


「じゃあ。」


自分のナポリタン。


少し。


皿。


前。


出す。


「これも。」


「匂いだけ。」


メアリー。


「いらん。」


悠。


吹き出す。


圭介。


「なんで!?」


春人。


「嫌われてる。」


「十二年ぶりなのに!」


笑い。


店内。


響く。


普通の。


夜。


⸻


午後十一時五十八分


海鳴町・帰り道


日付。


変わる。


少し前。


みんな。


それぞれ。


帰る場所へ。


圭介。


家族。


紗季。


母。


蓮。


透。


直哉。


佐伯家。


春人。


「俺。」


「どこ帰ればいいんだろ。」


悠。


「そこから?」


春人。


「十二年前の家。」


「あるかな。」


レイ。


「役所案件。」


春人。


「急に現実。」


悠。


「明日。」


「考えよう。」


「そうする。」


春人。


メアリーを見る。


「じゃあ。」


「また。」


メアリー。


「うん。」


「また。」


春人。


少し。


止まる。


でも。


何も。


言わない。


今夜。


別れの言葉は。


誰も。


言わない。


⸻


悠。


一人。


帰り道。


いや。


二人。


メアリー。


隣。


街灯。


蝉。


夏。


「今日。」


メアリー。


「楽しかった。」


悠。


「うん。」


「祭り。」


「うん。」


「ファミレス。」


「うん。」


「オムライス。」


「匂いだけ。」


「でも。」


「おいしかった。」


悠。


「そっか。」


メアリー。


「明日。」


「海。」


「六時。」


「覚えてる。」


「絶対。」


「寝坊する。」


「しない。」


「する。」


「じゃあ。」


「起こせ。」


メアリー。


「分かった。」


悠。


「どうやって。」


メアリー。


考える。


「メッセージ。」


悠。


「それで。」


「始まったんだよな。」


メアリー。


「あ。」


二人。


笑う。


⸻


午前零時〇〇分


悠の部屋。


布団。


悠。


横になる。


メアリー。


窓辺。


月。


見る。


「おやすみ。」


悠。


「おやすみ。」


目。


閉じる。


数秒。


「メアリー。」


返事。


ない。


悠。


目。


開く。


窓辺。


いない。


「……メアリー?」


起きる。


部屋。


誰も。


いない。


胸。


一気に。


冷たくなる。


「おい。」


「メアリー。」


スマートフォン。


掴む。


画面。


通知。


一件。


Mary。


⸻


『ちゃんと寝て。』


⸻


悠。


息。


吐く。


「……びびらせんなよ。」


次。


⸻


『六時に起こすから。』


⸻


悠。


返信。


⸻


『六時半。』


⸻


既読。


すぐ。


⸻


『六時。』


⸻


悠。


⸻


『六時十五分。』


⸻


Mary。


⸻


『六時。』


⸻


悠。


⸻


『鬼。』


⸻


数秒。


そして。


⸻


『幽霊です』


⸻


悠。


笑う。


スマートフォン。


胸。


置く。


目。


閉じる。


十二年前。


できなかった。


「明日」の約束。


今夜。


初めて。


できた。


⸻


同じ頃。


海鳴町。


誰もいない。


時計台。


時計。


午前零時十二分。


正常。


動いている。


その下。


鐘楼。


一人。


十七歳の少女。


ヨル。


町。


見る。


「……。」


後ろ。


黒い帽子。


瀬川宗一。


「どうした。」


ヨル。


「静か。」


「夜やからな。」


「違う。」


少女。


胸。


触る。


「頭の中。」


「静か。」


もう。


誰かの声。


聞こえない。


誰かの顔。


必要ない。


瀬川。


「怖いか。」


ヨル。


「少し。」


「そうか。」


「でも。」


少女。


町を見る。


「明日。」


「何したらいい。」


瀬川。


少し。


笑う。


「それを。」


「考えられるんが。」


「生きるってことや。」


ヨル。


「……生きる。」


「せや。」


「難しい?」


「めちゃくちゃ。」


ヨル。


「嫌。」


瀬川。


「もう遅い。」


少女。


少し。


笑う。


時計。


進む。


零時十三分。


零時十四分。


もう。


誰も。


止めない。


⸻


――第79話・完――


後書き


第79話は、あえて大きな事件を起こさない回にしました。


十二年前に奪われたのは、命や記憶だけではありません。


「友達と祭りを歩いて、くだらないことで笑う夜」そのものも奪われていました。


だから今回は、その続きを取り戻す話です。


透は十二年間手放せなかったカメラで「最後の一枚」を撮り、今度は記録するためではなく、自分の人生を始めることを選びました。


そしてメアリーも、食べることはできなくても、オムライスの味を「思い出す」ことができた。


ここは、最後へ向かううえで大事な一歩です。


本編は第86話で完結。残り7話。


次回、第80話。


「朝の海」


悠とメアリー。


二人だけで、十二年前に行けなかった海へ。


事件も。


警察も。


時計台も。


友達もいない。


そこで初めて二人は、避け続けてきた話――


「メアリーは、このあとどうなるのか」


について向き合います。

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