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Appearing ― 突然、君からのメッセージ ―  作者: 和泉發仙


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73/90

名前を呼ぶ町

Appearing


― 突然、君からのメッセージ ―


第73話


名前を呼ぶ町


前書き


人は、


死んだから消えるんじゃない。


忘れられた時、


少しずつ、


世界からいなくなる。


写真から。


記録から。


会話から。


そして最後には、


誰かの心から。


だから。


名前を呼ぶということは、


案外、


「ここにいた」


と証明することなのかもしれない。


⸻


午後三時三十二分。


海鳴町。


時計台広場。


時計の針は、


六時九分を指して止まっていた。


ついさっきまで、


六時十分だった。


たった一分。


戻っただけ。


でも。


悠たちには分かっていた。


これは、


ただの機械の異常ではない。


町の記憶が。


少し。


戻った。


佐伯直哉。


その名前を。


父親である佐伯健三が思い出した瞬間。


時計は。


一分だけ。


逆へ進んだ。


「名前や。」


透が言った。


声は静かだった。


でも。


確信があった。


「名前を。」


「戻す。」


榊原が時計を見る。


「町中に?」


透。


「できるだけ。」


宮本が眉をひそめる。


「でも。」


「どうやって。」


悠は。


商店街を見る。


祭り。


人。


人。


人。


屋台。


子ども。


浴衣。


観光客。


町内会。


今なら。


町中の人間が。


集まっている。


レイが。


同じことに気付いた。


「祭りの放送。」


悠が振り返る。


「何?」


「さっき。」


「圭介の声。」


「町中のスピーカーに流れたろ。」


榊原。


「放送設備。」


宮本。


「祭り本部にあります。」


透。


「使える。」


榊原が。


少し考える。


「でも。」


「いきなり。」


『十二年前に消えた奴の名前思い出せ』


「とか流したら。」


レイ。


「完全にヤバい宗教です。」


榊原。


「せやな。」


「お前たまに的確やな。」


「たまに?」


悠。


「じゃあ。」


「直接行く。」


全員。


見る。


「一人ずつ。」


「覚えてる人を。」


「探す。」


透。


「時間ない。」


「でも。」


悠。


「今まで出会った人たち。」


「みんな。」


「少しずつ。」


「何か知ってた。」


花屋。


パン屋。


駄菓子屋。


写真館。


喫茶店。


神社。


時計職人。


魚屋。


豆腐屋。


本屋。


郵便配達。


役場。


写真。


記憶。


それぞれ。


一つずつ。


持っている。


「集める。」


悠が言った。


「事件の証拠じゃない。」


「記憶を。」


⸻


午後三時四十一分。


パン屋「さえき」。


店内。


佐伯健三は。


椅子に座っていた。


妻。


佐伯美津子(56)


店の奥。


夫の肩へ手を置いている。


健三は。


一枚の古い家族写真を。


ずっと見ている。


「直哉……。」


何度も。


名前。


口にする。


悠たちが入る。


カラン。


健三が顔を上げた。


目。


赤い。


「黒瀬くん。」


悠。


「佐伯さん。」


何を言えばいい。


息子。


十二年間。


忘れていた。


それを。


今日。


突然。


思い出した。


健三。


先に。


笑った。


「変な話やな。」


「自分の息子やのに。」


写真を見る。


「顔。」


「今まで。」


「何も思わんかった。」


美津子が。


泣く。


「私も。」


「ここ。」


写真。


家族。


三人。


いや。


本当は。


四人だった。


娘。


佐伯奈緒(現在31)


も。


家族写真。


父。


母。


奈緒。


直哉。


「兄ちゃん。」


奈緒は。


店の奥から出てきた。


祭り用のエプロン。


化粧。


でも。


涙で。


目元が崩れている。


「私。」


「兄ちゃんおった。」


「ずっと。」


「おったのに。」


壁。


写真。


何枚か。


以前。


三人家族だと思っていた。


今。


見る。


直哉。


いる。


笑っている。


「なんで。」


奈緒。


「なんで忘れられるん。」


誰も。


答えられない。


透。


静かに。


「忘れたんじゃない。」


奈緒。


見る。


透。


「忘れさせられた。」


健三。


透の顔。


「あんた。」


「秋山くん?」


「はい。」


健三。


「直哉と。」


「知り合い。」


透。


「少し。」


「祭りの準備で。」


「何回か。」


健三は。


立ち上がる。


「直哉。」


「悪い子やった?」


悠。


言葉。


詰まる。


殺すつもりではなかった。


でも。


メアリーと揉み合い。


結果。


海へ。


落とした。


透が。


答えた。


「間違えたんだと思います。」


健三。


「……。」


「たぶん。」


透。


「すごく。」


「大きく。」


「間違えた。」


健三。


俯く。


「そうか。」


怒鳴らない。


否定しない。


ただ。


父親として。


受け止める。


悠。


「でも。」


「まだ。」


健三。


顔を上げる。


「生きてる?」


悠。


すぐには。


言えない。


「分かりません。」


「ただ。」


「いる。」


時計台を見る。


「向こうに。」


健三。


涙。


でも。


立つ。


「なら。」


「呼ぶ。」


店。


外へ。


出る。


健三。


町へ。


大声。


「直哉ァ!!」


商店街。


人。


振り返る。


健三。


もう一度。


「佐伯直哉!!」


声。


震える。


でも。


強い。


「帰ってこい!!」


美津子。


店先。


泣きながら。


「直哉!!」


奈緒。


「兄ちゃん!!」


その瞬間。


時計台。


遠く。


針。


カチ。


六時九分。


そのまま。


まだ。


動かない。


でも。


悠のスマートフォン。


震える。


写真。


一枚。


差出人不明。


時計台内部。


佐伯直哉。


泣いている。


そして。


唇。


「父ちゃん。」


⸻


透。


「届いてる。」


悠。


「次。」


⸻


午後三時五十六分。


駄菓子屋。


木村トメ。


「圭介?」


一瞬。


首を傾げる。


悠。


「三浦圭介。」


「高校の時。」


「俺たちと。」


トメ。


考える。


「三浦……。」


メアリー。


横。


「ラムネ。」


悠。


「ラムネ。」


トメ。


「……。」


目。


少しずつ。


開く。


「ナポリタンばっか食う子?」


悠。


笑う。


「そう。」


トメ。


「あぁ!」


「圭介ちゃん!」


その名前。


出た瞬間。


表情。


変わる。


「待って。」


「圭介ちゃん。」


「祭りの日。」


「ラムネ。」


「六本。」


「買うて。」


悠。


「六本。」


「そうや。」


トメ。


笑いながら。


涙。


「『来年も六本頼むわ』って。」


「言うて。」


「来年。」


「来んかった。」


悠。


「トメさん。」


「名前。」


「呼んでください。」


トメ。


「なんで。」


「お願いします。」


老人。


悠を見る。


何か。


察する。


そして。


店先。


声。


小さい。


でも。


はっきり。


「圭介ちゃん。」


風。


吹く。


「三浦圭介。」


「忘れてて。」


「ごめんな。」


悠の胸。


熱くなる。


遠く。


鐘。


鳴らない。


でも。


時計。


カチ。


六時八分。


一分。


また。


戻る。


透が。


息を呑む。


「動いた。」


⸻


午後四時七分。


花屋。


西園寺美和。


メアリーを見る。


最初から。


見えていた人。


「美和さん。」


悠。


「春人。」


美和。


「神崎春人くん。」


すぐ。


名前。


出る。


「もちろん覚えとる。」


悠。


「消えてない?」


「何が?」


彼女は。


普通に。


春人のことを。


覚えていた。


透。


「見える人。」


悠。


「記憶も。」


メアリー。


「消されにくい?」


美和。


メアリーを見る。


「何話しとる。」


悠。


苦笑。


「いや。」


美和。


「春人くん。」


花。


手。


止まる。


「毎年。」


「この時期。」


「白い花。」


「買いに来とった。」


悠。


「毎年?」


「事件より前。」


美和。


「メアリーちゃんに。」


「渡すんやって。」


メアリー。


顔。


真っ赤。


「え!?」


悠。


「知らなかった?」


「知らん!」


美和。


笑う。


「結局。」


「毎年。」


「恥ずかしくて渡せんかったけど。」


メアリー。


「春人先輩……。」


泣き笑い。


美和。


一輪。


白い花。


手に取る。


「今年は。」


「渡せるかな。」


悠。


「渡します。」


「絶対。」


美和。


花を。


悠へ。


「ほな。」


空。


見上げる。


「春人くん!」


声。


「今年は逃げんなよ!」


メアリー。


笑いながら。


泣く。


遠く。


時計台。


窓。


一瞬。


春人。


見えた。


笑った。


⸻


午後四時十九分。


写真館。


中村老人。


秋山透。


二人。


向き合う。


老人。


「透。」


「はい。」


「十二年。」


「よう撮った。」


透。


「……。」


「もう。」


老人。


カメラを見る。


「撮らんでええ。」


透。


「まだ。」


「今日が。」


「最後。」


老人。


「そうか。」


透。


「中村さん。」


「紗季の名前。」


老人。


「覚えとる。」


「蓮も。」


透。


目。


揺れる。


老人。


「秋山蓮。」


「お前の弟。」


「写真館。」


「小さい頃から。」


「よう遊びに来た。」


透。


「……はい。」


中村。


「白石紗季。」


「暗室。」


「怖いくせに。」


「興味だけはあって。」


透。


少し笑う。


「そうでした。」


老人。


町へ。


「紗季!」


そして。


「蓮!」


「もうええぞ!」


大声。


「帰ってこい!!」


透。


顔。


歪む。


カメラ。


構えそうになる。


止める。


目。


閉じる。


自分の声。


「蓮。」


「……帰ってこい。」


その瞬間。


時計。


また。


カチ。


六時七分。


⸻


午後四時三十二分。


喫茶店「つばめ」。


問題。


ここ。


柏木。


店。


閉まっている。


シャッター。


「……。」


榊原。


「逃げた?」


宮本。


「携帯繋がりません。」


悠。


「柏木さん。」


人間側。


何を知っている。


まだ。


全部。


聞いていない。


透。


シャッター。


見る。


「裏。」


回る。


勝手口。


開いている。


榊原。


「警察先。」


入る。


店内。


暗い。


テーブル。


椅子。


いつもの。


喫茶店。


しかし。


カウンター。


一枚。


紙。


悠。


読む。


⸻


『名前を戻せば、あれも戻る。』


⸻


榊原。


「何これ。」


その下。


⸻


『忘れたままの方がいい。』


⸻


透。


「柏木さん。」


「知ってた。」


悠。


「どこ行った。」


その時。


奥。


物音。


ガタン。


榊原。


「柏木!」


拳銃ではなく。


警棒。


慎重。


奥。


倉庫。


扉。


開く。


柏木。


いた。


椅子。


座っている。


頭。


抱えている。


「柏木さん。」


悠。


男。


顔を上げる。


目。


真っ赤。


「思い出した。」


悠。


「何を。」


柏木。


笑う。


壊れそう。


「全部。」


⸻


全員。


止まる。


柏木。


「圭介。」


「紗季。」


「春人。」


「メアリー。」


「直哉。」


「蓮。」


「全部。」


榊原。


「ほな話して。」


柏木。


「できない。」


榊原。


「まだ隠すんか。」


柏木。


「違う!」


声。


荒い。


今まで。


穏やか。


一度も。


怒鳴らなかった男。


「名前を戻したら。」


「向こうも。」


「こっちを思い出す!」


悠。


「向こう?」


柏木。


自分の頭。


叩く。


「顔のない奴。」


透。


「何なんです。」


柏木。


「名前がない。」


「だから。」


「消せない。」


榊原。


「意味分からへん。」


柏木。


「名前のないものは。」


「忘れられないんです。」


静寂。


「何それ。」


レイ。


柏木。


説明。


しようとする。


でも。


苦しい。


「昔。」


「瀬川さんが言った。」


「六時十分の向こうには。」


「消えた人間がいるんじゃない。」


「忘れられたものが。」


「集まる。」


悠。


「もの?」


柏木。


「人。」


「記憶。」


「後悔。」


「名前。」


「全部。」


透。


「じゃあ顔のない奴。」


柏木。


「誰かだった。」


「昔。」


「でも。」


「誰にも。」


「名前を呼ばれなくなった。」


「だから。」


「誰の顔でも。」


「使える。」


メアリー。


震える。


今まで。


自分。


春人。


圭介。


蓮。


声。


顔。


利用。


「そいつ。」


悠。


「何がしたい。」


柏木。


笑う。


悲しい。


「名前が欲しい。」


透。


「誰の。」


柏木。


「誰でもいい。」


「誰か一人。」


「完全に忘れられた人間の名前を。」


「自分のものにする。」


榊原。


「そのために。」


「六人?」


柏木。


「六人。」


「昔から。」


「六人が。」


「同じ記憶を共有した時。」


「扉が。」


「固定される。」


悠。


「十二年前。」


柏木。


「六人揃った。」


「だから。」


「瀬川さんは。」


「止めようとした。」


「でも。」


「直哉が。」


顔。


苦痛。


「祖父を止めようとして。」


「逆に。」


「扉を開けた。」


⸻


透。


「柏木さん。」


声。


低い。


「あなた。」


「十二年前。」


「何した。」


柏木。


透を見る。


「……記録した。」


「何を。」


「全部。」


「写真。」


「文章。」


「名前。」


「だから。」


「まずかった。」


悠。


「何が。」


「記録するほど。」


柏木。


「向こうとの繋がりが強くなった。」


透。


顔。


変わる。


十二年間。


写真。


何千枚。


記録。


「俺。」


柏木。


「そう。」


「お前が。」


「一番。」


「向こうを。」


「この町に繋ぎ止めてた。」


静寂。


透。


カメラを見る。


十二年間。


守るため。


撮り続けた。


それが。


逆?


柏木。


「でも。」


「同時に。」


「お前の写真がなかったら。」


「全員。」


「完全に消えてた。」


透。


顔を上げる。


柏木。


「だから。」


「間違いじゃない。」


「でも。」


「もう撮るな。」


透。


「……。」


「今日。」


「最後の一枚だけにしろ。」


⸻


悠。


「柏木さん。」


「あなた。」


「メアリーを殺そうとした?」


柏木。


すぐ。


首を横に。


「違う。」


「でも。」


「忘れさせようとはした。」


榊原。


「方法。」


柏木。


「名前を。」


「記録から消す。」


「写真を隠す。」


「話さない。」


「町の人間に。」


「十二年前を。」


「忘れさせる。」


榊原。


「それ。」


「町ぐるみ?」


柏木。


「違う。」


「知ってたのは。」


指。


折る。


「私。」


「大石。」


「橘先生。」


「中村さん。」


「瀬川さんは。」


「もう死んでた。」


「あと。」


止まる。


悠。


「あと誰。」


柏木。


「久我。」


時計職人。


「久我達郎。」


⸻


午後四時四十四分。


時間。


進む。


でも。


時計台。


六時七分。


そこで。


止まっている。


悠。


「久我さん。」


「時計台。」


透。


「鍵。」


悠。


ポケット。


真鍮。


久我から。


受け取った。


最初から。


知っていた?


榊原。


「行く。」


柏木。


「待って。」


「何。」


男。


立つ。


「私も行く。」


榊原。


「参考人や。」


「勝手に。」


柏木。


「分かってます。」


「でも。」


「十二年前。」


「逃げた。」


悠。


「……。」


「今日。」


柏木。


「もう。」


「逃げたくない。」


⸻


午後四時五十三分。


商店街。


祭り。


もう。


始まりかけている。


屋台。


客。


浴衣。


笑い声。


悠たち。


歩く。


途中。


本屋。


三枝圭介。


店主。


「……圭介。」


名前。


同じ。


悠が。


一瞬。


止まる。


三枝。


「何。」


悠。


「三浦圭介。」


本屋の主人。


表情。


「……。」


「高校生。」


「よく。」


「漫画立ち読みしとった子。」


悠。


笑う。


「そうです。」


三枝。


外。


大声。


「三浦圭介!」


「本、返せ!」


悠。


「借りパクしてたのかよ!」


透。


少し笑う。


時計。


カチ。


六時六分。


⸻


郵便配達。


佐山直人。


「神崎春人?」


「覚えとる。」


「昔。」


「年賀状。」


「毎年。」


「メアリー宛て。」


「出すか迷って。」


「郵便局の前うろうろ。」


メアリー。


「えぇ!?」


悠。


「春人。」


「かなり。」


「ヘタレだったんだな。」


メアリー。


「そこ!?」


佐山。


「神崎春人!」


「郵便は。」


「ちゃんと出せー!」


時計。


カチ。


六時五分。


⸻


魚屋。


坂口源造。


「秋山蓮?」


「野球小僧!」


「ボール。」


「魚箱に飛ばして。」


「全部ひっくり返した!」


透。


初耳。


「……あいつ。」


源造。


「秋山蓮!」


「帰ってきたら。」


「魚片付けろー!!」


時計。


六時四分。


⸻


町。


少しずつ。


名前。


戻る。


圭介。


春人。


紗季。


蓮。


直哉。


メアリー。


忘れていた人。


知らなかった若者。


話を聞く。


「あぁ。」


「そんな人いた。」


「写真。」


「思い出した。」


記憶。


波のように。


町を。


渡る。


⸻


午後五時十一分。


神社。


神崎文江。


境内。


すでに。


祭り客。


大勢。


悠。


「文江さん。」


老人。


「分かっとる。」


杖。


地面。


一度。


叩く。


そして。


祭り本部。


マイク。


奪う。


青年。


「え?」


文江。


電源。


オン。


キィィィン!


ハウリング。


町中。


スピーカー。


「聞こえとるか!」


祭り客。


見る。


榊原。


「え。」


レイ。


「まさか。」


文江。


「十二年前!」


悠。


目。


大きく。


文江。


「この町から!」


「何人かの子どもらが消えた!」


ざわめき。


柏木。


顔。


青ざめる。


大石が。


消した。


柏木が。


隠した。


町が。


忘れた。


文江。


「名前は!」


「三浦圭介!」


「神崎春人!」


「白石紗季!」


「メアリー・アンダーソン!」


「それから!」


一度。


息。


「佐伯直哉!」


「秋山蓮!」


透。


涙。


文江。


声。


震える。


でも。


強い。


「忘れた人は!」


「今日だけでええ!」


「思い出してくれ!」


「知らん人は!」


「名前だけでええ!」


「覚えて帰ってくれ!」


商店街。


静まり返る。


数秒。


誰か。


子ども。


「メアリー?」


母親。


「昔ね。」


「この町に。」


別。


老人。


「圭介。」


誰か。


「春人。」


花屋。


「春人くん。」


パン屋。


健三。


「直哉。」


写真館。


中村。


「紗季。」


透。


「蓮。」


悠。


「圭介。」


レイ。


「……春人。」


榊原。


「全員。」


宮本。


頷く。


町。


小さな声。


名前。


名前。


名前。


広がる。


時計台。


六時四分。


カチ。


六時三分。


カチ。


六時二分。


カチ。


六時一分。


そして。


止まる。


「あと。」


透。


「一分。」


悠。


「最後。」


誰。


誰の名前。


足りない。


六人。


全員。


呼ばれている。


直哉。


呼ばれた。


では。


瀬川?


番人。


名前。


まだ。


町中。


知らない。


悠。


マイク。


文江から。


受け取る。


「もう一人。」


声。


町へ。


「瀬川宗一!」


柏木。


顔。


上げる。


悠。


「この町の時計台を守ってた人です!」


「十五年前に死んだ。」


「でも。」


「それよりずっと前から!」


「この町を。」


「守ってた!」


時計。


動かない。


六時一分。


透。


「違う。」


悠。


「何が。」


透。


「足りないの。」


「瀬川じゃない。」


柏木。


呟く。


「名前のないもの。」


全員。


見る。


柏木。


「そいつ。」


「名前を。」


「誰も知らない。」


悠。


「じゃあ。」


「呼べない。」


柏木。


「そう。」


「だから。」


「残った。」


顔のない。


何か。


忘れられた。


名前。


誰。


どこ。


榊原。


「記録。」


柏木。


「……。」


榊原。


「古い記録。」


「顔のない奴が。」


「元は誰かなら。」


「名前。」


「どっかにある。」


透。


「時計台。」


悠。


「最上階。」


注連縄。


秘密の部屋。


久我。


久我しか。


知らない。


「行く。」


⸻


午後五時十九分。


時計台へ。


走る。


祭り。


人混み。


でも。


町の人。


道。


開ける。


「行け!」


佐伯。


「悠くん!」


トメ。


「気ぃつけ!」


美和。


白い花。


悠へ。


「春人くんに!」


悠。


受け取る。


走る。


透。


横。


柏木。


後ろ。


榊原。


宮本。


レイ。


メアリー。


そして。


時計台前。


久我達郎。


待っていた。


工具箱。


足元。


老人。


悠。


「久我さん。」


「最上階。」


久我。


「……来たか。」


榊原。


「知っとったな。」


久我。


「少し。」


「全部話してる時間ない。」


「顔のない奴。」


久我。


目。


閉じる。


「名前。」


「知ってる?」


長い。


沈黙。


「知らん。」


悠。


「じゃあ。」


「でも。」


久我。


時計台を見る。


「名前が。」


「残ってる場所は知っとる。」


全員。


静まる。


久我。


「鐘の裏や。」


⸻


午後五時二十一分。


現実の時計。


あと。


四十九分。


時計台の文字盤。


六時一分。


そして。


内部。


誰か。


歩く。


六人。


いや。


もっと。


こちらへ。


近付いている。


悠は。


真鍮の鍵を。


握った。


メアリー。


隣。


「悠ちゃん。」


「何。」


「もし。」


悠。


「言うな。」


「まだ何も言ってない。」


「分かる。」


メアリー。


少し。


笑う。


「そっか。」


悠。


扉を見る。


「帰ってから。」


「全部聞く。」


メアリー。


「うん。」


「卵焼きも。」


悠。


「食えないだろ。」


「帰ったら食べれるかもしれん。」


悠。


止まる。


メアリー。


笑う。


「そういう可能性も。」


「あるやろ?」


悠。


笑う。


「……ある。」


今は。


そう信じる。


扉。


開く。


暗闇。


時計台。


最後の探索が。


始まる。


⸻


――第73話・完――


後書き


今回は戦う前に、海鳴町そのものへ「消された人たちの名前」を返しました。


佐伯直哉。


三浦圭介。


神崎春人。


白石紗季。


秋山蓮。


メアリー・アンダーソン。


名前が戻るほど、時計は六時十分から逆へ進み、ついに六時一分まで戻っています。


しかし、最後の一分だけが戻らない。


理由は一つ。


今回の怪異の中心にいる「顔のないもの」には、まだ名前がない。


そして久我達郎が示した場所。


時計台の鐘の裏。


そこに、この町が最初に忘れた人物の名前が残されています。


次回、第74話。


「最初に忘れられた人」


いよいよ十二年前よりも前――1978年の事件と現在が完全に繋がります。


そして、第74話の最後から物語はいよいよ真相編へ突入します。

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