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Appearing ― 突然、君からのメッセージ ―  作者: 和泉發仙


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71/90

最後のフィルム

⸻


Appearing


― 突然、君からのメッセージ ―


第70話


最後のフィルム


⸻


前書き


記憶は、


嘘をつく。


自分を守るために。


誰かを守るために。


時には、


生きていくために。


でも。


写真は、


何も説明してくれない。


ただ、


そこにあったものを残す。


だからこそ。


記憶よりも、


ずっと残酷なことがある。


⸻


午後一時七分。


海鳴町。


中村写真館。


カラン。


扉が開く。


「中村さん!」


榊原の声。


店の奥から。


「聞こえとる!」


老人が顔を出した。


「年寄り急かすな!」


「緊急や!」


「警察はいつも緊急や!」


「今日はほんまに緊急!」


中村老人は悠たちを見る。


そして。


悠が握っている金属ケース。


その瞬間。


老人の表情が変わった。


「……それ。」


透が答える。


「最後の一本です。」


中村老人が。


ゆっくり近付く。


「残っとったんか。」


「柏木さんが。」


老人は。


金属ケースを受け取る。


ラベル。


8/15 LAST


指でなぞる。


「透。」


「はい。」


「これ。」


「お前が撮ったんか。」


透は頷く。


「たぶん。」


「たぶん?」


「最後の方の記憶が。」


「かなり曖昧です。」


老人は。


フィルムを光に当てる。


「保存状態は悪くない。」


榊原。


「現像できる?」


中村老人。


「やってみる。」


「どれくらい?」


老人。


時計を見る。


午後一時九分。


「普通なら。」


「そんな急かしてやる仕事ちゃう。」


榊原。


「今日は普通ちゃう。」


老人。


「分かっとる。」


少し笑う。


「三十分くれ。」


⸻


午後一時十二分。


写真館。


待合室。


悠たちは。


誰も落ち着かなかった。


レイは。


店内をうろうろ。


榊原。


「座れ。」


「落ち着かない。」


「私もや。」


「じゃあ歩けば。」


「邪魔や。」


宮本は。


警察から届く情報を確認している。


祭り。


現時点で異常なし。


時計台周辺。


規制準備。


神社。


旧社入口。


警官二名配置。


しかし。


問題は。


警察が対処できるものなのか。


誰にも分からない。


透は。


椅子。


カメラを膝へ。


何も撮らない。


メアリーは。


窓際。


祭りの準備を見る。


悠は。


例の紙を持っていた。


⸻


未来の俺へ。


メアリーを信じるな。


⸻


自分の字。


間違いない。


十二年前。


自分が書いた。


「……。」


メアリーが。


振り返る。


「気になる?」


悠。


「そりゃ。」


「だよね。」


彼女は。


少し笑う。


でも。


笑顔が弱い。


悠。


「怖い?」


メアリー。


少し考える。


「うん。」


正直だった。


「私が。」


自分の胸に手を置く。


「私じゃなかったら。」


悠。


「……。」


「今まで。」


「悠と話してた私が。」


「何かに作られたものだったら。」


「それは。」


「ちょっと。」


笑う。


「嫌かな。」


悠は。


紙を折った。


ポケットへ。


「俺は。」


メアリーを見る。


「今ここにいるお前を知ってる。」


「でも。」


「それだけ。」


メアリー。


「……それだけ?」


「十分だろ。」


メアリーが。


少し笑った。


「昔から。」


「そういうとこあるよね。」


悠。


「覚えてない。」


「そこは思い出して。」


⸻


透が。


突然言った。


「その紙。」


悠。


「ん?」


「俺。」


「見たことある気がする。」


全員が透を見る。


「どこで。」


透。


目を閉じる。


「十二年前。」


「つばめ。」


「悠が。」


「何か書いてた。」


記憶。


断片。


透。


「でも。」


「メアリーを信じるな。」


「じゃなかった。」


悠の表情が変わる。


「何て書いてた。」


「分からない。」


「ただ。」


透。


眉間を押さえる。


「もっと長かった。」


悠。


紙を取り出す。


見る。


確かに。


下。


余白が妙に大きい。


紙の端。


破れている。


「……続き?」


宮本が。


「紙が途中で破られている可能性があります。」


榊原。


「ほな。」


「『メアリーを信じるな』だけで意味決めたらあかんな。」


悠。


少しだけ。


胸の重さが軽くなる。


メアリー。


「でも。」


「書いたこと自体は本当。」


透。


「あぁ。」


そこは。


消えない。


⸻


午後一時三十八分。


奥。


中村老人の声。


「来い!」


全員。


立ち上がる。


暗室。


赤い光。


薬品の匂い。


中村老人。


手袋。


真剣な顔。


「思ったより。」


「残っとる。」


透。


「何枚。」


「三十六。」


悠。


「全部?」


老人。


「いや。」


「何枚か焼けとる。」


「でも。」


「二十九枚。」


「見られる。」


二十九枚。


十二年前。


最後の時間。


老人が。


ネガを。


ライトボックスへ置く。


透が。


息を止める。


小さな画像。


連続。


「順番。」


老人。


「撮影順。」


最初。


祭り。


人。


屋台。


六人。


笑っている。


普通。


二枚目。


三枚目。


圭介。


メアリー。


紗季。


春人。


悠。


「俺がいない。」


透。


悠。


「撮ってるから。」


「そう。」


四枚目。


時計台。


午後五時四十二分。


時計が写っている。


五枚目。


圭介。


何かを指差す。


六枚目。


時計台上部。


窓。


誰かいる。


黒い帽子。


「瀬川。」


榊原。


透。


「たぶん。」


七枚目。


瀬川。


こちらへ。


手。


止まれ。


そう見える。


八枚目。


春人が。


圭介の肩を掴んでいる。


九枚目。


圭介。


怒っている。


十枚目。


メアリー。


二人の間へ。


十一枚目。


悠。


紗季。


何かを話している。


中村老人。


「ここから。」


「妙や。」


十二枚目。


同じ構図。


でも。


圭介が。


二人いる。


「……。」


レイ。


「は?」


一人。


春人の前。


もう一人。


時計台入口。


同じ服。


同じ顔。


悠。


「これ。」


透。


「合成じゃない。」


中村老人。


「フィルムや。」


「撮った時点で。」


「こう写っとる。」


メアリー。


顔が青くなる。


「人の顔を使う。」


蓮の言葉。


⸻


十三枚目。


入口の圭介。


悠へ手を振る。


十四枚目。


本物らしき圭介が。


悠を止める。


十五枚目。


メアリーが。


入口へ向かっている。


悠。


「……。」


紙。


メアリーを信じるな。


十六枚目。


透が。


誰かからカメラを受け取った?


いや。


写真。


どうして透自身が写っている。


透が。


固まる。


「これ。」


悠。


「誰が撮った。」


透。


「俺が持ってた。」


中村老人。


「なら。」


「誰かに渡した。」


透。


「覚えてない。」


十六枚目。


六人。


全員写っている。


そして。


七人目。


少し離れた場所。


メアリー。


悠。


息を呑む。


写真の中。


メアリーが。


二人いる。


一人。


悠たちの隣。


もう一人。


時計台の入口。


「……だから。」


メアリー。


自分自身を見る。


「悠。」


「私を。」


「信じるなって。」


透。


「違う。」


全員が透を見る。


透は。


十六枚目。


指差す。


「悠が警告したのは。」


「メアリー本人じゃない。」


入口。


もう一人。


「メアリーの顔をした。」


「こいつだ。」


⸻


悠の頭。


激痛。


「っ……!」


記憶。


十二年前。


声。


『悠。』


振り向く。


メアリー。


『こっち。』


後ろ。


本物のメアリー。


『悠!』


二人。


同じ顔。


自分。


分からない。


だから。


書いた。


未来の自分へ。


メアリーを信じるな。


違う。


続き。


あった。


⸻


悠。


「思い出した。」


メアリー。


「何?」


悠。


「続き。」


全員。


見る。


悠。


ゆっくり。


言う。


「メアリーを信じるな。」


「――メアリーの顔をしているものを、信じるな。」


⸻


メアリーの瞳から。


涙。


でも。


今度は。


少し笑う。


「……よかった。」


悠。


「何が。」


「私。」


「疑われてなかった。」


悠。


「当たり前だろ。」


メアリー。


「でも十二年前の悠。」


「ちゃんと説明最後まで書いてよ。」


悠。


「俺に言うな。」


レイ。


「本人だろ。」


「十二年前の俺に言え。」


ほんの少し。


笑い。


でも。


次の写真。


十七枚目。


誰も笑えなくなる。


時計。


午後六時七分。


圭介。


時計台へ入る。


本物のメアリー。


追う。


春人。


追う。


紗季。


追う。


悠。


追う。


透だけ。


外。


十八枚目。


時計。


六時八分。


瀬川宗一。


透の前。


何か叫んでいる。


十九枚目。


透。


カメラを。


別の誰かへ渡している。


撮影者が。


変わった。


「誰に?」


透。


「分からない。」


二十枚目。


六時九分。


透も。


入口へ向かう。


瀬川。


止める。


二十一枚目。


悠が。


時計台から出てくる。


「……俺?」


悠。


自分を見る。


顔。


必死。


二十二枚目。


悠。


透を。


殴る。


透。


「これ。」


「あぁ。」


記憶と一致。


二十三枚目。


悠。


透を地面へ。


押さえ付ける。


二十四枚目。


悠。


何か叫んでいる。


写真だから。


音はない。


でも。


透には分かる。


『お前は残れ!』


二十五枚目。


時計。


午後六時十分。


写真。


白い。


半分。


感光したように。


何も見えない。


しかし。


中央。


六つの影。


「六人?」


宮本。


透。


「違う。」


数える。


一。


二。


三。


四。


五。


六。


七。


七人。


榊原。


「七人おる。」


悠。


「誰。」


透。


写真へ顔を近付ける。


六人。


悠。


メアリー。


圭介。


春人。


紗季。


そして。


おそらく。


もう一人。


顔がない。


「俺じゃない。」


透。


外に残された。


なら。


七人目。


いや。


六人目の中に。


偽物がいる。


⸻


二十六枚目。


六時十分。


白。


二十七枚目。


同じ。


だが。


中央。


一人。


倒れている。


メアリー。


悠。


「……。」


二十八枚目。


時計。


六時十一分。


悠。


一人。


時計台前。


膝をついている。


周囲。


誰もいない。


圭介。


消えた。


メアリー。


消えた。


春人。


消えた。


紗季。


消えた。


そして。


写真の端。


透。


倒れている。


二人だけ。


こちら側へ。


残った。


二十九枚目。


最後。


悠が。


カメラを持っている。


自分で。


レンズを覗き込むような。


妙な写真。


鏡?


ガラス?


違う。


誰かが。


撮っている。


悠は。


カメラへ。


何かを見せている。


紙。


文字。


中村老人が。


写真を拡大する。


粗い。


しかし。


読める。


悠の手。


紙。


⸻


『次は俺が忘れる。』


⸻


透の顔が。


変わる。


「……。」


悠。


「俺。」


「知ってた?」


メアリー。


「何を。」


「記憶が消えること。」


透。


「たぶん。」


悠は。


最後の写真を見る。


十二年前の自分。


顔。


泣いている。


でも。


カメラへ。


笑おうとしている。


その写真の下。


影。


誰か。


悠の背後。


長い髪。


メアリー?


違う。


紗季?


違う。


中村老人が。


「拡大する。」


機械。


画像。


大きくなる。


輪郭。


制服。


少年。


「圭介?」


悠。


透。


「違う。」


背が。


少し高い。


そして。


黒い帽子。


「瀬川。」


榊原。


だが。


帽子の下。


顔。


初めて。


はっきり。


写っている。


瀬川宗一ではない。


若い。


高校生くらい。


悠が。


息を呑む。


知っている。


「……誰。」


レイ。


悠は。


頭を押さえる。


名前。


出ない。


でも。


知っている。


透も。


同じ顔。


「俺も。」


「知ってる。」


メアリー。


その少年を見た瞬間。


震えた。


「……違う。」


悠。


「何が。」


メアリー。


「この人。」


「十二年前。」


「いた。」


透。


「誰。」


メアリー。


泣きながら。


「分からない。」


「でも。」


「この人。」


写真。


黒い帽子。


高校生。


「私が。」


「死ぬ前に。」


「助けてくれた。」


⸻


中村老人が。


写真を見る。


そして。


顔色が変わった。


「……いや。」


榊原。


「知っとるん?」


老人。


何も言わない。


「中村さん。」


「誰。」


老人は。


椅子へ座る。


手。


震えている。


「瀬川宗一。」


「この人は瀬川じゃない。」


「違う。」


老人。


「瀬川や。」


悠。


「高校生ですよ。」


老人。


「そうや。」


「瀬川宗一。」


「十七歳。」


静寂。


「どういうこと。」


老人は。


昔の写真棚を見る。


そして。


一冊。


古いアルバム。


取り出す。


昭和五十三年。


1978年。


写真。


海鳴町。


祭り。


時計台。


高校生たち。


その中。


黒い帽子。


少年。


同じ顔。


瀬川宗一。


十七歳。


悠。


「……。」


中村老人。


「瀬川は。」


「十五年前に死んだ。」


「でも。」


「最初に消えたんは。」


ページ。


指。


「そのずっと前や。」


榊原。


「いつ。」


老人。


「昭和五十三年。」


「八月十五日。」


全員。


固まる。


「午後。」


老人。


時計を見る。


「六時十分。」


⸻


新しい事件ではない。


同じ事件。


ずっと。


繰り返していた。


瀬川宗一は。


元時計台管理人になる前。


十七歳で。


一度。


六時十分の向こうへ行った。


そして。


戻ってきた。


だから。


知っていた。


だから。


時計台管理人になった。


だから。


十二年前。


止めようとした。


だから。


死んだ後も。


黒い帽子の姿で。


現れ続けた。


敵ではない。


最初から。


番人だった。


⸻


透が。


最後の写真を見る。


「瀬川さん。」


十二年前。


高校生の姿。


悠の後ろ。


彼は。


何かを指差している。


写真の端。


時計。


六時十一分。


その下。


小さな扉。


悠。


「これ。」


透。


「時計台の。」


「地下入口。」


榊原。


「神社と繋がっとる道。」


透。


頷く。


中村老人。


「瀬川が。」


「昔。」


「言うとった。」


全員。


老人を見る。


「六時十分に。」


「誰かが消えるんやない。」


「逆や。」


悠。


「逆?」


老人。


低い声。


「六時十分は。」


「向こうから。」


「帰ってこられる時間や。」


⸻


誰も。


動けない。


今まで。


六時十分。


恐怖。


消失。


入口。


そう思っていた。


違う。


本来は。


出口。


では。


なぜ。


人が消える。


透。


気付く。


「扉を。」


「逆に使ってる。」


老人。


頷く。


「何かが。」


「こっちから人を呼び込んどる。」


悠。


「それが。」


「顔のない奴?」


老人。


「ワシは知らん。」


「でも。」


「瀬川は。」


「ずっと。」


「そいつを止めとった。」


⸻


午後二時十九分。


写真館。


六時まで。


三時間四十一分。


六時十分まで。


三時間五十一分。


榊原が。


立ち上がる。


「整理するで。」


机。


紙。


ペン。


「向こうにおる可能性が高いんは。」


悠。


「圭介。」


透。


「蓮。」


メアリー。


「春人。」


悠。


「紗季。」


四人。


そして。


今ここ。


悠。


透。


メアリー。


榊原。


宮本。


レイ。


「六人揃えろって声は。」


榊原。


「罠。」


透。


「でも。」


「六時十分は。」


「本当の出口。」


悠。


「じゃあ。」


「やることは。」


時計台を見る。


「中へ入るんじゃない。」


「向こうにいる四人を。」


「こっちへ出す。」


透。


「六時十一分までに。」


八年前。


蓮が。


一分だけ戻った。


六時十一分。


扉が閉じる。


時間。


たった。


一分。


⸻


メアリーが。


小さく。


「私は?」


悠が振り向く。


「何。」


「私は。」


自分の手を見る。


「こっち?」


誰も。


答えられない。


彼女は。


悠たちといる。


でも。


触れない。


食べられない。


写真には。


写る時と。


写らない時がある。


死んだと。


思っている。


しかし。


遺体。


本当に。


確認した?


悠の記憶。


海。


落下。


血。


でも。


記憶は。


改変されている。


透が。


メアリーを見る。


「分からない。」


正直に。


「でも。」


カメラ。


「調べる。」


メアリー。


「どうやって。」


透。


「十二年前の。」


「お前の最後の写真。」


フィルム。


まだ。


二十九枚。


中村老人。


「あ。」


全員。


見る。


老人。


ネガ。


「一枚。」


「数え間違えた。」


「何?」


「三十枚目。」


端。


ほとんど。


真っ黒。


「露光不足。」


「でも。」


「何か写っとる。」


デジタル化。


補正。


少しずつ。


画像。


浮かぶ。


夜。


いや。


暗い場所。


地下。


少女。


メアリー。


倒れていない。


立っている。


生きている。


その前。


春人。


そして。


写真の裏。


透が。


撮影時に記録した。


時刻。


18:12


全員。


息を呑む。


悠。


「六時十二分。」


六時十分の。


二分後。


メアリーは。


まだ。


立っていた。


つまり。


悠が覚えている。


六時十分の死。


成立しない。


メアリー自身が。


震える。


「じゃあ。」


悠。


「お前。」


写真を見る。


「六時十分には。」


「死んでない。」


メアリーの瞳。


大きくなる。


「私……。」


頭。


痛み。


「私。」


記憶。


海。


誰か。


手。


落ちる。


違う。


時計台。


地下。


春人。


泣いている。


『メアリー!』


誰か。


叫ぶ。


自分。


走る。


そして。


六時十二分。


「……私。」


メアリーが。


呟く。


「時計台から。」


「出た。」


悠。


「何?」


メアリー。


震える。


「私。」


「一回。」


「帰ってる。」


透。


顔が変わる。


「いつ。」


メアリー。


「分からない。」


涙。


「でも。」


「私。」


「死んだ場所。」


顔を上げる。


「時計台じゃない。」


「海でもない。」


悠。


「じゃあ。」


メアリーの唇が。


震える。


記憶。


誰かの車。


雨。


夜。


ヘッドライト。


道路。


知らない男。


いや。


知っている。


警察?


制服?


声。


『見たんだな?』


メアリー。


息を呑む。


「……。」


悠。


「メアリー?」


彼女は。


真っ青だった。


「私。」


「六時十分のあと。」


「誰かに。」


声。


震える。


「殺された。」


⸻


静寂。


怪異。


時計台。


消失。


それだけではなかった。


十二年前。


六時十分のあと。


人間の事件が起きていた。


榊原の表情が。


刑事へ戻る。


「誰に。」


メアリー。


涙。


「分からない。」


「でも。」


「顔。」


「もう少しで。」


思い出せる。


榊原。


「無理に思い出すな。」


メアリー。


「でも。」


「思い出したら消える可能性がある。」


透。


その言葉。


全員。


止まる。


メアリー。


自分の身体を見る。


少し。


輪郭が。


薄くなっている。


悠。


「メアリー。」


彼女は。


笑った。


怖いはずなのに。


「大丈夫。」


悠。


「大丈夫じゃねぇ。」


「まだ。」


彼女は。


第46話と。


同じ言葉を。


言った。


「まだ。」


⸻


写真館の外。


祭り太鼓。


ドン。


ドン。


ドン。


午後二時二十三分。


残り。


三時間三十七分。


十二年前の事件は。


二つあった。


六時十分に起きた怪異。


そして。


六時十分のあとに起きた殺人。


その二つが。


十二年間。


一つの事件として。


混ざっていた。


悠は。


ようやく。


気付く。


怪物だけを見ていたら。


犯人を見失う。


人間だけを見ていたら。


怪異を見失う。


両方。


あの日。


同時に。


起きていた。


そして。


どちらも。


まだ。


終わっていない。


⸻


――第70話・完――


後書き


ここで物語の構造が大きく反転しました。


六時十分は「人が消える時刻」ではなく、本来は向こう側から戻れる時刻。


瀬川宗一も黒幕ではありません。


1978年に十七歳で同じ現象へ巻き込まれ、生還した後、時計台管理人となって何十年も出口を守っていた人物でした。


そして最大のポイント。


メアリーは六時十分には死んでいません。


最後のフィルムには、18時12分の時点で生きているメアリーが残っていました。


つまり十二年前には、


超常現象による「六時十分事件」と、その直後に起きた現実の「殺人事件」


が重なっていた。


ここで以前から入れていた「怪異と人間の事件を完全に切り離さない」という伏線が、ようやく本線へ戻ってきます。


次回、第71話。


「六時十二分」


メアリーの記憶が、六時十分の“その後”へ進みます。


ただし思い出せば思い出すほど、彼女の姿は薄くなる。


そして榊原は、メアリーが思い出したわずかな断片――


「車」「雨」「制服」「見たんだな?」


から、十二年前の警察記録に残された一人の人物へ辿り着きます。

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