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Appearing ― 突然、君からのメッセージ ―  作者: 和泉發仙


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深夜二時のコンビニ

前書き


人って、

「もう戻れない」と思った瞬間ほど、

昔の場所へ行きたくなる。


ゲームセンター。

海。

コンビニ。


そこに“あの頃”が残ってる気がするから。


今回は、

少しだけ夏休みみたいな夜です。


⸻



Appearing


― 突然、君からのメッセージ ―


第7話


深夜二時のコンビニ


 午前一時四十分。


 東神奈川の夜は、

 昼間の熱気を引きずったまま静かに沈んでいた。


 国道沿いを大型トラックが通り過ぎる。


 遠くの工場灯。


 高架を走る終電。


 眠っているようで、

 どこかずっと起きている街だった。


 黒瀬 悠は、

 近所のコンビニ前で缶コーヒーを飲んでいた。


 夜勤は休んだ。


 昨日も。


 今日も。


 スマホには職場からの着信履歴が並んでいる。


 だが折り返す気にはなれなかった。


⸻


「逃げ癖つくぞー」


⸻


 横でメアリーが笑う。


 コンビニの光に照らされた金髪が、

 夜風に揺れていた。


⸻


「うるせぇ」


⸻


「悠ちゃん昔からサボり癖あるやん」


⸻


「ねぇよ」


⸻


「授業バックレて海行ったやん」


⸻


「お前もいたろ」


⸻


「私は巻き込まれた側やもん」


⸻


「嘘つけ」


⸻


 メアリーが笑う。


 その笑い声を聞いていると、

 本当に死んでいるなんて思えなくなる。


 でも。


 昨日の防犯ミラー。


 そこに映らなかったメアリー。


 あれを思い出すたび、

 悠の胸は妙に重くなった。


⸻


「……悠ちゃん」


⸻


「ん」


⸻


「なんか最近変」


⸻


「お前に言われたくねぇ」


⸻


「いやそうじゃなくて」


⸻


 メアリーは少し困った顔をする。


⸻


「なんかずっと考えとる」


⸻


「……別に」


⸻


「またそれ」


⸻


 メアリーは少し頬を膨らませた。


⸻


「“別に”禁止やちゃ」


⸻


「レイちゃんにも言われた」


⸻


「そりゃ言われる」


⸻


 悠は缶コーヒーを飲み干した。


 その時だった。


⸻


「うわ」


⸻


 コンビニの自動ドアが開く。


 そこから相沢 恒一が出てきた。


 ジャージ。


 サンダル。


 片手にエナドリ。


 完全に終わってる人間の格好だった。


⸻


「黒瀬じゃん」


⸻


「……お前なんでいんの」


⸻


「パチンコ帰り」


⸻


「終わってんな」


⸻


「四千円勝った」


⸻


「微妙」


⸻


 相沢は隣へ座り、

 エナドリを開けた。


⸻


「つーか仕事来いよ」


⸻


「みんなキレてたぞ」


⸻


「……知らね」


⸻


「主任、“もう飛ぶんじゃねぇの”とか言ってた」


⸻


「ふーん」


⸻


「お前ほんと興味ねぇな」


⸻


 相沢は笑う。


 その横で。


 メアリーが不思議そうに相沢を見ていた。


⸻


「この人おもろいね」


⸻


「うるせぇだけだろ」


⸻


「悠ちゃんの友達って感じする」


⸻


「嬉しくねぇ」


⸻


 相沢はスマホを見ながらぼやく。


⸻


「つーか人生だるくね?」


⸻


「働いて寝て働いて」


⸻


「女いねぇし」


⸻


「金ねぇし」


⸻


「未来ねぇし」


⸻


「……」


⸻


「最近さ」


⸻


「結婚とかもう都市伝説だろ」


⸻


 悠は少し吹き出した。


⸻


「なんだよそれ」


⸻


「いやマジで」


⸻


「サブスクみたいな人生じゃん今」


⸻


「家も車も持てねぇし」


⸻


「そのうち彼女もレンタルになるぞ」


⸻


「もうあるだろ」


⸻


「終わってんなこの国」


⸻


 相沢はエナドリを飲み干した。


 コンビニの白い光。


 夜の道路。


 どうでもいい会話。


 でも、

 悠は少しだけ楽だった。


 何も考えなくて済むから。


⸻


「ねぇ」


⸻


 メアリーが小さく呟く。


⸻


「こういうの好きやよ」


⸻


「ん?」


⸻


「なんでもない時間」


⸻


 悠は何も言わなかった。


⸻


「富山おった時もさ」


⸻


「コンビニ前でずっと喋っとったやん」


⸻


「……まぁ」


⸻


「未来の話とかしとった」


⸻


 悠の動きが少し止まる。


⸻


「悠ちゃんバイク欲しい言うとった」


⸻


「レイちゃんはバンドで有名なるって」


⸻


「私は――」


⸻


 メアリーの言葉が止まる。


⸻


「……あれ」


⸻


「ん?」


⸻


「……なんやったっけ」


⸻


 メアリーが眉を寄せる。


⸻


「私、将来なんて言っとった?」


⸻


 悠は答えられなかった。


 メアリー自身も思い出せないようだった。


⸻


「……わからん」


⸻


「でも」


⸻


「なんか大事やった気する」


⸻


 その時だった。


 コンビニ横のガラス窓。


 そこへ、

 ぼんやり三人の姿が映る。


 悠。


 相沢。


 そして。


 メアリー。


⸻


 悠の呼吸が止まる。


⸻


「……え?」


⸻


 昨日は映っていなかった。


 なのに今は。


 確かにそこにいた。


⸻


「どした?」


⸻


 相沢が怪訝そうに見る。


 悠は答えられない。


 ガラスへ視線を戻す。


 そこにはもう、

 自分しか映っていなかった。


⸻


「……疲れてんのか俺」


⸻


「そりゃ疲れてるだろ」


⸻


 相沢は笑う。


 でも悠だけは、

 背筋に冷たいものが走っていた。


⸻


 メアリーは夜空を見上げていた。


⸻


「……なんかさ」


⸻


「最近、夢みたい」


⸻


「ん?」


⸻


「毎日ふわふわしとる」


⸻


 その横顔が、

 少しだけ寂しそうに見えた。


⸻


後書き


第7話でした。


今回は、

“なんでもない夜”

をテーマにしています。


でもこの作品、

実はそういう時間がかなり重要です。


* コンビニ

* ダベり

* 将来の話

* どうでもいい愚痴


そういうものが、

後半になるほど切なくなる。


そして今回は初めて、

メアリー側にも

“違和感”

が強く出始めています。


ただまだ、

本人はそれを理解していません。


ではまた次回。

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