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Appearing ― 突然、君からのメッセージ ―  作者: 和泉發仙


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時計台の見える場所

Appearing


― 突然、君からのメッセージ ―


第57話


時計台の見える場所


⸻


前書き


町には、


誰にも教えられない秘密がある。


法律ではない。


ルールでもない。


けれど、


子どもたちは自然に覚え、


大人たちは自然に守る。


「理由は聞くな。」


そう言われ続けた秘密ほど、


長く町に残る。


⸻


午後八時十分。


中村写真館前。


⸻


救急車も、


鑑識車両も帰り、


通りは再び静けさを取り戻していた。


榊原は、ポラロイド写真を見つめる。


⸻


『次は、時計台へ。』


⸻


宮本が腕を組む。


「誰かが私たちを誘導しています。」


「そうやな。」


榊原も頷く。


「問題は。」


「味方か敵かや。」


⸻


悠は写真を見つめた。


「秋山なんでしょうか。」


レイが首を振る。


「いや……。」


「あいつなら直接言う気がする。」


メアリーは、小さく呟いた。


「……違う。」


「透くんじゃない。」


⸻


全員の視線が集まる。


「どうして分かる?」


悠が尋ねる。


メアリーは少し考え込むように目を閉じた。


「透くんの字……。」


「もっと丸かった。」


⸻


その一言に、


相沢玲子がポラロイドを手に取る。


「筆圧も強い。」


「この文字を書いた人は、かなり焦っています。」


「急いで書いた?」


「ええ。」


「しかも右利き。」


⸻


榊原は苦笑した。


「科捜研は字まで見るんか。」


「職業病です。」


玲子は小さく笑った。


⸻


時計台へ向かう道


夜風が吹く。


商店街を抜け、


石畳の坂道を歩く。


時計台は、


町の高台にある小さな広場に建っている。


古いレンガ造り。


百年以上前に建てられた西洋風の塔。


昼間は町のシンボル。


夜になると、


誰も近づかない場所。


⸻


途中、


小さな豆腐屋の前を通る。


まだ店の灯りがついていた。


暖簾をくぐって出てきたのは、


小田切正雄(68)


豆腐一筋四十五年。


無口だが、


町の誰より朝が早い男だった。


⸻


「こんな時間に珍しいな。」


悠が会釈する。


「時計台へ。」


そう答えると、


小田切の表情が一瞬だけ曇る。


「……やめとけ。」


短い言葉だった。


「夜は。」


「時計台が人を見る。」


⸻


レイが苦笑する。


「また怪談か。」


しかし、


小田切は笑わない。


「怪談ならええ。」


「人間の話や。」


⸻


その一言だけ残し、


店へ戻っていった。


⸻


バス停


時計台の麓。


最終バスは、


すでに出たあとだった。


ベンチには一人の女性が座っていた。


白いカーディガン。


買い物袋。


四十代くらい。


⸻


野々村亜希(45)


町役場勤務。


総務課。


⸻


彼女は悠たちを見るなり、


立ち上がった。


「警察の方ですよね?」


榊原が警察手帳を見せる。


「ええ。」


「少し聞きたいことが。」


彼女は頷く。


「時計台ですか。」


「はい。」


「町役場にも古い資料は残っています。」


「でも……。」


少しだけ間を置く。


「二十年くらい前。」


「急に閲覧禁止になりました。」


⸻


「誰が?」


宮本が尋ねる。


「当時の町長です。」


⸻


「理由は?」


⸻


「分かりません。」


⸻


「資料ごと倉庫へ移されました。」


⸻


相沢玲子がメモを取る。


「町ぐるみ……。」


榊原も静かに頷いた。


「隠しとるな。」


⸻


時計職人


時計台の広場へ着くと、


一人の老人が脚立に登っていた。


夜なのに、


工具箱を広げ、


時計台を見上げている。


⸻


久我達郎(79)


元時計職人。


引退後も、


月に一度だけ時計台の点検を任されている。


⸻


「こんばんは。」


悠が声を掛ける。


老人はゆっくり振り返った。


「……遅かったな。」


全員が顔を見合わせる。


「待ってたんですか?」


久我は小さく笑う。


「十二年。」


「ずっと待っとった。」


⸻


榊原が一歩前へ出る。


「何を。」


老人は時計を見上げる。


「時計はな。」


「止まるんやない。」


静かな声だった。


「誰かが止めるんや。」


⸻


その場に、


重い沈黙が落ちる。


⸻


悠の背筋を冷たいものが走った。


⸻


「誰が……?」


⸻


久我は答えなかった。


代わりに工具箱から、


古びた真鍮の鍵を取り出した。


手のひらほどの、


重そうな鍵。


⸻


「時計台には。」


「もう一つ部屋がある。」


⸻


「部屋?」


⸻


「誰も知らん。」


⸻


「町長も。」


⸻


「警察も。」


⸻


「写真屋も。」


⸻


「ワシしか知らん。」


⸻


久我は鍵を悠へ差し出した。


⸻


「この鍵は。」


⸻


「本当に思い出したい者だけが使え。」


⸻


悠は震える手で、


その鍵を受け取る。


⸻


その瞬間だった。


⸻


ゴォーン……。


⸻


時計台の鐘が鳴る。


⸻


時刻は、


午後八時三十分。


⸻


誰も触れていない。


⸻


誰も鐘を鳴らしていない。


⸻


全員が時計台を見上げる。


⸻


時計の針は、


動いていた。


⸻


しかし、


長針だけが逆回転を始める。


⸻


カチ……


⸻


カチ……


⸻


カチ……


⸻


メアリーが青ざめた顔で、


悠の腕を掴む。


⸻


「悠……。」


⸻


「思い出しちゃ……だめ。」


⸻


彼女の震える声は、


これまでで一番切実だった。


⸻


そして、


時計台の扉の隙間から、


誰かがこちらを見ていた。


顔は暗闇で見えない。


ただ、


カメラのレンズだけが、


月明かりを受けて静かに光っていた。


⸻


――第57話・続く。


⸻


後書き


今回は、事件を大きく動かすための「町の歴史」を少しずつ描き始めました。


新たに登場した人物は、


* 小田切正雄(68)…豆腐屋店主。「時計台が人を見る」という不気味な言葉を残す町人。

* 野々村亜希(45)…町役場総務課。時計台の資料が閲覧禁止になった事実を知る職員。

* 久我達郎(79)…元時計職人。時計台の秘密の部屋を知る唯一の生き証人。


この「秘密の部屋」は、単なる隠し部屋ではありません。


ここから物語は、メアリーの事件と海鳴町そのものが隠してきた過去が一つに結び付いていきます。

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