帰りたい場所
⸻
Appearing
― 突然、君からのメッセージ ―
第78話
帰りたい場所
前書き
十二年前。
メアリー・アンダーソンは。
海で。
死んだのではなかった。
助けられた。
まだ。
生きていた。
だから。
最後に。
歩いた。
最後に。
誰かを。
探した。
そして。
最後に。
一つだけ。
選んだ。
帰りたい場所を。
⸻
午後七時十二分
海鳴町・旧社前
祭り。
音。
遠い。
太鼓。
笑い声。
屋台。
呼び込み。
その全部。
ここだけ。
別の町みたいに。
聞こえる。
榊原。
規制線。
越える。
宮本。
後ろ。
ライト。
持つ。
悠。
メアリー。
その後ろ。
「ほんまに。」
榊原。
振り返る。
「来るんか。」
悠。
「はい。」
「止めても?」
「来ます。」
「ダボ。」
「すみません。」
「褒めとらん。」
メアリー。
「怖い。」
悠。
小さく。
「俺も。」
榊原。
見る。
「何や。」
「いえ。」
「独り言。」
「最近。」
「多いな。」
「そうですね。」
榊原。
ため息。
「まぁ。」
「ええ。」
旧社。
裏。
十二年前。
公用車が。
見つかった場所。
さらに。
奥。
草。
木。
石垣。
その一部。
鑑識。
照らしている。
宮本。
「ここです。」
石。
一つ。
外されている。
その向こう。
黒い。
穴。
榊原。
「地下道。」
宮本。
「はい。」
「古い図面には。」
「載っていません。」
悠。
メアリー。
見る。
少女。
顔。
青い。
「知ってる?」
「……。」
「メアリー。」
「ここ。」
声。
震える。
「来た。」
⸻
午後七時十六分
旧社・地下入口
湿気。
土。
古い。
木。
匂い。
階段。
下。
続く。
メアリー。
立ったまま。
動かない。
悠。
「無理なら。」
「待ってても。」
少女。
首。
横。
「行く。」
「でも。」
「……。」
「怖い。」
悠。
「うん。」
「一緒に。」
「行く。」
メアリー。
見る。
「悠ちゃん。」
「何。」
「今。」
「逃げたら。」
「怒る?」
「怒らない。」
「ほんと。」
「うん。」
「でも。」
少し。
間。
「俺も。」
「一緒に。」
「逃げる。」
メアリー。
一瞬。
きょとん。
そして。
少し。
笑う。
「何それ。」
「知らん。」
「頼りない。」
「知ってる。」
少女。
一歩。
進む。
「行こ。」
「あぁ。」
⸻
階段。
降りる。
ライト。
壁。
照らす。
古い。
石。
水。
滴る。
ぽた。
ぽた。
悠。
胸。
ざわつく。
見たこと。
ある。
夢。
ではない。
向こう側。
時計台。
地下。
あの。
空気。
でも。
違う。
時計。
ない。
歪み。
ない。
ここは。
ただの。
地下。
現実。
宮本。
前。
「足元。」
「気をつけてください。」
榊原。
「黒瀬。」
「はい。」
「何か。」
「思い出したら。」
「勝手に。」
「触んな。」
「はい。」
「あと。」
「走んな。」
「はい。」
「あと。」
「死体。」
「見つけても。」
「叫ぶな。」
悠。
「それ。」
「先に。」
「言います?」
榊原。
「心構えや。」
メアリー。
「怖いこと。」
「言う人。」
悠。
「刑事だから。」
榊原。
振り返る。
「何か。」
「言うた?」
「いえ。」
⸻
午後七時二十一分
地下道・第一分岐
道。
二つ。
右。
崩れている。
左。
奥。
続く。
鑑識。
床。
ライト。
当てる。
宮本。
しゃがむ。
「これ。」
土。
古い。
染み。
もう。
色。
ない。
その横。
小さな。
金属。
榊原。
「何。」
鑑識員。
「髪留め。」
メアリー。
息。
止まる。
青い。
小さな。
髪留め。
錆。
少し。
でも。
形。
残る。
少女。
自分の。
髪。
触る。
「……。」
悠。
「メアリー?」
「先生。」
「何。」
「これ。」
メアリー。
髪留め。
見る。
「橘先生。」
「つけとった。」
榊原。
悠。
見る。
「何。」
悠。
迷う。
「橘先生の。」
「ものかも。」
宮本。
「根拠は。」
「……。」
悠。
メアリー。
見る。
「写真。」
「昔の。」
「写真で。」
「見た気がします。」
榊原。
何も。
言わない。
「回収。」
鑑識。
袋。
入れる。
メアリー。
「先生。」
小さく。
呼ぶ。
⸻
さらに。
奥。
メアリー。
突然。
止まる。
「ここ。」
悠。
「何。」
「血。」
「え。」
壁。
何も。
見えない。
十二年。
跡。
消えている。
でも。
メアリーには。
見える。
記憶。
重なる。
⸻
十二年前。
暗い。
息。
苦しい。
頭。
痛い。
手。
壁。
つく。
赤。
指。
「先生。」
声。
出ない。
「先生。」
遠く。
誰か。
怒鳴る。
男。
女。
車。
ドア。
そして。
走った。
いや。
歩いた。
転んだ。
また。
立った。
⸻
現在。
メアリー。
頭。
押さえる。
「痛い。」
悠。
「メアリー。」
「頭。」
「痛い。」
「今?」
「違う。」
少女。
目。
閉じる。
「思い出した。」
⸻
十二年前。
午後七時前。
だったのか。
時間。
分からない。
メアリー。
地面。
横。
倒れている。
声。
聞こえる。
橘。
「救急車!」
「早く!」
男。
「待て!」
橘。
「まだ生きてる!」
「電話して!」
別の。
男。
息。
荒い。
「親父。」
「もう。」
「やめろ。」
声。
藤崎隆志。
そして。
低い。
老人。
「分かっとらん。」
「これが。」
「出たら。」
「全部。」
「また。」
「始まる。」
橘。
「この子が死ぬ!」
「写真なんか。」
「どうでもいい!」
「先生!」
メアリー。
呼ぶ。
でも。
声。
出ない。
頭。
熱い。
身体。
冷たい。
誰か。
電話。
持っている。
でも。
かけない。
橘。
怒鳴る。
「隆志さん!」
「救急車!」
「早く!」
隆志。
手。
震える。
父。
見る。
「……。」
正臣。
「やめろ。」
短い。
言葉。
それだけ。
隆志。
動けない。
⸻
現在。
メアリー。
「私。」
「生きとった。」
悠。
「うん。」
「まだ。」
「生きとった。」
「うん。」
少女。
震える。
「橘先生。」
「助けようと。」
「しとった。」
「うん。」
「ずっと。」
「救急車。」
「呼んでって。」
悠。
拳。
握る。
でも。
何も。
言わない。
メアリー。
「私。」
「先生。」
「殺したって。」
「思っとった。」
「違った。」
「うん。」
「先生。」
「助けようと。」
「してくれた。」
「うん。」
涙。
落ちる。
「よかった。」
その言葉。
おかしい。
助からなかった。
死んだ。
それでも。
少女。
「よかった。」
もう一度。
「先生じゃ。」
「なかった。」
悠。
「あぁ。」
⸻
午後七時二十八分
地下道・奥
道。
狭くなる。
メアリー。
記憶。
続く。
「私。」
「起きた。」
「いつ。」
「分からん。」
「大人。」
「言い合っとった。」
「先生。」
「どこか。」
「行った。」
「それで。」
「私。」
「……。」
少女。
前。
見る。
「逃げた。」
⸻
十二年前。
メアリー。
目。
開く。
暗い。
車。
近く。
誰も。
自分。
見ていない。
橘。
男たち。
揉めている。
頭。
痛い。
立つ。
足。
ふらつく。
「先生。」
橘。
いない。
地面。
血。
点。
点。
奥。
続く。
メアリー。
それ。
追う。
「先生。」
一歩。
「先生。」
二歩。
石垣。
隙間。
黒い。
穴。
その中。
入る。
⸻
現在。
メアリー。
「ここ。」
「先生を。」
「探した。」
悠。
「一人で?」
「うん。」
「何で。」
「分からん。」
「頭。」
「ちゃんと。」
「動いてなかった。」
少し。
笑う。
「私。」
「昔から。」
「考える前に。」
「動くから。」
悠。
「知ってる。」
「そこ。」
「否定して。」
「無理。」
メアリー。
少し。
笑う。
すぐ。
消える。
⸻
前。
鑑識員。
止まる。
「榊原さん。」
声。
変わる。
榊原。
「何。」
ライト。
奥。
小さな。
空間。
人工。
ではない。
岩。
囲まれた。
部屋。
みたいな。
場所。
その。
壁際。
何か。
ある。
布。
朽ちた。
鞄。
そして。
人。
だった。
もの。
榊原。
動かない。
宮本。
息。
吐く。
「……。」
悠。
見ようと。
する。
榊原。
腕。
出す。
「見るな。」
「でも。」
「見る必要。」
「ない。」
メアリー。
もう。
見ている。
少女。
歩く。
ゆっくり。
近付く。
「先生。」
⸻
橘依子。
十二年。
ここに。
いた。
誰にも。
見つけられず。
名前。
町から。
消され。
「いなくなった教師。」
として。
残った。
でも。
今。
帰ってきた。
⸻
鑑識。
慎重。
周囲。
確認。
宮本。
「身元。」
「まだ。」
「断定できません。」
榊原。
「分かっとる。」
「でも。」
視線。
落とす。
「調べる。」
「ちゃんと。」
「名前。」
「戻す。」
メアリー。
しゃがむ。
触れない。
手。
伸ばす。
「先生。」
「遅くなって。」
「ごめん。」
悠。
後ろ。
立つ。
メアリー。
「私。」
「先生。」
「疑った。」
「うん。」
「ずっと。」
「怖かった。」
「うん。」
「ごめん。」
返事。
ない。
当然。
でも。
その時。
風。
ない。
地下。
なのに。
何か。
揺れる。
古い。
布。
その下。
一枚。
写真。
滑る。
床。
落ちる。
宮本。
「触らないで。」
鑑識。
拾う。
透明。
袋。
入れる。
古い。
写真。
水。
湿気。
それでも。
残っている。
裏。
文字。
ある。
宮本。
ライト。
当てる。
「……。」
榊原。
「読める?」
宮本。
「はい。」
文字。
⸻
1953年
千尋とヨル。
二人とも、ここにいた。
⸻
悠。
息。
止まる。
メアリー。
写真。
見る。
そこ。
少女。
二人。
似ている。
でも。
違う。
一人。
水城千尋。
そして。
もう一人。
ヨル。
その。
少し。
後ろ。
少年。
一人。
写っている。
榊原。
「この子。」
宮本。
写真。
別資料。
見比べる。
「……藤崎。」
「どっち。」
「正臣。」
榊原。
顔。
上げる。
「何歳。」
「当時。」
「十代前半。」
「まだ。」
「子どもです。」
榊原。
写真。
見る。
少年。
藤崎正臣。
怪異。
始まり。
ずっと。
後。
隠そうとした。
男。
でも。
この時。
ただの。
子ども。
だった。
榊原。
「見たんか。」
宮本。
「何を。」
「分からん。」
「でも。」
榊原。
写真。
見る。
「この町で。」
「何か。」
「見た。」
「それで。」
「怖なった。」
「かもしれん。」
宮本。
「怪異を。」
「作った。」
「わけでは。」
「ありません。」
榊原。
「せやな。」
「そこ。」
「混ぜたら。」
「あかん。」
正臣。
怪異。
作っていない。
でも。
十二年前。
何を。
したか。
それは。
別。
⸻
鑑識員。
「もう一つ。」
鞄。
中。
小さな。
カセット。
ケース。
劣化。
している。
でも。
ラベル。
残る。
橘依子。
字。
⸻
8月15日 18:52
⸻
第77話。
聞いた。
声。
証拠。
橘。
ここまで。
持ってきた。
消されないように。
残した。
宮本。
「写真。」
「カセット。」
「髪留め。」
榊原。
「全部。」
「持って帰る。」
「はい。」
「今度こそ。」
榊原。
低く。
「消させへん。」
⸻
午後七時三十九分
地下道・最奥
メアリー。
一人。
少し。
離れる。
悠。
追う。
「メアリー。」
「ここ。」
少女。
壁。
見る。
「私。」
「ここまで。」
「来た。」
記憶。
最後。
戻る。
⸻
十二年前。
暗い。
もう。
立てない。
メアリー。
壁。
背。
座る。
「先生。」
返事。
ない。
寒い。
頭。
痛い。
眠い。
目。
閉じる。
その時。
誰か。
いる。
少女。
裸足。
暗い。
髪。
顔。
曖昧。
でも。
怖くない。
「帰りたい?」
メアリー。
「……家。」
少女。
首。
横。
「違う。」
「どこ。」
メアリー。
分からない。
少女。
もう一度。
「どこ。」
「帰りたい。」
そして。
「誰に。」
「会いたい。」
メアリー。
涙。
出る。
父。
母。
友達。
みんな。
浮かぶ。
でも。
最後。
一人。
「悠ちゃん。」
少女。
見る。
「悠ちゃん。」
もう一度。
言う。
「会いたい。」
ヨル。
しゃがむ。
「分かった。」
メアリー。
「連れて。」
「行って。」
ヨル。
首。
横。
「身体。」
「無理。」
メアリー。
泣く。
「じゃあ。」
「どうする。」
ヨル。
手。
伸ばす。
「声。」
「声?」
「名前。」
「名前。」
「思って。」
「誰の。」
「会いたい人。」
メアリー。
目。
閉じる。
黒瀬悠。
悠ちゃん。
忘れない。
忘れないで。
会いたい。
「届く?」
ヨル。
答えない。
ただ。
手。
重ねる。
触れない。
「行って。」
その声。
遠い。
「帰りたいところへ。」
メアリー。
最後。
息。
吐く。
そして。
暗い。
⸻
現在。
メアリー。
目。
開く。
「……。」
悠。
何も。
言えない。
少女。
自分。
胸。
見る。
「私。」
「ここで。」
「死んだ。」
悠。
「……うん。」
「ヨル。」
「殺してない。」
「うん。」
「助けようと。」
「した。」
悠。
少女。
見る。
「お前を。」
「俺のところに。」
「うん。」
メアリー。
涙。
流す。
「私。」
「悠ちゃん。」
「選んだ。」
悠。
目。
逸らす。
「何で。」
少女。
少し。
怒る。
「そこ。」
「聞く?」
「いや。」
「聞くな。」
「はい。」
二人。
少し。
笑う。
すぐ。
泣く。
⸻
その時。
奥。
声。
「ブレてる。」
メアリー。
止まる。
悠。
振り返る。
「……。」
誰も。
いない。
榊原たち。
遠い。
でも。
メアリー。
目。
大きく。
「先生。」
薄い。
人影。
一瞬。
岩。
そば。
女性。
立つ。
眼鏡。
疲れた。
顔。
でも。
少し。
笑っている。
橘依子。
メアリー。
「先生。」
女性。
写真。
見る。
「ブレてる。」
メアリー。
泣きながら。
笑う。
「先生。」
「それ。」
「最後まで。」
「言う?」
橘。
口。
動く。
「遅い。」
メアリー。
「ごめん。」
「遅い。」
「うん。」
「でも。」
少し。
笑う。
「来た。」
メアリー。
「うん。」
橘。
少女。
見る。
「帰り。」
メアリー。
「先生は?」
橘。
何も。
言わない。
ただ。
少し。
顎。
上げる。
いつもの。
先生。
みたいに。
「行きなさい。」
声。
聞こえた。
気がした。
そして。
消える。
メアリー。
泣く。
「先生。」
返事。
ない。
でも。
今度。
それで。
いい。
⸻
午後七時四十七分
旧社・地下入口
地上。
出る。
夜。
空気。
祭り。
音。
戻る。
メアリー。
大きく。
息。
吸う。
「空気。」
悠。
「うん。」
「外。」
「うん。」
「私。」
「あそこ。」
「十二年。」
「おった?」
悠。
「身体は。」
「たぶん。」
メアリー。
「変な。」
「感じ。」
「うん。」
「私。」
「ここ。」
「おるのに。」
「うん。」
少女。
自分。
手。
見る。
「じゃあ。」
「これ。」
「何。」
悠。
「分からない。」
メアリー。
「適当。」
「専門外。」
「何の。」
「幽霊。」
「専門家。」
「いない。」
「ヨル。」
「本人。」
「じゃあ。」
「聞く。」
「あとで。」
二人。
笑う。
⸻
榊原。
地上。
出る。
宮本。
続く。
「黒瀬。」
「はい。」
「今日は。」
「もう。」
「帰れ。」
「でも。」
「鑑識。」
「警察の。」
「仕事。」
榊原。
煙草。
出す。
見る。
戻す。
「お前らが。」
「十二年。」
「やった。」
「ここから。」
「こっち。」
「やる。」
悠。
「……。」
「お願いします。」
榊原。
「頼まれんでも。」
「やる。」
メアリー。
小さく。
「お願いします。」
当然。
届かない。
でも。
榊原。
一瞬。
横。
見る。
「……。」
悠。
「何ですか。」
「いや。」
「何か。」
「言われた気。」
「気のせい。」
宮本。
「疲れてます。」
榊原。
「お前。」
「上司に。」
「それ言う?」
「事実です。」
「ダボ。」
⸻
午後七時五十三分
旧社前
警察。
車。
増える。
鑑識。
資材。
運ぶ。
地下。
これから。
調べる。
十二年前。
止まった。
現場。
今。
初めて。
事件現場。
として。
扱われる。
橘依子。
「町を出た教師。」
ではなく。
事件に。
巻き込まれ。
最後まで。
生徒を。
助けようとした。
一人の。
教師。
として。
記録。
戻る。
メアリー・アンダーソン。
「行方不明。」
だけではない。
生きて。
助けられ。
傷つき。
最後まで。
帰ろうとした。
少女。
として。
戻る。
藤崎正臣。
怪異の。
創造者。
ではない。
子どもの頃。
何かを。
見た。
そして。
恐れた。
その恐怖を。
何十年も。
抱え。
十二年前。
間違った。
選択を。
した。
その結果。
何が。
起きたのか。
これから。
紙の上でも。
戻される。
⸻
午後八時〇三分
旧社から祭り会場へ続く道
悠。
歩く。
メアリー。
隣。
「悠ちゃん。」
「何。」
「終わった?」
悠。
少し。
考える。
「事件は。」
「たぶん。」
「怪異は。」
「終わった。」
「うん。」
「じゃあ。」
メアリー。
遠く。
見る。
祭り。
灯り。
屋台。
人。
「私たち。」
「何する。」
悠。
同じ。
方向。
見る。
十二年前。
行けなかった。
祭り。
十八時十分。
そこで。
全部。
止まった。
でも。
今。
時計。
見る。
20:03。
時間。
進んでいる。
悠。
「祭り。」
メアリー。
「え。」
「行くぞ。」
「今から?」
「今から。」
「事件。」
「警察。」
「榊原さん。」
「任せる。」
「いいの?」
悠。
少女。
見る。
「十二年前。」
「行けなかっただろ。」
メアリー。
目。
大きく。
そして。
笑う。
「うん。」
二人。
歩く。
灯り。
向かう。
⸻
その後ろ。
旧社。
警察。
出入り。
する。
地下。
一人の。
女性。
十二年ぶりに。
見つかる。
名前。
橘依子。
そして。
午後八時十二分。
彼女は。
ようやく。
「いなくなった教師」ではなく。
橘依子として。
地上へ。
帰ってくる。
⸻
――第78話・完――
後書き
第78話。
ここで、十二年前の「人間側の事件」と、メアリーの最期がつながりました。
メアリーは海で死んだのではありません。
救助されたあとも生きていました。
橘依子は彼女を殺したのではなく、最後まで助けようとしていました。
そしてヨルもまた、メアリーを殺した存在ではありません。
死の直前。
「誰に会いたい?」
そう聞かれたメアリーが選んだ名前は、
黒瀬悠。
十二年後、突然届いた最初のメッセージは、そこから始まっています。
同時に発見された1953年の写真。
そこには、水城千尋とヨル。
そして少年時代の藤崎正臣が写っていました。
正臣は怪異を生み出した人間ではありません。
彼もまた、子どもの頃に「何か」を見た一人でした。
ただし。
恐怖は、その後にしたことの免罪符にはなりません。
その部分は、これから警察と人間の世界が記録していきます。
そして。
事件を追う時間は、ここでいったん終わりです。
次回、第79話。
「祭りの夜」
十二年前。
午後六時十分で終わってしまった祭り。
今度は。
事件も。
捜査も。
怪異も忘れて。
ただの高校生だった彼らが失った、
普通の祭りの続きを取り戻します。




