↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Appearing ― 突然、君からのメッセージ ―  作者: 和泉發仙


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
59/90

止まった時刻

⸻


Appearing


― 突然、君からのメッセージ ―


第58話


止まった時刻


⸻


前書き


秘密は、


誰か一人が隠すものではない。


一人が口を閉ざし、


二人目も黙り、


三人目が


「昔からそうだから」


と言い始めた時、


秘密は


町の風景になる。


そして、


誰も疑わなくなる。


⸻


午後八時四十五分。


時計台広場。


⸻


鐘の音は止んだ。


夜風だけが、


レンガ造りの時計台を吹き抜けていく。


⸻


久我達郎は、


しばらく時計を見上げていた。


やがて、


静かに口を開く。


⸻


「この時計はな。」


「明治の終わりに建てられた。」


⸻


「戦争も。」


「震災も。」


「台風も。」


「全部見てきた。」


⸻


悠は、


古びた文字盤を見上げる。


白い塗装は剥がれ、


ところどころ錆びている。


それでも、


昼間は町のシンボルとして、


誰もが当たり前のように見上げていた。


⸻


「でも。」


久我は続ける。


「十二年前から。」


「六月でも。」


「八月でも。」


「毎年同じ日にだけ。」


⸻


「午後六時十分。」


⸻


「必ず止まる。」


⸻


榊原が尋ねる。


「故障じゃないんですか。」


⸻


久我は首を横に振る。


⸻


「最初はそう思った。」


⸻


「部品も交換した。」


⸻


「歯車も。」


⸻


「ゼンマイも。」


⸻


「全部やり直した。」


⸻


「それでも止まる。」


⸻


相沢玲子が腕を組む。


「機械的な原因では説明できない、と。」


⸻


「そういうことや。」


⸻


時計台管理室


時計台の一階。


普段は施錠されている小部屋。


久我が真鍮の鍵を回す。


⸻


ガチャリ。


⸻


木製の扉がゆっくり開く。


⸻


中は意外なほど整然としていた。


工具。


交換用の歯車。


古い設計図。


壁には、


歴代の修理記録が並んでいる。


⸻


宮本が記録簿をめくる。


⸻


昭和五十三年。


異常なし。


⸻


平成元年。


異常なし。


⸻


平成十二年。


異常なし。


⸻


平成二十六年。


⸻


そこだけ、


赤い万年筆で書かれていた。


⸻


午後六時十分停止。


⸻


翌年も。


⸻


停止。


⸻


翌々年も。


⸻


停止。


⸻


毎年、


同じ文字。


⸻


同じ時刻。


⸻


悠は思わず息を呑む。


⸻


「全部……。」


⸻


「記録されてる。」


⸻


久我は静かに頷いた。


⸻


「隠しとる訳やない。」


⸻


「ただ。」


⸻


「誰も説明できんだけや。」


⸻


新しい証言


管理室の外から、


遠慮がちな声が聞こえた。


⸻


「あの……。」


⸻


振り向くと、


二十代後半くらいの女性が立っていた。


市役所の腕章を付けている。


⸻


藤代真琴(29)


海鳴町役場・文化財保全担当。


時計台の管理を引き継いだ若手職員だった。


⸻


「久我さん。」


⸻


「例の資料……。」


⸻


彼女は榊原たちに気づき、


少し緊張した様子で会釈する。


⸻


「警察の方ですか。」


⸻


榊原が頷く。


⸻


「文化財担当?」


⸻


「はい。」


⸻


「時計台の資料整理をしています。」


⸻


真琴はファイルを抱えたまま、


少し言いにくそうに続けた。


⸻


「実は……。」


⸻


「毎年。」


⸻


「止まる前の日だけ。」


⸻


「町役場に電話があるんです。」


⸻


全員が顔を上げた。


⸻


「電話?」


⸻


「はい。」


⸻


「無言電話です。」


⸻


「毎年一回だけ。」


⸻


玲子がすぐに尋ねる。


⸻


「番号は?」


⸻


「公衆電話です。」


⸻


「駅前の。」


⸻


「でも。」


⸻


「録音を聞くと。」


⸻


「向こうで。」


⸻


「カメラのシャッター音だけが聞こえるんです。」


⸻


静寂。


⸻


カシャッ……


⸻


カシャッ……


⸻


その音だけ。


⸻


時計台の窓


その時、


メアリーが二階を見上げた。


⸻


「悠。」


⸻


「窓。」


⸻


全員が振り向く。


⸻


丸い小窓。


⸻


誰かが、


カーテンを閉めたような気がした。


⸻


しかし、


久我は首を振る。


⸻


「二階には。」


⸻


「誰も入れん。」


⸻


「鍵は一本しかない。」


⸻


その鍵は、


今、


悠のポケットに入っている。


⸻


レイが小さく笑う。


⸻


「じゃあ。」


⸻


「誰が閉めたんだよ。」


⸻


誰も答えられなかった。


⸻


去り際


時計台を後にしようとした時だった。


⸻


「黒瀬さん。」


⸻


声を掛けてきたのは、


藤代真琴だった。


⸻


彼女は、


誰にも聞こえないように、


そっと一枚のコピーを手渡す。


⸻


「役場には出していない資料です。」


⸻


「祖父の遺品から見つかりました。」


⸻


古い新聞記事。


⸻


日付は、


平成二十六年八月十六日。


⸻


見出しには、


こう書かれていた。


⸻


『夏祭りで少女行方不明 警察が捜索』


⸻


その記事の端には、


鉛筆で、


誰かが書き足していた。


⸻


「一人ではない。」


⸻


悠は新聞を見つめたまま、


ゆっくり顔を上げる。


⸻


「……一人じゃない?」


⸻


夜風が、


新聞の端を揺らした。


⸻


遠くで、


海鳴町の時計が、


静かに九時を告げる。


⸻


その音は、


これまでより少しだけ、


寂しく聞こえた。


⸻


― 第58話・続く ―


後書き


今回は、「怪異」ではなく、「記録」を中心に描きました。


新たに登場した人物は、


* 藤代真琴(29)…海鳴町役場・文化財保全担当。古い資料の整理を任され、町の歴史と向き合う若手職員です。


そして今回の重要な伏線は三つです。


* 時計は毎年六時十分に止まることが公式な修理記録にも残っている。

* 毎年その前日、役場にシャッター音だけが聞こえる無言電話がかかってくる。

* 当時の新聞には「少女行方不明」としか書かれていないが、誰かが「一人ではない」と書き残していた。


ここから物語は、「メアリー一人の事件」ではなく、あの夜に本当は何人の運命が変わったのかという真相へと近づいていきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。