↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Appearing ― 突然、君からのメッセージ ―  作者: 和泉發仙


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
55/90

現像室

前書き


写真は、


嘘をつかない。


そう言われる。


でも。


写真は、


真実の全部を写しているわけじゃない。


シャッターが切られる、


ほんの少し前。


ほんの少し後。


そこに、


一番大切な瞬間があるのかもしれない。


⸻


Appearing


― 突然、君からのメッセージ ―


第54話


現像室


⸻


午後七時二分。


⸻


中村写真館。


⸻


静まり返った店内。


⸻


救急隊が老人を運び出していく。


⸻


「命に別状はありません!」


⸻


救急隊員の声に、


全員が少しだけ安堵した。


⸻


しかし。


⸻


老人が最後に残した言葉。


⸻


『現像室を開けるな。』


⸻


それだけが、


頭から離れない。


⸻


榊原は二階を見上げた。


⸻


古い木の階段。


⸻


照明は消えたまま。


⸻


暗闇だけが口を開けている。


⸻


「……行く。」


⸻


短く言った。


⸻


宮本が頷く。


⸻


「私が先行します。」


⸻


「いや。」


⸻


榊原は首を振る。


⸻


「二人で行く。」


⸻


悠を見る。


⸻


「黒瀬。」


⸻


「お前らは一階におれ。」


⸻


悠は反論しかけた。


⸻


「でも!」


⸻


「ダボ。」


⸻


榊原が少しだけ笑う。


⸻


「これは警察の仕事や。」


⸻


その一言で、


悠は黙った。


⸻


⸻


ギシ……


⸻


ギシ……


⸻


二人は階段を上る。


⸻


築何十年も経った木造。


⸻


一歩進むたび、


床が鳴る。


⸻


レイは下から見上げていた。


⸻


「嫌な音だな……。」


⸻


メアリーは何も言わない。


⸻


ただ、


二階だけを見つめていた。


⸻


⸻


午後七時八分。


⸻


二階。


⸻


廊下。


⸻


写真が飾られている。


⸻


赤ん坊。


⸻


運動会。


⸻


卒業式。


⸻


結婚式。


⸻


どれも、


町の人々の笑顔だった。


⸻


その一番奥。


⸻


黒い木の扉。


⸻


プレート。


⸻


現像室


⸻


榊原はドアノブへ手を掛ける。


⸻


冷たい。


⸻


異様なくらい。


⸻


夏とは思えない。


⸻


宮本が静かに言う。


⸻


「開けます。」


⸻


ゆっくり。


⸻


ゆっくり。


⸻


ドアが開く。


⸻


ギィ……


⸻


暗い。


⸻


薬品の匂い。


⸻


赤いセーフライトだけが、


ぼんやり部屋を照らしていた。


⸻


「……。」


⸻


誰もいない。


⸻


机。


⸻


現像液。


⸻


フィルム乾燥機。


⸻


すべて、


十二年前で止まったようだった。


⸻


その時。


⸻


宮本が立ち止まる。


⸻


「刑事さん。」


⸻


「これ。」


⸻


机の上。


⸻


黒い大学ノート。


⸻


表紙には、


日付だけ。


⸻


平成二十六年八月十五日


⸻


祭りの日。


⸻


榊原がゆっくり開く。


⸻


一ページ目。


⸻


写真番号。


⸻


撮影場所。


⸻


時間。


⸻


几帳面な字だった。


⸻


二ページ。


⸻


三ページ。


⸻


全部、


祭りの撮影記録。


⸻


しかし。


⸻


最後のページだけ、


文字が乱れていた。


⸻


午後八時四十七分


⸻


桟橋


⸻


メアリー


⸻


春人


⸻


優斗


⸻


帽子の男


⸻


そして。


⸻


最後の一行。


⸻


「もう一人いた。」


⸻


榊原の表情が変わる。


⸻


「もう一人……。」


⸻


ページをめくる。


⸻


終わり。


⸻


続きはない。


⸻


その時だった。


⸻


カタン。


⸻


部屋の奥。


⸻


古いロッカー。


⸻


ゆっくり、


扉が揺れた。


⸻


宮本が拳銃を構える。


⸻


「誰だ!」


⸻


返事はない。


⸻


静寂。


⸻


榊原が近付く。


⸻


一歩。


⸻


また一歩。


⸻


ロッカーの前。


⸻


呼吸を整える。


⸻


勢いよく開く。


⸻


ガァン!!


⸻


中には、


誰もいなかった。


⸻


ただ。


⸻


大量のフィルムケース。


⸻


そして。


⸻


封筒が一枚。


⸻


表には、


こう書かれていた。


⸻


『秋山透へ』


⸻


宮本が息を呑む。


⸻


「本人宛て……。」


⸻


榊原は封筒を裏返した。


⸻


封は、


一度も開けられていない。


⸻


「つまり。」


⸻


「渡せなかった。」


⸻


その時。


⸻


一階から、


悠の叫び声が響いた。


⸻


「榊原さん!!」


⸻


二人が飛び出す。


⸻


階段を駆け下りる。


⸻


店内。


⸻


悠は入口を指差していた。


⸻


ガラス越し。


⸻


歩道の向こう。


⸻


街灯の下。


⸻


秋山透が立っていた。


⸻


逃げない。


⸻


笑わない。


⸻


ただ、


じっと写真館を見つめている。


⸻


そして。


⸻


悠へ向かって、


ゆっくり首を横に振った。


⸻


「来るな」


⸻


昼間と同じ口の動き。


⸻


しかし今回は、


続きがあった。


⸻


秋山は、


震える唇で、


はっきりと告げた。


⸻


「中にいる。」


⸻


その瞬間。


⸻


写真館の二階から、


ガタン!!


⸻


何か重い物が倒れる音が響いた。


⸻


全員が一斉に、


天井を見上げる。


⸻


二階には、


もう誰もいないはずだった。


⸻


それなのに。


⸻


ギシ……


⸻


ギシ……


⸻


ゆっくりと、


誰かが歩く足音だけが、


現像室の中を歩き続けていた。


⸻


――続く。


⸻


次回の見どころ


ここで物語はさらに一段階進みます。


次回は第55話「現像されなかった一枚」。


現像室に残されたフィルムの中から、「撮られたはずなのに誰も見たことがない写真」が見つかります。


そして秋山透は、初めて悠たちの前で「敵ではない」ことを行動で示し始めます。ここから「監視者」の本当の役割が少しずつ明らかになっていきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。