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Appearing ― 突然、君からのメッセージ ―  作者: 和泉發仙


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ゲームセンターの灯り

前書き


昔の友達と久しぶりに会うと、

「あぁ、変わってないな」って安心する瞬間がある。


でも同時に、

「もうあの頃には戻れない」

とも思ってしまう。


今回は、

そんな夜です。


⸻



Appearing


― 突然、君からのメッセージ ―


第6話

ゲームセンターの灯り


  午後七時半。


 関内駅を出て、伊勢佐木町の方へ歩く。


 街はもう、昼とは違う顔を見せ始めていた。


 仕事帰りの人間。


 居酒屋から漏れる笑い声。


 店先で立ち話をする若者。


 通りを照らす看板の光。


 八月の湿った風。


 黒瀬悠は、その一角にあるゲームセンターの前で足を止めていた。


 少しくたびれた看板。


 入口から漏れる、白と青の派手な光。


 開くたびに聞こえてくる電子音。


「……まだ、こういう店あるんだな」


「うわー」


 横でメアリーが目を輝かせる。


⸻


「まだ残っとったんや!!」


⸻


「潰れてねぇだけだろ」


⸻


「絶対昔より狭くなっとる」


⸻


「気のせい」


⸻


 自動ドアが開く。


 中から流れてくる電子音。


 クレーンゲーム。


 格ゲー。


 メダルゲーム。


 どこか古臭い匂い。


 悠は少しだけ懐かしい気持ちになった。


⸻


「悠ちゃん!」


⸻


「見て!!」


⸻


 メアリーが指差す。


 古いレースゲーム。


 高校時代、

 三人でよく遊んでいたやつだった。


⸻


「うわ懐かし〜!!」


⸻


「レイちゃんめっちゃ事故っとったよね!」


⸻


「……あいつ下手だったしな」


⸻


「悠ちゃんもぶつかっとったやん」


⸻


「お前が騒ぐからだろ」


⸻


 メアリーは楽しそうに笑った。


 その横顔を見ながら、

 悠は少しだけ視線を落とす。


 本当に。


 生きてるみたいだった。


⸻


「お」


⸻


 低い声が聞こえる。


 カウンターの奥。


 四十代後半くらいの男がタバコを咥えていた。


 無精ヒゲ。


 くたびれたシャツ。


 ゲーセン店員の田辺だった。


⸻


「珍しいな黒瀬」


⸻


「……まぁ」



「最近見なかったじゃん」


⸻


「仕事」


⸻


「夜勤?」


⸻


「そんな感じ」


⸻


 田辺は煙を吐く。


⸻


「若いうちから夜勤なんかやるもんじゃねーぞ」



「身体壊れる」


⸻


「もう壊れてるかも」


⸻


「はは」


⸻


 田辺は笑う。


 悠は少しだけ肩をすくめた。



「メアリーちゃん元気?」


⸻


 その言葉に、

 悠の身体が止まる。


⸻


「……は?」


⸻


 田辺は不思議そうに眉を寄せた。


⸻


「いや昔よく一緒に来てたろ」


⸻


「あの金髪の子」


⸻


 悠はゆっくり横を見る。


 メアリーも固まっていた。


⸻


「……覚えとるん?」


⸻


 メアリーが小さく呟く。


 当然、

 田辺には聞こえない。


⸻


「まぁインパクト強かったしな」


⸻


「外国の子なのに富山弁だったし」


⸻


 田辺は笑った。


⸻


「“やちゃ〜”とか言ってたろ」


⸻


 メアリーが少し照れたように笑う。


⸻


「……なんか恥ず」


⸻


 悠は何も言えなかった。


 誰もメアリーを見ない。


 そう思っていた。


 でも。


 “記憶”の中には、

 ちゃんと残っている。


⸻


 その事実が、

 妙に胸へ刺さった。


⸻


「悠ちゃんやろ!!」


⸻


 突然、

 後ろから大声が飛んできた。


 振り返る。


 そこには派手な金髪男が立っていた。


⸻


「……誰だよ」


⸻


「ひっでぇ!!」


⸻


 男は大袈裟に肩を落とす。


⸻


「シンやん!!」


⸻


 レイのバンド仲間だった。


 二十三歳。


 ライブハウスと倉庫仕事を行き来してるタイプの男である。


 柄シャツ。


 ピアス。


 うるさい。


⸻


「うわマジ久しぶり!」


⸻


「生きてた!?」


⸻


「……お前に言われたくねぇ」


⸻


「最近レイもお前の話してたぜ?」


⸻


「別に聞きたくねぇ」


⸻


「相変わらず陰キャ〜」


⸻


 シンはゲラゲラ笑う。


 その横で。


 メアリーも笑っていた。


⸻


「シンくんや!!」


⸻


「うわ全然変わっとらん!!」


⸻


「うるさいのもそのまま!」


⸻


 悠は苦笑する。


 たぶん。


 メアリーが戻ってきてから初めてだった。


 こんな風に、

 自然に笑えたのは。


⸻


「今日ライブ来いよ」


⸻


 シンが親指を立てる。


⸻


「レイいるし」


⸻


「……だる」


⸻


「はい出たー」


⸻


「お前ほんと人生ダルそうだな!」


⸻


「ダルいし」


⸻


「終わってんなぁ!」


⸻


 笑い声。


 電子音。


 夜のゲーセン。


 昔と同じ空気。


 でも。


 どこか少しだけ違う。


⸻


「……あれ」


⸻


 メアリーが小さく呟いた。


⸻


「ん?」


⸻


 メアリーは遠くを見る。


 ゲームセンターの奥。


 薄暗い通路。


⸻


「……なんやろ」


⸻


「なんか」


⸻


「ここ来たことある」


⸻


「いや来たことあるだろ」


⸻


「そうじゃなくて」


⸻


 メアリーの顔から、

 少しだけ笑みが消える。


⸻


「……怖い」


⸻


 悠は黙った。


 その時だった。


 ゲームセンター奥の防犯ミラー。


 そこへ視線が映る。


 悠。


 シン。


 田辺。


 通行人。


 全部映っている。


 ただ一人だけ。


 メアリーだけが、

 そこに映っていなかった。


⸻


 悠の呼吸が止まる。


⸻


「……悠ちゃん?」


⸻


 メアリーはまだ気づいていない。


 笑おうとしている。


 でも悠だけは、

 見てしまっていた。


⸻


 本当に。


 メアリーはもう、

 この世界の人間じゃないのかもしれない。


⸻


後書き


第6話でした。


今回は、

“昔の場所”

をテーマにしています。


ゲームセンターって、

青春の記憶が残りやすい場所なんですよね。


だから今回は:


* 懐かしさ

* 戻った時間

* 少しの違和感


を中心に描いています。


そして最後、

悠は初めて“本当の異常”を見てしまいました。


ただ、

まだメアリー本人は気づいていません。


そこが今の切なさです。

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