名前を呼ぶ町
Appearing
― 突然、君からのメッセージ ―
第73話
名前を呼ぶ町
前書き
人は、
死んだから消えるんじゃない。
忘れられた時、
少しずつ、
世界からいなくなる。
写真から。
記録から。
会話から。
そして最後には、
誰かの心から。
だから。
名前を呼ぶということは、
案外、
「ここにいた」
と証明することなのかもしれない。
⸻
午後三時三十二分。
海鳴町。
時計台広場。
時計の針は、
六時九分を指して止まっていた。
ついさっきまで、
六時十分だった。
たった一分。
戻っただけ。
でも。
悠たちには分かっていた。
これは、
ただの機械の異常ではない。
町の記憶が。
少し。
戻った。
佐伯直哉。
その名前を。
父親である佐伯健三が思い出した瞬間。
時計は。
一分だけ。
逆へ進んだ。
「名前や。」
透が言った。
声は静かだった。
でも。
確信があった。
「名前を。」
「戻す。」
榊原が時計を見る。
「町中に?」
透。
「できるだけ。」
宮本が眉をひそめる。
「でも。」
「どうやって。」
悠は。
商店街を見る。
祭り。
人。
人。
人。
屋台。
子ども。
浴衣。
観光客。
町内会。
今なら。
町中の人間が。
集まっている。
レイが。
同じことに気付いた。
「祭りの放送。」
悠が振り返る。
「何?」
「さっき。」
「圭介の声。」
「町中のスピーカーに流れたろ。」
榊原。
「放送設備。」
宮本。
「祭り本部にあります。」
透。
「使える。」
榊原が。
少し考える。
「でも。」
「いきなり。」
『十二年前に消えた奴の名前思い出せ』
「とか流したら。」
レイ。
「完全にヤバい宗教です。」
榊原。
「せやな。」
「お前たまに的確やな。」
「たまに?」
悠。
「じゃあ。」
「直接行く。」
全員。
見る。
「一人ずつ。」
「覚えてる人を。」
「探す。」
透。
「時間ない。」
「でも。」
悠。
「今まで出会った人たち。」
「みんな。」
「少しずつ。」
「何か知ってた。」
花屋。
パン屋。
駄菓子屋。
写真館。
喫茶店。
神社。
時計職人。
魚屋。
豆腐屋。
本屋。
郵便配達。
役場。
写真。
記憶。
それぞれ。
一つずつ。
持っている。
「集める。」
悠が言った。
「事件の証拠じゃない。」
「記憶を。」
⸻
午後三時四十一分。
パン屋「さえき」。
店内。
佐伯健三は。
椅子に座っていた。
妻。
佐伯美津子(56)
店の奥。
夫の肩へ手を置いている。
健三は。
一枚の古い家族写真を。
ずっと見ている。
「直哉……。」
何度も。
名前。
口にする。
悠たちが入る。
カラン。
健三が顔を上げた。
目。
赤い。
「黒瀬くん。」
悠。
「佐伯さん。」
何を言えばいい。
息子。
十二年間。
忘れていた。
それを。
今日。
突然。
思い出した。
健三。
先に。
笑った。
「変な話やな。」
「自分の息子やのに。」
写真を見る。
「顔。」
「今まで。」
「何も思わんかった。」
美津子が。
泣く。
「私も。」
「ここ。」
写真。
家族。
三人。
いや。
本当は。
四人だった。
娘。
佐伯奈緒(現在31)
も。
家族写真。
父。
母。
奈緒。
直哉。
「兄ちゃん。」
奈緒は。
店の奥から出てきた。
祭り用のエプロン。
化粧。
でも。
涙で。
目元が崩れている。
「私。」
「兄ちゃんおった。」
「ずっと。」
「おったのに。」
壁。
写真。
何枚か。
以前。
三人家族だと思っていた。
今。
見る。
直哉。
いる。
笑っている。
「なんで。」
奈緒。
「なんで忘れられるん。」
誰も。
答えられない。
透。
静かに。
「忘れたんじゃない。」
奈緒。
見る。
透。
「忘れさせられた。」
健三。
透の顔。
「あんた。」
「秋山くん?」
「はい。」
健三。
「直哉と。」
「知り合い。」
透。
「少し。」
「祭りの準備で。」
「何回か。」
健三は。
立ち上がる。
「直哉。」
「悪い子やった?」
悠。
言葉。
詰まる。
殺すつもりではなかった。
でも。
メアリーと揉み合い。
結果。
海へ。
落とした。
透が。
答えた。
「間違えたんだと思います。」
健三。
「……。」
「たぶん。」
透。
「すごく。」
「大きく。」
「間違えた。」
健三。
俯く。
「そうか。」
怒鳴らない。
否定しない。
ただ。
父親として。
受け止める。
悠。
「でも。」
「まだ。」
健三。
顔を上げる。
「生きてる?」
悠。
すぐには。
言えない。
「分かりません。」
「ただ。」
「いる。」
時計台を見る。
「向こうに。」
健三。
涙。
でも。
立つ。
「なら。」
「呼ぶ。」
店。
外へ。
出る。
健三。
町へ。
大声。
「直哉ァ!!」
商店街。
人。
振り返る。
健三。
もう一度。
「佐伯直哉!!」
声。
震える。
でも。
強い。
「帰ってこい!!」
美津子。
店先。
泣きながら。
「直哉!!」
奈緒。
「兄ちゃん!!」
その瞬間。
時計台。
遠く。
針。
カチ。
六時九分。
そのまま。
まだ。
動かない。
でも。
悠のスマートフォン。
震える。
写真。
一枚。
差出人不明。
時計台内部。
佐伯直哉。
泣いている。
そして。
唇。
「父ちゃん。」
⸻
透。
「届いてる。」
悠。
「次。」
⸻
午後三時五十六分。
駄菓子屋。
木村トメ。
「圭介?」
一瞬。
首を傾げる。
悠。
「三浦圭介。」
「高校の時。」
「俺たちと。」
トメ。
考える。
「三浦……。」
メアリー。
横。
「ラムネ。」
悠。
「ラムネ。」
トメ。
「……。」
目。
少しずつ。
開く。
「ナポリタンばっか食う子?」
悠。
笑う。
「そう。」
トメ。
「あぁ!」
「圭介ちゃん!」
その名前。
出た瞬間。
表情。
変わる。
「待って。」
「圭介ちゃん。」
「祭りの日。」
「ラムネ。」
「六本。」
「買うて。」
悠。
「六本。」
「そうや。」
トメ。
笑いながら。
涙。
「『来年も六本頼むわ』って。」
「言うて。」
「来年。」
「来んかった。」
悠。
「トメさん。」
「名前。」
「呼んでください。」
トメ。
「なんで。」
「お願いします。」
老人。
悠を見る。
何か。
察する。
そして。
店先。
声。
小さい。
でも。
はっきり。
「圭介ちゃん。」
風。
吹く。
「三浦圭介。」
「忘れてて。」
「ごめんな。」
悠の胸。
熱くなる。
遠く。
鐘。
鳴らない。
でも。
時計。
カチ。
六時八分。
一分。
また。
戻る。
透が。
息を呑む。
「動いた。」
⸻
午後四時七分。
花屋。
西園寺美和。
メアリーを見る。
最初から。
見えていた人。
「美和さん。」
悠。
「春人。」
美和。
「神崎春人くん。」
すぐ。
名前。
出る。
「もちろん覚えとる。」
悠。
「消えてない?」
「何が?」
彼女は。
普通に。
春人のことを。
覚えていた。
透。
「見える人。」
悠。
「記憶も。」
メアリー。
「消されにくい?」
美和。
メアリーを見る。
「何話しとる。」
悠。
苦笑。
「いや。」
美和。
「春人くん。」
花。
手。
止まる。
「毎年。」
「この時期。」
「白い花。」
「買いに来とった。」
悠。
「毎年?」
「事件より前。」
美和。
「メアリーちゃんに。」
「渡すんやって。」
メアリー。
顔。
真っ赤。
「え!?」
悠。
「知らなかった?」
「知らん!」
美和。
笑う。
「結局。」
「毎年。」
「恥ずかしくて渡せんかったけど。」
メアリー。
「春人先輩……。」
泣き笑い。
美和。
一輪。
白い花。
手に取る。
「今年は。」
「渡せるかな。」
悠。
「渡します。」
「絶対。」
美和。
花を。
悠へ。
「ほな。」
空。
見上げる。
「春人くん!」
声。
「今年は逃げんなよ!」
メアリー。
笑いながら。
泣く。
遠く。
時計台。
窓。
一瞬。
春人。
見えた。
笑った。
⸻
午後四時十九分。
写真館。
中村老人。
秋山透。
二人。
向き合う。
老人。
「透。」
「はい。」
「十二年。」
「よう撮った。」
透。
「……。」
「もう。」
老人。
カメラを見る。
「撮らんでええ。」
透。
「まだ。」
「今日が。」
「最後。」
老人。
「そうか。」
透。
「中村さん。」
「紗季の名前。」
老人。
「覚えとる。」
「蓮も。」
透。
目。
揺れる。
老人。
「秋山蓮。」
「お前の弟。」
「写真館。」
「小さい頃から。」
「よう遊びに来た。」
透。
「……はい。」
中村。
「白石紗季。」
「暗室。」
「怖いくせに。」
「興味だけはあって。」
透。
少し笑う。
「そうでした。」
老人。
町へ。
「紗季!」
そして。
「蓮!」
「もうええぞ!」
大声。
「帰ってこい!!」
透。
顔。
歪む。
カメラ。
構えそうになる。
止める。
目。
閉じる。
自分の声。
「蓮。」
「……帰ってこい。」
その瞬間。
時計。
また。
カチ。
六時七分。
⸻
午後四時三十二分。
喫茶店「つばめ」。
問題。
ここ。
柏木。
店。
閉まっている。
シャッター。
「……。」
榊原。
「逃げた?」
宮本。
「携帯繋がりません。」
悠。
「柏木さん。」
人間側。
何を知っている。
まだ。
全部。
聞いていない。
透。
シャッター。
見る。
「裏。」
回る。
勝手口。
開いている。
榊原。
「警察先。」
入る。
店内。
暗い。
テーブル。
椅子。
いつもの。
喫茶店。
しかし。
カウンター。
一枚。
紙。
悠。
読む。
⸻
『名前を戻せば、あれも戻る。』
⸻
榊原。
「何これ。」
その下。
⸻
『忘れたままの方がいい。』
⸻
透。
「柏木さん。」
「知ってた。」
悠。
「どこ行った。」
その時。
奥。
物音。
ガタン。
榊原。
「柏木!」
拳銃ではなく。
警棒。
慎重。
奥。
倉庫。
扉。
開く。
柏木。
いた。
椅子。
座っている。
頭。
抱えている。
「柏木さん。」
悠。
男。
顔を上げる。
目。
真っ赤。
「思い出した。」
悠。
「何を。」
柏木。
笑う。
壊れそう。
「全部。」
⸻
全員。
止まる。
柏木。
「圭介。」
「紗季。」
「春人。」
「メアリー。」
「直哉。」
「蓮。」
「全部。」
榊原。
「ほな話して。」
柏木。
「できない。」
榊原。
「まだ隠すんか。」
柏木。
「違う!」
声。
荒い。
今まで。
穏やか。
一度も。
怒鳴らなかった男。
「名前を戻したら。」
「向こうも。」
「こっちを思い出す!」
悠。
「向こう?」
柏木。
自分の頭。
叩く。
「顔のない奴。」
透。
「何なんです。」
柏木。
「名前がない。」
「だから。」
「消せない。」
榊原。
「意味分からへん。」
柏木。
「名前のないものは。」
「忘れられないんです。」
静寂。
「何それ。」
レイ。
柏木。
説明。
しようとする。
でも。
苦しい。
「昔。」
「瀬川さんが言った。」
「六時十分の向こうには。」
「消えた人間がいるんじゃない。」
「忘れられたものが。」
「集まる。」
悠。
「もの?」
柏木。
「人。」
「記憶。」
「後悔。」
「名前。」
「全部。」
透。
「じゃあ顔のない奴。」
柏木。
「誰かだった。」
「昔。」
「でも。」
「誰にも。」
「名前を呼ばれなくなった。」
「だから。」
「誰の顔でも。」
「使える。」
メアリー。
震える。
今まで。
自分。
春人。
圭介。
蓮。
声。
顔。
利用。
「そいつ。」
悠。
「何がしたい。」
柏木。
笑う。
悲しい。
「名前が欲しい。」
透。
「誰の。」
柏木。
「誰でもいい。」
「誰か一人。」
「完全に忘れられた人間の名前を。」
「自分のものにする。」
榊原。
「そのために。」
「六人?」
柏木。
「六人。」
「昔から。」
「六人が。」
「同じ記憶を共有した時。」
「扉が。」
「固定される。」
悠。
「十二年前。」
柏木。
「六人揃った。」
「だから。」
「瀬川さんは。」
「止めようとした。」
「でも。」
「直哉が。」
顔。
苦痛。
「祖父を止めようとして。」
「逆に。」
「扉を開けた。」
⸻
透。
「柏木さん。」
声。
低い。
「あなた。」
「十二年前。」
「何した。」
柏木。
透を見る。
「……記録した。」
「何を。」
「全部。」
「写真。」
「文章。」
「名前。」
「だから。」
「まずかった。」
悠。
「何が。」
「記録するほど。」
柏木。
「向こうとの繋がりが強くなった。」
透。
顔。
変わる。
十二年間。
写真。
何千枚。
記録。
「俺。」
柏木。
「そう。」
「お前が。」
「一番。」
「向こうを。」
「この町に繋ぎ止めてた。」
静寂。
透。
カメラを見る。
十二年間。
守るため。
撮り続けた。
それが。
逆?
柏木。
「でも。」
「同時に。」
「お前の写真がなかったら。」
「全員。」
「完全に消えてた。」
透。
顔を上げる。
柏木。
「だから。」
「間違いじゃない。」
「でも。」
「もう撮るな。」
透。
「……。」
「今日。」
「最後の一枚だけにしろ。」
⸻
悠。
「柏木さん。」
「あなた。」
「メアリーを殺そうとした?」
柏木。
すぐ。
首を横に。
「違う。」
「でも。」
「忘れさせようとはした。」
榊原。
「方法。」
柏木。
「名前を。」
「記録から消す。」
「写真を隠す。」
「話さない。」
「町の人間に。」
「十二年前を。」
「忘れさせる。」
榊原。
「それ。」
「町ぐるみ?」
柏木。
「違う。」
「知ってたのは。」
指。
折る。
「私。」
「大石。」
「橘先生。」
「中村さん。」
「瀬川さんは。」
「もう死んでた。」
「あと。」
止まる。
悠。
「あと誰。」
柏木。
「久我。」
時計職人。
「久我達郎。」
⸻
午後四時四十四分。
時間。
進む。
でも。
時計台。
六時七分。
そこで。
止まっている。
悠。
「久我さん。」
「時計台。」
透。
「鍵。」
悠。
ポケット。
真鍮。
久我から。
受け取った。
最初から。
知っていた?
榊原。
「行く。」
柏木。
「待って。」
「何。」
男。
立つ。
「私も行く。」
榊原。
「参考人や。」
「勝手に。」
柏木。
「分かってます。」
「でも。」
「十二年前。」
「逃げた。」
悠。
「……。」
「今日。」
柏木。
「もう。」
「逃げたくない。」
⸻
午後四時五十三分。
商店街。
祭り。
もう。
始まりかけている。
屋台。
客。
浴衣。
笑い声。
悠たち。
歩く。
途中。
本屋。
三枝圭介。
店主。
「……圭介。」
名前。
同じ。
悠が。
一瞬。
止まる。
三枝。
「何。」
悠。
「三浦圭介。」
本屋の主人。
表情。
「……。」
「高校生。」
「よく。」
「漫画立ち読みしとった子。」
悠。
笑う。
「そうです。」
三枝。
外。
大声。
「三浦圭介!」
「本、返せ!」
悠。
「借りパクしてたのかよ!」
透。
少し笑う。
時計。
カチ。
六時六分。
⸻
郵便配達。
佐山直人。
「神崎春人?」
「覚えとる。」
「昔。」
「年賀状。」
「毎年。」
「メアリー宛て。」
「出すか迷って。」
「郵便局の前うろうろ。」
メアリー。
「えぇ!?」
悠。
「春人。」
「かなり。」
「ヘタレだったんだな。」
メアリー。
「そこ!?」
佐山。
「神崎春人!」
「郵便は。」
「ちゃんと出せー!」
時計。
カチ。
六時五分。
⸻
魚屋。
坂口源造。
「秋山蓮?」
「野球小僧!」
「ボール。」
「魚箱に飛ばして。」
「全部ひっくり返した!」
透。
初耳。
「……あいつ。」
源造。
「秋山蓮!」
「帰ってきたら。」
「魚片付けろー!!」
時計。
六時四分。
⸻
町。
少しずつ。
名前。
戻る。
圭介。
春人。
紗季。
蓮。
直哉。
メアリー。
忘れていた人。
知らなかった若者。
話を聞く。
「あぁ。」
「そんな人いた。」
「写真。」
「思い出した。」
記憶。
波のように。
町を。
渡る。
⸻
午後五時十一分。
神社。
神崎文江。
境内。
すでに。
祭り客。
大勢。
悠。
「文江さん。」
老人。
「分かっとる。」
杖。
地面。
一度。
叩く。
そして。
祭り本部。
マイク。
奪う。
青年。
「え?」
文江。
電源。
オン。
キィィィン!
ハウリング。
町中。
スピーカー。
「聞こえとるか!」
祭り客。
見る。
榊原。
「え。」
レイ。
「まさか。」
文江。
「十二年前!」
悠。
目。
大きく。
文江。
「この町から!」
「何人かの子どもらが消えた!」
ざわめき。
柏木。
顔。
青ざめる。
大石が。
消した。
柏木が。
隠した。
町が。
忘れた。
文江。
「名前は!」
「三浦圭介!」
「神崎春人!」
「白石紗季!」
「メアリー・アンダーソン!」
「それから!」
一度。
息。
「佐伯直哉!」
「秋山蓮!」
透。
涙。
文江。
声。
震える。
でも。
強い。
「忘れた人は!」
「今日だけでええ!」
「思い出してくれ!」
「知らん人は!」
「名前だけでええ!」
「覚えて帰ってくれ!」
商店街。
静まり返る。
数秒。
誰か。
子ども。
「メアリー?」
母親。
「昔ね。」
「この町に。」
別。
老人。
「圭介。」
誰か。
「春人。」
花屋。
「春人くん。」
パン屋。
健三。
「直哉。」
写真館。
中村。
「紗季。」
透。
「蓮。」
悠。
「圭介。」
レイ。
「……春人。」
榊原。
「全員。」
宮本。
頷く。
町。
小さな声。
名前。
名前。
名前。
広がる。
時計台。
六時四分。
カチ。
六時三分。
カチ。
六時二分。
カチ。
六時一分。
そして。
止まる。
「あと。」
透。
「一分。」
悠。
「最後。」
誰。
誰の名前。
足りない。
六人。
全員。
呼ばれている。
直哉。
呼ばれた。
では。
瀬川?
番人。
名前。
まだ。
町中。
知らない。
悠。
マイク。
文江から。
受け取る。
「もう一人。」
声。
町へ。
「瀬川宗一!」
柏木。
顔。
上げる。
悠。
「この町の時計台を守ってた人です!」
「十五年前に死んだ。」
「でも。」
「それよりずっと前から!」
「この町を。」
「守ってた!」
時計。
動かない。
六時一分。
透。
「違う。」
悠。
「何が。」
透。
「足りないの。」
「瀬川じゃない。」
柏木。
呟く。
「名前のないもの。」
全員。
見る。
柏木。
「そいつ。」
「名前を。」
「誰も知らない。」
悠。
「じゃあ。」
「呼べない。」
柏木。
「そう。」
「だから。」
「残った。」
顔のない。
何か。
忘れられた。
名前。
誰。
どこ。
榊原。
「記録。」
柏木。
「……。」
榊原。
「古い記録。」
「顔のない奴が。」
「元は誰かなら。」
「名前。」
「どっかにある。」
透。
「時計台。」
悠。
「最上階。」
注連縄。
秘密の部屋。
久我。
久我しか。
知らない。
「行く。」
⸻
午後五時十九分。
時計台へ。
走る。
祭り。
人混み。
でも。
町の人。
道。
開ける。
「行け!」
佐伯。
「悠くん!」
トメ。
「気ぃつけ!」
美和。
白い花。
悠へ。
「春人くんに!」
悠。
受け取る。
走る。
透。
横。
柏木。
後ろ。
榊原。
宮本。
レイ。
メアリー。
そして。
時計台前。
久我達郎。
待っていた。
工具箱。
足元。
老人。
悠。
「久我さん。」
「最上階。」
久我。
「……来たか。」
榊原。
「知っとったな。」
久我。
「少し。」
「全部話してる時間ない。」
「顔のない奴。」
久我。
目。
閉じる。
「名前。」
「知ってる?」
長い。
沈黙。
「知らん。」
悠。
「じゃあ。」
「でも。」
久我。
時計台を見る。
「名前が。」
「残ってる場所は知っとる。」
全員。
静まる。
久我。
「鐘の裏や。」
⸻
午後五時二十一分。
現実の時計。
あと。
四十九分。
時計台の文字盤。
六時一分。
そして。
内部。
誰か。
歩く。
六人。
いや。
もっと。
こちらへ。
近付いている。
悠は。
真鍮の鍵を。
握った。
メアリー。
隣。
「悠ちゃん。」
「何。」
「もし。」
悠。
「言うな。」
「まだ何も言ってない。」
「分かる。」
メアリー。
少し。
笑う。
「そっか。」
悠。
扉を見る。
「帰ってから。」
「全部聞く。」
メアリー。
「うん。」
「卵焼きも。」
悠。
「食えないだろ。」
「帰ったら食べれるかもしれん。」
悠。
止まる。
メアリー。
笑う。
「そういう可能性も。」
「あるやろ?」
悠。
笑う。
「……ある。」
今は。
そう信じる。
扉。
開く。
暗闇。
時計台。
最後の探索が。
始まる。
⸻
――第73話・完――
後書き
今回は戦う前に、海鳴町そのものへ「消された人たちの名前」を返しました。
佐伯直哉。
三浦圭介。
神崎春人。
白石紗季。
秋山蓮。
メアリー・アンダーソン。
名前が戻るほど、時計は六時十分から逆へ進み、ついに六時一分まで戻っています。
しかし、最後の一分だけが戻らない。
理由は一つ。
今回の怪異の中心にいる「顔のないもの」には、まだ名前がない。
そして久我達郎が示した場所。
時計台の鐘の裏。
そこに、この町が最初に忘れた人物の名前が残されています。
次回、第74話。
「最初に忘れられた人」
いよいよ十二年前よりも前――1978年の事件と現在が完全に繋がります。
そして、第74話の最後から物語はいよいよ真相編へ突入します。




